最終章 先へと続く意思
数日後、『魔王バドマ完全征伐!』の見出しが大々的に載った記事が出回った。
とはいえ、魔王や魔物の復活なんて知らない者がほぼ全てで、昔の魔王軍討伐戦を思い返してなつかしむ者がいるぐらいであった。
しかし、そんな記事をがむしゃらに握りしめて、とある雑誌社に乗り込む女性の姿があった。
「ちょっと!!これはどういうことよ!!」
女性は社屋に入るや否や受付嬢に記事を叩きつけて怒鳴り出した。
「・・・あ、あの・・・」
「あのキツネ女を出しなさい!!この私を出し抜いてよくもこんな記事書いたわね!!」
ブロンドの髪を揺らし目を血走らせて女性は怒鳴り続ける。
「なにが魔王討伐よ!いつそんなことあったっていうのよ!!それにせっかくの巫女と眠り姫の情報が少なすぎるわよ!」
「・・・あの・・・」
「『巫女のおかげで眠り姫は目覚め英雄ドラゴンニックと共に旅立った』??なにこれ!?まず眠り姫がいたかどうかが問題なのよ!それにドラゴンニックって誰よ!!」「あの・・・・どちら様ですか?」
そこでようやく怒鳴りが一休みした女性がギラリと視線を尖らせた。
「リベリアよ!!業界ナンバー1『トップ』の超一流記者よ!!知らないわけ!?」
リベリアは、これまでで一番の大声で叫ぶのだった。
「あ・・・は、はぁ・・・それで、そのキツネ女というのは、もしかしてイスピーのことでしょうか?」
「そうよ!!さっさと出しなさいっての!!」
バン!と机をたたいて更に怒りを表すリベリア。
「あの・・・イスピーなら『独立する』と言って、その号外を出してすぐ退社しました」
「・・・・・・・・・は?」
一気に声を失って、目をパチパチするリベリア。
「はぁぁあああーー??」
そうして雑誌社にリベリアの困惑の叫びが響き渡るのだった。
※
海の見えるに平原にポツンと小さな家が建っている。レンガ造りの家屋に、周りには畑も見えて、外には何人かの人間がいるようだった。
「ふぅーん、お姫様はドラゴンと旅立ったかぁ・・・格好つけすぎじゃない?」
と、屋内の窓辺に立って例の記事を読んでいたマリーが溜息交じりに呟いていた。
「そうかな?実際、似たようなもんでしょ?勇者と駆け落ちじゃスキャンダルっぽくなっちゃうし」
「イスピー!言葉使い!!」
そこにいたのはイスピーとガックであり、記事を読んでいたマリーと話し合っていたのだ。
「いいのよガック。私も堅苦しいのは嫌いだしね」
イスピーを諫めるガックにマリーが言いながらに笑って告げた。同時にイスピーは「ほらね」といったような意地悪な笑みを浮かべる。
「・・・・・・でも、良かったのマリー?」と、イスピーは問いかけた。「お城に残らなくて?せっかく目が覚めたのに家族と一緒にいたほうが良かったんじゃ?」
「あぁ、いいのよ。今更私がいても変になるしね・・・それにトワネット達にはここのこと教えてあるから心配ないし」
「なるほどなるほど、勇者との新婚生活を邪魔するなと・・・ガック、メモしといて」
「そんなこと一言も言ってないじゃない!」
妙な勘ぐりを見せるイスピーに、またしてもガックの声が飛んだ。
しかしそれに対してマリーは、まったくのハズレだったというわけでもないのか、少々照れながら頬を掻いていた。
「・・・そ、そういえば!あなた達も独立するんでしょ?どうするか決めたの?」
「あ・・・あー、うん。まぁしばらくは物件探しかなぁって」
「セイヌ国にあれば便利なんだけどね」
と、話題を変えたマリーの質問にイスピーとガックは同じように顔を見合わせて応えた。
するとマリーは二人を見てニヤリと笑うと、再び口を開いた。
「ふーん、新居探しだ?新婚みたいね?」
「「・・・・・・・・!!」」
その問いに二人して一気に顔が紅くなってしまい、言葉にならない言葉でいいわけするのだが。
「はいはい、言いたいことはわかるから」
そんな二人に意地悪な顔を見せたマリーは、彼女らに背を向けると開いた窓から少し身を乗り出した。
「ニックー!そろそろ休憩にしましょう!」
外へとマリーの声が響いて、そこにいる者らの動きを止めた。
「あぁ・・わかったよマリー!」
そこには木剣を持ったニックと一人の少年がおり、彼女の声にそれぞれに木剣を握っていた手を緩めるのだった。
※
「そうか、よし・・・ここまでにしよう」
「はい!」
ニックの言葉にシルバーブロンドの髪をした少年は、元気に頷いて汗をぬぐった。
「はいこれ、ニック、ラーくん!」
そこへ「ほい!」とマリーがタオルを差し入れて、ふたらの手元へと見事に投げ渡されていく。
二人も受け取ったタオルで改めて汗をぬぐっていると、そこへイスピーとガックが顔をのぞかせた。
「なぁにニック?託児所でも始めるの?」
「誰なのこの子?」
やはりというべき質問が二人からとんで、ニックは小さく笑って見せた。
「ははは、まぁそんなところかな」
言いながらに少年の頭を撫でたニックは優しい眼差しを見せる。
「俺もマリーもまともに働いたこともないからな、それにここでなら自給自足でなんとかなる・・・が、何もしないまま過ごすというのもの手持ちぶたさでな・・・」
「身よりのない子を預かろうとってなったの、もちろん里親が決まるまでだけどね」
こんどはマリーも一緒になって少年の頭を撫でた。
「なるほど、孤児院みたいなもんね」
「まぁ、俺に教えられるのは護身用の剣術くらいだけどな」
「でも、いいじゃん!勇者直伝ってわけでしょ!」ガックが羨ましそうな声で言うと、そのまましゃがみこんで少年と視線を合わせた。
「すごいね僕!ドラゴンウォリアーの弟子なんだ!名前はなんていうの?」
「ラージャック!」
そう叫んで少年ラージャックは木剣を高らかに掲げた。
「おぉ、ラー君かっこいいぞ」マリーが自慢げに笑って呟いた。
「クモギリ!ヘビギリ!」
と、少年ラージャックは木剣を振り回してはしゃぎだすのだった。
「あぁ・・・そこのセンスは受け継がなくていいんじゃないかな・・・」
「べ、別にいいだろ!シンプルなのがいいに決まってるんだ!」
そんなイスピーの呆れ声にニックが慌てて反論するも、マリーもガックも同じ意見のようで微妙な顔を見せていた。
そうして、ラージャックがイスピーのゴースト相手に遊びだしたところで、四人は集まって改めて話を始めるのだった。
「・・・で、結局、魔物や兵士長はどうなったの?」開口一番にイスピーが聞いた。
それにマリーとニックが顔を見合わせてから、代表してニックが口を開いた。
「・・・魔物たちは、元の力を失ってもはや簡単に征伐できるほどに弱っていた。もとより魔王の影響下にあってこその力だったのだろう・・・・なにもできないやつらの命を奪うまでもないと、セイヌ国の目の届く地域に解放させた」
「・・・兵士長は?」今度はガックが聞いた。
「同じだ。と言っても彼の場合魔王の魔力に侵されていたと言った方が正しいな。その行動原理の殆どが魔王の影響であり、彼を『外』にまで動かさせた。・・・・今はもう魔王の影響はないが、国を裏切ったという罪は消えないため投獄中だ。・・・・彼自身もそう望んでいる」
「真面目過ぎるのよね、ロザムと一緒なタイプね。ま、そこまで長くはならないと思うけど」
少々、呆れ気味に言ってマリーは「やれやれ」と首を横に振った。
「『外』といえば・・・あの巫女様はどうしたの?そもそもどうやって見つけてきたんだろう」
するとガックの問いにイスピーも「そういえば」と頷いてニックに視線を向けた。
「巫女は城に残っている。まぁ、外へ送り返す手段を待つしかないという状態だからな」
「待つ?」イスピーが聞いた。
「この星が魔の宙域近くにあって、外からの介入が難しいのは知っているだろう?だが難しいだけで全くないというわけはないんだ」
「というと?」ガックが首を傾げた。
「大型ツールを使って外を飛ぶ船なんかに合図を送るんだ、救難信号のようなものだな」
「ツールってあの・・・荷車のこと?」そこへマリーが告げた。
「あ・・・あれって・・・」「僕たちが壊しちゃった・・・」思い返してギクリとした顔で見合うイスピーとガック。
「ま・・・まぁ、正確には壊したのはバドマだが・・・。なにより他のツールを見つけて信号を送れるまでは巫女は城に留まるそうだ。まぁなにより、王たちになついているから寂しくはないそうだが」
青い顔をしているイスピーらに「心配するな」と慰めてニックは小さく笑う。
「・・・バドマ・・・結局なにがしたかったのかな・・・」
そこへ、ふとマリーが呟いた。
「たしか古代種族とかってので、この星はもともと自分たちのものだとか言ってたよね?」
「・・・・・・・・確かめようがないがおそらく事実だろう。あの力は余りにも強大すぎた。」
するとガックの問いに応えながらにニックは、どこか遠くを見て大きく瞬いた。
「あいつもあいつで、自分の信じたことだけに真っすぐ突き進んでいただけなのかもしれないな・・・」少しだけ黄昏たようにニックは呟いた。
「ロザム・・・・後悔してるの?」
そんな彼にマリーが難しい表情を見せて問いかけた。
「・・・・・・・・いや、俺も・・・そしてニックも決して間違った道を選んだ覚えはないさ」
そうして遊び疲れたラージャックが駆け寄ってきたのを受け止めて、ニックは再び彼の頭を撫でてあげた。
「なにより、この生活を手に入れたのが最高の報酬さ」
不思議そうに見上げるラージャックに微笑み返して、ニックはマリーへと視線を向けた。
それに照れながらも同じように微笑み返すマリー。
「そうね、私も30年分青春取り戻さなきゃだしね」
と、同じようにラージャックの傍に立ったマリーは優しいまなざしを彼に送った。
「ねぇ、ラー君?今日は勇者様にお料理してもらおうか?」
「ゆーしゃ?」
まだ、勇者の意味も理解していない少年にマリーは頭を撫でて満面の笑みで言うのだった。
「お・・・おい、俺は料理とかそんな・・・」
「はいはい、私だって花嫁修業とかしてないんだし条件は同じでしょ?」
「う・・・う・・・そ、それは・・・」
竜闘士を黙らせてマリーはラージャックを相手に和気藹々と会話を続けるのだった。
「ま、これでもかってくらい仲良さそうなでなによりね」
帰ってきたゴーストを構いながらにイスピーは溜息を付いた。
「いいじゃない、平和の証ってことだよ」
それに同じようにガックが言って、安堵の息を付いた。
やがて夕暮れが海岸と小さな家を染め上げる頃、ニック達のただただ楽しく過ごす声が響くのだった。




