悪役令嬢さんの歓談
この間の事件は無事に解決できて本当に良かったわ。ロドアの仲間達のお陰で効率的に情報が集まって、アリアを早く見つけられたのが特に良かったわね。
今度お礼の菓子折りでも持って行かないと。でも、彼らはお菓子よりお肉とかの方が喜びそうね⋯⋯。
「 アナベラス様、そちらお菓子のお味はいかがですか? 」
「 ⋯⋯えっ、ええ、とても美味しくいただいてますわ 」
「 良かったです、アナベラス様のお口にあって。それは私が大好きなお菓子なんですよ。うふふふ 」
私の前でおっとりした雰囲気の令嬢が微笑む。
実は今、学園の令嬢数人と学園の綺麗な庭園でお茶会中なのよ。たまには公爵令嬢として、他の令嬢とこういった交流もしないとね。本音を言うと、情報収集が主な目的だけれども。
「 今日はアナベラス様にお茶会に来てもらって、とっても嬉しいですわ。普段は殿下達と一緒にいらっしゃることが多いから、私では畏れ多く近づくことができなくて⋯⋯ 」
先ほど声をかけてきた令嬢とは違う、気の強そうな令嬢が手を頬に当てながらそう言った。
ゲームでは私の取り巻きだった生徒で、クレアという名前の貴族令嬢よ。確か彼女は選民意識が高い悪役令嬢( 小 )みたいなポジションだったわね。彼女の両親は完全に第一王子派よ。
ちなみに先ほどのおっとりした令嬢は、今日のお茶会の主催者であるハンナ嬢。その他の参加者は、さらさらストレート髪のリサ嬢と、まつ毛の長いキーナ嬢がいるわ。
この3人はクレア嬢と違い、わりと王位継承者問題にも中立な立場で、平民出身の生徒に対しても優しく接している印象ね。
ハンナ嬢に限ってはご両親も同じおっとりとした雰囲気で、派閥争いを気にしてすらいないといった態度よ。
今もハンナ嬢はお菓子を前にして幸せそうに笑っているわ。これがもし演技なら、この令嬢相当やるわね。
「 私ですら遠慮しているのに、あの平民出身の田舎者は本当に遠慮がないですわ。ライル殿下にあんなに近づいて、新入生歓迎パーティーでも一緒に過ごして、あり得ませんわ! 」
続けてクレア嬢が怒りをあらわにする。頭に血が上り、顔が少し赤くなってしまっている。
どうやら彼女はゲームと同じでヒロインであるアリアに憤っているようね。この言いようだと、ライル殿下が好きなのかしら。彼、顔が良い上に王族、そしてまだ婚約者が決まっていないからモテるのよね。
ちなみに私は性格は悪いけれどほんのり優しいカイル様一筋よ。さり気ない嫌味にもすっかり慣れたわ。愛の力ってやつね⋯⋯ふふふ。
「 お昼の時間だってそうですわ。平民出身の人間が、高貴な血筋の方々のお食事にお邪魔するなんて、図々しいったらないですわよ!! 」
「 クレア嬢、落ち着いてください。アナベラス様が困っていらっしゃいます 」
怒りとともに声が大きくなっていくクレア嬢に、主催者としてハンナ嬢がやんわりと注意をした。
クレア嬢は怒りが冷めないようだが、大声を出してはしたなかったと反省はしたようで、紅茶を口にして落ち着こうとしている。
これ以上怒らせないようにあえて言わないけれど、お昼の食事にお邪魔しているのはむしろ私の方で、アリアが無理やり入ってきているわけではもちろんないわ。
最初アリアとエラ嬢が一緒に食べていた場所に、ライル殿下達が集まってきた形ね。アリアの話はぶっ飛んでいて面白いから仕方がないわ。
「 クレア嬢、アリア様はそんな男性に媚びを売るような人ではありません。⋯⋯あれはある日の午後、廊下で私が花瓶を誤って倒してしまった時です。颯爽と現れたアリア様は私の身を真っ先に心配した後、保健室に連れて行ってくれただけでなく、割れた花瓶の片付けまでしてくれていたのです。その姿はとても美しく、思い出すだけで⋯⋯ああっ、素敵! 一緒にお食事できるアナベラス様が羨ましいです 」
さらさらストレート髪のリサ嬢が、目を輝かせながら語る。彼女はアリアの隠れファンらしい。
アリアったら、いつの間にそんなことをしていたのかしら。まあ、珍しいことではないわ。あの子、普段から自然に人助けしているようだから。
でも、何故か私とエラ嬢以外の女友達がいないのよね。表面上はクールに振舞っているから話しかけ辛くて、直接友達になろうと近づいてくる生徒がいないのかしら。
このリサ嬢を見るに、他にも隠れファンがいそうだわ。本人が知ったらかなり照れそうね。
「 そんなの、人気取りに決まってますわよ。女子生徒からの嫉妬を和らげるためですわ! 」
クレア嬢がリサ嬢に反論する。
⋯⋯嫉妬していることは認めるのね。
「 そうかなー? この間、周りに人がいない場所で壊れたベンチの修理をしているところを見たよ 」
まつ毛の長いキーナ嬢が、首を傾げながらそう言った。そして小さなクッキーを一口で食べる。
この令嬢は結構さっぱりした性格ね。裏表がない感じよ。
クレア嬢がそんなキーナ嬢にも反論をする。
「 ベンチの修理なんて、仮にも貴族令嬢のすることではありませんわ。まったく、野蛮ね⋯⋯ 」
確かに、クレア嬢の言うとおり貴族令嬢のすることではないわね。たぶん、アリアは学園に報告とかをするのが面倒くさくて、自分で修理したんだと思うけれど。
ユリアーテ領でも何故か公共工事の手伝いをしていたらしく、あの子結構万能なのよね。一体どこを目指しているのかしら⋯⋯。少しはヒロインやりなさいよ。
「 まあまあ、みなさん。せっかくアナベラス様がいらっしゃるのだから、私、アナベラス様のお話が聴きたいです。アナベラス様、最近はどうですか? 」
悪くなった空気を変えるように、ハンナ嬢が私に話をふる。
良かったわ。これで、例の情報収集が出来るわね。
「 ふふふ、みなさん私のことはアナで良いですわよ。⋯⋯そうですわね。私、やっと自分のクラスに慣れてきたところなの。優しい方が多くて助かっていますわ。みなさまはどうかしら? 」
私の言葉を聞き、令嬢達が考える。
そんな彼女達を私は微笑みながら観察した。
特に、クレア嬢とキーナ嬢を。何故なら2人は、あのエイミ嬢と一緒のクラスなのよ。何か有用な情報を聞き出してみせるわ。
「 私も最初は緊張していましたが、クラスの方達とは新入生歓迎パーティーで、好きなお菓子の話をして仲良くなりました。リサ嬢も一緒でしたね 」
「 ふふ、あのパーティーは楽しかったですね 」
ハンナ嬢とリサ嬢がほんわかと笑い合っている。
2人を見ていると、こっちまで力が抜けそうだわ。
「 私は貴族出身の方々以外とは話していませんわ。時間の無駄ですもの 」
クレア嬢は紅茶を飲み、何故か誇らしげに言う。
本当に選民意識が高いわね。まるでゲームの中の私みたい。まさに悪役令嬢って感じね。裏で誘拐とか悪いことをしているわけでもないから、ゲームのアナベラスよりはましだけど。
そんな時、キーナ嬢が思い出したように言った。
「 そう言えば、最近私のクラスでおかしなことがあって⋯⋯ 」
「 おかしなこと? 」
何かしら、気になるわ。
「 はい、クラスにエイミ嬢っていう一部の生徒に人気の女子生徒がいるんです。そのエイミ嬢には親衛隊みたいな人達がいて、常に近くで彼女を守ってるんですけど⋯⋯最近、その中の1人が急に彼女に対して興味をなくしたようで、話しかけもしなくなったんです 」
「 仲間外れとか? 」
「 うーん、そうでもない感じで、なんでしょう⋯⋯まるで最初から知り合いですらなかったような関係になったんです。あんなにエイミ嬢に夢中だったのに、ただのクラスメイトになった感じで。エイミ嬢も他の親衛隊の人達も、彼がそうなったことを全く気にしていないみたいですから、なんだか気味が悪くて 」
もしかして、それってウィル青年のことかしら。
彼、元々エイミ嬢の親衛隊だったけれど、犯人の魔法で記憶をなくして忘れてしまったのね。
でも、他の親衛隊達も気にしていないのはどうしてかしら⋯⋯。
エイミ嬢が犯人で、彼らの記憶もいじったとか。話の筋は通るけれど、そんなに強力な闇の魔力を彼女は持っているのかしら。
最初パーティーで見た時はそれほど強い力は感じなかったけれど、ダンスの時は彼女の顔を見ただけで私の体調が悪くなったのよね。
もしかしたら、私が感じた闇の魔力だけでなく、何か他にも秘めた力を持っている可能性があるわ。その力を隠す能力も同時によ⋯⋯。
「 親衛隊って、マクル王子やシリル様まで加わっているあれですわね 」
「 クレア嬢も知っているのかしら? 」
「 クレアで良いですわ、アナ様。で、親衛隊でしたっけ、まあ、あの2人以外は地味な生徒がほとんどですわ。少し優しくされたくらいで夢中になるなんて、愚かな人達 」
クレアは馬鹿にするように言い放つ。
闇魔法の精神攻撃や洗脳は、心が弱っている人がかかりやすい。エイミ嬢が犯人だと仮定して、どうやらキーナ嬢やクレアは洗脳などにまだかかっていないようね。
しかし、親衛隊と呼ばれる生徒達は強さに違いはあっても魔法にかかっている可能性が高いわ。
証拠さえ揃えばなんとかできそうだけど、学園の優秀な教師達でさえ魔法の痕跡を見つけることはできなかったのよね。
同時に何人も虜にした上、力を完璧に隠蔽するエイミ嬢はどれほど強力な魔力を持っているのかしら。
それとも、黒幕が他にいるとか⋯⋯?
どちらにせよ、警戒は必要ね。
アリアにも早く伝えないと。
私は紅茶を口に運びながらそう思考したあと、平和なお茶会の歓談に戻ったわ。
お読みいただきありがとうございます。
少し遠出をしておりまして、だいぶ遅くなりました。すみません。




