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ロドアVSファントム



 現在、模擬試合場の真ん中で、対戦相手の不良ロドア・ガモフに睨まれている。

 普段であったらびびってしまうだろう鋭い眼光だ。だが、今の私はファントムである。こんな事に狼狽える私ではないのだ。


「 絶対に本名じゃないだろ⋯⋯ 」

「 私の名は私が決める。私はファントム。私自身がそう言っているのだから、それは変わらない真実だ 」

「 ⋯⋯確かにそうだな 」


 ロドアが感心した様に頷いている。

 何とか誤魔化せたようだ。私の巧みな話術のお陰に違いない。だがまだ油断は出来ない、マスクを外せとか言われたら大変だ。それも何とか誤魔化さないといけない。

 私がそんな事を態度には出さずに考えていると、依頼主であるフラン・ジルベールがこそっと近づいてきて耳打ちしてきた。


「 君は、アリアの知り合いかな? 」

「 ああ、そうだ。彼女の代わりに勝負する。代理人の代理人だ。そもそも、あんなか弱い女性にこんな勝負の代理人をやらせるなんて信じられないよ、私は 」


 ファントムの姿で、依頼された時に女性にカウントされていなかった事を抗議しておく。私も女性だ。例え素手で木がなぎ倒せたとしても。


 言われた方のフランは、曇りのない瞳で私を見て

きょとんとしている。


「 ⋯⋯か弱い? 」

「 ⋯⋯まあ、良い。フラン殿、君とは少しばかり意見の相違があるようだ。だが、私は受けた依頼はきっちりこなすつもりだ。信頼したまえ。それから、ここは危険だ。君はあの関係者用の席で見学していると良い 」

「 わかったよ。信頼しているよ、ファントムさん 」


 フランは関係者席に向かっていった。

 自分で言っといて何だが、信頼するのが早すぎる。こんな怪しい仮面男の言う事をすぐに鵜呑みにするのはどうかと思う。簡単に詐欺師とかに騙されそうだ。

 私は、もう一度ロドアに向き直った。

 ロドアが勝負の説明を始める。


「 もうすぐ16時を知らせる鐘が鳴る。鳴ったと同時に勝負を始める。武器なしの素手での勝負だ。わかったか? 」

「 身体強化は反則に入るか? 」

「 身体強化? なんだそれ? 」


 そうか、ほとんどの生徒は光魔法や闇魔法が使えないから身体強化を知らないのか。学園で教わるのも三年生になってからなのだろう。

 ちなみにロドアは、二年生だ。コルマさんに貰った資料に書いてあった。家庭菜園にはまっているのも資料から知った。カッコつけて何でも知っていると言ったが、全てコルマさんのお陰である。


「 自分の体を魔法で強化する事だ 」


 家庭教師の話では、光魔法や闇魔法が使えても、絶対に身体強化が使えるわけではないらしい。力の調整が難しく、下手をしたら自分の体を傷つけてしまうようだ。

 私は小さい頃から使っていたから難しさがよくわからない。大地の使いさんによると、私が “ 大地に愛される乙女 ” だから、自然に使いこなせているそうだ。非常に便利で助かっている。


「 素手で戦うなら別に良い 」

「 ありがたい。では、鐘が鳴るまで少し距離を取ろう 」


 私達は、向かい合ったまま10メートルくらい離れた。鐘が鳴ったら勝負が始まる。

 騒ついていた観客席も静まり返り、私達を固唾をのんで見つめている。


 ──ゴーン⋯⋯ゴーン⋯⋯


 鐘が鳴った。

 同時に厳ついロドアが、私に向かって突っ込んでくる。一気に拳の当たる範囲まで近づき、鍛えられた腕を振り上げた。


 ──バコンッ


 ロドアの岩のような(こぶし)を私は片手で受け止めた。勢いで砂埃が舞っているが、私自身の位置は何一つ変わっていない。

 信じられないといった顔のロドアと目が合う。


「 お前、やるじゃねーか⋯⋯ 」


 何だか楽しそうだ。見たまんま拳で語り合うタイプの男だな。


「 ロドア・ガモフ、なかなかの拳だ。だが、私には勝てない。私はファントム。生きる(まぼろし)。幻に勝てる人間など存在しない⋯⋯ 」

「 ふんっ、俺がその一人目になってやるぜ 」


 まずい、これは長引きそうだ。

 私は元々、彼をぼこぼこにするつもりはない。強すぎて変な奴らに目をつけられても面倒だし、良い感じに体力を使わせてから、降参させるか気絶させる計画だった。

 それまで五分五分で戦っているように振る舞わないといけない。演技の腕の見せ所だ。


「 今度は、こちらから行かせてもらう 」

「 かかって来い! 」


 ──バコッ


「 次は俺だぁー!! 」

「 ふっ、まだまだだな 」


 私はそれからロドアの体力が尽きるまで、ぎりぎりで戦っている振りをし続けたのだった。



お読み頂きありがとうございます。

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