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第6話:ちゅーとりある3

 【ストロングアーム・ストロング】という名前のデカい人(長いので心の中で船長と呼ぶことにした)と、雑談を交えながら色々教えてもらう。

 よく使うエモートはコントローラーのボタンに割り当てておくと簡単に使えるらしい。

 でもエモート何百種類もあるのに、割り当てるボタンは8つしかないのですけど?


「それだと結局、ほぼ首から上だけでコミュニケーションとる感じなんですね。コンピューターの人の方が人間的な動きして、人間は機械みたいな動きするとか、ちょっと面白いかも」


 部屋の隅で身振り手振りを加えながら雑談してる2人組に目をやる。

 あれもコンピューターの人だ。名前が表示されてない。


「コンピュー……あぁ、NPCか、よくできてるよね。」


 チラッと同じ方に目をやって応じる船長。

 そうそう、えぬぴーしー。コンピューターの人はえぬぴーしーと呼ぶのだ。知ってたし。


「実はエモートのコマンドって補助機能で、本当は考えるだけで好きな動きをさせられるはずなんだよね。思考リーディングエンジン入ってるから」


 ……ふへ?


「コントローラーの肩の部分に左右2個ずつボタンあるでしょ、その左側の奥のボタンを押しっぱなしにすると思考入力モードになって、頭で考えた動きがアバターに反映される」


 ほぅほぅ、とボタンを押してブイサインのイメージ。


――うん、動かない。


「だまされた。ゆるさない、ぜったいにだ。」

「……はずなんだけど、結構コツがいるらしくて、自由に動かせる人ほとんどいないんだよね」


 試しに左手でボタンを押したまま、現実の自分の右手を実際に挙げてみる。

 やっぱり動かない。


「コツ?」

「うーん、俺も上手くできないんだけど、自分の身体とは別にもう1個身体があって、そっちを動かすイメージ?」


 エモートの自然な動きとは違う、ぎこちない動きで両手を挙げたり下げたりして見せてくれた。


「むぅ、わからない」

「まぁ、できなくてもゲーム遊ぶのには支障ないから、ちょっとずつ練習すればいいよ」


 ちょっとドヤ顔入ってるのが腹立つ。殴りたい、このニヤケ顔。いや、むしろ殴る。


「うぉっ」


 脳内で目の前の顔を殴ったら、同時にゲームの私の身体も動いて右手で殴りかかった。


「――殺意をこめると動く。理解。」

「えぇぇ、何この子怖い……」


 ちなみに本当に殴ることはできないらしく、振り抜いた右手は手応えもなく船長の顔をすり抜けていました。ち。


――――――――


 そのあと音声認識での魔法詠唱や武器の装備の仕方も教えてもらった。

 魔法はメニューから選んで発動もできるけど、音声認識の方が色々便利なんだそう。

 ただしレベルの高い魔法は呪文が長くなる上に、間違えると発動しないから難しいらしい。

 まだサービス開始したばかりだけど、進んでる人はLV20くらいになっていて、短歌くらいの長さの魔法が出てきてるとかなんとか。

 百人一首を暗記する感じかな? ゲームの中でも勉強とかちょっと。


「うーん、クラスはプレイヤーで武器はロッドかぁ」


 ちょっと引っかかる感じの物言い。


「ダメなのです?」

「いや、まぁ、どうせオンラインゲームはシステム更新で色々ガラッと変わるし、好きなように遊んでみればいいんじゃないかな」


 かなり引っかかる感じの物言い。

 えいっ、と、とりあえず殴っておいた。



「ところで、そういえばなんでローアース選んだの?」


 一通りの操作説明が終わった所で、思いついたように尋ねられた。


「たいていの人は、ラウンド王国かティ・ル・グを選ぶと思うんだけど。ここ、洞窟だし」


 自分のことは棚に上げ、「まぁ、ラウンド王国は人気が集中しすぎて入れないらしいけどね」と、付け加えながらも不思議そうな顔をしている。

 また面倒な質問を……。


「それは人気を独占したかったからです」と正直に答えるわけにもいかず、いいわけを考える私。考える。考える。考え……あ、あれっ?


「……こ、工芸の国って書いてたから、綺麗なアクセサリーとかあるかな、って?」

「あぁ、なるほど。」


 適当な理由に納得した顔の船長だけど、私は重大な問題に気づいて内心頭を抱えた


(せっかくhimechanプレイするつもりで始めたのに、私、完全に素で会話してたっ?)


 待って、落ち着いて、冷静に思い返してみよう。


――もしかして説明書を読む世界線の人なんですか?

――あ、【土下座】とかもあるんだ。これやってくれませんか?

――あれ、私の知ってる土下座と違う……バグかな?

――ゆるさない、ぜったいにだ。

――殺意をこめると動く。


 うん、これダメなやつだ。


 「実は徹夜で遊んでたから、そろそろ寝るよ、またね」という船長の声を聞き流し、送られてきたフレンド申請を無思考で受け入れ、ついでに会話を横からのぞいてた人達からのフレンド申請も流れ作業で許可しながら、現実の私は虚ろな目でガクガクしていたと思う。

 そして、その面白表情は、第1.5世代のモーションキャプチャリングエンジンによってゲーム内でも完全再現され、面白がったプレイヤーによって撮影された動画がインターネットの掲示板の「今日みた変顔」というスレッドにアップロードされて少し話題になった。のだけど。


――私がそれを知るのはもうちょっとあとの話。

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