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第6章 魔王戦再生



 城内では眠り姫の記憶から作られた映像が、巨大な靄に映し出されていた。

巫女達の能力によるものであり、王達が彼女らを頼って姫の目覚めの謎を解くためのものであった。

 記憶の映像再生は今から30年前の魔王討伐に関するものから始まっていた。

当時の国王が魔王討伐のために腕のある戦士を広く集めたシーンである。

『俺こそが魔王を倒してやるぜ!』『お前には負けん!』『魔物は100匹は倒してきたぜ!』映像の中では謁見の間に集められた屈強な戦士が口々に腕自慢を披露していた。

 金属製の鎧を着こんだ男は太い剣を抜こうとして衛兵に止められたり、古い型のヒィアートツールであるボウガンを手入れする女戦士なんての者もいた。

そんな個性あふれる戦士たちの中に一人、これといって特出する個性もない青年がいた。まさに田舎から出てきたような素っ気ない装備に、そこらにでもある剣を帯剣していた。


「・・・兄上、あの人」「あぁ間違いない・・・勇者ロザム様だ」

映像を見ていた国王と妹が呟いた。

その声に隠れて見ているイスピーたちも反応したが、彼らがどれを指して言っているのかはわからなかった。

「・・ど、どれ?あの斧持ったクマ族の奴?」

「いや、あの弓を持った人じゃないかな?すっごい長身だしイケメンだし」

イスピーとガックが映像に目を凝らして、こそこそ喋るがどうにも的を得ていないようだった。

そこへ。

「・・・その隣の男だ・・・剣を持った奴だ」ニックが囁いた。

「へぇ・・・そうなんだ」

「と、いうかあんた勇者見たことあるの?」二人から首を傾げられたニックは少しだけ黙ると

「・・・・まぁな」と、間を開けてから応えるのだった。



                             ※


 記憶の再生製造はシーンを変えていた。

マリー姫が国王に懇願し、討伐隊への追従を許してもらっているところだった。

無論反対の国王だが、遂には姫の強い意志に根負けし許しを出したようだった。条件として戦士たちに姫の警護を最優先させるようにも指示している。

 そうして討伐隊の一員となったマリー姫が戦士たちから歓迎の声をあげられていた。

実際のところ彼女の鼓舞や話術が全員の結束力を高め、それが魔王討伐につながったとも言われている。


 「マリー姉さんらしいですね」「あぁ、この場面は私も覚えているよ」

王と妹が懐かしそうに呟く。後ろでは兵隊長は無言で映像を見つめて押し黙っている。

そうして、映像は次へと移り変わった。


                              ※


 討伐隊が出発。様々な村や町、森林、洞窟、沼地など、魔王の居場所を探っては多種多様な場所を進んでは一行は進み続けていた。

 道中、魔物に襲われたり、歓迎されない町もあったりと苦難も見え隠れてして当時の魔王討伐の過酷さを生々しく伝えていた。

「皆がみんな、討伐隊を良く思ってたわけじゃないのね」イスピーが小声で言った。

「・・・うん。魔物の被害を受けてない所とかは迷惑なだけかもしれないしね。それに人も結構減ってるね、最初の頃から半分くらいになってる」ガックも続いた。

「・・・・・・・」

意見を出す二人とは対照的にニックはそのごつごつした顔で映像を黙って睨むだけであった。


                            ※


 またシーンが変わった。今度は小さな村で討伐隊が休憩をしているシーンだった。

宿をとったのか、疲れてベッドで横たわる人や、関係ないと酒場で盛り上がる者たちなんかが映っていた。どれも姫視点の映像だが、そうやってくつろぐ戦士たちが映る一方で、姫を乗せている荷車を手入れする者がチラリと映った。

勇者ロザムであった。といってもこの時点では、ただの討伐隊の一員であるが。

そんな視界の端に映った彼が気になったマリー姫は、そのままロザムへと近寄った。

『あなたは休まないの?』『・・・ひ!姫様!』

突然、声をかけられたロザムは驚いて裏返った声をあげた。

『自・・自分は・・・酒も呑めませんです・・・ます』『もっと普通に喋っていいわよ、私も同じ討伐隊なんだから』にっこりと笑顔を見せてリラックスするよう促す。

『・・・あ・・・はい・・・。お言葉に甘えて・・・』少しだけ深呼吸するロザム。

『俺は・・・ちまちま戦ってはいるんですが、やっぱり最前線の戦士の人たちが一番働いてます。それに比べたら・・・。せめて荷車の手入れぐらいしておかないとって』

『ふーん。真面目なのねあなた・・・え・・・と――』

『ロザムです。マリー姫様』

言葉が詰まったことを察して名を告げるロザム。それを聞いてマリーは、再びにっこり笑った。

『そう、ロザムね!』と明るく言うと一歩彼に歩み寄った。

『ロザム、あなたも魔王討伐が目的なんでしょ?そんな引っ込んでていいの?死ぬまで戦えとはいわないけど、もっと積極的に行かないと強くもならないんじゃない?』

『わかってはいるんです・・・・・・わかってるんだけど、どうしても勢いある人には一歩遅れてしまって・・・――もちろん魔王を倒せれば言うことなしですが、俺としてはここで腕を磨いて剣の腕を活かせる仕事に就きたいかなって思ってるんだ』

『へぇ・・・じゃ、腕磨きついでに魔王を倒そうってんだ?』

『え!?あ、いや・・・そういう風に言われると・・・』

『いいのいいの!どっちにしても魔王を倒すっていう目標は同じなんだから!』

ワハハと明るく笑ってマリーはロザムの肩を叩く。

『そうだ!まだ休まないなら一仕事付き合ってよ?』

『・・・仕事?』

『ボディーガードよ』

マリーが可愛く微笑んで、ロザムも思わず頬を赤らめた。


                            ※

 再びシーンが飛んで、今度は突然の水滴のが落ち来る映像で会った。

見ている皆も雨かと思ったがどうもそうではなく、チラリと肌色が映ったり周りには湯気が漂っているのがわかった。

と、そこで映像は一時停止してしまった。

「あ、これシャワーシーンだ」巫女の一人サーマが言った。

「大丈夫なシーンまで飛ばしますね」続けてウィンティアが眠り姫に向けている手を細かく動かして、映像をスキップ操作してしまう。


「なにぃ!?」「そんな!」ニックとガックが同時に残念な声をあげた。危うく王様達に気付かれるのではと思えるぐらいに声を上げそうになってしまったことにお互いに「シーッ」と口元に人差し指を当てて妙な表情を作って向かい合う。

「・・・へぇ、そんなに見たかったんだ」そんな二人にイスピーからの冷たく残酷な視線が注がれて、形見を狭くするニックとガック。

「・・・ほ、ほら続き始まるよ・・・!」「また同じシーンならいいわよね?」嫌味たらしく言ってイスピーは、声を荒げられない状態と知りながらガックの頬を抓り上げた。

 痛みの声を我慢して、涙目のガックはどうにか次なる姫の記憶の再生を見ることになるのだった。


                              ※


 『ロザム!覗きよ!捕まえて!』

再生が始まると同時に姫の声が上がった。同時に映像は慌ただしく建物内を走るものであった。

 宿屋や酒場とも違う、ごく一般的な民家のような内部を抜けて、姫が玄関扉を抜けたところで映像はようやく落ち着いた。

『マリー姫!捕らえました!』

『うひー!やめろー!離せい!』

そこに見えたのは勇者ロザムが何かを捕えているシーンであった。両腕に収まるぐらいの羽の生えた何かをどうにかこうにか押さえつけて、逃がさないようにしているのに必死である。

『まったく・・・せっかく隠れ家的温泉を備えている家を見つけたってのに・・・』やってきたマリー姫は捕り物中のロザムらに向けて言った。

 どうやら湯上りの用で服装自体は通常の者だが、火照った体や顔に艶やかさがにじみ出て、ロザムも捕まえている何かも少しだけ見とれて動きを止めてしまっていた。

『・・・で!誰よ!私の入浴を覗く奴は!?』強く言って、マリー姫は捕えている何かの羽を摘まみあげると、その何かの正体を睨みつけた。

『こいつは・・・・』ロザムが呟いた。

 

 そこに見えたのは小さな羽の生えたトカゲであった。おまけに「放せ!おおい!」などと声を上げている。

『あんた、もしかしてドラゴン族?』

『・・・だったらなんだよ!』

マリーの問いに、暴れる物体の正体・ドラゴン族の者は空振りの拳を何度も放っていた。

『ドラゴン族って賢族ってやつじゃなかった?それが覗きなんて俗なこと・・・』

『うううううっさい!男にはやらなければならない時があるんだ!』

『ドラゴン族もピンキリなんだな・・・』

あばれる小さなドラゴン族を見つめてマリー姫とロザムは何度か顔を見合わせては「どうする?」といった表情を作っては首を傾げていた。

と、そこまでで、このシーンはフェードアウトしていき次の場面の移り変わりへの準備が始まるのだった。


 「勇者様との出会いの記憶でしょうか?」アンが聞いた。

「だろうな・・・しかし、ここまでででは呪いを解く術はわからないな」トワネット王が唸りながらに答えを返した。


 「これをきっかけに姫と勇者の距離は近づいていくわけね・・・」イスピーもまった唸っていた。

「そういえば、あのちっちゃいドラゴン、なんだかニックに似てなかった?」ガックは隣のドラゴン剣士に向けて聞いてみた。が、ギロリと睨み返されるだけで終わって、会話は続かず終了してしまうのだった。

  やがて皆が感想を漏らすころ、更なる映像が再生された。


                               ※


  ここからは、随分と魔王へと近づいたのか魔物との戦闘が多く映されていた。

大勢の戦士が魔物との戦いを繰り広げている。無論勇者ロザムも剣を振るっては姫を幾度も助け、そして何故だか彼の傍にはあの『覗きドラゴン』が纏わりついていた。

一行は奇妙なゼリー状の魔物を倒したり、闇深い洞窟を抜けたり、とある結界を解くべく凍れる遺跡に潜ったりと・・・かなりの冒険の数々が伺える。

しかし、映像が映される度に討伐隊の人数はあきらかに減っていた。

 かなりの激戦だったのか疲弊しきった討伐隊が、どこかの宿場に立ち寄ったシーンが映った。

『・・・荷車ももう無理です・・・姫様、一度出直したらどうですか?』隊員の一人がマリーの問いかけていた。

彼の言うとおりマリー姫を乗せていた自走用の荷車は戦闘の煽りを受けて、まともに機能しない有様であった。

『――ようやく魔王の居城を突き止めたのです・・・ここで引けばまた魔王討伐が遠ざかってしまう――それにここまでに命を落とした者たちにも申訳がありません』マリーが難しい顔をして言った。

『ですが・・・それなら姫様だけでも城に戻られたら』そこへロザムが一歩歩み寄って声をかけた。

『・・・・・・そうはいきません』と、マリーはグッと堪えた表情でロザムと目を合わせた。

『私は最後までこの隊を見届けます・・・もちろん足手まといになるつもりもありません・・・自分の身は自分で守ります』と強く言いながらに、非常時のために帯剣していた剣を力強く握りしめた。

 減少した討伐隊の戦士たちがざわめく中、姫は『更なる魔王の情報を探ろう』と隊の中を割って、宿場町の中へと消えていくのだった。

そんな気丈な彼女の背中を見つめてロザムは複雑な表情を見せていた。


 シーンが変わって、討伐隊は宿場町の中でバラけて休息に入った様子であった。

月夜に照らされる宿場の一角、宿としている建物の入り口近くに勇者ロザムと小さなドラゴンがなにやら話し込んでいた。

『・・・お前の仲間のドラゴンとかいないのか?』

『オイラの種族はドラゴン族の中でも最弱で・・・とても戦力にはならないッス』

『・・・そうなのか』ロザムが溜息をついた。

『オイラあんまりツールについて詳しくないッスけど、あの姫様の荷車みたいな技術の武器とかってないんスか?』パタパタと小さな羽を羽ばたかせてドラゴンが聞いた。

『・・・あぁ、ここは魔の宙域の傍だからね、ここに元よりあったヒィアートツール以外・・・つまりは外からのツールが入ってきにくいから全然普及していないんだよ。あの荷車だって王国保有のかなりの旧式ツールだからな』

『・・・はぁ、そういうことッスか、あ、でも魔物の中でも時々魔法みないことしてくる奴もいるッスよね?』

『おそらくここに残されている旧式ツールだろうな・・・つまりは魔王はそれらを手中に収められる状態にあるということだな』

そこまでロザムが話したところで、彼の名を呼ぶ声が飛んだ。

『ロザム』

『マリー姫』『姫さま!』

声の主はマリー姫であった。

『魔王について核心に迫った感じですか?』

『いやぁ・・・推測なだけで・・・』頭を掻くロザムに「ふふ」と微笑んで返すマリー。

『・・・私も少しだけ情報を得ました・・・魔物の群れは北の方からやってくるらしいです――ここの人が言うには『凍てつく岬』から来ているのではと・・・』

『凍てつく岬・・・?』ロザムが問いかけた。

『はい・・・魔王や魔物の件が起こる前は古代遺跡が眠ると言われた場所らしいです。その岬は年中凍っていて、時折異常気象のような荒天が一点集中で起こったりする怪奇な土地らしく、地元の者も近づかないらしいのです』

『・・・古代遺跡・・・なるほど・・・それなら旧式ツールがあっても可笑しくない』

『つまりはそこに魔王が居座ってるって事っスね!』ロザムの呟きを拾ってドラゴンが元気に言って、マリー姫の周りを飛び回った。


『・・・そう、それらならもしかしたら明日は決戦になるかもしれないですね』マリーはまたしても覚悟を決めた目を見せた。

そして一度、小さく息を呑むとロザムへと真っすぐな眼差しを向けた。

『ロザム、ひとつだけお願いがあります』

『・・・はい?』

突然の言葉に眉を潜めるロザム。

『私を守ってくれなどと贔屓なことを言うつもりはありません。・・・・ただ、これを』と、マリーは首から下げていたペンダントを彼に見せた。

『これは?』

『母から継いだものでお守り替わりに持っていたものです。私になにかあったら、これを国に持ち帰ってください』真剣な眼差しで言うマリーにロザムもまた眼差しを強く返すと、じっとそのペンダントを見つめた。

『あなたになら頼める・・・戦士たちの中でもあなたは特に優秀ですし――ちまちま戦っているなどと謙遜していましたが、群れの中でも一番の強敵を率先して倒していたのでしょう?そういった戦場での判断力も戦う力も抜群のあなたになら・・・』

『マリー姫!!』

そこまででロザムが声を張り上げた。これまでで彼が怒った表情を見せたことがなかったせいもあり、彼に驚いてマリーは口を噤んでしまった。

『なにかあったらなどど・・・なにを言っているんです』

そう強くも優しく言うロザムはペンダントを握るマリーの手に、そっと己の手を添えた。

『旅立つときに言われたでしょう?あなたを守るのは王様の命令でもあります』そう告げるが、ロザムは言葉尻に「だけど」と付け足して、一度瞬いた。

『マリー姫・・・・・・・。いや”マリー”!君を守らせてくれ!これは俺の勝手な願いだし、拒否は受け付けない!そして、必ず一緒に帰るんだ!』

『・・・ロザム』

彼の熱い思いと言葉に、マリー姫は強張っていた表情が緩ませてロザムの名を呟いていた。

ペンダントを介して握り合う二人の手が、よりしっかりと握られ力が入っているのがわかる。

まるで姫の高まる心音がこちらまで聞こえてくるようである。


 そこへ――。


『ヴぇっくっしゅん!!』

小さなドラゴンの大きなくしゃみが、何かが起こりそうな緊迫感を破壊してしまった。

『・・・・・・・・・』『・・・・・・・・・・』二人の冷ややかな目がドラゴンに突き刺さる。

『うぇ?!あ、・・・・・あの・・・どうぞ続けて・・・オイラ目瞑ってるから!終わったら言ってくれッス!あ!でもあんまり長いといろいろ妄想しちゃうから、その辺はよく考えて・・・』

謝るよりあれこれと付けたしてはパニック状態で口早にまくしたてる小さなドラゴン。

 すると黙っていたマリー姫が怖い笑顔を作ると、ドラゴンに向けて優しく手招きをした。それに特に何も考えずに出向かうドラゴン。すると。

『えいや!』ビシっ!!

『あいた!?』

姫からの痛恨のデコピンを喰らってドラゴンは小さな身を空中で回転させた。

『ふふ・・・』『酷いッス!』それを見て思わず笑みをこぼすロザムと、涙目のドラゴン。

『ロザムを慕うのはいいけど、ニッくんはそういうとこ直しなさい!』

腰に手を当ててマリー姫は元気な笑顔を見せるのであった。

そうして和む中で、このシーンはフェードアウトして終わりを迎えるのだった。


  「姉上と勇者様の関係はなんとなくは知っていましたけど・・・」アンが言った。

「あぁ聞いていた通りのようで安心したが・・・」と頷く国王はチラリと眠り続けるマリー姫の方へと視線を向けた。

「あのペンダント・・・」

今しがた映像に出てきたマリー姫の持っていあ首飾りが、眠り姫となった彼女の首元にも備えられている。

「母上の物だったとは知りませんでした」

アンはそう言いながらに、眠り姫に近寄って彼女の首元を確認した。

3人の巫女が手を添える中、 妹は若いままの姉の顔を見ながらもペンダントを眉を潜めて見やった。

 手の平サイズの円盤型、中央には青い宝石が埋め込まれており周りにも独特の意匠が凝らされている。

「・・・・・・・・スプリ、これ」するとウィンティアが囁いた。

「えぇ・・・」頷いたスプリは、そのまま姉を見るアンへと声をかけた。

「アン様、おそらくはそれはツールです」

「え!?」

「なんだって?!」

スプリの言葉にアンとトワネットは驚いた声を上げた。後方では兵士長が無表情ながらもピクリと眉を動かせていた。

「詳しくはわかりませんが、相当古いツールに思えます」

「ま、調べるのは後だな!先に記憶の再生終わらせるぞ!」

難しい顔をしている王族二人を他所にサーマはハキハキ言って仕事の続きだと、アンをマリーから遠ざけたのだった。


 「ね、ねぇ・・・何で驚いてたの?」隠れて隣のガックに尋ねるイスピー。

「イスピーの耳で聞き取れないなら、僕にも聞こえないよ」先ほど抓られたところを摩りながらにガックは王たちの方を眺める。

「・・・・・・あのペンダントがヒィアートツールではないかと言ったんだ」

そこへニックが静かに言って、二人に驚きを与えた。

「聞こえてたの?」

「ペンダントって、さっきの映像で姫様の持ってたやつだよね・・・?」

二人から質問が飛ぶがニックは答えず、再び無言で眠り姫の方へと意識を集中するのだった。

それにイスピーとガックは一度見合わせてから溜息を漏らすと、しかたなく眠り姫へと視線を向けるのだった。


                           ※


 「アン、巫女殿たちの言う通り、先に姉上の記憶を確認しよう」

「は、はい・・・」

アンは兄の国王に諭されて、三人の巫女に託すように身を引いた。眠り続けるのマリー姫の首元では、例のペンダントが静かに置かれていた。

「・・・それでは再生を続けますね」スプリが言ってあとのサーマとウィンティアが頷く。

そうして記憶の再生は再び始まるのだった。


 場面は、いきなり魔物たちとの戦闘のシーンであった。おそらく最終局面か、残された討伐隊の面々と蜘蛛や蛇や蠍などの巨大魔物たちが激戦を繰り広げている。

『あそこに魔王がいるはずだ!』『姫様を守れ!!』『あと少しだ!』討伐隊内で大声が飛ぶ。

大きな剣や斧、弓を振るい敵を薙ぎ払い。魔物の使用していたヒィアートツールを奪取しては反撃に転じたりと一進一退の攻防が行われている。

『マリー姫!離れていてください!!』ロザムがひと際大きな声で叫んだ。

同時にマリー姫に迫る、巨大なムカデを一刀両断に切り伏せて即座に彼女を守る盾となった。

『・・・ロザム!ありがとうございます・・・』

『・・・マリー!これ以上はもう流石に危険だ・・・守り切れないぞ!』『そうっすよ!』特に何をしているわけでもないが小さなドラゴンも彼女へ忠告を放つ。

『・・・わかっています、けれど見つけたのかもしれないのです・・・抜け道を』

『・・・抜け道・・・?』

ロザムの問いにマリーは「はい」と首を縦に振った。

『あの町で聞いたのです。魔王らが現れる前の岬には遺跡に続く細い抜け道があったって・・・けど、随分前に土砂崩れで抜け道の入口が塞がれてしまったと・・・そこへ魔王軍がやってきて以来、その抜け道はどうなったかはわからず仕舞い・・・』と、言いながらにマリーはとある一方を指さした。

激戦の咆哮が響く中、彼女の指さす先には巨大なイノシシ型の魔物が倒れていた。

『あ・・・あれは・・・』

そして同時にロザムは気が付いた。

魔物の傍らに崩れた岩壁が転がっており、その壁の先に空洞が拡がっているがわかったからである。

『あれが抜け道ッスか!?』

『・・・・おそらく』姫が頷いた。

『今なら気づかれずにあそこに潜り込めます!行きましょう!』マリー姫は真っすぐな目をしてロザムを見て言った。

『・・・ダメだ!危険すぎる!約束したでしょう?一緒に帰るって・・・』

『だったら!』と、真剣な返答の最中のロザムの言葉をマリーは断ち切った。そして。

『・・・だったら一緒に来てください・・・一緒に戦って一緒に帰りましょう』これまでで一番の澄んだ瞳を見せて、マリーは一度大きく瞬いた。

『マリー・・・』ロザムもまたそんな彼女の決意の表れに声を詰まらせた。

 と、そこへ、屈強な戦士がひとり、魔物をどうにか蹴散らしたものの勢い余って身を転がらせてやってきたのだった。

『・・・ぐぬぬ・・・!何のこれしき!』言いながらに傷ついた体を起こして首を横に振るう。

『・・・ん?おお!姫様ご無事で!それにロザムも!』二人を見つけたことに嬉々とした戦士は、強面の顔を笑顔にした。が、すぐに二人が妙な雰囲気を作っているのに気がついて何度かマリーとロザムを交互に見やった。

『・・・・・・ま、まぁ。お二人のことは隊内ではバレバレでしたから今更なにも言いませんが・・・「秘密作戦」があるなら協力します!!』ドンと厚い胸当てを叩いて告げる戦士。しかし彼のセリフ「隊内にバレバレ」という部分でマリーもロザムも思わず赤面していた。

『・・・え、ええと、すみません・・・すぐそこに魔王に近づく抜け道があるのです。そこで皆さんにはここで敵を引き留めていて欲しいのです。その間に魔王は・・・私とロザムが倒します!』

『なるほど陽動作戦ですな!・・・それにロザムを借りるのなら正解です!こいつは隊の中でも群を抜いて強い!おそらく魔王を倒せるとしたらロザムだけでしょう!』ガハハと笑った戦士は大きな剣を構え直して、再び魔物の群れの方へと歩き始めた。

『こっちは任せておいてください!姫様!・・・ロザム!きっちり姫様守るんだぞ!』そう言い残して屈強な戦士は戦乱の靄の中に消えていった。

『・・・ありがとうございます・・・さぁ、ロザム』礼の言葉をこぼしたマリーはロザムへと視線を戻して同意を求めた。

『・・・・・・・わかりました』一度深い溜息をつき、大きく瞬いたロザム。

『だけど約束してください!俺から絶対に離れないと!』

『はい・・・約束します』

覚悟と決意の意味を込めて頷いたマリー。そして同じくロザムも頷いた。

すると小さなドラゴンが急かすように飛び回る中、ようやく抜け道の方へと駆けだすのだった。

『・・・・・・あれ?今のってプロポーズ?』と、ぼそりとマリーは先ほどのロザムの言葉を思い出して呟いた。

が、当の本人は全くそんな気はなかったらしく、ただひたすらに抜け道を駆けている。

そんなら彼を見て姫は少しだけ微笑んだ。

 そうしたところで記憶の再生はフェードアウトしていくのだった。


                           ※


「あ・・・あれ?」「・・・なんだ?」「・・・おかしい」

三巫女の声が一斉にとんだ。

どうやら何かトラブルでもあったのか、同じ顔が揃って悩んだ声と表情を見せていた。

「なにかあったのか?」国王が聞いた。

「・・・い、いえ、それがこのまま再生を続けられるはずなのですが・・・ここから先の記憶は姫様自身が硬く閉ざしているようで干渉が難しいのです」

「・・・ちぇ、いいとこだったのによ、あとは魔王を倒して終わりだろ?」

「なにか心に強く突き刺さることがあったのかも・・・」

巫女たちはそれぞれに告げて説明する。国王もアンもお互いに目を合わせて「どうする?」と示しあった。

「再生自体も無理なのか?これで最後なら姉上の眠りの秘密もそこにあるはずなんだ」

「お願いします巫女様・・・もしかして姉様の命に関わることになるとかでしょうか?」

王族二人から言われて、スプリたちは少々複雑な表情を見せる。

「・・・命を失う心配はありませんが・・・閉ざされた記憶の一部を再生できないこともないのですが・・・まともな再生にならないのです。ものによっては正しい記憶として伝わらないかもしれないのです」

スプリが代表して言うと、国王らは「なるほど」と頷いた。

「・・・わかった、それでいい。再生を続けてくれないか?」

「・・・・・・・・わかりました。それでは記憶を再生します。しかし姫様が記憶を閉ざすほどの出来事が起こるはずです・・・心してくださいね」

スプリのその言葉に国王らは息を呑んで頷いた。






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