訓練場にて
ナーミア様綺麗だったなぁ⋯⋯。お相手の侯爵様もかっこ良かったし。まさにお似合いだった。
政略結婚なんてこの世界の貴族では珍しくなくて、お互いに愛していないなんてよくあることらしい、もちろん夫婦生活で愛が生まれることもあるけど⋯⋯。
ナーミア様と侯爵様は、歳の差10歳の夫婦である。何でもナーミア様の一目惚れからの猛アタックによって両思いになったとか、はぁー理想。
それもエレーナ様の淑女教育の賜物らしい。
⋯⋯淑女⋯⋯教育⋯⋯うっ頭がっ⋯⋯。
「 あぎゃっ !! 」
「 いぎっ⋯!! 」
「 ⋯⋯ぐぇっ!! 」
バッタン⋯⋯バッタン⋯⋯バコシュントン
「 やめぇー!! いやーさすがアリア様ですなっ 」
そう言って、にかっと笑うユリアーテ辺境騎士団の団長のガルドさん。
ガルドさんは、あの黒装束事件で最後まで残っていた護衛のおじさんと同一人物である。かなり大きいので、五歳児の私は首が折れるくらい見上げないと顔が見えない。
さっきの苦しそうな声は訓練中の騎士団の皆さまの声です。そして何故か訓練相手は私である。私は五歳児の幼女である。決して、熊のモンスターではない。もう一度言おう、熊のモンスターではない。
「 今日は対モンスター訓練に協力していただき誠に感謝ですぞっ、がっはは 」
「 ⋯⋯お役に立てて嬉しいです 」
そう私はあの事件でガルドさんに目をつけられ、度々訓練に協力させられている。まさかの辺境伯様の許可つきで⋯⋯。光魔法は秘密じゃなかったんかい!!身内はいいんかいっ!!
ユリアーテ辺境騎士団の皆さんには私は失われた体術が使える唯一の生き残りだと言ってあるらしい。しかもそれで納得しているという。⋯⋯それで納得するっておかしい⋯⋯よね。私、五歳児なんだけど⋯⋯。
「 流石先生は強いな!! 」
「 最初はこんな小さな子が伝説の体術の遣い手だなんて疑ってたけどな⋯⋯やっぱすごい力だ 」
「 俺、モンスターと戦うの恐くなくなったぜ!! 」
「 先生に比べたらモンスターなんて虫みたいなもんだな⋯⋯ 」
皆さん好きに言っていらっしゃる。役に立てているのは本当に嬉しいのだが、貴族令嬢からはかけ離れていっている気がする。
でも “ 失われた体術の遣い手 ” って少しかっこいいかも⋯⋯。伝説の師範系クールヒロイン⋯⋯うん、いいかもしれない。
「 ところでアリア様、ダリオン殿から何かお願いはされていませんかな? 」
「 ⋯⋯いえ、特にはされていません 」
「 ⋯⋯そうですか⋯⋯はぁ 」
「 辺境伯様がどうかしたんですか? 」
「 ⋯⋯いや⋯⋯何でもありませんぞ⋯⋯ 」
ガルドさん、なんだその含みのある言い方は⋯⋯。すごく気になるのだが!!言って、もやもやするから!!
「 よろしかったら、聞きますよ 」
「 そんな!! 私の口からはとてもとても!! 」
なんだかわかりやすく聞いて欲しそうだな⋯⋯。
「 なら、いいです⋯⋯ 」
「 ⋯⋯えっ⋯⋯聞いてくれないのですか⋯⋯!! 」
あっ⋯⋯やっぱり聞いて欲しいんだ。
「 聞かせてくださいガルドさん 」
「 はい、これは私から言ったのではなく聞かれたから言いますが─── 」
「 こんなところにいたのね。アリアちゃん!! 」
やっと話し出したガルドさんにかぶせるようにエレーナ様の声が響く。
辺境騎士団の皆さんが一斉に敬礼している。
「 エレーナ様!!このようなところに先ぶれなく来てはいけませんぞ、武器なども置いてあるので危険です 」
「 そんな場所に五歳の女の子を連れて来てる人に言われたくありませんっ!! 」
「 ⋯⋯うぐっ確かに 」
「 さぁ、アリアちゃん。昨日の続きをしますわよ 」
「 ⋯⋯淑女教育⋯⋯こわい⋯⋯ 」
私はエレーナ様に捕まりずるずると引きずられていく。ガルドさんが捨てられた仔犬のような顔をしているが、泣きたいのは私の方だよ。エレーナ様、淑女教育のときは別人なんだよ。笑ってても、笑ってないんだよ⋯⋯。
だが、私は後にガルドさんのあの顔の理由を知ることになるのだった⋯⋯。
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