影の守護者
「 そういえば今日は良い天気ですね 」
「 突然だな⋯⋯ 」
私は、無理やり髪の話から遠ざけるため天気の話をした。その話を聞いた三人は窓から外を見ている。
「 ⋯⋯曇っているな 」
「 ⋯⋯曇ってるぞ 」
「 ⋯⋯曇ってますね 」
「 良い具合に曇ってるってことです。⋯⋯そろそろお昼の時間ですね 」
三人に一斉に訝しげな目で見られた。まずい、無理やりすぎたか⋯⋯。気まずい空気の中、颯爽と廊下からコルマさんが現れた。
「 もうテラスに食事の準備は出来ていますよ。お久しぶりです、殿下。ルーカも元気だったかい? 」
コルマさんがお客様二人に挨拶をしている。この感じだとルーカ様とは既に結構親しそうである。
「 ああ、久しいなコルマ 」
「 俺⋯⋯私は、元気です。コルマさん 」
「 ふふ、この家に何日も滞在するんだろう、大丈夫かい? 殿下、ルーカにここにいる間は気を抜いていい許可をくださいませんか? 」
「 俺様もここに着く前から気安く接してもいいと言っているんだが⋯⋯。ルーカは真面目だからな 」
何やら、話を聞くかぎりルーカ様はかなり肩に力が入っているらしい。表情を見ると緊張しているようで、ちらちらとダリオン様を窺っている。私もダリオン様をなんとなく見てみたら、目が合った。すると、私にぱちんっとウインクしてくる。任せろってことだろうか⋯⋯。
「 私も、殿下とルーカにはこの屋敷に滞在する間は家族のように接して貰いたいと思っている 」
「 ⋯⋯ダリオン様!! 」
ルーカ様がダリオン様に憧れと感動の眼差しを向けている。私がそれを不思議そうに見ているとライル殿下がこっそり教えてくれた。
「 ルーカは、ダリオンが学生時代に書いた魔法学についての論文を読んでから、大ファンでな。今日ここに来るまでもずっと緊張していたんだぞ 」
「 なるほど、そういう理由があるんですね 」
私達は少し打ち解けたところでテラスに向かおうとした。そこで、私はふと気づく。
「 そういえば、お二人の護衛の方達はいないんですか? 馬車も王族の使うものではありませんでしたし 」
「 護衛ならいるぞ。俺様達の見えるところにいないだけだ。馬車については、王族用のものに乗ってきたら襲ってくれと言っているようなものだぞ 」
「 えっ!! 見えないところに⋯⋯ 」
私は周りをきょろきょろと見回す。だが私達と、この屋敷の使用人以外に誰もいない。すごい、忍者だ。私は内心わくわくしながら周りをもっと良く観察する。それでも見つけられず、少し狡いが光魔法で感知を行い周囲を調査する。
「 ⋯⋯え!! 」
私は、目が合ってしまった。先ほどまで私が隠れていた高そうな壺の中から覗く二つの目と⋯⋯。あっ、ちなみに私が影に隠れていたくらいなので、壺は人間が中に入れるくらい大きい。感知の魔法を使うまで全然気づかなかった。私もまだまだ修行が足りないな⋯⋯。
「 アリア、もうみんな行ってしまうよ。おいで 」
「 うわっ!! ごめんなさい、すぐに行くっ 」
私は慌ててコルマさんの後に続いた。気になってもう一度ちらりと壺を見たら、もう目は覗いていなかった。すごい、本物の忍者だ。屋根裏じゃなくて壺なのか⋯⋯。壺に隠れる忍者、⋯⋯壺忍だ!! 私はこれから殿下の護衛さんをこっそり壺忍と呼ぶことにした。
何か技とか教えて貰えないだろうか。忍系クールヒロイン、⋯⋯如何にも無口ですって感じだ。いや、この目立ち過ぎる髪色では忍者は無理か。髪の毛ピンクの忍者とか完全にお色気要員だ⋯⋯。
そんな事を考えていると、横からため息が聞こえてくる。
「 ⋯⋯はぁ、仕方ないなぁ 」
コルマさんが考えに耽る私の手を取り、歩き出す。
すみません、いつまでも子供のようで⋯⋯。前世から数えると精神年齢は、かなりいってるはずなのに情けない。コルマさんの横顔を見ると少し頬が緩んでいる。私、笑われてる。
私は、キリッとした表情でもっとしっかりしようと、心で誓った。そして、その表情のままでテラスへ向かったのだった。
「 ⋯⋯まさか、俺の隠密がばれるとはな。⋯⋯あの少女、一体何者だ? 」
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