2:拷問だけは勘弁な!
捕縛されている間。
僕はどうにかしてこの状況を打開したいなと考えていた。
しかし、この状況でどうやって打開するのかが思いつかない。
これ以上下手なことを喚けば、絶対に殺されると思う。
思いっきり抵抗したし、各自に拷問でもして自白させてくるかもしれん。
侍ならそのぐらいやってのける。
だって侍だもの。
敵に厳しく、血塗られた甲冑を身に纏う中世日本の戦士。
SAMURAI…武士であり、戦いにおいては世界的にみても近接戦闘はトップクラスで強かったと言われているからね。
特に鎌倉時代前後だと狂戦士という言葉にピッタリな武将が多くいたって話も講義で聞いたな。
木曽義仲とか牛若丸とか元寇を撃退した九州の侍とか、薩摩藩の侍とか…。
いや、薩摩藩に関しては幕末だったな。
でもイギリスの艦隊ボコボコにするぐらいには強かったし…。
それにしても、視線が痛い。
「なぁ、こいつ本当に間者なのか?間者にしては派手な服着とるし…芸者ちゃうんか?」
「こんな奇妙な服を着とる奴が芸者な訳あらへん。芸者でももっとましな服を着るわ」
「まっこと、女子を中に包み込む服を着るなんて…やっぱりこいつは鬼か妖怪じゃないのかなぁ?」
アニメキャラクターのTシャツをパジャマ代わりに来ていたのが相当ヤベェ奴だと思われているようだ。
しょうがない。
今着ているこのTシャツはアニメ「ステナFG-X」の初回限定盤DVDを購入した者にしか配布されなかった限定Tシャツだ。
主人公でドジっ子だけどみんなから慕われているぽっちゃり系女子「ステナ」ちゃんとその仲間たちで繰り広げられるドタバタコメディーアニメだ。
コメディーだけどお色気要素が強かったので同人界隈だと大人しか買えないような際どい内容の本が多く出ていたなぁ…。
当時高校生であった僕は初回限定盤DVDを買う事ができず、この服を一昨年聖地「秋葉原」で未使用品を4万円で購入して以来、ずっとお気に入りとして同人誌即売会などの完全プライベートモードの時のみ着用していた。
僕にとっての精神安定剤だ。
実際にこの服を着ている時は僕は無敵だ。
あとこれ以外の服を着るという選択肢もあったが…。
これと予備の服(一番まともなやつ)以外は全部クリーニングに出してしまったんだから。
それに普段は上にカーディガンを着ているので、ボタンさえ閉じていればTシャツの中までは見れないようになっている。
それでも、侍が明らかに異物を見るような冷たい視線で僕の事を見つめるのはどうかと思います。
…でも、よく考えたらこの服を大学で着ていくにはかなり勇気がいるな…。
前言撤回。
予備の服はまともな服だからその服を着せてほしい。
せめて羽織ものだけでもいいから着させてください。
本当に予備の服に着替える時間だけでもいいのでくださいお願いします。
「もしやこいつ南蛮人かもしれんぞ…」
「南蛮人?」
「なんでも異教徒で仏様の教えを否定しとるちゅう話じゃ…」
「おお、もしそうなら尚更ここから出してはならぬな…」
物騒な事が独りでに歩きだしている。
ヤバイ、ヤバイ!
そんなおぞましい物を見るような目で僕を見つめないでほしい。
僕の心は豆腐メンタルなんだ。
明らかに僕の存在というのは異物なんだ。
いや、これは夢に違いない。
そう願いたいのだが、縄で縛られている痛みが一時間以上続く夢ってもうこれ拷問だろ。
拷問だ!とにかく拷問に掛けられている!精神的な意味で!
ギザギザした板の上に重たい石を乗せて自白させる刑罰もあったみたいだし、このままよくわからない罪で拷問されたら僕はそのままショック死しそうだ。
一人で怯えていると、見張っていた侍の一人が僕を指さして隣にいた侍に声を掛けた。
「…ほんでぇ、本当にこいつを紫苑様に会わせるのけぇ?」
「あたりめぇだ。間者だったら大事なモンを取っているかもしれんやろうに。殿様かて紫苑様が直に間者に聞きたい事があるとおっしゃったそうだで。それまでは生かしておけとのご命令じゃ」
「なんと…じゃあこいつはよっぽどの大物かもしれねぇってことか…ワシらに賞金どのくらい出るかねぇ…」
「わからん、でも酒を飲むぐらいはでるじゃろうに。お前も酒は好きじゃろ」
「確かに好きじゃが、ワシは酒よりも女子と一緒に過ごしてぇだ。んでぇ、酒我慢すれば女子と遊べるだ」
「はっ、全くお前の女好きもほどほどにせえよ。病気になっちまうで」
「ふん、そん時は精進料理食べりゃ治るべ!」
結構盛り上がっているが紫苑とは誰のことだろうか?
武将の名前か?
会話の後半が殆ど僕を捕まえた事で出される賞金の使い道を熱く議論していたので、前半部分を必死に考えることにした。
武将で紫苑…???
頭をフル回転させて探してみるが聞いた事が無いぞ。
脳内検索エンジンにはヒットしなかったようだ。
ライトノベルとか漫画とかだと紫苑って名前の人はいくつか登場はしたと思うが…。
頭を捻りながら考えていると、誰かが土蔵に入ってきた。
それと同時に先程まで賞金について語っていた侍が直立不動になって正しい姿勢でピシッと立った。
「ご苦労、捕らえた間者はここにいるか?」
「はっ、こちらにおります!」
「うむ、下がってよいぞ。拙者らはこいつと話があるからな…後で褒美を渡す。それでこの間者の事は忘れろ…良いな?」
「ははぁっ!!!」
侍は深く頭を下げて去っていった。
そして侍の代わりにやってきたのは厳つい顔をした高そうな着物を着た男性が、その後ろから男性よりも一回り大きな身体をした女性が入ってきた。
長い髪で目のあたりが隠れて見えないが、少なくとも身長はかなり高いだろう。
もしかしたら僕よりも身長が高いかもしれない。
そんな女性が僕を見て、口を大きく開けて指を差してきた。
「や、やっぱり…。こ、この人は刻流だわ!間違いない、私のいた時代の人よ!」
「なんと…やはりそうだったか、いや、本当に殺されなくて良かったわ!紫苑のためじゃて、やはりこの奇抜な服を着ているのは刻流じゃったか!ハハハハハ!!!」
…どうやら話が分かる人のようだ。
紫苑様というのは目の前にいる女性で、殿様は大笑いしている男性のようだ。
刻流ってタイムスリップって意味なんですかね?
とにかく、セカンドコンタクトが出来た相手はタイムスリップしてきたか転生者っぽい感じだ。
何はともあれ、僕は間者ではないと分かってくれたみたいで一先ず助かったみたいです。
メカクレの女の子っていいよね