表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

第8話:もんすたー?わんだりんぐ

やっと冒険が始まる

「岩、岩、草むら、岩、枯れ木、岩、岩山、草むら、矢印。もんすたーはどこだ」


 広場の外に広がる荒野をぐるりと見渡しても、薄暗いせいで戦う相手が見つからない。


「そもそも戦うゲームじゃない可能性……それはないかな」ファイアボールとかあったし。


 うろうろしながら動く物を探す、空の上の方に鳥はとんでるけど、あれは戦う相手じゃない気がする。

 ……あ、ぴょん、と跳ねるうさぎ的な何かを発見!

 ピンと立った長い耳、小さい黒い瞳、やわらかそうな茶色い毛並み、パッと土埃をまき散らしながら力強く地を蹴る後ろ足、そしてしなやかに揺れる長い鼻……うさぎじゃないかもしれない。


 冒険者ギルドでもらったビギナーロッドを手に近づく。

 強く意識を向けるとピッと照準のような丸い緑色のカーソルがうさぎモドキに灯った。

 いくぞ初戦闘、と意気込み攻撃開始ボタンを押……


【狩猟ライセンスがないので攻撃できません】


 なにそれ聞いてない。


――――――――


 茶色と黒のチェック模様の鹿、全身から葉っぱの生えた蛇、かわいそうなサイ……30分ほどかけて荒野を彷徨い、いい感じに意味のわからないファンタジー的な生き物を見つけては殴りかかろうとしてみたものの、ぜんぶライセンスがどうとか言われて攻撃できない。


「ざんねん、わたしのぼうけんは、ここでおわってしまった」


 まだ始まってすらいないのに。


「冒険者登録だけでは、ダメ? やっぱちゅーとりある?」


 チラリと矢印を見てグーパンチ。

 すりぬけて当たらないので「バシッ」と口で効果音を当ててちょっと満足した。


 さて、どうしよう。

 もうちょっとウロウロするか、あきらめてちゅーとりあるか。


「さっきから、何してンの?」


 矢印をバシバシしながら悩んでいると、後ろから少し呆れたような響きの鼻にかかった声がした。

 ぐいっと首だけひねり視界を後ろに向けると、革製ぽい胸当てをつけて斧を右手にぶら下げた、黒髪ツーテールの少女アバター。


「やじるしを殴るだけのかんたんなお仕事」

「は?」


 何言ってるのこの子、みたいな目で見られた。



「――あぁ、それ魔物じゃないから狩れないよぉ?」


 狩猟ライセンスの話をすると、その少女は「事前情報や説明書どころかチュートリルまでスルーしたら、何もわかンないでしょ」と色々と教えてくれた。

 頭上のネームプレートを見ると【嵐姫・凪宮】という名前らしいけど、なんて読むんだろ。


「【あらしひめ・なみや】、嵐姫って呼ンで、姫ちゃんでもいいよぉ。私はリンちゃんって呼ぶね」


 長い方で呼ばないとダメなんだ。

 あと姫ちゃんは却下、それは私のだ。もしかしてこのひとはライバルなのかもしれない。


「この辺りにいるのはほとンど魔物じゃなくて動物だから、狩るには冒険者ギルドじゃなくて狩猟ギルドに入らないとダメよぉ」

「冒険者は魔王が産み出した魔物や魔族と戦うためのジョブって、オープニングで見なかった?」

「街からもうちょっと離れた所に行けば魔物いるよぉ、案内したげよっか?」


 このゲームには説明してくれる親切な人が多いので、説明書読まなくても大丈夫なことはわかった。


 ちなみに狩猟ギルドはあるけど狩猟ライセンスはまだ実装されてない?らしい。なんだそれ。

 あと、オープニングも見てない。


「案内よろしくおねがいします」

「お願いされたよぉ」


 お互いエモートでぺこりとお辞儀。

 じゃ、着いてきて、と手招きする嵐姫さんの背中を追って駆けだした。


――――――――


「――LV1なら、この辺かな?」


 10分ほど移動した先、廃村、というよりも廃集落と呼ぶのがふさわしい、人気の無い古びた家屋が数軒並ぶ場所に来た。


「こういう廃墟とか墓場とか戦場跡とかに魔物は良くわくよぉ」

「オバケとかゾンビの親戚かな?」

「似たようなもンかもね、ちょっとゾンビっぽいし」


 ほらあれ、と嵐姫さんが目を向けたその先に、さっき見た鼻の長いうさぎが7-8匹群れているのが見える。

 あれは動物じゃ? と目で問いかけると、よく見て、と返された。


「さっきのは茶色だったけど、こっちは、黒い?」

「もっと、よく見て? ちょっとモヤモヤしてるでしょぉ」

「……あ、ほんとだ、煙が出てる」

「煙……ていうか、闇のオーラ、的な?」


 オーラて。嵐姫さんは中二病かもしれない。


「普通の動物が魔族に洗脳?されたのが魔物なンだってさ、設定的に」


 ふんふん、なるほど。要するにモヤモヤしてるのを探せばいいのね。


「ねぇ結構数いるし、どっちが多く倒せるか競争しない? ひとりで突っ込むと死ンじゃうよぉ?」

「嵐姫さん、ファイターでLVも高そうだし、私が勝てるわけないと思う」

「じゃ、30秒待ってあげるよぉ。ほら、行った行った」

「もうっ!」


 ニヤニヤしてる嵐姫さんに背を向けて、武器を手に魔物うさぎに向かって走り出す。

 あ、戦える相手はカーソルが赤いんだ。


「とぉりゃーっ!」


 攻撃ボタンを押し、一番手前の1匹に殴りかかる。

 ギィッ!という悲鳴を上げて魔物うさぎのHPが1/3くらい削れた。思ってたより弱いかも。


 反撃の頭突きを横に回り込んでかわす、他の数匹が私に気づいて向かってくるのもかわしつつ、さらに1撃殴って、あともう少し!


「【ワールウィンド】っ!」


 嵐姫さんのかけ声が響き、突如出現した風の刃が魔物うさぎの群れをまとめて引き裂く。

 塵となって消えていく魔物の前で、武器をかまえたまま呆然と立ち尽くす私が振り向くと、斧をかまえた彼女がこっちを見て「あはははははっ」と大笑いしていた。ひどい。この人はやっぱ敵だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ