学園の怪人
授業に集中出来ずに放課後になってしまった。
放課後までの間にも、噂は広がっていた。非常にまずい。依頼を引き受けた時は、こんなに目立つとは、思っていなかったのだ。
不良らしく、校舎裏とか河川敷でひっそりと対決するのだと思っていた。まさか、学園の模擬試合場でするなんて⋯⋯。
模擬試合場は、魔法や剣の練習に使う場所である。ただの練習場とは違い、試合をするのに適しており、コロシアムの様に観客席まである。この様子では、沢山の観客が来そうだ。
私は重い腰を上げ、席から立った。すると、隣のエラがこっそり話しかけてくる。
「 アリア、ちょっと来て 」
「 はい? 」
エラに引かれて、学園の中庭の一つに連れて行かれた。そして近くに人のいない場所の、木の陰に二人で隠れる。
「 どうしたの? 」
「 これっ、用意したのよ! 」
そう言って、エラが差し出したのは、白い仮面だった。仮面舞踏会とかでつける、目の周りを隠すやつだ。
「 あんまり目立ちたくないんでしょう。これでバッチリよ! 」
「 そうかな? 」
こんな物を学園でつけていたら、余計に目立ちそうなんだが。
私が仮面を持ち、悩ましい顔をしていると、後ろから足音が近づいてくる。
振り向くと、一人の男子生徒がいた。ふわふわの茶髪を肩まで伸ばし、中性的で可愛い容姿の男子生徒。
あの、歌が上手いルーカ様だ。今もライル殿下とは、仲が良いので、たまに私の家に来て一緒に遊んだりしている。
「 久しぶりです、アリア嬢 」
「 何で、ルーカ様が? 」
「 私が呼んだのよ。ルーカ様は、今、演劇部に所属していてね。衣装を用意して貰ったわ 」
「 今日の昼にいきなり言われたから焦りましたよ 」
ルーカ様の手には、布のカバーがされた何かがある。それが衣装なのだろう。
ちなみにルーカ様が演劇部に入ったのは、あのごっこ遊び以来、演技にはまってしまったからだ。歌も上手いし、演劇部部長からは期待されている様だ。
私は、気になる事をエラに質問した。
「 何の衣装ですか? 」
「 学園では、フランの代理が、彼に誑かされた女子生徒って話題になっているわ 」
「 ゴリラ女の話でしょ 」
「 そうよ。だから、この衣装で男装するの。顔は仮面で隠せば、誰もアリアだとは気づかないわ 」
エラとルーカ様が、私を励ますように見つめてくる。
安心しかけたが、私はある事を思い出した。
「 でも、朝、フランに校門前で話しかけられたよ。その時、聞いていた人が、私が依頼されたゴリラ女だって広めているかも⋯⋯ 」
「 大丈夫よ。私も離れたところから見ていたけど、フランは、アリアが代理人とは一言も言っていなかったわ。それに周りの女子生徒には、アリアに勝負を見に来て欲しいと誘っているようにしか聞こえてないわよ 」
確かに、よろしくとは言われたが、私が代理人とは言われていない。ぎりぎり大丈夫か。
「 アリア嬢、時間がないです。近くの更衣室で着替えてきてください 」
ルーカ様が私に衣装を渡してくる。
私は二人に促されて、急いで更衣室に向かった。
衣装は、白に金糸で刺繍が入った、男性用の貴族の礼服だった。まるで、白馬に乗っていそうな衣装だ。
「 着替えたけど⋯⋯ 」
私は、ゆっくりと更衣室から出た。自信なさげに、二人を見る。
「 似合っているから、もっと自信を持って!! 」
「 そうです、アリア嬢! 君は今から謎の男です。颯爽と現れて、悪を挫くヒーローになるんですよ!! 」
「 ⋯⋯謎の男 」
二人の熱血な応援を受けて、私はやる気が出てくる。
今から私は、謎の男。学園に潜む怪人。
オペラ座の怪人は、黒い衣装のイメージだが私には関係ない。闇に紛れる必要がないからね。
私は、ゆっくりと白い仮面を装着した。そして、前を向く。
「 二人共、今から私の事は、ファントムと呼びなさい 」
「 かっこいい、ファントム!! 」
「 頑張れっ、ファントム!! 」
私は、二人の声援を浴びながらマントをひるがえし、颯爽と模擬試合場へと向かった。
自分の髪が、目立つピンク色だということをすっかり忘れて⋯⋯。
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