悪役令嬢さんの直感
ちょっと、どういう事、一体なんなのあの女は⋯⋯!?
攻略対象を二人も側に侍らせている女子生徒を遠くに見ながら、私は今冷や汗を流しているわ。
「 あれは、マクル王子とシリルだね。あの二人が気になるのかい? 」
「 ち、違いますわ。私が気になるのはその二人の間にいる令嬢ですわよ 」
隣にいるカイル様に別の男性を見ていると咎められ、私はすぐにそれを否定した。
好きな婚約者と一緒にいるのに、他の男に見惚れているなんて思われたくはないもの⋯⋯。
まあ、カイル様は最初から令嬢の方を見ていると知っていて、わざと聞いてきたのだろうけれど⋯⋯。
「 あれは、ボルガド男爵のところのエイミ嬢だね 」
「 ボルガド男爵⋯⋯ 」
にこりと微笑みながら、カイル様は私に飲み物を差し出してくる。
私がその飲み物を受け取ろうとした瞬間、彼は私の耳元に小さな声で囁いてきた。
「 色々黒い噂はあるが、なかなか尻尾の掴めない人でね。必ず何か秘密があるはずだよ。⋯⋯例えば、大きな後ろ盾があるとか 」
「 ⋯⋯!? 」
問題を揉み消せるような大きな後ろ盾、それはおそらく私のお父様だろう。
私のお父様にはいくらでも使い捨て出来る手下が大勢いるのよ。私はそれをゲームの知識として知っているわ。
つまり彼女は、この国を敵視する隣国と繋がっている可能性があるという事。ただの可愛らしい令嬢ではないのかもしれないわね。
ゲームには出てこなかったから真実は分からないけれど、彼女に何か企みがあるのなら、カイル様の味方として警戒しておかないと⋯⋯。
私はゲーム通りの戦争を起こさないようにすると、カイル様に協力すると言ったあの日に、心に決めたのだから。
「 アナ、顔が強張っているよ。せっかくのパーティーなんだから、笑顔で楽しもう⋯⋯ 」
「 わ、分かりましたわ。そうですわよね 」
カイル様が遠回しに『 顔に出ている、あまりじろじろ見るな 』 と、警告をしてくれた。
手元のグラスに入った葡萄のジュースをゆっくりと飲み干し、私は心を落ち着かせる。
「 ほら、見て。ライル達が踊るみたいだよ。僕達も一緒に踊ろうか? 」
そう言ったカイル様の視線の先には、真のヒロインアリアを連れたライル殿下がいた。
どうやらホール中央のダンススペースに向かっているようね。
今日初めて見る二人は、まるで美しい恋物語から飛び出してきたように輝いているわ。二人を一度見てしまえば、他のカップルが霞んで見えるわね。
ライル殿下は昔から美しかったけれど、成長してその美しさに更に逞しさが加わったわ。剣の腕も相変わらず同世代で一番のようだし、彼の熱狂的なファンも男女共に増える一方よ。
そして、そんなライル殿下と並んでも一切見劣りしないアリア。
ゲームのヒロインだから見た目が良いのは当たり前だけれど、彼女はあのヒロインとは違う美しさを持っているわ。何だか、優しさと逞しさを兼ね備えた女性なのよね。
そんなアリアには、つい私も頼りたくなってしまうような魅力があるわ。彼女に任せればなんとかしてくれる、みたいな⋯⋯。
たぶん、自分の事に鈍感なアリアは、自分の魅力に気がついていないだろうけれどね。
「 ええ、私もアリアには負けていられませんわ 」
「 ふふふ、やる気だね。じゃあ行こうか⋯⋯ 」
空のグラスをテーブルに置き、私達もホールの中央に向かう。
中央に辿り着くと、私達(主にカイル様)に気づいたライル殿下が、嬉しそうに笑いかけてくる。
ライル殿下って本当にカイル様が大好きよね。まあ、カイル様の彼への愛情の方がすごいけれど。
ゆったりとした音楽がホールに流れ出す。私達は、その音楽に合わせて踊り出した。
目の前のカイル様が美しすぎて、まるで夢のようだわ。
ゲームと違って彼の嫌なところもたくさん知っているけれど、それが今はより愛おしく感じてしまっているのよね。
この先、お父様の事で私達の運命がどうなってしまうのか分からないけれど、今はこの時間を大切にしたい。
夢のような時間の中で、私の視界の隅にエイミ嬢が映った。
彼女は笑顔でホールの中央を見ている。
その笑顔はとても可愛らしいものだったけれど、私は何故か背筋が凍るような寒気を感じたわ。
ダンスが終わり、音楽が変わった後も、私の頭の中に張り付いたように、しばらくその笑顔は消えない。
「 アナ、顔色が悪いよ。あちらで休憩しよう 」
「 アナ、大丈夫ですか? 」
「 俺様達もついて行こう 」
隣のカイル様と、心配して近づいて来てくれたアリアとライル殿下が、優しく私に話しかけてくれる。
「 大丈夫ですわ。少し休憩すれば良くなりますから 」
私はそう言ったが、体が言う事を聞かずふらついてきた。何とか力を振り絞って、休憩室に向かおうとした時、女子生徒達の黄色い声がホールに響き渡る。
何やら中央の方で教師達が並んでいるようね。周りを生徒達が囲んでいるわ。
続いて、代表である学園長の声が響く。
「 今から私達教師達もダンスに加わります! みなさん、気軽に誘ってくださると嬉しいですな、ふぉふぉふぉっ!! 」
その学園長の言葉で、人気のある教師のところに男女共に生徒達が殺到している。
もちろん、我が兄ユイスお兄様もいるようで、当然女子生徒達に囲まれているわ。お兄様が何となくこっちを見ている気がするけれど、今の私にはあの中に入っていく勇気はありませんわよ。
私は三人に心配され支えられながら、休憩室に向かう。
「 アリアー、どこにいるんだー! 僕はここだよー 」
ホール中央の女子生徒の群れからアリアを呼ぶ声が聞こえてくるけれど、私を心配するアリアはその声に気がついていないようね。
でも今の私にそれを教えてあげる気力はないわ。
私はふらつく体で休憩室に歩みを進めながら、頭の中でユイスお兄様とアリアを呼ぶ声の主に謝ったのだった。
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