辺境伯子息の想い
大好きだった祖父は僕を庇って殺された。
強い方だった。剣も魔法も、心も⋯⋯。
僕がいなければあれくらいの刺客に遅れはとらなかっただろう。それくらい強くて、格好良くて、───
───大好きだったんだ。
祖父が目の前で亡くなってから、僕は家族を失う恐怖に日々怯えていた。人はいつか亡くなるとわかっていてもどうしても頭から離れてくれない。
今日大丈夫でも明日は⋯⋯。その次は⋯⋯。
神様どうか家族を守ってください。僕にはまだそれだけの力がないんだ。どうか⋯⋯どうか⋯⋯。
そんなことを思っていたある日、姉上の結婚準備のためカリオルト侯爵領に着いて行った。行きは無事にたどり着けた。カリオルト侯爵もとてもいい方でこの方なら姉上と幸せに暮らしてくれるだろうと安心した。
でも、帰り道。もうすぐで家に着くといったところで黒い装束の男達に囲まれた。やつらは手練ればかりで、毒を使っており護衛のほとんどがやられてしまった。
ガルドは跡取りの僕を集中して守っていた。それは両親から言われていることだろうし仕方がない。
母上も魔法で応戦していたがやつらは痛みを感じていないようだった。何か呪術的な嫌な気配を纏っている。
「 ナーミア!! 危ないっ!! 」
「 ⋯⋯お母様!! 」
やつらは戦いが得意ではない姉上ばかり狙っていた。母上は姉上を庇ってナイフを受けた。
母上の水色のドレスが真っ赤に染まっていく。僕はその先を考えたくなくてただ佇んでいた。
そしてその子は現れた⋯⋯。
その子は僕の制止も聞かずに黒装束のやつらを次々に倒していった。
僕は思った、彼女は女神様の使いに違いない。僕の願いを聞き入れてくださったんだ⋯⋯。
彼女はその後逃げてしまったけれど、両親は領主である力を使って彼女を見つけ出した。彼女は孤児だった。それを知って僕は彼女の家族になりたいと感じた。
アリアと家族として過ごすうちに、僕は自然と家族の死の恐怖に怯えることはなくなっていった。彼女は表面上はあまり喋らない、正直言って無口だ。
でも一緒にいると頭の中はお喋りだとわかる。黙っていても顔の表情はころころ変わる。すごく可愛らしい。
屋敷の者達もアリアを好ましく思っているようだ。使用人が指に傷ができたりすると彼女がさり気なく光魔法で治しているようだ。彼女はばれていないと思ってるみたい⋯⋯。こんな日々が続けばいいのに。
父上に爵位を一年後に継げと言われた。早すぎると父上に意見した。僕はまだ十歳だ。
そうすると父上は自分の命が長くないと語った。頭が真っ白でついていけない。身体が勝手に震えてくる。嫌だ⋯⋯嫌だ⋯⋯父上までいなくなるのか!!
あまりにも動揺してしまい、アリアなら治せるかもと口にしてしまった。彼女が窓の外で聞いているとも知らずに⋯⋯。
アリアは父上の病気を治すために治癒魔法を使った。病気を治すための魔法は怪我を治すときとは違う。魔法を使った者には代償がある。腰痛や歯痛などは治しても大したことはないらしいが、命に関わる病気の代償は大きい。病気の原因の箇所に一日中死ぬほどの痛みを感じるのだ。
あまりの痛みに死んでしまう者が多い。それくらいの痛みなのだ。それを僕はわかっているくせに五歳のアリアに治してほしいなんて⋯⋯最低だ。
女神様、どうかアリアを救ってください。僕は彼女に守られてばかりの自分を捨てます。僕が家族を守ります。⋯⋯僕が彼女を守ります。
何があっても絶対に⋯⋯。だって彼女が───
───大好きだから。
アリアの部屋の方から不気味な声が聞こえて、僕は急いで彼女のところへ駆け出した。
僕の願いが通じたのかはわからないが彼女は痛みから救われたようだった。
笑顔でこちらに大丈夫だと言ってくれる。彼女は本当に優しい。
「 アリア⋯⋯僕はこれから君を裏切ることは絶対にないと誓うよ。何があっても君の味方だよ。絶対に⋯⋯絶対に⋯⋯ 」
だからもう僕は逃げない。
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