11:映画鑑賞会その1
…〇…
「…それにしても、もうこの時間で就寝するとはね…まだ早すぎるよ…」
時刻は午後7時。
太陽がアルプス山脈に沈んでいき、周囲は夕暮れになっていく。
この時代では午後2時ぐらいに夕飯を取って、午後7時には就寝するのだ。
だって灯りが蝋燭とかしかない時代だし、灯りがないということは無駄に起きていても意味がないとされていた時代だ。
現代みたいに終電間際まで残業を繰り返しているブラック企業で働くよりは遥かに身体にとってはいいかもしれないが、娯楽というものが致命的に無いので遊びが限られているのが実情だ。
僕は割り振られた部屋で蝋燭の灯りを基に作業をしていた。
作業というのも、攻城兵器のモデリングの作業だ。
ぶっちゃけてしまえば、これらの図面はノートパソコンの武器・兵器フォルダーに入っていたゲームのデザインから現実的で有効そうなものを一部流用したりして作り出したものだ。
完全に一から作っていたら3週間ぐらいは掛かる。
そこまで僕はモデラーじゃないし、ある程度は流通がきくものを作っておけば問題ない。
それに、車輪の位置や物理演算シミュレーションソフトを使う際に、製作した3Dモデリングデータがバグを起こさないかチェックしないといけない。
バグった状態で信忠さんに見せてしまえば、プレゼン不足になるからね。
一旦保存してから次の作業に取り掛かろう。
「Brandのオブジェクトの配置は問題なし…3D演算ソフトも正常に稼働…これでやってみようか…」
ノートパソコンで設計していた「火中車」の3D図面を元手に演算シミュレーションが完成した。
火中車の威力、そして性能がおおよそ現実に近い数値で出されることになった。
その数値を見て、僕は驚いた。
予想していた数値よりも結果が良かったからだ。
やはり和弓で使用されている丈夫な弦を強化した設定で行えば、竹筒の中に入れてある矢は70メートル以上飛翔することが確認された。
何度もシミュレーションを行ったが、設定は図面通りに設計されればこのぐらいの威力になるものとして十分に検証が可能だ。
あとは、これを実際に作ってみないといけないな。
クロスボウに関しては現物を腕と信頼が確かな職人さんに渡しているので、その職人さんがTAC-15Gに酷似したモデルの和製クロスボウの製作に取り掛かっている。
幸運というべきか、銃よりも構造が比較的簡単であり、なおかつ矢を使う武器であるので知識とノウハウはこの時代の職人のほうが詳しい。
職人に強力な弦を引けて、なおかつ現代式のクロスボウを量産化できれば鉄砲に対してアドバンテージが取れるかもしれない。
某アクション映画のように矢の先端に爆薬を括りつけて射撃してヘリコプターを爆破…なんてこともできるかもしれないからだ。
…いや、さすがにあれはフィクションの世界だ。
あれだけの威力は発揮できないでしょう。
「失礼します。佑志さん…今お時間は大丈夫ですか?」
「あっ、紫苑さん!ちょうど今作業が終わりましたのでどうぞお入りください!」
パソコンを眺めていると紫苑さんが雪ちゃんを連れて部屋にやって来た。
おっと、約束の時間が来てしまったようだな。
何をかくそう、今日は紫苑さんがタイムスリップしてしまい、見ることが出来なかったロボットアニメの劇場版を観ようと決めていたのだ。
なんと気を利かせて甘味やお茶まで持ってきてくれたのだ。
明日は僕も紫苑さんも休みなので、二人で映画鑑賞会をしようと夕飯時に誘われていたのを思い出した。
正直言ってすっかり忘れてました。
ハイ。
「それにしても懐かしいですね…私がタイムスリップする直前は女子でアニメを見るという行為はあまりもてはやされていなかったので…第一作目が公開された時は一人で行きました」
「一人で…ですか?!お友達とかは誘わなかったのですか?」
「えっと…その、そういった友達は身近にいなかったんです…」
実のところ、紫苑さんは隠れオタク女子だったらしく、アニメなどはよく見ていたそうな。
タイムスリップする直前は弓道部に所属していたようで、関東地方の大会でベスト8入りした経歴を持っていると語っていた。
趣味であるアニメ鑑賞は当時女子の間ではあまり受けておらず、サブカルチャー系の女子ぐらいしか見ていなかったとの事。
それ故に、自宅で見る時間だけが唯一の楽しみだったとか…。
うーん、ちょっと前までオタクって苦労していたんだなと痛感される話を聞いたところで、僕は紫苑さんが見たがっていた劇場版ロボットアニメの第二作目の上映を始めたのであった。




