15:かちゅうしゃ
某ゲームでは槍兵より剣士のほうが強い扱いですが、実際の所、戦国時代では槍兵が槍を突き刺すよりも相手の頭をボコボコにぶんなぐってノックアウトさせる方式が主流だったみたいですね。
あと、弓兵も活躍していたので日本刀を振り回す機会は敗残兵狩りや首切りの時に主に使っていたそうです。
わりと今日まで武士=剣振り回す構図なのは、有名な武将等が持つと見栄えがいいとのイメージ戦略に基づくものだったそうです。
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「はい、資材と人員を割り振ってもらえれば…3日で作り上げることは出来ます。」
ぶっつけ本番になってしまうが、3日あれば火中車を作り上げることはできる。
設計通りに出来上がれば、この時代においてそこそこ強い投擲兵器が出来上がるんだ。
やり方というか、方法はとってもシンプルだけどね。
ただ、数を揃えるとなるともっと時間はかかるけど…。
とりあえず熟練者でなくても作れる兵器であればこの時代にはうってつけだ。
火中車…。
元ネタは発音の示す通り、スターリンのオルガンとしてドイツ軍から恐れられたソ連製の多連装ロケット砲「BM-13 カチューシャ」からインスピレーションを受けて作ったものだ。
すでにこの時代でも似たような兵器として「火矢」というものが中国や朝鮮半島で使用されていたけど、僕の考案した火中車は、威力と相手に対する心理的恐怖を高めている。
火中車の取扱は以下のように製作した。
まず、四輪の荷台を作ってから前のほうに柱と斧の鋭利な部分を二本ずつ取り付けて、竹の筒が入るようにレール状に設置した溝に、筒に予め弦を引っ掛ける為の切れ目を入れてから溝に引っかける。
そして筒の中に矢を六本から九本入れてから、予め矢の先端に油を塗って火をつける。
火をつけたのを確認したら目標に狙いを定めて引っかけている部分を外して筒ごと飛ばす。
飛ばした際に筒の中に矢が入ったままでは矢の拡散が出来ないので、発射した直後に荷台の前方に取り付けている柱の両側に設置している斧で筒を真っ二つに切断し、矢を前方に拡散させるようにしてある。
筒が割れることによって矢が拡散し、燃えた矢が一斉に発射されるんだ。
火中車の特徴は、放たれる矢が最低70メートルから最大で200メートルも飛翔することにある。
この時代訓練を受けた熟練の弓兵が矢を放てば、だいたい300メートルは飛ぶらしいが、それはあくまでも猛訓練された弓兵が使用すればの話。
実際問題、戦国時代では兵士の大半が領民の農民などを徴兵したケースが多くみられた。
戦では前衛としてすりつぶしても問題ない扱いであった。
織田信長などは常備軍として訓練された兵士を常に配備することを進めたので、戦の練度も高かったという。
これは『大物動画配信者と学ぶ携帯兵器図鑑』で描かれていた情報だ。
つまり、そのような猛訓練をした兵ではなく徴兵された農民が使用しても基礎操作さえ覚えれば扱える代物のほうがこの時代にとっては脅威なのだ。
火矢と呼ばれるこの時代の一本ずつ矢に火をつけて発射する方式が取られていたが、この場合だと一人で発射する矢の数も限られている上に時間もかかる。
しかし火中車では筒に入れた矢をセットして放つまでに最大でも20秒は掛からない。
20秒に9本の矢を放つことが出来れば、単純に計算しても1分間に27本の矢を放つ事が可能なのだ。
この時代の弓兵は、どんなに訓練を積んでも一分間に5秒に1本が限界らしい。
10秒で2本、一分間で12本の矢を放つことが限界の時代に、その倍以上の矢を放つことが出来る。
しかも、火を付けずにやればさらに時間を短縮することが出来るので、15秒間隔で連射ができる。
そうなれば一分間に最大で36本の矢を放てることができる攻城かつ広範囲拡散兵器としての役割を担えるんだ。
僕ながら凄まじい兵器を考案してしまったものだと思った。
図面上および、3D演算シミュレーションソフトを使っていくつか火中車の性能実験をシミュレーションで行った結果、割と強力な広範囲攻撃兵器としての実力があることが分かった。
火中車が10台あれば1分間に火のついた矢を270本、火をつけなければ360本を放てる。
台数が多ければ多いほど集中的に攻撃ができる。
早い話が飽和攻撃を行えるんだ。
火薬を使わない兵器としては拡散性があっていいと思う。
紫苑さんもコンセプトは絶賛していたし、彼女は弓兵指揮官でもあるのでこの兵器の重要性を理解してくれたことが何よりの救いであった。
アサルトライフルとかそうした強力な個人火器ではないけど、熟練の弓兵を一から育て上げるよりは楽だと思う。
タイムスリップ系小説で、アサルトライフルなどの現代兵器を持ち込んで無双する話があるけど、あれの大半は弾薬が尽きてしまって最後は原始的な武器で殺される結末が多いよね…。
僕はそう思います。
「よかろう、必要な資源と人員は割り振ろう。火中車が出来上がり次第、援軍として送りたいと考えておるが…。5日で何台できそうか?」
「実際に作ってみないと何とも言えないですが…6台から10台ぐらいでしょう」
「ふむ…6台から10台だな…佑志、このかちゅうしゃは何人で運用するつもりだ?」
「1台につき4人で運用します。1人が矢を筒に詰めて、2人が弦を引き、1人が矢の放つ方向の調整を行います。徴兵した兵で運用を可能にするために1日だけでも訓練させてください。訓練すればこの兵器を使いこなせるでしょう」
「4人か…では40人の足軽をお前に授ける!頼むぞ!!紫苑、佑志のかちゅうしゃが出来次第、諏訪の前線に持ってくるように、二人とも頼むぞ!」
「「ははぁっ!!!」」
時代劇のように頭を下げて僕と紫苑さんは信忠さんに感謝する。
貴重な物資を譲り受けたばかりでなく、足軽兵40名を僕の配下に与えてくれるそうだ。
あと製作に必要な大工さんも寄こしてくれるようだ。
うむ、これは忙しくなりそうですね…。
寝る暇もなくなりそうだ。
…まだクーラーボックスの中にエナジードリンクって残っていたっけ?
参考文献:図鑑 戦国武将
著者:池上良太
2010/5/4 初版
出版:株式会社新紀元社