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何故か告白された

 





「付き合ってくれ」


 そう言うのは、美形と言って憚りがない、恐らくクラスでも目立つ位置にいるだろう男子。

 対して言われているのは、極めて一般的な、おまけに軽い嫌がらせまで受けている底辺女子。

 客観的に見て意味がわからない。

 わからないがとりあえず先ず言うべき台詞を見つけて彼にぶつける。


「貴方は誰でしょうか」


 言われた相手はこちらの目論見通り、がっかりしたように眉を下げた。

 そもそもクラスも違えば他に接点もないのだから、私が彼を知らないのは当然である。自分は有名だとでも思っているのだろうか。鼻に付く男だ。


 因みにこれは私が嫌がらせで言ったのであって、実は本当に彼は有名で、噂に疎い私ですら知っている人気ぶりである。


 成績が良く、運動神経も良く、人当たりも良い。おまけに背が高くて顔も良いとくれば、肉食女子が舌舐めずりし、大人しい女子が熱を上げるのも無理はない。


 さて、そんな男がこの絵に描いたような地味女子に何を言ったって?

 生憎と古典的な少女漫画のように眼鏡に三つ編み姿という訳ではなく、普通の肩までの黒髪に、特筆すべきはせいぜい首にある黒子程度の地味さなのだから、少女漫画ごっこをしたいなら他をあたって欲しい。

 確か図書室に行った際に見た図書委員の子がそんな容姿をしていておまけに良く見ると可愛らしかったから、ぴったりだと思う。


 と、そこまで考えて、まあ違うよなぁとため息を吐いた。


 目の前の男は暫く考えるように目をうろうろさせて、やがて口を開く。


「えーっと、いきなり自己紹介もせずに悪かった。俺は柊隼軌(ひいらぎはやき。クラスはお前の隣のクラスの5組で、部活は特にしていない。顔はそこそこ見れる方だと思うし、成績も悪くないし、性格も酷いってわけではないから付き合って損はないと思うけど」


 すっごい自信だな。尊敬するわ。


「すっごい自信だなぁ、尊敬するわーって顔してる」


「何故わかったし!?嫌味っぽい言い方まで再現してる!?」


 突っ込むと、柊はにっこりと笑んだ。


 なにやら恐ろしくなって一歩下がる。


 笑顔のまま一歩進んで来た。怖い。


「で?返事。はいかイエスかOKか喜んでか」


「その選択肢はおかしい」


「ノーとは言わせない」


「それ返事する意味ある!?」


 俺様、というよりも殆ど冗談のような口調だ。この男どこまで本気なのか。


「そんな警戒心MAXでいたら疲れるぞ?ほら、深呼吸深呼吸」


「すー……はー……って警戒してんのあんたの所為だから!」


「おー、なかなかのノリツッコミですな」


「いやぁそれほどでも……って何このノリ!?」



 初対面の筈が、ぽんぽんと会話が続く。

 イケメンはコミュニケーション能力も高いらしい。冗談めかしたやりとりに、少し楽しく思ってしまったことは秘密だ。


 ふ、と空気が切り替わって柊が急に真面目な顔になった。

 真顔になった美形は迫力が違う。

 私は妙にどきりとして、彼の目を見つめた。

 改めて見ても、彼の顔は整っている。

 少し釣り気味だが、綺麗な二重に囲まれた瞳。通った鼻筋に、薄めの唇。

 さらりとした短めの茶髪は、地毛だと通じるギリギリまで色をぬいているらしいが、それもまた彼の雰囲気に合っている。


「なぁ。本気で答えてくれ。日暮小弥ひぐれさや、お前が好きだ」


 確かに彼は美形だし、話している感じでも悪い奴ではなさそうだ。

 ただ、それにしたって初対面の男性に告白される謂れはない。それ程の魅力が自分にあるとは思えない。

 そもそも、こんな男と万に一つでも付き合ったりしたら、ただでさえある嫌がらせが悪化するに決まっている。


「……ごめんなさい。よくわからないので、付き合えません」


「……よくわからないってのは?」


「あなたの事もだし、告白してくる理由とかも」


「とりあえず付き合ってから知っていくのは無理?」


「えーと……言い辛いんですけど、私女子から嫌われてて……あなたと付き合ったりしたら火に油な気がするので無理です」


 私は全力で保身に走る女だ。酷い女だと思って諦めてくれ。


「あー、それなら大丈夫だろ。俺と付き合ったらそういうのなくなるって。なくならなくても俺が止めるし」


(自信満々というか、ここまで来ると無責任だ!)


 女の戦いに男が関わればどうなるかは目に見えている。


 疑わしげに睨めつけると、柊は苦笑して、私の頭に手を置いた。


(くそっイケメンだからって頭撫でりゃなんとかなると思いやがって!やっぱり腹立つ!)


 そう思いながらも、イケメン神通力的なものがあるのか、不思議と安心感を覚えてしまうのが悔しい。


「じゃあ、とりあえず友達から始めましょうって事で」


 なんだその決定事項みたいな発言は。拒否権はないのか。


 と、馴染み深い音が聞こえる。

 ……チャイムだ。


「あ、悪い、昼休み終わっちまった」


「終わっ……!?」


 待て。私はお昼ご飯を食べていない。


「帰るか」


 そう言って柊は下に置いていたビニール袋を持ち上げる。


(ああ、告白の時はちゃんと荷物を置いててくれたんだなぁ。以外と紳士……って)


「パン!?食べ……おい今パン食べた!?袋から出してカレーパン食べた!?てか告白の時になんでパン持ってきてるの!?」


「いや、食べる時間ないかなと思って。教室向かいながら食べようと」


「えええええ」


(ずるい!呼び出しておいて自分だけそれは卑怯だ……!やっぱり性格良くないじゃん!)


「ほい、走るぞ」


「うぅううー!」


 促されるままに走るが、釈然としない。


 私があからさまにむっとしていたからだろうか。振り返った柊は吹き出した。

 意外と幼い笑顔に騙されたりしない。しないぞ。



「ん」

 短い声と共に何か投げつけられる。顔面にクリティカルヒット!


(何て事をするんだ!授業に間に合わせないつもり……)


 投げられたものは、メロンパンだった。


「じゃぁ急げよー」


 その言葉と共に缶コーヒーが転がってきた。


「………」


 私は諦めてメロンパンとコーヒーをじっくり味わいながら教室に戻った。


「…………何で好物知ってんのさ」





 メロンパンとコーヒーはベストコンビだと思う。




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