お昼について
朝、教室の自分の席に着くと、珍しく早い時間にいたデレクが私に近づいてきた。
「 おはよう、アリア 」
「 あっデレク、おはようございます 」
デレクを見ると、また何とも言えない切ない表情である。
現時点で私と彼とはそんなに関わりがないと思うのだが、昨日や今日の様子を見るに、彼は何か知っているのかも知れない。
それとも、私の髪色から勘づいたか⋯⋯。まあ、別にバレても特に問題は無い。
私はもうユリアーテ家に保護され養子になり、学園にも通っている。今からアスリース家に保護をされる事はないだろうし、私も戻る気はない。
「 あのさ、今日昼飯一緒にどうだ? 」
「 昼ですか? 私の友達も一緒にいても大丈夫なら良いですよ 」
「 ああ⋯⋯、わかった。場所は決まってるのか? 」
「 あの東棟にある人気の無い中庭です。日当たりは悪いですが、落ち着いた雰囲気で好きなんです 」
あの勝負の前に男装をするようにエラに勧められた、あの中庭の事である。
私はあの中庭を昼食の場所として頻繁に利用している。食堂やその近くの中庭は人気があり、注目を集めるのであまり利用はしていない。
何故なら私の友達は、ゲームの攻略対象者である美形ばかりだからだ。
自分から近づくつもりはなかったが、現在偶然にも多くの攻略対象者が友達になってしまっている。もちろん彼らは女子生徒からの人気が高く、常に注目の的である。そんな彼らと友達である私は妬みを買い易く、それを回避する為にはあの中庭は最適だ。今のところはだけれど⋯⋯。
しかし私は、彼らと女子生徒に妬まれる様な関係では全くない。私はゲームのヒロインとは違い、ぶりっ子ではないので彼らの女性の好みには当てはまらないのだ。その証拠にみんなゲームみたいに甘い言葉をかけてはこない。それどころか、まるで男友達のように扱ってくる節がある。
エラや、時々カイル殿下が連れてくるアナべラスさんは、彼らに貴族令嬢として扱われている。だが、私に対しては何か違う気がする。
例えば、エラやアナべラスさんには最近流行りのお店の話や季節の花の話を振るのに、私に対しては強かったモンスターや魔法による災害対策の話を聞いてくる。貴族令嬢に聞く事ではない、おかしい⋯⋯。
おかしいと言えば、悪役令嬢であるアナべラス嬢もだ。私をじっと見ている事はあるが、ゲームの様に高飛車ではないし、平民育ちだと笑ってもこない。もしかすると、私と同じ転生者なのかもしれないと思い始めている。
しかしなかなか二人きりになる事も無く、真相は聞けず仕舞いである。それに私はゲームを少ししかやっていないので、アナべラスさんがどういった人物なのかをよく分かっていない。高飛車という設定であったが、ヒロインのぶりっ子の印象が強すぎて、アナべラスさんの事については序盤のお茶会イベントくらいしか覚えていないのだ。
「 考え事か? 何か悩みがあるなら、相談に乗ってやるけど 」
ああ、そういえばデレクと話している途中であった。つい考え込むとボーっとしてしまう。いけない、いけない。
「 大丈夫です。昼食の事を考えていただけですから 」
「 ふはは、なんだ。深刻そうな顔して、食いもんの事かよ⋯⋯ふふ 」
デレクが楽しそうに笑っている。
食いしん坊と思われたのは不本意だが、人を笑顔に出来るのならそれも良いだろう。先ほどの切なそうな顔よりずっと良い顔だ。
「 じゃあ昼休みにあの中庭でな 」
そう言うと、デレクは教室の後ろの方へ戻っていった。ちらりとそちらを見てみると、デレクが良くいるチャラそうな集団の女子生徒数人に睨まれた。怖い。
デレクも眉毛がキリッとしているイケメンなので、一部の女子生徒には人気のようだ。もちろん見た目は不良なので、怖がっている女子生徒も多い。
しかし会話して分かったが、性格は全然不良って感じではない。前世の記憶からすると、むしろ好青年である。
「 いつの間にデレク・アスリースと仲良くなったの? 」
隣の席のエラが驚いたように話しかけてきた。
私も良く分かっていないので、答えるのが難しい質問である。
「 昨日エラと別れた後、話しかけられたの。なんでもファントムに間違えられて迷惑してるって 」
「 ええっ!! 正体がバレたの? 」
「 いや、そう言うわけではなくて、取り敢えずその場の嘘でファントムは生き別れの兄だって説明したら、私に責任を取ってもらうって言ってきたの 」
「 えっ責任、何かを要求されたの?! まさか⋯⋯ 」
エラの顔が青ざめたり赤くなったりで忙しい。一体何を想像しているんだろう⋯⋯。
「 名前で呼べって言われた 」
「 何ですってー!! ⋯⋯ってそれだけ? 」
「 うん、それだけ 」
何故かエラが残念そうにしている。恋愛小説が好きなエラの事である。きっと何かそっち方面の想像をしたに違いない。
「 でも家族以外の異性を名前で呼ぶって、一部の硬派な恋愛感の人達にとっては特別な事らしいから、好かれてはいるんじゃない? 」
「 んー? なんか恋愛とかではないんだよね。何というか、上手くは言えないけど⋯⋯ 」
「 つまんないわね。少しくらい妄想させなさいよ 」
やはり、人の恋愛話で妄想する気だったか。油断出来ない奴め。次はこっちが聞いてやろう。
「 そう言うエラは最近はどうなの? 」
「 私は今、グレン様一筋なの 」
エラが顔を赤らめ照れている。
誰が見ても恋する可憐な乙女だ。しかし、エラの言うグレン様なる人物は実在しない。何故なら彼女が最近はまっている小説に出てくるイケメン騎士の名前だからである。
私は別の世界に入ってしまったエラを横目に一限目の準備を始めたのだった。
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