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ごっこ遊び



 ライル殿下達がユリアーテ家の屋敷に滞在するようになってから、私は彼らの相手をするようにと、ダリオン様に言われていた。歳が近いし交流しやすいという考えだろう。

 私達が広い庭で遊んでいる間、コルマさんは見える所でベンチに座って本を読んでいる。殿下もいるので、危ない事をしないように監視してくれているようだ。


 私達三人は今日も庭で何をして遊ぶか相談中である。


「 モンスターごっこにしよう!! 」

「 それは、昨日しましたよ。ライル殿下 」


 私は、ライル殿下の意見をすぐさま却下した。モンスターごっこだと、私の迫真のモンスター役がはまり過ぎてしまう。昨日は結局夕方まで色々なパターンのモンスター役をやらされ、疲れ果てた。動き回って疲れた訳ではなく、演技に力を入れ過ぎて疲れたのだ。

 私は、今まで一度も意見を出していないルーカ様を見つめた。


「 ルーカ様は何かしたい事はありますか? 」

「 俺は、そうですね。⋯⋯歌とか 」

「 歌〜!! 歌ってあの歌ですよね!? 」


 私は驚愕の表情でルーカ様を見た。私に歌わせるなんて、勇気のある行動だ。ルーカ様は私の歌の酷さを知らないから当たり前か。


『 ⋯⋯なんて勇気のある少年だ 』


 私にだけ聞こえる、大地の使いさんの声がする。自分で言うのはいいが、人に言われるのは何だか不服である。私は嫌そうな顔をした。


「 ルーカは歌が上手いからな。りんご女はどうだ? 」


 ライル殿下よ、私の反応と顔でわからないのか?


「 歌は、聴く専門ですかね 」

「 つまり、下手ってことだな 」


 何だか、ライル殿下がストレートな言葉で殴ってくるな。まぁ、当たっているが。

 ルーカ様が申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。やめて、余計に悲しくなるから⋯⋯。


「 じゃあ、私は推しの歌手を、行きつけの小劇場 兼 酒場に、応援しに来た客の役をやります 」

「 すごく、具体的ですね。そういう所には入れない年齢なのに詳しいし⋯⋯ 」


 ルーカ様に訝しげな目で見られてしまう。ロールプレイングゲームでありがちなシーンを言っただけなのだが。十歳くらいの少女が知っていたら変かな?


「 俺様は小劇場 兼 酒場の店主の役をやるぞ 」

「 ライル様が良いのならやりましょう。じゃあ、俺は⋯⋯歌手をやればいいんですね 」


 私はすぐに近くの木の椅子に座った。ライル殿下が私の正面に立って、手でグラスを磨く動きをしている。ルーカ様は状況について行けず、あたふたと私達を見ている。


「 店主、お勧めを一杯頼むよ 」

「 はい、俺様にお任せください 」


 ライル殿下が何かと何かをグラスに注ぐ。そしてそれを静かに私に差し出した。勿論、実際にはグラスは無い。


「 お客様の髪色と同じ、ピンクのお酒です 」

「 ⋯⋯ふふ、ありがとう。ごくりんちょ、美味しい。流石(さすが)、店主だ 」

「 ありがとうございます 」

「 今日は客が随分と多いね 」


 私はユリアーテ家の庭を見渡す。勿論、客など一人もいない。


「 本日は、当店一番人気の歌手が歌いますから。お客さんもそれが目的では? 」

「 ⋯⋯ふふ、知っているだろ? 私は彼女が初めて店で歌った時から応援しているのさ 」

「 ⋯⋯えっ!! 俺は女の歌手役ですか!? 」


 雰囲気を壊すルーカ様の声が響きわたる。私とライル殿下はそれを華麗に無視し演技を続ける。


 ちなみにルーカ様は女の子のように可愛らしい。ふわふわ茶髪に黄色い大きな瞳、長いまつ毛。ゲームでは、 “ 可愛い枠 ” の攻略対象であった。正直言ってヒロインの私より可愛い。


「 そろそろですね。⋯⋯ルカ子、出番だぞ 」

「 ⋯⋯こほん、みなさん。お待たせ致しました。今日はお越しくださり、ありがとうございます 」

「 ルカ子ちゃーん!! 愛してるよー!! 」


 ───ガタンッ


 突然、音がした方を私達三人は見た。コルマさんが立ち上がりこちらを見ている。彼の後ろには、ベンチが倒れていた。そして笑顔でこちらに歩いて来て、私の前で立ち止まる。



「 お客さんの役は僕がするよ 」

「 えっ、コルマが⋯⋯ 」


 コルマさんは呆然とする私を椅子から立ち上がらせて、自分が座る。

 ⋯⋯そんなに、この役がやりたかったのか。


 



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