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16:足軽兵

その後、評定が終わってから直ぐに紫苑さんと雪ちゃんと共に一旦屋敷に戻り、ノートパソコンを持ってから里に下りた。

里に下りたのには理由が二つある。

一つは、里に荷車などを製作している大工さんがおり、大工さんに他の作業を中止して「火中車」を作ってもらうように要請することだ。

そして大工さんの場所につくまでに、紫苑さんは戦争の悲惨さを淡々と語り始めた。



「佑志さん、一つだけ覚えておいて欲しいのですが…戦争時に被害を被るのは武士だけではなく自国領の農民や町民も戦火に巻き込まれやすいのです。農民の場合は米や麦などの農作地を焦土作戦の一環として焼かれることが度々あります。そうなれば農家の人達にとって致命的打撃になります…特にこの時代はそうした人達が被害に遭いやすいのです…」



「成程…それで戦国時代では一揆や打ちこわしなどが度々起こっていたんですね…教科書では農民の事とかも度重なる戦乱で困っていた程度しか書かれていませんでしたね…」



「はい、私もこの時代に来てからそうした戦場が終わった後の光景を直に見るまでは…時代劇やドラマみたいに戦いに勝利してはい、終わり…ではないのです。戦いが終わった後の収穫直前の稲や麦を滅茶苦茶に踏み倒されて呆然としていた農民や、家を焼かれて家財道具だけでなく家族をすべて失い路頭に迷っていた虚ろな表情をした子供などをこの目で見ました…あのような光景はできれば見たくはないのです…」



現代ではそう経験することのない大惨事。

自然災害であれば、次に備えるために対策を講じることができるが、戦争になれば略奪や暴行などが必然的に起こる。

そうした戦争時における民間人に対する暴行・略奪行為を禁じた国際法は第二次世界大戦が終わった後に出来上がったので、この時代では各武将や大名がそうした行為の禁止を厳命にしない限り、足軽兵などによって略奪をすることが容認されていた。



敵国の国民なので問題なし。

この時代における人権というのはその程度のものだ。

戦国時代だし、戦乱だし、法律…?なにそれ美味しいの状態だ。

応仁の乱以降、足軽兵というのは収入の少ない武士や徴兵された農民が大半を占めていたので、国に帰る際に略奪した物を売ったりして生活していたという。

特に、武将クラスの人間が死んだ際には金目の物ほしさに兵たちが死体に殺到して褌すら盗んだという話もあると紫苑さんが語っていた。

…足軽兵はハイエナかな?



「…ですので、今回の戦いでは是非とも勝たなくてはなりません。佑志さん、これから忙しくなりますが、全力を尽くしましょう。」



「はい…!僕…頑張ります!!!」



僕がこれから作る兵器は人を殺すものだ。

それを理解しなくてはならない。

そして、この兵器…いや、敵が領土に侵攻して信濃小笠原家が滅んだりでもしたら大勢の民間人から略奪や暴行を行なわれる光景が広がるだろう。

そうならないように努力して、全力で火中車を作らなければならない。

僕に課せられた使命は、それ程に重いものだ。



そして、僕は紫苑さんから一つだけ忠告を受けた。

それは大工さんに火中車の設計図を見せても構わないが、作戦の内容までは教えないようにとの事であった。

なんでも、軍事機密情報まで喋ってしまえばすぐに金や女に釣られて喋ってしまう人達が出てくるからだそうだ。

そうならないように、これから先は軍機に関わることは紫苑さんと雪ちゃんがいる時だけに話して欲しいと語った。




「本来であれば民間人の大工さんに兵器の設計図を依頼通りに製作させることは情報漏えいにもつながりかねないですが、大工さんたちには戦が終わるまでは見張りの者をつかせます。ですので、くれぐれも情報の取り扱いには気をつけてください」



「分かりました…情報が筒抜けにならないようにするのですね」



「それもありますが、作戦を遂行する際に武将の位置情報などを知らされてしまえば行軍中に暗殺されたりする恐れがあるからです。この時代は裏切りやスパイが横行しています…たとえ草木であっても軍機に関わる事だけは絶対に漏らさないでください…」



戦で死ぬのも嫌だけど、戦が始まるまえに忍者とかに暗殺されるのも嫌だねぇ…。

紫苑さんが言いたいことが分かる。

なので、僕は紫苑さんの忠告をしっかりと受け取って、発言する際も周囲をみて話すように心がけることを常に意識するようにしたのであった。

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