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囲まれた乙女



 今日はハンカチの受け取り日である。

 外出用のワンピースに着替えると、書斎で書類仕事をしているコルマさんに気づかれないように、私は屋敷を出た。


 三日後の誕生日会に向けて屋敷の使用人さん達の協力のもと、私は毎日密かに準備を進めている。

 だが、日に日にコルマさんの機嫌が良くなっていくので、もしかしなくても既にバレている気がする。

 あの情報戦が得意なコルマさんに秘密にしておくのは無理のようだ。

 まあ、バレているとしても誕生日当日笑顔で喜んでもらえればそれでいい。それが一番重要なのである。


 数十分後、私は無事にあの店で商品を受け取った。

 出来上がりはとても満足のいくもので、コルマさん好みの上品な包装までしてもらった。今から渡すのが楽しみだ。おそらくこれを渡すのは誕生日会の最後の方になるだろう。

 当日は私自ら料理を作り振る舞うつもりなので、今から緊張している。コルマさんは私が何を作っても美味しいと言ってくれそうだが、それでは駄目だ。どうせなら本気で美味しいと思ってもらえる料理を作りたい。

 美味しい食事をとった後、屋敷のみんなで楽しめるような遊びをする。そして最後にプレゼントを渡すのだ。

 自分で計画しておいてなんだが、小学生のお誕生日会みたいだな⋯⋯。


 お店を出た後、私は一人そんなことを考えていた。


 真剣に考え事をしていたので気づかなかったが、いつの間にか私の隣に大きな馬車が止まっている。

 この辺りは大通りから離れているのでこのような立派な馬車は滅多に見かけない。

 不思議に思いつつも、私は黙って馬車の横を通り過ぎようとした。

 すると次の瞬間、馬車の陰から数人の男達がぬるりと姿を現した。そのまま男達は私の行く手を阻むように立ち塞がる。

 私は背後を確認した。後ろにも数人の男達の気配がある。どうやら囲まれているようだ。

 確認後、私はすぐさま自分の体を光魔法で強化した。いつもより念入りに強くしておく。


「 ⋯⋯一体私に何の用? 」


 私は内心スパイ映画の主人公になった気分でそう言った。

 相手を舐めてかかり油断するのは非常に危険で駄目な事である。しかし、私を取り囲む男達はいかにも雑魚といった見た目のチンピラ集団であった。負ける気が全くしない。

 私の問いかけに一人の男が嫌な笑い声を上げる。


「 へっへっへ、助けを呼んでも無駄だ。この辺はもう人払いし終わってるぜ 」


 イヒヒヒ、ケケケケッ、ドヒドヒヒ⋯⋯などなど、それぞれ変な笑い声をあげる男達。

 確かに周りには私達以外の人はいない。計画された犯行のようだ。


「 ふっ、私としても人がいない方が好都合。⋯⋯どこからでもかかってくるといい 」


 私の反応が予想外だったのか、男達が少したじろぐ。

 怯えて泣きわめくと思ったか、ふっ馬鹿めっ⋯⋯。


「 こっ、こっちにはこれがあるんだぜ 」


 そう言って先ほどと同じ男が何かを私に見せてきた。どうやらこの男が彼らの代表のようだ。

 男が持っている物は、大人のこぶし大くらいの黒い石のように見える。それが何なのかは、私には分からない。


「 ⋯⋯それは? 」


 私が問うと、男は得意げに説明を始める。


「 これはあるお方にもらった魔法を防止できる石だ。お前が魔法を使えることは事前にわかっている。だがこれがあれば心配ないぜ 」

「 何⋯⋯そんな石があるのか 」


 知らなかった。でも今のところ私の魔力に影響はないようだ。あるお方とかいう人にこの男が騙されたのかな?


『 あれは闇の力を利用した石だね。他者の魔力を打ち消す力があるみたい。だけどアリアの光の力には効かないから大丈夫だよ 』


 大地の使いさんの声が私の頭に響く。

 ほう、私には効かないのか。つまりこの男達のいうあるお方は、私の光の力について詳しくは知らないようだ。


「 ふっ、はたしてそんな石ころが役に立つかな? 」


 私は不敵に笑って見せた。

 

「 うるさい。強がってないで大人しくついてこい。おいっ、やれ⋯⋯ 」


 代表の男が顎で隣の男に指示を出した。指示を受けた図体の大きな男が私に近づいてきて手を伸ばす。

 だが、私はその手を華麗に避け素早い動きで後ろに回り込んだ。そして一発⋯⋯。


「 ⋯⋯はっ 」

「 ん、何だ? ⋯⋯あぎょがっ!! 」


 私に触ろうとした男が、道の脇に置いてあったごみ箱に頭から突っ込んでいった。

 動きが早すぎて普通の人の目では何が起こったか視認できなかっただろう。


「 な、何が起こった!? 」


 案の定、ごみ箱に頭を突っ込んだまま動かない男を見て代表の男が焦っている。周りに私の仲間が潜んでいると思ったようで、辺りを必死に見回し始めた。

 しかし、周りには私達以外いない。代表の男は焦りながらも仲間に指示を出す。


「 お、お前ら一斉にかかれっ! 殴ってもいい。依頼主からは、連れて来る過程で怪我をさせても構わないと言われてるからな 」


 代表の言葉を聞いた男達が一斉に私に襲いかかってくる。

 私は上に大きく飛び上がりその攻撃を全て避けた後、一人ずつ順番に気絶させていった。

 最後の方の人は阿鼻叫喚の叫び声をあげていたが、気にせず腹に拳を入れた。()()()()()乙女に殴りかかる方が悪いのだ。

 殴りかかってきた輩を全て気絶させた私は、血濡れた( 私に頭突きをしてきた奴が勝手に流した血 )ワンピースを翻して後ろを向く。

 そこには足をガタガタさせている代表の男がいた。


「 う、うわ、ああ、ぁあああぁあっ 」


 何とか力を振り絞ったその男は、私に向かって拳を振り上げる。


「 その勇気は褒めてやろう。⋯⋯だが甘い。まるで砂糖増しましのコンポートのよう 」


 言ってから気づいたが、それはもはやジャムである。


 ──グキッ


 拳を避けずに肩で受け止めた私は、にこりと笑った。


「 あぎゃあぁああ!! 」


 男は叫び声をあげ、振り上げた手を痛そうにしながら地面を転げ回っている。

 すっかりスパイ映画の主人公になりきっていた私は、そんな男を見て冷静になった。


「 まあ、落ち着いてください⋯⋯ 」


 私は男に治癒魔法をかけてあげた。大した怪我ではないので、すぐに治せる。

 自分のせいで怪我した人を自分で治すって、何だが狂気じみている。何故だ、私は襲われた側であるはずなのに⋯⋯。

 私はため息を一つ吐き、怯える男に話しかけた。


「 気絶されては困ります。貴方にはまだ、雇い主のところまで私を連れて行くという重要な役目があるんですから⋯⋯ 」


 この際なので私は犯人に会いに行く事にした。その方が後々厄介な事にならなくていい。


「 ⋯⋯ひ、ひぃぃいい! 」


 だが、せっかく優しく声をかけてあげたのに男は悲鳴を上げ動かなくなってしまった。


「 ⋯⋯おーい、大丈夫ですか? 」


 男からの返事はない。完全に気絶しているようだ。かわいそうに、よほど怖かったのだろう。

 まあ、すぐに魔法で起こすけど⋯⋯。



お読みいただきありがとうございます。


コンポート⋯果実を薄い砂糖水で煮た料理。

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