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第4章 潜入!セイヌ城!



 洞窟を抜けて日の光を浴びた一行は、魔物の追っ手が来ていないかを確認しながらに道の先を確かめた。

 足元に広がる緑の草原が風に揺れては、先ほどまでの戦いの騒々しさを忘れさせていくようであった。

「あ!あれ!」

「あれが都ね」

ガックとイスピーが前方に見える、大き街の影をみやって言った。

巨大な尖がり屋根の御城を中心に、様々な建物が軒を連ねてるのがわかる。いわゆる城下町である。

「よし、また魔物が現れないうちに急ぐぞ!」

「「「はい!」」」

兵隊長の指示に大きく返事して兵士たちは巫女の乗った荷車の警備を改めて強くする。

とはいえ、彼らの体力もだいぶ疲弊しているようで、戻って少しは休みたいというのが本音なのだろう。

そうやって都へと向けて動き出した兵たちと、その後ろから付いていくイスピーとガック。

そしてニックもまた無言で追従してくるものの、彼の視線は王都の城をじっとみつめたままのようであった。



                              ※


「へぇ~、やっぱり賑やかだね」

イスピーは狐耳をピョコピョコと動かしながらに賑わう城下町を四方八方見渡しては感嘆の声を上げていた。

『外来宇宙ザリガニ料理専門店』だとか『フクロウ族による首関節体操教室』だとか『外宇宙トップアイドル・ジャヌアリのグッズ専門店』だとか、到底地方の片田舎ではお目にかかれないような奇妙な商店や、種族、人物が行きかっている。

「みて!イスピー!魔の宙域より向こうで使われてるツールを扱ってる!輸入物だよ!」

横ではガックがツールオタクの血でも騒いだのか、子供の様にはしゃいでいる。

そんな観光気分の二人とは反対に黙々と城へと荷車を進めるために人の多い大通りを進んでいく兵隊長一行。町の人々も彼らとわかって、『おかえり』や『ご苦労様!』などなど労いの言葉をかけていて、兵士たちも国から好かれている存在なのだとイスピーは理解して頷く、さらさらとそのことをメモに取った。

 だがしかし、そんな彼女らの後方ではフードをかぶったニックが、城下町内をあちこち睨みながらに険しい顔を見せていた。そんな彼がちゃんと皆について来ているのが気になっていた。

「・・・ねぇガック。ニックてば様子が変じゃない?あっちっこち睨んでさ?」

「やっとイスピーもそう思えるようになった?・・・なんだろう人目に付きたくないのかな?」

相棒からの答えに「・・・かと言って正体を隠してるというわけでもなさそうだし・・・」と呟いて返すイスピー。

そうやってイスピーが違和感を覚えつつも一行は城下町をずんずんと進んでいき、ようやく御城の城門の前にまでたどり着くのだった。


                  ※


 大きな城門が開いて巫女を乗せた荷車がゆっくりと入場してゆく。付き添う兵たちも続々に続いては帰還に安堵の声を漏らしている。

「・・・ニック!それからイスピーとガック!」と、突然兵隊長が3人の名を呼んだ。

「警護の協力誠に助かった!報酬は後で渡すように手筈しておく、今日は街で休むといい」

そうれだけ告げると、彼もまた荷車に続いて入場を果たして、彼ら3人を城の前に残して城門を閉ざしてしまうのだった。

ガコォン・・・!

文字通り締め出された形になってしまったニック達。ニックは特に何も言わず、小さく息を付くだけであったが。

「ちょ!ちょっと!それはないんじゃない!?巫女は?眠り姫の存在は!?それに魔物の謎はどうなるのよ!?」

イスピーは本来の目的が果たせなくなると、門にしがみ付いては叫びをあげていた。

「聞こえてないの!?これがセイヌ国のやることなの!?またでっかい蜘蛛や蛇がやってきても知らないんだからね!!」

「・・・それやっつけたのニックだよね」

クレーマーと化しそうなイスピーに呆れ声のガックが呟いた。そんなガックにイスピーは「うっさい!」と噛みつくように言い返すと、今度はニックの方へと向き直った。

「ねぇ!ニックも不当だと思うでしょ!?あなたも何か目的があ・・・――あれ?」

そこまで言ったところで、 既にニックがいなくなっていることに目を丸くした。

「も、もう街にもどっちゃたの?」

「もしかして本当に報酬だけが目的だったのかな?」

ドラゴン剣士に去られてしまい、孤立さが増したようでポツンという擬音が聞こえてきそうであった。

「・・・い、いったいどういう奴なの?剣の腕は相当みたいだけど・・・フリーの傭兵とか?」

「う、う・・・ーん・・・。とりあえず今日は僕らも休もうよ。明日になれば報酬貰うときに会うことになるだろうしさ。その時に兵隊長さんたちにも眠り姫のこと聞いてみようよ」

お手上げのポーズで提案を出すガック。それに少々不満気味ながらも、なんとか了承したイスピーは去り際に、今一度城の方へと振り返った。

「これで記事にできなかったら、私のゴーストで祟ってやるんだからね!!」

捨て台詞を吐いて「ふん!」を背を向けたイスピーは、そのままドカドカと不機嫌をまき散らしながらに城下町へと戻っていくのだった。


                                ※


 日が暮れたセイヌの都は、日中とはまた違った美しさを見せていた。

大きな河に沿った街並みは一斉に明りが灯されて、夜の闇を払うように城下町はまた昼とは違った活気を見せていた。

大きな町ゆえに多種多様な種族が闊歩しており、イスピーやニックのような人型の動物種族もあちこちで夜の街を楽しんでいる。

「あぁ・・・!もう!宿までこっち持ちなんて!ケチな国ね!」

「声が大きいよイスピー」

『レンチのジュージュージューサーカフェ』なるフルーツジュース専門店のテラステーブルに腰かけて、イスピーとガックは(主にイスピーが)虹色のスムージーを飲みながらに大いに不満を漏らしていた。

ズズズと2、3回転はしているストローで啜ってはイスピーがどこに向けるでもなく愚痴を飛ばしまくっていた。

「だいたい巫女ってのを連れてきたわりに、町の人達あんまり関心なさすぎじゃない?」

ドン!とコップでテーブルを叩いては今度はガックを睨む。

その騒がしくなりそうな雰囲気に気が付いて、店主であるゴリラ族のマスターも店の奥から彼女らをチラチラと見るようになっていた。 

「うーん・・・お城の兵隊さんたち自体には声掛けしたりしてたから、別に嫌ってるわけではなさそうだよね」

ガックもまたスムージーを少し啜っては意見を述べてみた。

ふーむ。と二人して溜息をついて巫女や眠り姫の謎についてのキーワードをぽつりぽつりとあげては意見を交わしてく。

「たしかニックが言ってたわよね?巫女は眠り姫を起こすためだとか・・・」イスピーが言った。

「眠り姫が本当にいればだけどね・・・まぁ、いるからこそわざわざ外から連れてきたんだろうけど」

「もしそれが本当なら『巫女が来た!姫様が起きるんだ!』って大騒ぎになってもいいと思うんだけど・・・」

最期の一滴を啜りつつイスピーは思っていることを呟いた。

と、そこへ。

「平和ボケしてるんだよぉ~!」

突如としてしゃがれた下品な声が、臭い息とともに二人の背後から飛んできた。

「うわ!」「なに!?酔っ払い!?」

アルコール臭い息を二人に嗅がせ、禿げ上がった頭を揺らしては太っちょの男が嫌がる二人の両肩を抱き寄せて、無理やりに話を聞かせ始めた。

「ここの連中は戦時には他所から戦士を募って、結果勇者を生み出したってだけで、自分たちは何もしてないのさ!」しゃっくりも織り交ぜて話を続ける。

「そんでもって肝心の勇者と魔王の戦いも遠い異国の地で終わっちまって、残ったのは勝利という結果だけで戦争をしていたという実感を持たないまま過ごしてきたこの国は、戦争の功労者である勇者や姫様、それにセイヌ国軍にさえあまり興味がないのさ」ゲフ!と汚さの極みを見せたところで、イスピーに跳ねのけられて尻もちを搗く酔っ払い。

「・・・ま、まぁ。言ってることはわかるわ。私たちだって魔王との戦争のことは記録で知ってるぐらいだし・・・。けど当事者の国の人々まで関心が薄いとはね・・・」

パッパッと服を払って考え込むイスピー。

「ね、ねぇ!おじさん、もしかして戦争経験者なの?!」

と、ガックが何かに気が付いたのか尻をなでながらに痛みに涙している酔っ払いに問いかけた。

「お!よく気が付いたな!坊主!」すると酔っ払いは、再びアルコールを一飲みして口を動かし始めた。

「俺ぁ、勇者や姫様だって見たことあるんだぜ!今でも思い出すぜ!俺の号令で勇者が敵の軍団を一掃する様!なんていっても剣技がすごくってよ!デカイ魔族の化け物だって一刀両断!」

酔っ払いが空気の剣を手に、勇者の戦いぶりを再現しているのだろう。ブン!ブン!とイスピーとガックに当たりそうな勢いで腕を振り回す。

「ちょっと!あぶないじゃない!それより昔の話はいいのよ!どうせなら今の話をしてよ!眠り姫はいるの?いないの!?」酔っ払いの腕を躱しながらにイスピーが聞いた。

すると、それまで勢いよく動き回っていた酔っ払いがピタリと動きを止めてジッとイスピーを睨むのだった。

「いる。―――と、俺は信じている」

「信じている?」ガックが聞いた。

「戦後、国は姫様の帰還を発表した。だが・・・その後で姫様を見たものは誰もいない。色んな噂が飛んださ。実は勇者と結ばれて遠い地で暮らしているとか・・。追従した勇者と魔王との戦いから帰還は果たしたものの、その後怪我がもとで寝たきりなっただとか・・・。ましてや亡くなったとかな・・・」少々トーンが落ちた声になる酔っ払い。次いで出たしゃっくりもどこか寂しげであった。

「ふーむ、眠り姫の噂の発祥ってところね」

「でも、見た人がいないってのがやっぱり信憑性にかけるよね」

二人が一度、感想を告げたところでまたしても太っちょ酔っ払いが奮い立ち大きく口を開いた。

「いいか!俺にはわかるんだ!姫様はいる!絶対にだ!国の奴らはそれを隠してるに違いないんだ!姫様さえ顔を見せてくれれば俺たちの戦いももっと世に知れ渡―・・・」

ガッ!!

と、絶好調に論じていた酔っ払いだったが、後ろから彼より大きな人物に肩を叩かれて思わず口を噤んでしまった。

「他のお客様の迷惑になりますので」ゴリラの店長であった。

そうして酔っ払いは、有無を言わさずゴリラ族の握力に屈しながら店の裏の方まで引きずられて行ってしまうのだった。

「・・・なんだかちょっと可愛そうだね」

「そう?マナー違反には当たり前のペナルティじゃない?まぁ、もう少し話を聞いてみたいところはあったけど」

マナー違反はイスピーの方も危ないんじゃないかと、心内にしまったガックは少しだけジュースを啜って「ふぅ」と溜息をついた。

――そこへ。

「イスピー」「ガック」

今度は背後から二人を呼ぶ声が聞こえて振り返ってみた。

「「ニック!」」

そこにいたのはフードをかぶったドラゴン剣士であった。

ニックはキョロキョロとあたりを見渡してから、また一歩二人に歩み寄ってきた。

「・・・ちょっといいか?頼みたいことがあるんだ」

思った以上に真剣な眼差しと声色でいうニックに、イスピーとガックは顔を見合わせてから少しだけ間を置くと、ゆっくりと首を縦に振るのだった。



 賑わう夜の城下町の中心部を離れて、3人はセイヌの城を囲む城壁の直ぐそばにやってきていた。

城壁は高く聳え連なっており、部外者の侵入を拒むためのものそのものであった。

時々城壁の上に作られた通路を見張りの兵が灯りを手に、定期的に巡回している様子が伺えた。

「・・・よし、ここらでいいだろう」

するとニックはチラリと見張りを確認しながらに、闇夜で暗いのに更に暗い城壁の陰に隠れて、イスピーとガックも来るようにと手招きをした。

「ねぇ・・・いったいなんなの?」真っ暗でようやくニックの顔がわかるぐらいになってイスピーが声を最小にして問いかけた。ガックも同じくと、メガネ越しに頷いた。

 イスピーもガックも、セイヌに着いてからのニックの様子が少しおかしいことには気が付いていた。が、それだけで、それ以上は踏み込むことはせずに自分たちの仕事でもある『眠り姫』の情報集めを優先していたのだ。

 ニックは何か人には言えない隠し事を持ってここに来たのではないかと勘ぐるのが筋であった。しかしだからこそ、ニックの方からまるで隠し事を打ち明けるような素振りを見せてきたことに、二人ともに興味をそそる結果になったのだ。

「単刀直入に言おう」と、ニックがこれまた最小限の声量で二人に話し始めた。

ゴクリと息を呑む二人。

「―――今から城に潜入する」

「・・・せ」「潜入!?――ッんぐ」

思いがけず大声を出してしまったガックの口をニックとイスピーが急いで塞いだ。

同時に城壁の上の方から「なんだ?」と見張りの兵の声が聞こえてきて、3人に一斉にして緊張の糸が張り巡らされる。

「「「・・・・・・・・・!」」」

上の方の灯りが長いことをこちらに向けて揺らいでいるのを、必死に息を殺して見入る3人。

やがて灯りは「気のせいか」という兵士の言葉とともに通常の巡回ルートへと戻っていくのだった。


「・・・ぷはっ」そこでようやく呼吸を介抱されてガックは何度も目をパチクリさせては、息を整えのだった。

「ガック、大きい声出さないでよ」イスピーが小さな声と共にいがみ顔で言う。

「ご、ごめん・・・ついびっくりしゃって・・・」申し訳ないと言った顔で謝るガックは次にはニックと目が合った。

「いや、急なことだ無理もない」言いながらに見張りを睨むニック。

「・・・で、どういうこと?城に潜入するって?」そんな険しい表情のニックにイスピーが聞いた。

「言ったとおりだ。城に潜入して・・・そして、姫を確認する」

「・・・確認する?」「それだけのために?」また目的が妙なことに二人して問いかけた。

「・・・――そうだ。あの巫女が本当に姫を起こせるかどうかをこの目で見る」

「見るって・・・明日になればわかることでしょう?」

「そうだよ。そんなことに城に不法侵入なんてリスクが高すぎるよ」

意見はもっともだと無言で頷き返すニックは暗い中でも鋭いトカゲの瞳をギラリと光らせた。

「――俺はそのためにここまで来たようなものだ。昼間も城に潜入するポイントを探し続けていたんだ」

「そうかそれで・・・」

「あれは潜入できる場所を探ってたんだ・・・」

合点がいったとイスピーとガックは顔を合わせて昼間のニックの行動を思い返しては幾度か頷いて見せる。

 しかし、それでもイスピーはわからないことがあった。

「あのさ、それでなんで私らを呼んだの?」「そうだ、頼みがあるって・・・」

「あぁ、それを今から説明する」

すると見張りに注意を払いながらにニックは、また少し移動を始めた。二人もそれに付いていき、月夜の中の草むらをなるべく音を立てずに進んでいく。

「ここだ」と、ニックは暗い草むらの中に立って地面を顎で指した。

もちろんイスピーとガックは草むらしかないその場所に首を傾げるだけで、いつ見張りの灯りが剥くかもしれないとオドオドしていた。

ガチャ

すると、ニックが地面に手を当てると同時におよそ地からは聞こえてこないような音が聞こえて二人は目を丸くした。

「おぉ」「隠し扉・・・通路?」

音の正体は、草むらに偽装した木製の扉であった。

地面に設置された跳ね上げ式の扉であり随分と年季の入ったような古さにも見えた。

「・・・ここから城の地下まで繋がっているのだが・・・」

「ちょっと待って!そんなのどうしてニックが知っているの?」今度は声量を抑えてガックが聞いた。

「――俺が作ったからだ」

「は・・・はい?!」イスピーが思わず呟いた。

「問題はそこじゃない。この先にまた一つ扉があってだな・・・そこがツールによってロックされているんだ」

イスピーの疑問もそのままにニックは話を続ける。

「別に破壊してしまってもいいんだが中は狭くて崩落する恐れもある。そしてロック解除は俺ではどうしても無理なんだ」

「どういう意味?」ガックが聞いた。

「ロック解除の操作は小型な種族でないと無理なんだ・・・そこで・・・」ニックの視線がイスピーに移って何を言いたいかを表情で教えた。

「小型の・・・・・・。そうか、私のゴーストね」ポンと手を打つイスピー。

「その通りだ。一応は城下町に小型の種族がいないかは当たってみたが、はずれでね・・・君たちを頼ることにしたんだ」

 これでニックの行動の謎の大部分は解けたと頷く二人。しかしだからと言って、そのまま協力しますとは言えないガックがいた。

「待ってよ。そこまでして潜入する必要あるの?イスピーもそう思うよね?」

「・・・うーむ。世間に発表されるより早く情報を得られれば号外も出せるわね・・・」

ガックの声が聞こえているのかいないのか。イスピーは狐耳をピピンと動かしながらに考え込んでいた。

「責任は俺がとろう。何かあっても俺に脅されたと言えばいい」

「・・・そ、そこまで・・・」ガックはさすがに汗をかき始めて、真剣な眼差しのニックを見ては唾を飲み込んだ。

「―――・・・わかったわ。ニック、あなたに協力してあげる」

そうして考え込んでいたイスピーが大きく瞬くとともに、了承の言葉を告げた。

「イ、イスピー!」

「いいじゃない?責任はもってくれるって言うし。何より眠り姫の謎が他のメディアより先んじて知ることができるかもしれないのよ?」

ジャーナリスト気質とでもいうのか、仕事熱心とでもいうのか、イスピーはウキウキとした表情を見せながらにニックの足元の地下通路に視線を動かしていた。

「・・・良かった。では急ごう、おそらく姫はまだ『起きていない』はずだ」

その声を合図にニックを先頭に地下通路へと降りていく。イスピーの楽し気にそれ続き、ガックは不安げな気持ちを満点に「ま、待ってよ~」と弱気な声を上げては追いかけて、律義に跳ね上げ扉を閉めるのだった。


後にはただの草むらが残り、夜風が誰もいなくなったその場所を静かに揺らすだけであった。




                 ※


 地下へと降りた3人は、ニックを先頭にズンズンと前進を進めていた。

ガックが持っていた簡易的な電灯ツールで内部を照らして、地下通路の構造を確かめた。

「・・・へぇ、本当に繋がってるみたいね」

天井が低く、そのままでは立った耳がこすれてしまうため両手で抑えながらにイスピーが感想を漏らした。

 彼女の言う通り地下通路は縦に長く続く一本道であり、方角的にも城の方へと向いているように思えた。

「・・・こ、これニックが一人で作ったの?」

「・・・・・・――ひとりではないさ。友が手伝ってくれた・・・」

ガックの問いにどこか寂し気に応えたニックだったが、そのまま言葉を打ち消すように電灯ツールを借り受けると、率先して城目指し足を進めた。

「急ごう、姫が起きてしまう」

「・・・・・・―なんか姫様が起きちゃったら困るような言い方ね」

既にイスピーとガックから何頭身分かの差をつけて進撃していくニックに、イスピーはわずかに違和感を覚えながらに呟く。しかし、遅れてはならないと「待ってよ」と言葉を投げてはドラゴン剣士の背中を追いかけるのだった。


 そうして、しばらく一本道を進み切ったところで3人の足は止まっていた。

ニックの言っていた扉が現れたからである。

「・・・これだ」とニックは扉を照らして二人のその存在を確認させる。

「扉自体は普通ね・・・」「あ、でも施錠位置のところに妙な機械と模様があるよ」

そこにあったのは通路を塞ぐように取り付けられた木製の扉であり。世のどこにでもありふれたデザインのものであった。唯一、差があるとすればガックの指摘通り施錠器具の位置に見慣れない機械が取り付けられていることである。

「そいつがロック装置だ。・・・外のツールで向こう側からのパス入力で開錠できる仕組みなんだ」

「そ、外のツール・・・。この星じゃあんまり出回らないものなのに・・・」

「時間がないらしいし詮索は後よガック。それで反対側に操作版があるんじゃ、どうするの?」

ガックの言いたいこともわかるとイスピーはいなしながらにニックを見やった。

「言ったろ?小型の種族が必要だったと」

するとニックは扉の隅の方を触りだした。そうして「ここだ」と呟きながらに扉の表面の一部を撫でるように手でスライドさせて、『小窓』を開いて見せるんだった。

パン!と開けた小窓は本当に小さくて。人間はもちろん人型種族たちではおおよその種族はむりであろうと確信できた。

「イスピー、頼む。君のゴーストの出番だ。向こうに回ってパスを入力してくれ」

「はいはい、そうだったわね」

なるほどと小窓にうなづいたイスピーが全身から淡い緑の光を溢れ出させる。

同時に「来たれ」との彼女の言葉と共に、足元にちっちゃな木の実のような手足の生えた生き物があらわるのだった。

ピピー!ピュイピュイ!

洞窟の時には見せなかった鳴き声を上げて、小さなゴーストは主であるイスピーへ何かを訴えていた。

「間が短すぎるって?今度シフトを組んであげるからさ、今は手伝ってよ」

まるで憤慨するようなゴーストに仕方ないといった表情でイスピーが宥めて告げる。

ゴーストも何度か飛び上がっては抗議の動きを見せていたが、やがて説得され小窓へとその身を進ませるのだった。


ピュイ!と敬礼を見せたゴーストは小窓から続く狭い細道の先に立って「行ってくるぞ」と威厳を見せていた。

「頼むぞ、パスは『竜闘士』だ」

「・・・聞いたことのない単語だね」

「ま、なんでもいいや。ちゃちゃっとやっちゃって」

パスワードを覚えたゴーストは大きく頷き、イスピーの指示も受けるとそのまま踵を返して、向こう側目指して一気に駆けていくのだった。


   ※


 小窓の向こう側からピピピと電子音が聞こえてきて、どうにかゴーストが指示通りに動いてくれているのを感じ取れる。

そして。

ピコン!ガチャ!

と気持ちの良い音が聞こえて木製の扉ゆっくりと手前に開いた。同時に扉の隙間からゴーストがチコチコと戻ってきてそのままイスピーの肩に飛び乗って、エッヘンと胸を張のだった。

「よくやったわ!」小指でハイタッチをかわすとゴーストは勇ましい表情のまま綺麗な粒子となって消えるのだった。

「すまない助かったよイスピー」

ニックは開錠した扉を大きく開けてイスピーに感謝を告げた。

そうしてギィとしなる音を立てる扉を開けたままに3人は更に奥へと進むために足を進めた。が、ガックは扉の反対側についていた施錠ツールに興味津々であったが、イスピーに「後にして」と軽く叱られて敢無く断念するのだった。

ニックもまたそんな光景に目をやっているが、その視線は施錠ツールに入力されたパスワードである『竜闘士』をとらえていた。


 「・・・・・・ここだ」

長い一本道を進み続けた三人は遂には行き止まりにたどり着いていた。

すると先頭を往くニックが低い天井に背伸びがちに手を当てた。石造りの様式がわかる天井は細かいたくさんのブロックでできており、ニックの手はそのブロックの一つに当たっていた。

ガコ・・・

と、当てた手がブロックごと上方へめり込んで、ニックの腕は天井より「上の位置に達したのだった。

「仕掛けあるんだね」

「・・・これもあなたが作ったの?」

ガックとイスピーが、いよいよ城に潜入かと思いながらに聞いた。

「・・・・・・いや、これは俺じゃない――ひめ・・・っと、あった」応えながらのニックは天井より上へと出していた手に何かを掴んだのか、それに力を込めるとグイッっ引っ張った。

カタンッ。

すると今度は天井の狭い一面が捲れて、ちょうど人一人分が通れるくらいの穴がポッカリと顔を覗かせたのだった。

「よし、まだ生きていたな」

腕を元に戻してニックは呟くと、そのまま天井の穴へ向かってひらりと飛び上がるのだった。

スタっと天井の上、つまりは城のどこかの床に着地した音がイスピーとガックにも聞こえた。

「ちょっと、置いていかないでよ」

このまま先に城内へと進んでいってしまうのではと不安の声を上げるイスピー。しかし、そんな声に即答するように天井先からドラゴンの手が差し伸ばされたのっだた。

「君らのおかげで城に入れたんだ置いていくわけないだろう」暗闇でドラゴン剣士の笑みが浮かぶ。

「・・・・・・しかし、ここで引き返すのも自由だ。―――『何が』起こるかわからないからな」

「なにか起こるっていうの?」ガックが恐る恐る聞いた。

「ここまできて脅す気?その手には乗らないわよ?」イスピーは鼻で笑って返すと差し伸ばされていたニックの手を取って、天井先へと引き上げてもらうのだった。

 地下の通路の闇から、またしても城内の何処かの闇へと移動しただけで、あまり変化がないことに少しだけ険しい表情を見せるイスピー。

「『何も起こらない』・・・それが一番いいはずだ」

そうしてガックも引き上げて、ニックのドラゴンの瞳はただただ城の奥を見つめるのだった。



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