【DLH二次創作】Ph01.田舎に飛ばされたヒーローが相棒警官に出会うコト
TRPG『デッドラインヒーローズRPG』二次創作小説です。
『九真野S〇一~、九真野S〇一~』
『終点、九真野S〇一です。お忘れ物のないように~お気を付けください~』
間延びしたアナウンスが、電車内に響く。
「……遠かったな」
七星銀河は、大きく伸びをして、荷物に手を伸ばした。
九真野境域。
日本は本州南部に位置する、山と海と神秘の土地である。
ファースト・カラミティ以後は、古来から語り継がれた妖怪が顕在化した。人と怪異が共生し、ときに対立する地――それが九真野境域である。
東京からは、新幹線と特急電車を乗り継ぐこと、六時間。座っていることにも飽きた頃に到着する。
要は辺鄙な田舎だった。
「さて、と。迎えが来てるらしいが……」
銀河は改札を出た。昔ながらの、有人改札だった。
同じ特急電車に乗っていた客が、パラパラと駅舎を歩いている。出入口に目を向けると、こちらに気づいた女性が小走りで駆け寄ってきた。
「セブンスギャラクシーさんですね?」
「ああ、そうだ。あんたは?」
「あ、失礼しました!」
若い女性だ。ピシッと敬礼する。
「私は、九真野境域警察S〇一署ヒーロー支援課所属、神滝千香と申します! G6との協定に基づき、本日から貴殿の支援官となります! よろしくお願いいたします!」
一気に言って、女性――神滝千香は、へにゃっと笑う。あどけなさの残る笑顔だった。
「よかった、言えたぁ……」
銀河は、しげしげと千香を見つめる。
紺のスラックスに、白い半袖シャツ。その上から、「KUMANO POLICE」と印字されたベストを着ている。特殊な銃を所持しているらしく、腰に大ぶりのホルスターがある。
典型的な、警察官の格好だ。
特徴的なのは、千香の顔だった。
右半分は普通の人間だが、左半分は毛皮に覆われている。濃い黄色の毛を基本として、黒い毛が縞模様を描いている。半人半獣の顔だ。
――超人種。
現在はそう呼ばれる、「ヒトを超えたヒト」に間違いなかった。
「……あの?」
「ああ、すまん。じっと見ちまったが、俺のクセみたいなもんだ。許せ」
「い、いえ。大丈夫です」
「自己紹介しないとな」
銀河はいずまいを正す。
「ヒーローネーム・セブンスギャラクシー、本名は七星銀河だ。オリジンは……サイオン、らしいな。本日からG6九真野境域支部で世話になる」
銀河は、青いTシャツに黒っぽいジーンズを着ている。長身の青年だ。外見的には、現人類と変わらない。
手には、長方形のスーツケース。ケースは地が銀色で、そこに青や黒の幾何学模様が描かれていた。
「いろいろ教えてくれ、よろしく頼む」
「長旅、お疲れさまでした。よろしくお願いします」
銀河と千香は握手を交わす。
「……あ、えっと、セブンスギャラクシーさん」
「銀河でいい。皆、そう呼んでた」
「はい、銀河さん。お荷物はこれだけですか? お持ちしますね」
「いや、いい。女に荷物持たせるほど、疲れてはいないさ」
二人は連れだって、駅舎を出る。
駅前はロータリーになっていて、タクシーが数台停まっている。どこか閑散とした印象なのは、田舎だからだろうか。見上げれば、高層建築は一切ない。背の低いビルばかりだ。
春の青空が、すっきりと見えた。
「あそこに車停めてますんで」
ロータリーの端に、軽自動車が停まっている。
水色の車体には、「G6九真野境域支部」と「九真野境域警察」と小さく書かれていた。小型の回転灯が付いている。
「パトカー……じゃないのか」
「G6と警察が協定を結んだときに、共同で購入した車です。一応、緊急車両にもなりますし、警察無線も入るようになってます」
二人は乗り込む。
荷物は後部座席に置き、運転席に千香、助手席に銀河が座る。
「バスとかあんまりないんで、移動は基本的に、車やバイクだと思ってください」
「G6支部には歩いて行けないのか?」
「歩けないこともないですけど、遠いですよ。大丈夫、そのための支援官ですから!」
千香が車を発進させる。
ロータリーを抜け、背の低いビル郡の間を走る。
「銀河さんは、東京から来られたんですよね?」
「ああ」
「東京と違って、このあたりは人口が減ってますから、大規模なテロとかないですけど……でも、こまごました事件はあるので」
「それを解決してほしい、と?」
「ええ。大都会でヒーローされてた方が来てくれて、とても心強いです!」
「……聞いてないのか」
「はい?」
「いや、なんでもない」
銀河はわずかに息を吐く。疲れたような仕草だった。
そのとき――無線が入る。
『S〇一信用金庫、H〇五支店にて強盗事件発生』
途端、千香も銀河もハッと表情を引き締める。
「銀河さん、お疲れのところ、申し訳ありませんが」
「わかってる、行こう」
銀河がうなずくと、千香は無線機を取る。
「こちらヒーロー支援課の支援官、神滝です。G6所属ヒーロー・セブンスギャラクシーとともに、現場へ向かいます」
『了解、急行されたし』
千香が無線機を置き、回転灯を点灯させる。
サイレンとともに、現場へ急行する。
「あそこです!」
信用金庫の前は、すでに警察車両と野次馬でいっぱいになっている。
犯人が立てこもっているらしい。パトカーが何台もバリケードを築いている。
銀河と千香は車を降りる。千香はすぐさま、スーツの刑事に近づく。
「状況は?」
「あんたは?」
その刑事が、どうやら現場の指揮を執っているらしい。
千香は警察手帳を広げ、刑事に示す。
「ヒーロー支援課所属、支援官の神滝です。こちらはセブンスギャラクシーさん。今日からG6境域支部に来られたヒーローです」
「ヒーロー……?」
刑事は、いぶかしげに銀河を見据える。
銀河は軽く会釈し、信用金庫の店舗に視線をやる。
「あのなぁ、ヒーローだかなんだか知らないが、いきなり来てなにができるってんだ?」
「セブンスギャラクシーさんは、東京でヒーローされてたんですよ! すぐさま行ってもらうべきだと思いますけど!」
「ハッ、都会のヒーロー様か。お手並み拝見、なんて悠長に言える状況じゃ……」
「おい」
銀河の視線が鋭くなる。
――ガシャァァァァン!!
次の瞬間、店舗のガラス窓が粉々に砕けた。中から、人間が飛んでくる。そのまま、バリケードを築いていたパトカーにぶつかる。
野次馬から悲鳴が上がる。
「キャアアアアアッ!」
「出てきた! 強盗犯だ!」
店舗の中から、巨大な体が「ぬう」と出てくる。
ヒグマのような男だった。腕が極端に大きい。間違いなく超人種だ。口から熱気を吐き、左手に持っていたものを「ブン」と振る。
「ワァァァァァッ!」
強盗犯の手には、人間が握られていた。おそらく、信用金庫の客か職員だろう。投げ飛ばされ、別のパトカーにぶつかる。
「一刻の猶予もねぇ! 支援官!」
「はい、行ってください、銀河さん!」
銀河はスーツケースを取り出す。銀色に、青や黒で幾何学模様が描かれたケースだ。
「システム・セブンス、起動」
銀河の声とともに、ケースが動く。
変形する。パーツに分かれる。ケースを持つ銀河の腕に、変形したケースが装着される。顔に、胸に、腰に、脚に。鎧のようにバトルアーマーとなったケースが展開する。
ほんの数秒で、銀河の全身を、バトルアーマーが包んだ。
『システム展開完了』
「行くぞ」
銀河――セブンスギャラクシーは構える。バトルアーマーに問題は一切ない。
強盗犯は、セブンスに気づくと、拳を振りかざした。
「遅い!」
セブンスは一瞬で間合いを詰める。
「ハアッ!」
セブンスの拳が強盗犯の顎をとらえる。重い打撃音がして、強盗犯がのけぞる。セブンスの体が、地面を蹴って宙に飛ぶ。
「お前の星に――懺悔しろ!」
拳のラッシュが、強盗犯を襲う。目にも止まらぬ速さで、巨体が左右に揺れる。
「とどめだ!」
一瞬着地したセブンスが、再び飛ぶ。バトルスーツの脚部が、強く輝く。
一閃。
強烈な回し蹴りが、強盗犯の頭部にヒットする。
「グワァァァ……!」
クマのような男は、なすすべもなく地面に倒れた。「ズズン」と轟音が響く。
男が動かなくなると、野次馬や警察官からため息が漏れる。
「すごい……」
「ヒーローだ……」
「ヒーロー……ヒーロー! ヒーロー!」
「ヒーロー! ヒーロー!」
誰ともなく、「ヒーロー」を呼ぶ大合唱が始まる。
セブンスは軽く手を上げる。
「銀河さん!」
パトカーのバリケードから、千香が駆け寄ってくる。
「すごいです! すごいです! やっぱりヒーローはすごいです!」
興奮気味の千香が、ぴょこぴょこ飛び跳ねる。
銀河は思わず目を丸くする。スーツに隠れていて、千香には見えていないはずだが。
「いや、まぁ……よかったよ。久々だったしな」
「素晴らしいです! 頼もしいです!」
そのとき――強盗犯が、飛び上がるように起きる。
セブンスと千香が気付くと同時に、巨大な拳が襲いかかる。
「あぶな――」
セブンスが千香をかばおうとした瞬間。
千香が、腰のホルスターから銃を抜き放つ。
――バシュッ!!
銃口が虹色にきらめき、弾丸が射出される。
強盗犯の脚に着弾し、バランスを乱す。男の巨体が、ふたたび地面に沈んだ。
「――……!」
セブンスは千香の顔を見る。
千香の視線が、鋭く研ぎ澄まされている。はしゃいでいた彼女は、どこにもいなかった。
強盗犯が完全に沈黙する。警察官が殺到し、取り押さえる。
「……はー、あぶなかったぁ」
千香は、気の抜けたようにつぶやいた。
「やったな! すげぇな、あんた!」
スーツの刑事が、セブンスに近づき、肩をバシバシ叩く。どうやら信頼を得たらしい。
セブンス――銀河は曖昧に返事をしつつ、千香の顔をじっと見つめていた。
***
「では、行きましょうか」
現場の後処理は、指揮を執った刑事にまかせることにした。
銀河と千香は、車に乗り込む。
「……油断しちまって、悪かったな」
「え?」
「とぼけるな。あんた、強盗犯が戦闘不能になってないのに気付いてたんだろ」
銀河はわずかに眉を寄せる。
「その腰の銃は、エネルギーの充填に時間がかかるタイプだ。あのタイミングで発砲するには、少なくとも……俺に近づく前に、安全装置を外し、充填を始める必要がある」
千香の持つ、大型の銃――それは弾丸を、火薬以外のエネルギーで射出するタイプの銃。威力を調節できる代わりに、発砲までの時間が必要となる。
銀河はそれを見抜き、その意味を悟っていた。
「あんたは、倒れた強盗犯に余力があるのに気付いていた。俺より遠くにいたのにな。だから銃の準備ができた。超人種の優れた知覚を使った、ってところか」
「……怒ってますか?」
「まさか。俺の不甲斐なさに、恥ずかしくなるだけさ」
銀河は疲れたようにため息をつく。
「……やっぱ、鈍ってんなぁ」
「銀河さん……」
「ああ、そんな気まずそうな顔するな」
銀河は笑う。
「頼りになる支援官で、助かった」
「……ありがとうございます」
千香も笑う。
「じゃ、行きましょうか。G6の支部へ」
「頼む」
車が発進する。
低い建物の向こうに空が、山が見える。
銀河はこれからの日々を思い、目を閉じた。
――To be continued....
初出:2019年己亥08月25日
修正:2019年己亥08月28日
TRPG『デッドラインヒーローズRPG』(DLH)の二次創作小説です。リプレイではありません。
一話完結。シリーズ「最果ての世界は終わらない」としてまとめます。
メインキャラは、ヒーロー・七星銀河と、その支援官・神滝千香となります。
本州南部の田舎を舞台に、この二人が事件に立ち向かう話をメインに書いていきます。
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【著作権表示】
本作は「ロンメルゲームズ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『デッドラインヒーローズRPG』の二次創作です。
(C)Takashi Osada/Rommel Games
(C)KADOKAWA