8:幹部への挨拶
勢力図を取り入れるといったな、あれは嘘だ(明日やりますので許してください、何でもしませんから)
お城に到着してすぐに小姓の人に案内されて信忠さんを始めとする信濃小笠原家の面々とお会いすることになった。
あー、やばい。
緊張してきた。
もう心臓はドキドキと胸が鼓動している。
ちょうどこの前の告白をするぐらいにはドキドキしている。
というか震えているし…。
完全に手とかプルプル震えてきている。
いかん、落ち着け…落ち着くんだ。
「佑志様…大丈夫ですよ。紫苑様もご一緒に入室されますから、深呼吸をして気分を整えましょう!」
「ありがとう雪ちゃん…すぅ~っ、はぁ~っ…うん、震えは大分収まってきた」
「時間も差し迫っていますので入りますよ。私の後に続いてきてください。信忠様が挨拶をするように申し出た時に自己紹介をお願い致します」
「は、はい…!!!頑張ります!」
いよいよ入室の時だ。
紫苑さんが入室して、それに続くように僕も部屋に入る。
畳がびっしりと敷かれた部屋には信忠さんを始めとした小笠原家の家臣の人たちが胡坐の状態で座っていた。
まず部屋に入って一礼してから紫苑さんが信忠さんに時間に少しだけ遅れてしまっている事への謝罪と僕が持ち込んできた物についての報告を行う。
「只今到着いたしました。お時間が差し迫っている中、皆様をお待たせしてしまい申し訳ございません」
「なに、今皆と雑談をしていたところだ。気にすることはない…で、やはり刻流と共にやって来た道具などは無事であったか?」
「はい、全て無事でございます。一部の品は壊れない限り数十年ほど持続的に使える代物もございました」
「ほう…それは実に吉報だな。うむ、ご苦労であった紫苑」
「はっ!」
「さて…では皆の者にも紹介しよう。こやつは水野佑志…紫苑より少しだけ刻を先に進んだ世からきた刻流よ。佑志、皆の者に挨拶をせぇ」
いよいよ来た。
落ち着いて、落ち着いていこう。
「はじめまして。水野佑志と申します。まだここに来て時が浅く色々とご不便をおかけしますが、何卒宜しくお願い申し上げます…」
まずは挨拶。
しっかりとお辞儀をして家臣の人たちに頭を下げる。
10秒ほど頭を下げると信忠さんがよいよいと言って僕にこう言った。
「苦しゅうない、表を上げよ」
顔をあげると、僕に対してすごい視線が集まっている。
紫苑さんと同じ未来人。
それも、紫苑さんよりも15年前後先の時代からやってきた人間だ。
今着ているこの服も、戦国時代には存在しない服だし興味があるのかもしれない。
「佑志よ。紹介しよう、お前から見て右から順に宿老の穂高則征、奉行を担っている深志半兵衛、直臣の小笠原永幸、丸山義明、山城忠助、そして信濃小笠原家の当主…この俺、小笠原信忠だ。顔は覚えておけよ」
「はい!改めてよろしくお願いします!!!」
ずらりと並んでいる家臣の人たち。
穂高さんと深志さんはおおらかそうな顔をしている。
対して直臣の方々の視線は凄まじい。
険しそうな表情で僕を見ている。
なんというか…真剣に見定めているって感じだ。
武士というか、常に当主が暗殺されたりしてもおかしくない時代だから、僕が信忠さんに襲い掛かったらすぐに動きだせるようにしているのかもしれない。
不審な動きをしていないかチェックしているとしたら、さっきまで震えていた手を見たらより一層に警戒していたかも…。
「…して、俺は佑志を紫苑の陪臣にしようと思うが、皆はどう思う?」
ん?陪臣?
陪臣って…家臣の家来ってことなのかな?
話的にはそんな感じなんだけど…。
いいのかな?
そんなぽっとやってきた僕にそんな役を押し付けて…。
一応面倒を見るようにと頼まれたけどさ。
家臣の人たちも少しだけ間を置いてから次々と主君の意見に回答していく。
「…同じ刻流であれば、刻流としての扱い方も詳しいでしょう。私としては異存はありません」
「そうですな。未来の世から持ち込んできた代物も気になりますが、国が発展するのであれば陪臣の地位に就かせるのが妥当かと思います」
「紫苑殿がしっかりと教育と指導を行うのであれば、それでよいかと…」
「うむ、では佑志を我が信濃小笠原家の一員として迎え入れることに異存なしという事でよいな?」
信忠さんの問いかけに一同が頷いた。
これで僕はたった今から信濃小笠原家の一員になった。
というか成り行きでなっちゃったみたいですね。
まぁ、翌々考えたら未来技術をいくつか持ってきている人間を追放するわけにはいかないよね。
少なくとも使えるうちは優遇する。
僕が戦国時代で生き抜く上ではこれから紫苑さんの元で働いて、いっぱい功績を作らないといけない。
とにかく、新しい人生のスタートラインが幕を開いたという事には変わりない。
これから受け入れてもらえるように努力をしよう。
そして男性でお近づきをする上で欠かせない物を持ってきたからせっかくだし使ってみよう。
「では、皆さんにお近づきの印ということで…お酒を持ってきました。焼酎のように辛い酒になりますが…よろしいでしょうか?」
「ほう、刻流が持ってきた酒か…実に気になるな。どんな酒じゃ?」
「ウイスキーというお酒です。南蛮では命の水とも言われているものです。少量でもかなり酔いが廻ってきます。こちらがそのお酒になります」
外に待機していた小姓さんが持ってきてくれたのはウイスキーのボトルだ。
まだ未開封品だったが、透明な容器に入っているのが珍しいようで、一気にウイスキーに注目が集まる。
「中々珍しい容器に入っておるのう…これは硝子か?」
「はい、ガラスですね。落とすと割れやすいですが、南蛮酒を保存すると見栄えが良くなるのもガラスの良い点でもありますよ」
「未来の酒を飲めるとはまたとない機会じゃ!よし、早速湯呑みを持ってきて飲もうではないか!」
その後、僕は信濃小笠原家の人々に対して感謝の意を込めて未来から持ち込んだお酒を振る舞うことになった。
日本酒とは異なる風味の酒に大変ご満悦だった。
勿論毒が入っていないか確認するために僕から先に飲んだけど、湯呑みにウイスキーと水を1:1の割合で飲むトワイス・アップが無難に美味しい。
特に、汲み上げた湧水なのでかなり美味しかった。
「まっこと美味!!!この舌触り、後味も普段飲んでいる酒と比べたら段違いだ!!!」
「本当に、これは美酒でございますな!気分も高揚してまいります!!!」
「どうぞ、どうぞ!まだお酒はありますので!!」
クーラーボックスから持ち出してきたウイスキーを一本丸々開ける羽目になったが、信忠さんをはじめ、家臣の人たちは酒を飲んでから酔いが早く回ってきたようで、家臣の人たちとも少しずつだが打ち解けたのも事実だ。
紫苑さんもおちょこ一杯分だけ飲んでウイスキーを味わった。
タイムスリップしてきて早一日。
僕が信濃小笠原家に仕える日々がはじまったのであった。
えー、ここで一章が終わります。
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因みに僕はウイスキーではニッカウヰスキーが一番好きです。