見えない火花
私の目の前にいるのは、一緒のクラスのデレク・アスリースだ。
ゲーム知識としては彼が私の従兄妹であり、赤ん坊の時にアスリース伯爵が私とすり替えた事を知っている。
だが、今のユリアーテの養子になった私はそれを知っていたらおかしい。知らない振りをしなくてはいけない。そして彼も真実は知らないはずである。
何故彼が私の後ろを付けてきたんだろうか。もしかすると、ただ行く方向が一緒だっただけかも知れない。そうなら、あんな刑事ドラマみたいに振り返ったのが恥ずかしい。
デレクの表情をよく見てみるが、よく分からない。怒っている様な、それでいて嬉しそうな、不思議な顔だ。迷子の子供を見つけたお母さんの様である。
驚いてはいないので、偶然にも同じ方向に歩いていたわけではないだろう。
会話をするのは初めてだが、勇気を出して話しかけてみよう。
「 ええっと⋯⋯私に何かご用ですか? 」
「 お前のせいで俺はもの凄く困っている。はっきり言って迷惑この上ない 」
私がいつ彼に迷惑をかけたのだろう。皆目見当がつかない。現在私と彼との共通点は髪色くらいしかないのだが。
「 すみません、理由を教えていただけますか? 」
「 ロドアが俺に付き纏ってくる。どうやら他のピンク髪の奴と間違えてるみたいでな、学園でピンク髪なんて俺の他にお前しかいないだろう 」
こいつ、もしや私がファントムだと気づいたのか。フランやライル殿下も気づかなかったのに、何て勘の良い奴め。
そしてやはり髪色が原因だったか。ここは謝っておこう。
「 それは、すみません。まさか私がそんな風にご迷惑をお掛けしているとは、つゆ知らず⋯⋯ 」
「 ⋯⋯え? 」
素直に謝ったのに、デレクはいまいちピンときていない様な、意外そうな顔で驚いている。
もしかして私自身がファントムだとは知らずに、私の親戚か何かだと思っているのだろうか⋯⋯。それなら都合が良い、そういう設定でいくか。
「 ファントムは、私の生き別れの兄なんです 」
「 ⋯⋯え!? それは⋯⋯俺だろ 」
「 ん? 今、何て言いました? 」
「 いっいや、何でもない。そっそいつのせいで迷惑をしているんだ。責任を取って貰う 」
「 責任ですか? 」
一体何を要求されるんだろう⋯⋯。先ほどから会話がいまいち噛み合っていない気がするし。
「 そいつからロドアに説明させろ。俺はファントムじゃないってな。⋯⋯それと迷惑料としてお前には俺の言う事を聞いて貰う 」
「 ⋯⋯はあ? 前半は良いですけど、後半はモンスター退治や決闘代行ですか? 」
「 そんな事、お前みたいな令嬢に頼むわけがないだろう! 怪我をしたら大変だ!! 」
真剣な表情で否定をされた。少なくともフランと違って私の事を貴族令嬢として扱ってくれている様だ。まあ、私の真の力を知らないだけだろうが⋯⋯。
「 なら私は、何をすれば良いんですか? 」
「 ⋯⋯俺を⋯⋯俺を今日から名前で呼べ 」
「 ⋯⋯それだけですか? 」
「 それだけだ 」
「 それくらいなら⋯⋯。分かりました、デレクさん 」
「 ⋯⋯さんは要らない 」
「 はい、デレク 」
私が名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに頷いている。最初は怒っていたはずなのに、何を考えているのか謎である。
そう言えば私が男性で呼び捨てにしているのは、コルマさんだけだ。⋯⋯フランやロドアは心の中だけ呼び捨てだけど。
そう考えていると、よく聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。
「 アリア、帰りが遅いから迎えに来たよ 」
屋敷方向から歩いて来たコルマさんが、自然と私の右手を取った。顔は笑っているが、オーラが黒い。
コルマさんの後ろに立っている従者のリセリオさんが苦笑いをしている。これは相当心配をかけた様だ。レストランで予定より長くお喋りをしたから、帰るのが予定より遅くなってしまったので仕方がない。
「 心配をかけてごめんなさい。コルマ 」
反省して俯くと、コルマさんは手を取った方と違う手で頭を優しく撫でてくる。
「 さあアリア、僕らの家に帰ろうか 」
「 うん、帰ろう 」
帰る前に別れの挨拶をするために、私はデレクの方を見た。
すると、デレクは先ほどまでの顔と違い、明らかに激しい怒りを感じる表情でこちらを睨みつけていた。
「 私はこれで失礼します。また明日、デレク 」
私が別れの挨拶をすると、彼はにっこりと笑った。
「 ああ、また明日。⋯⋯アリア 」
挨拶もした事だし屋敷に帰ろうとしたら、今度はコルマさんが怒りの表情でデレクを睨みつけだした。
二人の間に見えない火花が散っているようだ。
知り合いだったのかな? 不良だから先生とは対立しているのかも知れない。
私がわけも分からずおろおろしていると、リセリオさんがコルマさんに話しかけた。
「 コルマ様、そろそろ⋯⋯ 」
「 ああ、そうだな。デレク・アスリース、また学園でね 」
「 ⋯⋯ふんっ 」
ぎすぎすしている。空気が悪い。
私はひとまず睨み合いを終わらせたリセリオさんに尊敬の眼差しを向けた。流石リセリオさん、良く分からないが助かった。
そして何故か、そんな私を見たコルマさんとデレクが今度は一斉にリセリオさんを睨みつけた。
胃のあたりを押さえて涙目のリセリオさん。
デレクと別れ、色々あったが屋敷には無事に帰ることが出来た。
余談だが屋敷に帰った後も、少しの間リセリオさんに対してのコルマさんの当たりが強かった。
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