騎士と妖精
「 うわぁー!! モンスターの群れじゃー!! 」
「 誰か、助けてー!! 」
「 うわーん!! おかあさーん!! 」
ユリアーテ辺境伯領の、とある街にこだまする人々の恐怖の叫びが聞こえる⋯⋯。
「 皆、大丈夫だ!! 僕らの後ろに隠れるんだっ!! 」
「 ⋯⋯私達に、任せなさい 」
そこに颯爽と現れる二つの影。
一人は黒に近い紫色の髪の美青年。妖しくも知的な印象を受ける整った顔をしている。黒い騎士服を身にまとい、背中には外側が黒く内側は紫のマントが揺れている。マントの内側にはユリアーテ辺境伯の家紋であるスミレのような花の紋章が刺繍されている。
「 コルマ様だ!! ユリアーテ家のコルマ様が来てくださったぞ!! 」
「 ならもう安心じゃな⋯⋯ 」
「 きゃー!! 素敵ー!! 」
人々の安堵の叫びがこだまする。
その間にもコルマさんは次々と敵の昆虫のモンスターを倒していく。
防護の魔法のかかったマントで敵の攻撃を躱しながら、銀色に輝く長剣で斬り伏せていく姿は凛々しくも美しい。
そして現れたもう一人の正体は⋯⋯。
どうも私です。アリア・ユリアーテ でございます。もう少しで十歳になります。つまりコルマさんは十五歳になりますね。
今日、私達はモンスターの群れの目撃情報のあった場所の調査に来ていた。するとちょうど街を襲っているモンスターの群れに出くわしたというわけだ。
「 なんだ? あそこに妖精が舞っているぞ!! 」
「 本当だ!! 妖精だ!! 」
「 お前ら違うぞ。あれはアリア・ユリアーテ様だ 」
実に恥ずかしい思いである。私は動きやすい白い服の上に踊り子のような透けたひらひらの服をまとっている。
私は横に回転しながら宙を舞い、飛んでいる蜂のモンスターを倒していく。そのたびに薄い桃色や紫色の綺麗な布が舞う。薄桃色のポニーテールにした髪も動きに合わせて揺れて妖精のように見える⋯⋯らしい。
最近は “ ユリアーテの妖精 ” などと呼ばれはじめていて顔から火がでるほど恥ずかしい。
最初はただの黒い騎士服を着ていたが、エレーナ様の 「 可愛くない。どうしても戦うというのなら可愛い服を着てください 」 の言葉で用意されたのがこのひらひら衣装である。ちなみにこの服も防護の魔法がかけてあり、モンスターの体液で汚れたりはしない。
私が最後の蜂のモンスターを倒す頃には、地面にいるモンスターは一掃されていた。
地に降り立つ私のもとにコルマさんがやってくる。そして華麗に受け止めると優しく私に微笑みかける。
「 怪我はない? 妖精さんっ 」
「 やめて!! コルマまで妖精呼びは!! 」
私は顔が熱くなるのを感じながらコルマさんの腕から降りる。何年か前にコルマさんに 「 二人のときは気軽に話してほしい 」 と言われて敬語はやめた。
「 ユリアーテ家の方々、本当にありがとうございました。後の処理はこちらに任せてください 」
「 ああ、わかった。後は任せた 」
周りで戦っていたこの街の在駐の騎士にコルマさんが笑顔でかえす。心なしか騎士の頬が赤くなっている。気持ちはわかる。コルマさんに見つめられると自分からは目が離せなくなってしまうのだ。
うんうんと頷く私にコルマさんが話しかけてくる。
「 今から何か甘いものでも食べに行こうか? 」
「 甘いもの!! ⋯⋯あっ⋯⋯こほん。甘いものはあまり好かない 」
「 うん。じゃあ甘いものを食べに行こう 」
コルマさんは私の手をとるとこちらに最上の笑顔を向けてくる。
「 じゃあ行こうか。僕の妖精さん⋯⋯ 」
「 ふがあっ!! 不意打ちとは卑怯なり!! 」
私は恥ずかしさに我慢ができず、コルマさんの手を離して先に走り出す。
「 アリアー、一人で走ったら危ないよー!! ⋯⋯⋯⋯少しやりすぎたかな 」
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