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悪役令嬢さんの捜査



「 アナ、俺の同期のコルマって奴がお前に聞きたいことがあるらしい 」


 休日の午後、(わたくし)が部屋でゆっくりしているとユイスお兄様がドア越しにそう声をかけてきましたわ。

 コルマってアリアの義理の兄かつ担任教師よね。ゲームでは悪い奴に追い込まれたあげく利用されて中ボスとして出てくるけれど。

 そんな人が私に用なんて一体何かしら?


 ──ガチャ


 私は急いで簡単に身なりを整えドアを開けた。


「 どうしましたの? 」

「 本人は玄関で待っている。どうしてもアナに聞いてきて欲しいと頼まれた。『 アリアがどこに行ったか知らないか? 』だそうだ。朝出かけて、昼には帰って来るはずがまだ帰って来ていないらしい 」


 現在は午後三時、いくらなんでも過保護すぎる気がしますわ。アリアだってゆっくり買い物をしたい日もあるでしょうに。


「 私には特に心当たりはありませんわ 」

「 そうか、ならそう伝えて来る 」


 玄関の方へ歩いていくユイスお兄様の後ろ姿を見た後、私は自室の中に戻る。

 ベランダから玄関の方を見てみると、アスリース家の事件の時と同じように白馬に乗ったコルマ・ユリアーテが立ち去っていくのが分かった。


「 ヒロインが行方不明⋯⋯ 」


 私はゲームの記憶を掘り返してみた。


 ゲームの中でもヒロインが連れ去られて行方不明になる話はいくつかあるのよね。

 その中でもメインストーリーで悪役令嬢に騙されたロドア・ガモフが不良仲間と共にヒロインを連れ去るシナリオは、ゲームを最後までプレイした人ならみんな知っている話だわ。

 思い出してみると、確か発生時期もこれくらいだった気がするのよね。事件の原因が悪役令嬢( 私 )だから起こらないと勝手に判断していたけれど、あのロドアが他の奴に騙される可能性だって捨てきれないわ。

 だって()()ロドアだものね。平民であの学園に入学出来るくらいの頭はあるはずなのに、何であんな感じなのかしら⋯⋯。未だにファントムの正体が女だと気づいてないのよね、あの人。


「 一応確認に行った方が良いかしら。私だってアリアのことは心配だもの 」


 私は目立たない服装に着替えて、その上に茶色のローブを纏った。そして、ベランダから外に出る。部屋には『 体が鈍らないようにモンスター退治に行ってきます 』と、置き手紙を残しておいた。

 ユイスお兄様に色々説明するのが面倒だったからよ。まあ、私がこっそりモンスター退治に出かけるのは珍しくないから大丈夫でしょう。


 なるべく目立たない道を選んで、私はロドアがいると思われる街の不良達のたまり場に向かう。


 それにしてもアリアって、ゲームのヒロインとは違うところで天真爛漫なのよね。人助けのためなら知らない内に海すらも渡ってそうな感じ。家族の中ボス( コルマ )があの子を心配する気持ちも分かるわ。

 力と体は強いから怪我の心配はいらないけれど、あの綺麗な心が傷つかないように守ってあげたくなるのよ。もしゲームのヒロインからぶりっ子要素を抜いたらあんな感じかしら。

 正義感と優しさが周りの人々を助けて癒すけど、アリア自体は見返りを相手に決して求めないのよ。だから相手がよっぽど積極的でないとたぶん恋愛にも発展しないわ。

 まるで子供向けのスーパーヒーローみたい、恋愛に発展しないのなら乙女ゲームの主人公としては駄目ね。


「 でも、放っておけないわ 」


 最近、あの子に影響されたのか自分が逃げている気がしてきたのよ。お父様の事、私の家族の事、完全に諦めていたけれど何か出来る事もあるのではって、つい考えてしまうの。この世界はゲームと似ていても、完全に同じではないから⋯⋯。


 私がそう考えている内に、街の不良のたまり場の近くまで来ていた。

 あまり光のささない暗い裏通り。道の端では不良達が立ち話や小さな賭け事をしている。


 不良といっても、ほとんどが傭兵団に所属する人の子供達。街で他の若い子達が悪い事をしないように見張ると同時に守ってる集団って感じね。

 王都は広いから色々な奴らがいるの。中には無知な子供を利用して悪さをする大人も少なくないわ。

 そんな奴らから子供達を守るには力も必要だから、もちろん彼らは体を鍛えるし、その分見た目も強そうになる。彼らが一般人から不良と見られるのはそれが原因ね。単純に見た目が怖いのよ。


 私はその怖そうな連中の中から、足の速そうな一人の男を見つけ話しかけた。鶏のトサカみたいな髪型をしている。


「 ロドア・ガモフはいますかしら? 」

「 ぁあ! お嬢様がリーダーに何の用だ!? 」


 その男の声に反応して、私の周りに柄の悪い連中が集まってきた。

 私は完全に取り囲まれたようね。今は全身が収まるローブを纏っているけれど、お嬢様だとすぐにバレたわ。香水の香りが原因かしら。


 不良達はこちらを睨みつけ威嚇してくる。その中には女性もいる。

 男達に負けず劣らず見た目が強そうね。学園の貴族令嬢なら、対峙してすぐに失神してしまいそうな雰囲気よ。

 でも私は平気。ここまでは全部予想済みよ。


「 ⋯⋯ピンク髪の男の情報を握っていますわ 」

「 何っ!! 」


 私の発言で周りの不良達の雰囲気が一瞬で変わる。衝撃を受けたようにふらつく者、固まる者、後ずさる者と様々な反応を見せた。

 やはり、ロドアはまだ街の方でもファントムを捜しているようね。アリアから少し聞いていたけれど、諦めが悪すぎるわ。


「 ちょっ、ちょっと待ってろ。今リーダーに報告してくる 」


 最初に私が話しかけたトサカ君が、そう言って一目散に走って行った。

 足の速そうなのに話しかけておいて良かったわ。これならすぐにロドアに会えそうね。

 周りの不良達は騒ついている。しばらくすると、トサカ君が戻って来た。


「 ついてこい。リーダーが会うそうだ 」

「 分かりましたわ 」


 トサカ君の後について、裏通りの奥に進む。たまに入り組んだ道を通り、少しするとひらけた場所に出た。

 そこには古くなった倉庫のような建物があり、トサカ君に促され中に入ると、ロドア・ガモフが木箱の上に座っていた。周りには幹部っぽい若者が何人かいる。

 学園で見る時と違って、私服のロドアはいつもよりも怖い雰囲気を漂わせているわ。別のゲームに出てきそうね。


「 お前か、ファントムの情報を持っているという奴は⋯⋯ 」

「 そうですわ 」


 そう言って私はローブのフードを頭から外した。だが、ロドアは特に反応はしない。

 私が誰か分かっていないようだわ。学園に通っているのに公爵令嬢で第二王子の婚約者である私を知らないなんて、と思ったが私はゲームと違って目立ってないので仕方がないわね。


「 お願いだ。ファントムに会わせてくれ。この間は気づいたら保健室にいてその前の記憶がないんだ。デレクの奴は何も教えてくれないしよぉ⋯⋯ 」

「 ⋯⋯ぷっ、こほんっ、そ、その前に、聞きたい事がありますの 」


 見た目に似合わない切なそうなロドアの表情に、つい笑ってしまいそうになりながらも、私は彼に質問をする。


「 何だ? 」

「 ピンク髪の女の子を知っていますかしら? 」


 私がそう聞くと、ロドアは不思議そうに首を傾げた。


 どうやらこの反応は本当に知らないようね。なら、捜す方に協力してもらいおうかしら⋯⋯。普通に見つかって何事もなければそれはそれで良いものね。


 ロドアはしばらく考えた後、私の問いに答える。


「 女に用はないな 」


 ファントムも女だけどね。


「 知らないのですわね。その子はファントムと関わりがある子ですのに⋯⋯ 」

「 何っ! ファントムと関わりがあるだって!? 」


 というか、本人なんだけどね。


「 ⋯⋯彼女はファントムの生き別れの妹なのですわ 」

「 な、な、何だと!! 」


 アリアが前にデレクに対して使っていた嘘を使わせてもらったわ。


「 その子が今、行方不明なのですわ。捜すのに協力してくれたら、ファントムは貴方に感謝するかもしれないですわね 」

「 ファントムが俺に感謝⋯⋯ 」

「 もしかしたらファントムも妹を捜すためにもう動いているかも⋯⋯ 」

「 こ、こうしちゃいられねぇ! おいお前ら、ピンク髪の若い女を探せ!! 街に散らばってる連中にも聞き込み調査だ!! 」


 ロドアがそう叫ぶと、周りにいた幹部っぽい人達が素早く頷き、扉から各方向に散らばっていく。そしてロドア自身も木箱から勢いよく立ち上がった。


「 お前も一緒に捜すか? 」

「 もちろんですわ。その子は私の大切な友人でもあるんですもの 」

「 そうか、なら俺についてこい 」


 そう言ってロドアは走り出す。厳つい見た目の割に足が速い。

 けれど、私も負けていないわ。闇魔法で体を強化したらこれくらいの速さは余裕なのよ。

 そんな私を横目で見て、ロドアは微かに笑った。


「 お前、なかなかやるな。流石ファントムの妹の友人といったところか⋯⋯ 」


 もはやそれ、ファントムに関係ないと思うわ。


「 ちなみに、お前はファントムについて他に何か知っている事はあるか? 」

「 ⋯⋯そうですわね 」


 私が何を伝えようかと考えていると、その間ずっと隣から熱い視線がバシバシと飛んでくる。

 すごく期待されているみたいね。


「 ファントムの⋯⋯ 」

「 ファントムの!? 」

「 ファントムの好物はりんごのスイーツよ 」

「 ⋯⋯そうか 」


 ロドアはまた真っ直ぐに前を向いた。


「 ⋯⋯良い事、⋯⋯聞いちまったぜ 」


 そうして私とロドアは、アリアの行方を捜すべく街を駆け回るのだった。


 

お読みいただきありがとうございます。

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