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プロローグ 鬼才、現る

「……このような結末を、誰が予想できたでしょうか」


 AR型情報端末<アーチ>が見せる拡張現実――<血戦の大地>と銘打たれた荒野フィールドに俺だけが立っていた。

 目の前には対戦相手だったプレイヤーが片膝をつき、肩で息をするように荒い呼吸をしている。獅子の顔を器用に渋面させ、俺を見上げるその瞳には戸惑いと驚愕の色がにじんでいた。肩口からは鮮血エフェクトを垂れ流し、夕焼けによって赤く染まった大地は凝固した彼の血によってさらに赤黒く塗りつぶされていく。


AW(アナザーワールド)公式大会で無類の強さを発揮し、AR、VRともに名を残していた<覇王>選手。今回、初のAR限定世界大会BRAVE(ブレイブ)でも優勝候補として獅子奮迅の如く決勝まで駒を進めてまいりました」


 説明台詞のようなくどい言い回しが女性実況者によって行われる。

 だがそれは仕方のないことだった。目を疑うような光景を前にし、会場にいる数万人の客が静まり返っているのだ。“これは現実なのだ”と納得させる必要があり、ネット中継を覗いている外部に向けても発信する必要があった。


「対する相手は<二つ名>もないノーネーム。つまり、アナザーワールドにおいてはルーキーを意味します。記録によると公式大会では予選にしか顔を出しておらず、戦闘力は未知数でした」


 会場に轟くアナウンスと<アーチ>から聞こえる実況の二重音声。それがけたたましいほど耳元で響いている。

 だからだろうか。

 勝利した興奮。

 その激しい動悸の音は解説の声にかき消され、思いの外冷静に現実を受け止めることができた。


「しかし彼は、ノーネームの彼は、刀しか使わず、ここまで勝ち上がってきた強さの片鱗を教えてはくれなかった。いつ切り札を切るのか、我々はただ見守ることしかできませんでした」


 どこか遠い出来事のように俺はその実況に耳を傾けていた。

 だが、彼女の次の言葉を聞いて、俺は右手に持っていた“相棒”を強く握り締めることになる。


「だけどそれは間違いであったと決勝戦で思い知らされました。私たちは大きな勘違いをしていたのだと」


 実況に熱が入ってきたのか声に張りが出てきた。


「彼は最初から本気だったのです。刀で敵を切る。ただそれだけで決勝へと登り詰め、そして勝ってしまったのです! アナザーワールドという無限の可能性を秘めた世界で、“魔法なんて最初から無かった”とでも豪語するように! 彼は! ノーネームは!! その右手に握り締めた一本の刀で、<覇王>を打ち破ってしまったのです!!」


 会場から歓声が上がり始める。

 どうやら歓迎され始めたらしい。

 人気プレイヤーを倒してブーイングの嵐だったらどうしようかと考えていた俺には願ったり叶ったりの反応だ。


「……」


 無言で血振りをすると歓声が強くなった。

 どうやらファンサービスだと思われたらしい。

 なら――と会場の空気に飲まれ大仰に納刀し、鍔鳴(つばな)りを響かせると、見計らったかのように『Winner NO NAME』の文字が会場の中央に浮かび上がり、観客のボルテージは最高潮へと達した。

 どうやら俺の最初の二つ名は<ノーネーム>に決定したようだ。

 頭上を見上げると空中ディスプレイに自分(アバター)の姿がでかでかと投影されていた。

 鬼の総面で顔を隠し、古びた忍び装束のような和装を着込んでいる男だ。

 あいつに教えてあげたいよ。


「賞金2億4000万。全部お前のもんだぞ」ってな。


新連載を始めたいと思います。

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