魔法の代償
痛い⋯⋯痛い⋯⋯痛い⋯⋯。
全身が引きちぎられるように痛い。何か考えていないと意識を手放してしまう。でも意識を失ってもすぐに痛みで目がさめる。その繰り返し。
今私がこうなっているのも全部自分で決めたことだ。私は耐え抜く、耐え抜いてみせる。
「 うがぁっ!! くっん⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯っ 」
「 アリアっ!! 僕のせいだ。アリアなら治せるかも
なんて言ったから⋯⋯!! 」
「 コルマ、落ち着きなさい。アリアの負担になるようなことを言ってはいけない。今、私やコルマが自分を責めるようなことを言ったら、優しいこの子はきっと心を痛めるだろう。励ますんだ。心が身体の痛みに耐えられるように 」
「 ⋯⋯父上、わかりました。⋯⋯でもこんなに苦しそうにして⋯⋯一体なんて声をかければいいのか、わからない。頑張れなんて言えない。僕が変わってあげられたら⋯⋯ 」
「 ちょっと何の騒ぎですか!? ⋯⋯ってアリアちゃん!! 」
エレーナ様の声が聞こえる。私が大声を出したからかな。
身体強化をかけても全然効かない。これが病を治した代償なんだ⋯⋯。
「 とりあえず、ベッドに運んであげましょう 」
私は自室のベッドに運び込まれた。身体は変わらず痛いが心が少しだけ落ち着く。
「 がぁっくあっ⋯⋯いたい⋯⋯いたいよ 」
「 アリアちゃん⋯⋯!! 」
エレーナさんが手を握ってくれる。また、心が少し落ち着いた。でも、みんなの苦しそうな顔を見ていると痛みに集中出来ない。集中していないとより強い痛みが走るのだ。
「 ⋯⋯エレーナさ⋯⋯ま⋯⋯ひとり⋯⋯なりたい 」
「 ⋯⋯わかりました。でも時々ようすは見にきますからね 」
人の歩く音が遠ざかって行く。
「 コルマ、あなたも出なさい。アリアちゃんの願いです 」
「 嫌だ!! 側にいる!! 離れないっ!! 」
「 そんなに取り乱したあなたがいても負担になるだけです。アリアちゃんを想うなら出なさいっ!! 」
「 うぅ⋯⋯アリアが死んでしまったら⋯⋯どうしよう⋯⋯ひっくっ⋯⋯ 」
コルマさんが泣いてる。この前の結婚式でも泣いていた。普段は大人びているけれど意外と泣き虫なのかもしれない。
でも私のせいで泣いて欲しくない⋯⋯。私はなんとかコルマさんに声をかけた。
「 コルマ⋯⋯、だい⋯⋯じょぶだから⋯⋯痛みに⋯⋯集中する⋯⋯だけ 」
「 アリア⋯⋯ 」
「 ⋯⋯泣か⋯⋯ないで 」
「 ⋯⋯うん 」
コルマさんがダリオン様に背中を優しくさすられながら部屋を出ていく。エレーナ様がゆっくりとドアを閉めた。
私は部屋で一人になった。
─────────⋯⋯⋯⋯
あれからどれだけ時間が過ぎただろう⋯⋯。
痛みに集中してなんとか耐えていると、聞いたことのない声が頭に響いてくる。
『 歌って⋯⋯歌って⋯⋯歌ってくれたら、痛みをとってあげるよ⋯⋯ 』
男性でも女性でもない身体に優しく溶けていくような声。
私は昔からこの声を知っていて、いつも近くで聞いていたと錯覚してしまうような声だ⋯⋯。
『 聴かせて⋯⋯聴かせて⋯⋯大地に歌声を響かせて⋯⋯ 』
私は歌うことを要求されているようだ。⋯⋯だが私は正直言って歌が下手である。私の歌を聴いた前世の三番目の兄は 『 世界の終末が思い浮かんだ 』 と、言っていたくらいだ。
「 痛すぎて、歌えない⋯⋯ 」
私は歌えない理由を痛すぎるせいにした。実際に痛いのだが⋯⋯。
『 じゃあ⋯⋯じゃあ⋯⋯少しだけ、痛みをとってあげるよ⋯⋯ 』
そう頭に響くと私の身体を撫でるように暖かい風が吹く。ここは室内だし窓も開いていない。
なにか見えないものが私を見ている気がする。そんな状況になったら絶対怖いのに、その視線からは不快感を全く感じない。
風が吹き終わると私の身体は自分で歩けるくらいに楽になった。まだじんじんとした痛みはあるがだいぶましだ。
「 どなたか知りませんがありがとうございます 」
『 歌って⋯⋯歌って⋯⋯君だけの歌を歌ってくれたらもっと痛みをとってあげるよ 』
この声は私をどうしても歌わせる気らしい。そんなに言うなら歌ってやろうじゃないか。中学の時に作った私の歌をね⋯⋯。
「 んーあーあー、あえいうえおあお 」
───バフォン
発声練習をしていたら窓がひとりでに開いた。
⋯⋯えっ⋯⋯もしかして。
『 歌って⋯⋯歌って⋯⋯歌声を大地に響かせて⋯⋯ 』
この声、窓から外に向かって歌うことを要求してきたのだが⋯⋯。私のこと好きなの? 嫌いなの? どっちなんだ!!
私は気が進まないが窓に近づく。
「 えー、それでは聴いてください。『 長兄 』。一番上の兄は〜おにぎり余裕で〜20個食べる〜筋トレは〜裏切らないが〜口癖〜リビングの〜テレビで〜プロレスの試合〜─── 」
『 うんうん、続けて 』
私は昔お風呂で適当に作った歌を、“ この声 ” が満足するまで歌わされるのだった⋯⋯。
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