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第5章 三人の巫女



 夜のせいなのか城の中はひっそりとしていた。

とはいえ警備がいないわけではなく、歴史ある兵隊服の警備兵が真面目に見張りを行っている。

イスピーとガックは、そんな中をまるで忍者のようにコソコソと見つからないように駆け抜けていた。

そんなことを可能にしているのはニックの的確な手引きがあってこそであった。

「・・・いまだ、こっちへ」

小声で言って、警備がこちら側への警戒を解いたのを見計らって二人をまた誘導する。

それをそのままに頷いて二人はニックの元へとそそくさと駆け寄る。

そうやって幾度か警備の網を潜り抜けて、やがては更なるの城の奥へと続く通路へと踏み入ってズンズンと進んで行くことに。

「なんで城の中まで詳しいのかしら・・・」イスピーが先導するニックには聞こえないぐらいで呟いた。

「地下通路の件もそうだけど、やっぱりこの城・・・というよりこの国ともともと関係があるんじゃないかな」それを聞き逃さなかったガックは駆けることに額に汗しながらに応えた。

「――眠り姫より、ドラゴン剣士メインで書こうかしら」眉を潜めて呟くイスピー。

と、そこへ。

「とまれ」ニックが急に手を伸ばして二人を制止させた。

思わず急ブレーキをかけた二人はニックに持たれかかってしまう。

「・・・!な、なに?」イスピーが聞いた。

「あの扉の奥に姫・・・巫女たちがいるはずだ・・・が、やはり警備がいるな」

視線だけで二人に事情を伝えるニック。

確かに彼の言う通り、大きな扉の前に屈強そうな警備兵が二人並び立っている。まるで扉を守る門兵のようで、何人も通しはしないと言った雰囲気丸出しであった。

「・・・あれはさすがにやり過ごせないよ」

「やっつけちゃえばいいじゃない?ニック、あなた無茶苦茶強いんだし?」

ガックとイスピー、それぞれから性格の差による当然の感想を受けて、ニックは苦い笑みをこぼした。

「・・・倒せなくはないが、目立つのは避けたいんだ」と門兵に見つからぬように物陰に隠れながらにあたりを見渡すニック。そうしてその爬虫類的な瞳が何かをとらえたのか、目の前の扉とは別方向へと視線を向けてそちらへと足を進めだした。

「・・・そうだ、たしかここに」

言いながらに通路の隅に設置されていた小部屋へとそそくさと入っていくニック。それに慌ててイスピーらも続いて小部屋へと飛び込んだ。


 「な、なにここ・・・?」「物置みたいだね」

飛び込んだ先は、それほど広くはない一室で、多くの調度品が布切れを歌舞されて置かれていたのだった。

「物置で正解ではあるな。正確には使い道のなくなった装飾家具や調度品なんかを保管していおく部屋なんだ。宝物庫ってわけじゃないけど…ま、警備兵のサボり部屋にもなってるわけだ」

そう言いながらにニックは暗い部屋の隅で床に手を当てていた、

「・・・たしかここに・・・よし!」

大きな棚を少しずらして出てきた床の謎のくぼみに触れたニック。すると同時に彼の脇に位置する壁の一部が人一人分通れるくらいにズレたのだった。

「ま、また仕掛けが・・・」

「どうなってるのこの城?」

地下通路もそうだったがまたしても妙な仕掛けあることに戸惑うイスピーとガック。

「こいつは大昔からあるんだ。サボりマスターでヤギ族のメメェ爺さんって老警備兵がいてな・・・その人がしょっちゅうここを使ってサボってたんだ。爺さんのもっと前の代からこれはあったらしくてな・・・暗黙の了解で存在しているって話だ」ニックはズレてできた隙間に身体を滑り込ませて言うのだった。


「・・・だからなんだってそんな話を知ってるのよ?」

「後でまとめて聞いたほうが早そうだね」

またしてもガンガン進んでいくニックに、疑問だらけのまま追いかけるイスピーら。二人もまた隙間をなんとか通り抜けてニックへと追いつくのだった。


                            ※ 


その空間は広く、そして薄暗く、唯一中央部分に灯りが灯されてその視野を完全に狭めていた。

まるで何か秘め事を行うかのように、乏しい灯りのもとでは幾人かの人間が小さく動いていた。

「・・・兵長、巫女をここへ」

その中の一人、高貴な礼服に身を包み、蓄えた髭が威厳そのものを現してる男がぼそりと言った。

「・・・はっ、ただいま」

するとその声に即座に返答し首を垂れた男・兵長は足早にその場を離られると灯りの外へと消えていった。

そして残された威厳ある男はまだ何人かいる人々のうちの一人に声をかけた。

「これで真実がわかるといいのだが・・・」

「兄さん・・・マリー姉さんは本当に目を覚ますのでしょうか」

「――・・・今はあの日何が起こったかを知ることが先決だ、アン」

話しかけたこれまた高貴な服装の女性をアンとよんで男は、灯りの中心地でもある箇所に視線を移した。

 その視線の先には一人の女性が横たわっていた。

煌びやかで豪華な作りの寝台に仰向けに寝そべって、腰まで届く艶やかな黒髪が垂れている。

そんな横たわる女性をみて周りからは「マリー」、「目覚めておくれ」、と、何度も同じような声が飛んでは静かで暗い空間に響き渡らせていた。

 そこへ・・・。

「・・・よし・・・いいぞ、物音をたてずにな」

空間の中二階にあたる通路の隅にニックが現れて直ぐに身を屈めるのであった。

つぎにイスピーとガックを呼びつけて息をひそめるように指示を飛ばした。

二人はずいぶんと暗い空間に驚きながらもニックの指示に従っては、隠密に動いて部屋の中央部分に意識を集めた。

「良く見えないね」

「だけど、だいだいはわかるわ・・・あの一番偉そうなのが王様でしょ?それに隣も王族の人っぽいし」

「トワネット王と、妹君のアンだ」

ガックとイスピーが目を凝らして呟く中、ニックは険しい表情を覗かせながらに言った。

そして。

「あの真ん中で眠っているのが・・・――マリー姫だ」

瞬間、イスピーらの顔が驚きの表情に変わった。

それもそのはず、お伽話にちかい存在が向こうに寝転がっているのだから。

「・・・ほ、本当に・・・?確証があるわけでも・・・」

と、さっきまでは眠り姫のことについては肯定的だったイスピーが、いざ実在するところを見せられて反射的に疑ったセリフをこぼしてしまった。

しかし次に中央部分にやってきた出来事に3人は釘付けになって、そのセリフの続きも特に発せられることはなかったのだった。



                            ※


 巨大な城の、中枢部分に当たる薄暗い大きな空間。

今この部屋では『何か』が行われようとしていた。部屋の中央部には神秘的で絢爛な寝台があり、そこには一人の美しい女性が仰向けに眠っていた。

 淡いブロンドの髪が肌の白さと相まって更に艶やかさを増して見せる。彼女こそ眠り姫『マリー』であり、そしてそれを怪訝そうに見つめる一組の男女がいた。

 現国王トワネットと、その妹アンであった。

どちらも齢四十を過ぎた落ち着きある瞳で、彼女をじっと見やっている。

そこへ・・・。


「さぁ、巫女殿・・・こちらへ」

兵隊長が一人の少女を連れてきたのだった。

奇妙な模様の入った白のワンピースを着て、ふわふわとした薄茶の髪を揺らしてはトテトテと先導する兵隊長の跡を付いてくるのだった。

 それを部屋の天井近くから覗き見ていたイスピーらも見いって押し黙っていた。たしか森で荷車が横転したときに見た少女あり、彼女がこれまで警護していた巫女本人だと確信した。

「・・・あ、あの初めまして・・・スプリといいます」

そうしてか細い声で発して王たちへと挨拶を行うのだった。

 「・・・・んん?」とそこでガックが妙な違和感を覚えて小さく唸った。同時にイスピーが小声で「どうした?」と問いかける。

「・・・いや、あの巫女って子の目・・・」呟きながらに薄暗い中を目を凝らして巫女の瞳を確認するガック。そうしてなんとか凝視しては違和感の正体を暴こうとした。

 確かにガックの疑い通り巫女の瞳は普通ではなかった。

それは会話を始めたトワネット王とアン妹君も気が付いたことで、思わず一時的に声を失って驚くほどであった。巫女の瞳はなんと瞬きするたびに色が変わっていたのだった。鮮やかなブルーから、煌めくイエロー、そして燃えるようなレッドへとランダムに変化している。

「・・・あ・・・あぁ・・気にしないでください、これが『私たち』の普通なんです」

王たちの疑問に感づいて巫女スプリは優しく微笑んでは、可愛く返すのだった。

「・・・そ、そうか。いや、しかし『外』から遠路はるばるよく来てくださった巫女殿よ」少々、動揺しつつもトワネット王が巫女に労いの言葉をかける。

「お疲れのところ悪いのだけれど・・・さっそく姉上を看てくれませんか?」

そうするとアンが一歩前へ出て巫女に言うと、そっと中央部に眠るマリー姫へと促した。

「・・・・・・姉?」と、すこし身を乗り出して眠り姫を覗き込んだ巫女が思わず呟いた。そしてアンと姫を何度か見比べてから首を傾げると再び口をひらいた。

「・・・あの、失礼ですが・・・あまりにも年齢が・・・?あなたがお姉さんじゃないのですか?」当然の疑問であった。

「・・・いいえ。あそこで眠っているのが私たちの姉マリーです。30年前に魔王との戦いの跡、老いることなくああやって眠り続けているのです」

「・・・へ、へぇ・・・」キョトンとした顔で頷く巫女スプリ。パチクリと何度も瞬きする中で、瞳の色もたくさんに変色している。


 「・・・ほ、本当に眠り続けてるの!?これは特ダネよ!」

そんな声を辛うじて聞こえたのかイスピーは小声で興奮気味の声を上げていた。今にも飛び出しそうな彼女を抑えるガックとニック。一方でニックの巫女に向けられた視線は、何故だか鋭いものになっているだった。


                              ※


「巫女殿・・・それではお願いします」王が首を垂れた。

「はい・・・私たちのような力でお役に立てるのでしたら喜んで」スプリは笑顔で応えるとそのまま、可愛らしい足音を立てて眠り姫への傍まで歩み寄った。

そうして眠る彼女のゆっくりと眺めてから王たちの方へと振り向き直った。

「・・・あの、兵長さんには説明したんですが・・・私たちにできるのは『治癒』ではなくこうなった原因の『究明』です。つまりは治療自体はご自身たちで頑張ってもらう必要があります」

先ほどよりかは幾分か真剣な眼差し巫女。その言葉に王と妹は顔を見合わせてから、また巫女へと視線を戻した。

「構いません。この30年なんの打開策もなかったのです・・・」

「それで目覚める可能性を見つけられるなら・・・!」

二人から熱のこもった返答を受けた巫女は、大きく瞬いてから「わかりました」と答えるとそのまま振り返って今度は眠り姫へと向き直った。

そして。

「始めます。サーマ、ウィンティア」

言いながらにか細い腕に嵌められた腕輪を指でポン!と叩いたのだった。

その瞬間。


「「「!!!???」」」


王に妹、兵隊長、そして隠れているニック達でさえ突如の出来事に驚愕の顔を見せていた。

なんと、巫女が3人になってしまったからだった。

「・・・・・ッ!巫女殿これは・・・!」

「・・・何かのツールですか?それとも魔法族かなにかで?」

「ちょっと違います」すると王たちの質問に、真ん中にいる巫女が応えた。彼女の瞳は瞬いてもブルーのままである。

「私は少々、変わった種族でして・・・体内ヒィアートが半実体化してしまうんです・・・・あ、ちなみに私は先ほどまで話していたスプリです」ブルーの目の巫女が言う。

「そんで私がサーマだ!」今度は右隣の巫女が言った。目の色はレッドだ。「赤ん坊の時に人格が2つ増えてよ・・・それが私とそこにいるウィンティアだ」サーマとなる巫女がこんどは左隣の巫女を指さした。

「・・・・ウィンティアです」それだけしか答えず。無口な一面を見せる目がイエローの少女。

そうして王たちが少々固まってしまっているのを見ながらにスプリが再び口を開いた。

「この新たに生まれてしまった人格と、半実体化のヒィアートが結びついて生まれたのがサーマとウィンティアです。普段は私スプリの中で共生していて、仕事の時には実体化して一緒に作業を行うんです」ニッコリと笑って説明を終えるスプリ。

「・・・外には変わった種族がおられるのですね・・・」アンが思わず呟いた。

「ま、まぁ・・・それでこそ魔の宙域にまで調査に向かわせた甲斐があるというもの・・」王もまた驚きを隠せないまま呟いている。

 無論、イスピーも例外ではなく。声なき大興奮を向かえて、ガックの必死の抑え込みが限界に達しそうになっていた。

 

「さてと・・・それではここから姫様に行う処置を説明しますね」

スプリが改めて説明を切り出して眠り姫へと手を差し伸ばした。

「私たちが腕に嵌めている、この腕輪・・・これは大昔のツールでして・・・対象者の記憶を探ることができるのです」

その説明に王たちは「なるほど」と頷きを見せる。

「それだけじゃないぜ!私の方でその記憶を映像化!」

「あたしの所で記録化できる・・・」

サーマ、ウィンティアとそれぞれに腕輪を見せてはその効果の違いを説明した。

「本来は一人でツールを使いこなす仕様なのですが・・・かなりテクニックが必要らしくて・・・私は手伝ってもらってやっと一人前ってとこなんです・・・」ハハッと苦笑いをこぼしながらも、サーマらとアイコンタクトをとったスプリは眠り姫に差し伸ばしていた手に力を込める。

それはサーマとウィンティアも同じことで、差し伸ばした手が腕輪から発せられる輝きに導かれるようにそれぞれに淡い光を灯した。赤、青、黄。摩訶不思議な輝きは一気に高まると、そのすべてが眠り姫へと吸い込まれていくのだった。


                            ※


「・・・いったい何が起こるの?」イスピーが興奮を抑えて、小声でニックに聞いた。

「わからん――・・・私も外の情報は持ち得ていないからな・・・」

 彼からの返答は少し思っていたのとは違っていた。これまで、魔物やこの城の構造なんかも詳しかったりして、まるでなんでも知っている物知りなのかと思っていたからだ。

3人の巫女と眠り姫との間で不思議な光が大きくなっていく。その光景に3人は隠れているのを僅かに忘れて事態を見守った。


 ニックらと、そして王たちの視線を受ける姫たちは光の中で次なる動きを見せていた。

姫に吸い込まれた光が今度は彼女から飛び出すと淡い緑の光となって、スプリの腕輪に吸い込まれた。

キィイインン!と、神秘的な光と音を発して腕輪が緑に輝く。

「えい!」スプリが腕輪を叩くと再び緑の光が飛び出した。そうしてそれは今度は、サーマの腕輪へと吸い込まれたのだった。

「よーし!」再び神秘的な音を奏でる腕輪にサーマは笑顔で言うと、スプリと同じように腕輪をポンッ!と叩いた。

そうすると今度は、腕輪から緑の光が飛び出したがウィンティアの腕輪の元へは飛ばず、そのまま全員が見上げる形になる様に中空に浮き上がって、パァーッ!と破裂したのだった。

「なになに?!」

「光が広がってる・・・」

イスピーがガックを押しのけて不思議な出来事に目を見張り、ニックも難しい顔を見せながらに無言でそれらを見つめている。

 そうして王たちさえもうろたえる中、広がった淡い光が全体に粒の様に煌めいた。

その瞬間――。


『・・・・・・・集まって・・・・くれて礼を・・・言う・・・・今こそ魔王を討ち果たす時・・・!』


――誰かの声が響いたかと思うと光の中に映像が映し出されたのだった。

まるで巨大なスクリーンのような状態になっており、映像はこの城に大勢の人が集まった画であり、その大勢に向けて王冠を被った人物が檄を飛ばしていた。

「あ・・・あれは・・・お父様!」「・・・これは30年前の」「魔王軍討伐隊結成式ですね・・・」

アンにトワネット王、そして兵隊長までも突然の映像に思わず言葉を漏らした。

そこへ。

「さーて、眠り姫様の思い出劇場が始まるぜ!」

「プライバシーの保護的な所があったら言って・・・」

サーマとウィンティアが腕輪を光に向けながらに、そう告げるのだった。








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