17:大工さん
「こちらが、この辺りで建築だけでなく荷台なども作っている大工の深志さんのご自宅です。この地域では名の通るほどの名士でもあります。失礼のないようにお願いいたします」
「わかりました」
この地域一帯の建設・製造業を営んでいる深志さんという名前らしい。
一帯を取り仕切っているだけあって、屋敷はかなり立派だ。
藁ぶき屋根ではなく、しっかりと瓦屋根だし…。
里の中心部にあるだけにその存在感はすごいと感じた。
考えてみれば、現代でいう所のゼネコンみたいなもの。
それも、この辺り一帯すべての建築・製造業を手掛けているとなれば利権なんかも独占してそう。
城主である信忠さんも、この大工さんには色々と世話になっているとのことなので、この地域で一般市民として最も発言権のある人なのだ。
「深志さんはこのあたりでは知らない人がいない程の有名人です。城主信忠様だけでなく、家臣の皆様のお屋敷も建設してくれた方なので、信濃小笠原家にとって建築関連に欠かせない方です。とっても気さくで親切なお人柄ですよ」
「そうなのですね…ではけっこう信濃小笠原家にとって欠かせない人物でもあるのですね」
「その通りです、おや…今日は門番の方が4人もいらっしゃいますねぇ…」
「ちょうど警備増員の要請が届いたのでしょう…深志さんもこの地域の有力者…守るために警護人を増員したようですね」
屋敷の前には二人の門番が立っていた。
門番といっても侍ではなく、槍を構えていた袴姿の男だ。
紫苑さんが前に出るとすぐに頭を下げたので、深志さんの屋敷を警備しているようだ。
戦国時代である現在は城下町の警察機関は信濃小笠原家が取り仕切っているとはいえ、戦時の際には警備にあたる人員も限られているので「警護人」という城下町や村々を巡回するパトロール組織を作ったようだ。
このパトロール組織を作ったのは紫苑さんであり、警護人は重罪人を除いて全ての領民において参加資格があり各地の見回りを担当するというもの。
三勤一休制度を導入しており、現代の警備会社のシステムを取り入れたのだそうだ。
そして、この警護人は地域の有力者が攻撃に曝されないように武器の所持が許可されている。
その証拠に、今目の前にいる門番の警護人は槍を持っている。
門は固く閉じられており、中々近寄りがたい雰囲気を出している。
門番の一人が紫苑さんに話しかける。
「これはこれは紫苑様、深志の旦那に何かご用意でございますか?」
「ええ、緊急の用事が出来たので深志さんとお話がしたいのですが…今お取込み中でしょうか?」
「すんません、今宮大工の今藤様と北梓川神社の神主様が話し合いをしております。すぐに深志様にお伝えしましょうか?」
「ええ、是非ともお願いいたします、事は一刻を争います故…」
一人の警護人が走って深志さんが話し合いをしている場所に向かって事情を伝える。
その事情を聴いたのか、直ぐに深志さんが屋敷の中からやってきた。
年齢はざっとみて70歳前後、白髪が生えているが来ている服はかなり立派だ。
やはりそれだけ裕福である証だろう。
「これはこれは紫苑様、緊急の用事が出来たと聞きましたが、ここで聞ける話でしょうか?」
「いえ、できれば屋敷の中でお話したほうがよろしいでしょう。信濃小笠原家に関わる話ですので…」
「なんと…分かりました。ではすぐに先客のお客様と話をつけてきます故、少々ばかりお待ちを…」
そう言って深志さんは一度屋敷の中に戻っていく。
宮大工の人と、神社の神主さんが話し合いをしていたみたいなので神社関係の仕事の話なのかもしれない。
話し合いを済ませたのか、宮大工の棟梁である今藤さんと北梓川神社の神主である横川さんとすれ違った。
一応ご挨拶と謝罪も兼ねて頭を下げたが、二人とも緊急のご用事であれば我々は席を外します故、お気になさらずと返事を貰った。
二人を深志さんが見送った後、いよいよ屋敷の応接間に案内された。
火中車の事もしっかり説明しないといけないな…。