名探偵ダン
注文したハンカチは一週間後に受け取りの予定である。コルマさんの誕生日まであと十日なので丁度良い。
そうしてコルマさんの誕生日会の計画を練りながら、特に問題なく毎日を過ごしていたある日。
私が学園の廊下を歩いていると、突然目の前にやたらと笑顔が眩しい男子生徒が立ち塞がった。
「 うわっ! びっくりした 」
「 君がアリアさん? 」
背の高いその男子生徒は、少し身を屈めて私の顔を覗き込んでいる。
体格が良く、ライル殿下といい勝負だ。髪色は赤っぽい茶色で、癖っ毛なのか外側に跳ねている。顔は目鼻立ちがはっきりとしていて、全体的に明るい印象を受ける青年だ。
「 はい、確かに私はアリアですが 」
「 やっぱり! 良かったぁ、ユリアーテ先生に聞いても教えてくれないから自分で探したんだ!! 」
声が大きい。今だけテンションが上がって大きいのか、または普段からこの大きさなのか。たぶん私の予想では後者だろう。
先ほどの発言から推測すると、彼は何らかの理由で私の居場所をコルマさんに聞いたが教えてもらえず、自分で探していたようだ。一体何故?
「 どういったご用ですか? 」
「 ユリアーテ先生にはもうお礼を言ったけれど、君にも直接言いたかったんだ。弟の話によると『 魔法学園に通うピンク頭のアリア姉ちゃん 』らしいから、それだけを頼りに探したんだよ!! 」
「 ⋯⋯ピンク頭 」
どうやら彼はテオのお兄さんらしい。
それにしても、私の印象はやはりピンク髪なのか。グラッドさんも髪色から私がアスリース家と繋がりがあると思ったみたいだし、ピンク髪はこの国でも相当珍しいのだろう。
今度ピンク髪仲間のデレクにも面白エピソードを聞いてみるか⋯⋯。
「 あっ、ごめんごめん! 俺の名前はダン! テオの兄貴なんだ。この間は弟と妹のために果実を採りに行ってくれて、本当にありがとうございます!! 」
ダンと名乗った青年は、勢いよく頭を下げた。
「 いえいえ、私はついて行っただけなので大した事はしていませんよ 」
実際には探知を行いながら、モンスターが近づいてきたら魔法で遠距離威嚇をしていたが、別に言わなくても良いだろう。
「 ユリアーテ先生はすごい人なんだね。弟の話によると全然モンスターが現れなかったらしいから、きっと何かしらの魔法で近づいてこれないようにしていたのかな? 」
「 流石、ユリアーテ先生! 」と、彼は目をキラキラさせて感動している。
コルマさんがすごいのは間違っていないので訂正しなくていいか。
「 でも一つ不思議なことがあって⋯⋯ 」
明るい表情だったダンさんは、急に真面目な顔になり首を傾げた。
「 どうしました? 」
「 ⋯⋯あの果樹は秋に実をつけるんだ。今の季節に果実は普通手に入らないはず。最初はユリアーテ先生が魔法で一部急成長させたのかと思ったんたけど⋯⋯。あれはこの地域では珍しい植物だから種は手に入りづらい、よって魔法には使いにくいからユリアーテ先生が研究する理由が薄い。研究をしていない植物を急成長させるのは危険を伴うから、先生のような人が子供がいる場で使うとも思えないんだ。それなら、何故果樹は三つだけ不自然にも実をつけたのか⋯⋯ 」
先ほどとは変わった鋭い雰囲気で、ダンさんは私の顔を見ている。
おかしい、周りの温度まで変わった気がする。
「 本当、不思議だよな。⋯⋯君は何か知ってる? 」
なんか最初に想像していたキャラと違う。明るい元気キャラだと思っていたのに、追及系名探偵キャラではないか。
彼の鋭い視線からは、私から真実を引き出そうという気迫を感じる。
私を疑っているのだろうか。だが、私は悪いことをしたとは思っていない。風邪をひいて寝込んでいるマナちゃんと、そんな彼女に果実を食べさせてあげようと頑張るテオ君のために力を貸しただけである。
それに私が頼んだとはいえ、実際に力を使ったのは大地の使いさんだ。
つまり、突き詰めればあの果実は大いなる大地からのお恵みなのである。
「 あれは、大地からのお恵みに違いありません! 」
私は心からの誠意を込めて正直にそう言った。
ダンさんと私の視線が真っ直ぐにぶつかる。
「 ⋯⋯⋯⋯かっ 」
睨み合いに耐えられなかったのか、しばらく経った後ダンさんは勢い良く体ごと私から視線を外した。壁に片手をつきながら肩を上下に揺らし、息を荒げている。おまけに耳が赤い。
ふっ、勝ったな。私の威圧に耐えられなかったか。
私は内心勝利を喜んだ。
「 ⋯⋯はぁはぁ、どうやら君は嘘をついていないみたいだ 」
「 私は正直者です 」
言ってから気づいたが我ながらすごく胡散臭い台詞である。
しかしダンさんは気にしていないようで、いつの間にか最初の元気な笑顔に戻っていた。
もしかしたらこの青年、人の嘘を見破る能力を持っているのだろうか⋯⋯。
「 果実を食べた妹はすっかり元気になったんだ。どうして果実が手に入ったのかは不思議だけど、妹と弟が笑顔ならそれで良いよな! 」
「 そうですね。笑顔が一番です 」
今更元気キャラに戻っても無駄である。私の中で彼は油断ならない人間として既に登録済みだ。
「 そうだ! 今度実家に遊びに来ない? テオも君にお礼をしたいと言っていたし、マナも会いたがっていたんだ 」
「 そ、そうですか⋯⋯ 」
テオ君達を誘う理由に出されてしまった。断りづらいではないか。私の中で彼は危険だと警告音がなっているのに、上手く断る理由が思いつかない。
「 じゃあ、次の休日は? 」
はっ、次の休日はハンカチを受け取るという立派な予定が入っている。断る理由がちゃんとある。
「 次は無理です。予定が入っています! 」
「 じゃあその次 」
「 ⋯⋯え? 」
「 大丈夫だな。弟達にもきちんと伝えておくからよろしく! 」
ダンさんはそう言うと、私が次の言葉を発する前に走り去っていった。相手に断る隙を与えない巧妙さを感じる。
何だかこの間の店員さんを思い出した。
しかし、あの時のグラッドさんのように私を助けてくれる人物は現れない。
私はただ、走り去る彼の後ろ姿を呆然と見つめる事しか出来なかった⋯⋯。
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