第5話:ちゅーとりある2
ずっと説明回のターン
むむむ、とうなる。
そもそもクラスが3つしかないってどうなのかな。
まぁ、種族が間に合わなくてなかったことにされてる(たぶん。知らないけどきっとそう)くらいだし、3つしか作る時間がなかったのかも?
気を取り直して表示された3つのクラスをもう一度見る。
【ファイター】
徒手や武器などを用いて戦うことを得意とするクラス
物理攻撃力に+50のボーナス
【キャスター】
精霊の力を借りた攻撃魔法や弱体魔法を得意とするクラス
魔法攻撃力に50%のボーナス
【プレイヤー】
5大神への祈りによる回復魔法や強化魔法を得意とするクラス
魔法回復力に50%のボーナス
他にも細かいことがいろいろ書いてあるけど、とりあえずプレイヤーがヒーラーぽいことはわかった。なぜぷれいやー。
「えっと、じゃぁプレイヤーで」
「はい、プレイヤーですね。以上でよろしいですか?」
「え? あ、はい」
「承知しました、それではエラント様、この冒険者カードをお受け取りください」
ピロン、【クラス:プレイヤーを取得しました】、カードを差し出すモーション、受け取るモーション。
現実のコンビニとかでカード受け取る時は何も思わないのに、なぜゲームだとこの数秒がイライラするのか。
「初めてギルドへの登録をされた方には、初心者用の武器をひとつ無料でお配りしています。こちらからお好きなものを選んでください」
親切なことに武器もくれるらしい、登録料を取られた気配もなかったけど、その武器代はどこからでるんだろう? ゲームだから気にしたらダメなのかな?
どうでもいいことを考えながら、ずらっと並んだ武器のリストをながめる。
「びぎなーそーど、びぎなーあっくす、びぎなーだがー、びぎなーすぴあ……」
すごい、だれが見てもわかるくらい初心者用だ。
「ヒーラーだと何使うのがいいのかな、やっぱり杖?」
ひとり言をつぶやきながら杖の欄を見る。
長い杖と短い杖、そしてその中間くらいの長さの杖、そして先端にトゲトゲのついた杖の4種類。うーん。
「ビギナーロッドをくださいな」
トゲのついた撲殺メイスにちょっと惹かれたけど、himechan的にはダメだろう。
身長より長い杖とかちょっと可愛い気がしたので、錫杖みたいな形の一番長い杖を選択した。
「はい、ビギナーロッドですね。お受け取りください」
ピロン、【ビギナーロッドを手に入れた】
「それでは、エラント様のご活躍を期待しています」
ふう、と一息。
なんで私は、ゲーム開始の最初の手続だけで疲れているのだろう。
「いちいち会話させられるのってちょっと面倒だなぁ」
前にセンパイの家で遊んだゲームはボタン連打するだけで進んだのに。
まぁ、進んだというか、進まなかったというか、でっかいモンスターに踏みつぶされている間にセンパイが進めてたというか。
「君、初心者さんかな、武器は装備しないと役に立たないよ?」
「へひっ?」
とつぜん横から声をかけられて変な声が出た。
あ、さっき笑ってた人だ、右手を挙げながら近づいてくる。
身長と筋肉最大設定にした感じの大男。キャラメイクで似たような設定をいじってた時はそれほど気にならなかったけど、自分の視点で目にすると威圧感がすごい。むしろウザい。見上げてると首が痛いからしゃがんで欲しい。
「あ、はい、今始めたばかりです。それ、どうやるんですか?」
「それ? あぁ、エモート?」
首から上は結構自由に動かせるけど、首から下はコントローラーで操作して動かすしかない。
ゲーム開始してギルドまで歩く間、色々ボタンを押してみたけど移動とジャンプくらいしかみつからなかった。あとは空っぽのウィンドウが開いたり、何も起こらなかったり。
「もしかして説明書読んでない? スタートボタン押してみて、コントローラーのまんなかのやつ」
「もしかして説明書を読む世界線の人なんですか?」
ギアで手元が見えないから、コントローラー握ってる指が届かない位置にあるボタンは盲点だった。
ピッ、という音と共にコマンドメニューが表示される。
わ、なんかいっぱいある。
「えっと、説明書読んだくらいで異世界人扱いされたのは初めてなんだけど……メニューの下の方に【エモート】っていうコマンドがあるでしょ、それ選ぶと中にいろんなアクションが入ってるよ。さっきのは【軽い挨拶】のアクション」
「へぇ……」
ジャンルでタブ分けされて色々ある、挨拶だけでも20個近い。
「あ、【土下座】とかもあるんだ。これやってくれませんか?そろそろ首が痛いので」
【足元を指さす】のエモートで目の前の床をピッと示しながら、笑顔でお願いしてみる。
土下座がなぜか挨拶扱いなのは私の常識にないけど、やっぱりここは別の世界線かな。VRMMOで異世界転生とかいつの時代のテンプレなの。
「初対面の相手にいきなり土下座要求するとか、なかなかすごいね。よっと、これでいいかな?」
若干引いたような表情を見せながらも地面にあぐらをかく体勢で座り込んでくれた。
顔が私の視線とほぼ同じ高さになって話しやすくなる。
「あれ、私の知ってる土下座と違う……バグかな?」
「いやいやいや、いやいやいや」
ドン引きの表情になった。ウケる。