双子の王子
「 コルマ、⋯⋯とコルマの妹さん?弟が迷惑をかけてしまってすまないね。会場の皆さんも騒がしてしまってすまない 。どうぞ歓談をつづけてくれ 」
そう言って私達を見たあと、会場を見わたしながら笑顔をむける少年。彼の言葉を聞いた会場の人々は一瞬にして元の楽しげな空気にもどり、各自歓談をはじめた。
少年は、俺様少年と見た目がそっくりだ。だか瞳の色だけは違う、意志の強い燃え盛る炎の色。
人はこの炎に魅入られ安心もするが、見てしまったら逆らえないような絶対的な恐怖も感じるに違いない。
まさに支配者、君臨する者の瞳をしている。
「 カイル殿下、お心遣い感謝いたします。彼女は義理の妹のアリアです。ライル殿下の服を汚してしまったようでして⋯⋯ 」
「 気にするなコルマ。弟は少々⋯⋯いやだいぶ不器用なんだ。⋯⋯アリア嬢と友達になりたかっただけだと私は思うね。大方、話しかけようと肩を叩いたら緊張のせいで力が入ってしまい、思いの外強く叩いてしまった。まずいと何か話さなければと焦って逆にアリア嬢を怖がらせるようなことを言ってしまう。そして自分が謝る前にことが大きくなってしまって悲しい。と、いったところかな⋯⋯ふふっ 」
カイル殿下と呼ばれた少年はすらすらと俺様少年──ライル殿下の心情の説明をしてくれた。
図星のようで、ライル殿下は顔を真っ赤にして俯いている。
「 すまないねアリア嬢。弟を許してやってくれるかな? 」
「 ⋯⋯はっはい!許します!! 私こそ大声を出してしまってすみません⋯⋯ 」
「 ⋯⋯まっ待て!!俺様が先に謝るんだ!! 譲れっりんご女!! 」
ライル殿下が顔をあげて私を見る。⋯⋯りんご女って私のことだよね。りんごジュースを飛ばしてきた女の略かな⋯⋯?
「 悪かったな。カイル兄上が言ったことは大体あってるぞ。その⋯⋯友達にしてやってもいい⋯⋯ 」
すごく強気の発言だが、ちらちらとこちらを窺うようすは自信が無さげだ。もしかしたら本当に不器用なだけなのかもしれない。
「 わかりました。お友達になりましょう。私はアリア・ユリアーテです 」
「 そっそうか!!ふんっ俺様は、ライル・ランドクード!!このランドクード王国の第三王子だぞ!!カイル兄上とは双子だ。よろしくなっ!! 」
「 えぇ、私はカイル・ランドクード。弟共々よろしくね 」
「 はいっ、よろしくお願いします 」
私は、どんどん進んでいく話に混乱しながらも大きく頷いた。
「 アリア、このお二人と友達になれて良かったね 」
「 はい、コルマは知り合いだったんですか? 」
「 ああ、そうだよ。何回かお茶会などでご一緒したよ 」
「 その時は、アリアのような可愛らしい妹さんはいなかったと思うけれど⋯⋯ 」
「 えぇ、アリアは最近類まれなる賢さが父上に認められて養子にはいったのです 」
「 そうだったんだね⋯⋯ 」
なんだかカイル殿下のこちらを探るような目がこわいのですが!!
私は、辺境伯様と王様の取り決めで光魔法のことは伏せて頭の賢さで養子になったことになっている。そんなに頭良くないのに⋯⋯五歳児だからそう見えるのだろう。
そう考えるとカイル殿下って凄すぎる。純粋に六歳か七歳なのに聡明すぎないか!?私は恥ずかしくなってきた。
「 皆さま大変長らくお待たせいたしました。間も無く、新郎新婦が会場に参ります。皆さま席にお戻りください 」
司会者の声が会場に響き、人々は席につきはじめる。私もコルマさんと一緒に席にもどらなくては。
「 では殿下達、また後で⋯⋯ 」
コルマさんがそういうとライル殿下も「 後でな、絶対だぞっ!! 」 と私達に言ったあと席に戻っていった。コルマさんも歩きはじめる。私はその後をついて行こうとした──。
「 弟を傷つけたら許さないからね 」
──はっと、驚いて後ろを見るとカイル殿下が燃えるような目でこちらを見ていた。口だけがにっこりと笑っている。だがすぐにライル殿下を追いかけて行った。
「 アリア、どうかした? 」
「 ⋯⋯いえ、なんでもありません⋯⋯ 」
どうやらコルマさんには聞こえていなかったらしい。私もコルマさんに慌ててついて行く。
「 そんなに慌てなくて大丈夫だよ。ほら、手を繋ごう 」
私は手をとり席に戻りながらあることに気がついた。
カイル殿下といえばあのゲームの攻略対象のカイル様で間違いないだろう。ライル殿下は、私のゲームプレイ過程では出ていなかったが、ゲームジャケットの絵にはそれらしき人がいた気がする。
そしてあの私に対する牽制から察するに⋯⋯。
「 主人公に甘かったのは、弟に近づけさせない為だったんだ⋯⋯!! 」
私は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。