プロローグ
皆さんどうも初めまして、宮野 桜子 改め アリア・アスリース です。
さっそくですが私は今、川に流されています。緩やかなせせらぎの音が聞こえる川ではなく、激流です。
すごく恐ろしいですが、奇跡的に生きています。身一つで流されているわけではなく、自分と同じ大きさの籠に入っています。
ザザァーザザァーゴォーゴォー
「 おんギャァー!!おんギャァー!!ばブァー!!ばブァー!! 」
ザザァーザザァーゴォーゴォー
私はまだ赤ん坊なのです。まさか、こんな歳で急流すべりをするとは思いませんでした。
何故、こんなに落ち着いて思考を巡らせているかというと、私は転生前の知識として、自分が生き残ることを知っているからです。
私はヒロインなのですから。
あの天真爛漫系ぶりっ子ヒロインといわれた⋯⋯。
ザザァーザザァーゴォーゴォー
─────────⋯⋯⋯⋯
「 こ⋯⋯これは、⋯⋯私にはつらい、主人公に感情移入出来ない。⋯⋯男の前と女の前でなんか態度に差がありすぎる。女の前だと毅然としてるのに男の前だと急に弱くなりすぎ⋯⋯ 」
私、宮野 桜子は携帯ゲーム機の画面を見ながら唸っていた。私は、乙女ゲームは有名どころを片手で数えられるくらいしかやったことがない。
これは大学で出来た乙女ゲーム好きの友達からおすすめだと言われたゲームだった。
『 光の癒しと乙女の歌声 』
ゲーム名を見たとき、まぁ王道みたいだなと思った。よくあるなんちゃって西洋風ファンタジー乙女ゲームだった。
やってみたら、主人公がきゃぴきゃぴ系で何故か悪役令嬢の前では強気、天真爛漫という名の自分勝手な発言の嵐。正直言ってゲームプレイが苦行である。おすすめと言っていた友達は、私のことがきらいなのでは?
いや、こんなことを考えているのは、私だけかも知れない。私の心が汚れているから、この子のことを天真爛漫系ぶりっ子ヒロインなどと思ってしまうのだ。
私はそう思い、スッとスマートフォンを出し、検索した。
『 ヒロインがぶりっ子すぎる⋯⋯ カイル様のスチルを全部集めた私を誰かほめてくれ⋯⋯ 』
『 ふっ甘いわね 私は全て制覇した!! 』
『 神!! 神がいる!! 』
『 いや どちらかといえば修行を耐え抜いた仙人 』
『 私は普通に面白かった 男は所詮こんなもん 仙人も私みたいに考えてプレイしたんじゃない? 』
『 流石仙人!! 達観してる!! 』
『 私の仙人呼びを定着させようとするなっ 』
などなど書かれていて。皆、主人公がぶりっ子だというのは感じているらしい。にも関わらずこのゲームが売れているのは、絵がなによりも美しいからだという。美麗イラストをみたいが為にプレイしている人がほとんどだそうだ。
そんなことを調べていると部屋のドアがノックされた。私は実家住みの大学生なので、たぶん母だろう。
───ガチャ
「 どうしたの? お母さん 」
「 いや、それがね。お兄ちゃん達いきなり今日、3人で帰ってくるって電話があってね。冷蔵庫の中だけじゃ足りないから、買い物行って来てくれない? ついでにデザート買っていいから 」
「 デザートにつられるような歳じゃないけど、いいよ。あの3人なら絶対足りないし 」
私には3人の兄がいる、全員体育会系で実に暑苦しい、もちろんよく食べる。1番上の兄などおにぎり20個は食べる。大きめのやつをだ。
お母さんのお願いを聞いて、私はカバンを持ち家を出ようとした。
「 昨日の台風で川の水が増水してるから、近づいちゃだめよ 」
「 だからそんな歳じゃないって、⋯⋯まぁ気をつけるけどさ 」
「 親にとって子供はいつまでも子供よ。じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい! 」
「 はい、行ってきまーす! 」
あの時のお母さんの顔は忘れられない。結果的に私はそのあと、川で溺れている子供を助けるために、川に入り、子供を地面にあげたあとからの記憶がない。きっと溺れて死んでしまったのだろう。
─────────⋯⋯⋯⋯
ザザァーザザァーゴォーゴォー
私はそのあと赤ん坊として前の記憶をもったまま生まれてきた。自分が アリア・アスリース だと知ったのはこうなる前に、私をここに流した侍女が言っていたからだ。
何でも私の今世の母であるアスリース伯爵夫人は、長い間跡継ぎが出来ず思い悩んでいたらしい。義母からも色々と言われいて、心を病んでいたのだ。例えば生まれてくる子供が男でなければ追い出すとか。
だから伯爵夫人は男にこだわっていた。
妻を想っていた伯爵は、妻がこれ以上思い詰めないように、女が生まれてきたら元々養子にするつもりだった男の子と入れ替える計画だったらしい。
そして、生まれてきたのは私、女の子だ。私は従兄弟にあたる男の子と入れ替えられた。
そして私は侍女に連れられ従兄弟の家に馬車で向かうことになった。だが道中、その馬車が賊に襲われ、侍女は追い詰められた結果川に私を投げた。
そう投げられたのだ。死ぬかと思った。
無事だったのは、私が生まれつき大地に愛される乙女というやつだからだ。ちなみにこれはゲーム知識。
私がドドーブラココーン、ドドーブラココーンと川に流されている理由はこれくらいだろうか。
ゲーム通りなら私は助かるはずだが、一体誰に拾われるのだろう。もうだいぶ流された気がする。
私はゲームの序盤も序盤、まだ攻略対象が半分も出ていない時点で転生してしまったので全く知識がないのだ。
とりあえず泣いとくか。
「 おぎゃーす!!おぎゃーす!!ほぎゃん!!ほぎゃん!! 」