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第30話:くえすとこんぷりーと!

「……ひどいマッチポンプ、よくそんなの思いつくね?」


 ちょっと責めるような口調だけど、マリちゃん目が笑ってる。なんだか楽しそうだ。


「そんなことより、はやく行くよ」

「あれ? まだランク2でしょ、もう1回やってランク3にしないの?」

「もうGPがないので、またの機会に」

「あ、【偽善者】とっちゃったんだっけ」


 ……うんん??


「もしかして、私と初対面じゃない?」

「うん、あの大猿NMと戦った時に私もいたよ。知らないと思うけど」

「へぇ、どの辺で死んでたの?」

「言い方!?」


 だって、あの時さいごまで生きてたのジルさんと嵐姫さんだけだったし。

 なんだか不満そうな顔をしてるけど、気にせず歩みを進める。

 森の道は曲がりくねってて歩きにくいなぁ。


「私は復帰ポイントこっちだったから、倒した後の大騒ぎに参加できなかったんだけど、気になったからネットで色々見てたの。そしたら……」


 あわてて追いついてきたマリちゃんが、何かを思い出したようにクスクスと笑った。


「聖女、とか、ウケるんだけど」

「わ、私が言い出したんじゃないし!」


 うわあああ、せっかく言われることも減って安心してたのに、思い出させないで。

 うぅ、でも知らない所でどんなこと言われてるんだろう、ちょっと気になる……。


「ねえ、もしかして、まだネットでその話題出てたりするの?」

「聖女スレ? 一応まだ続いてるけど、最初の1-2日にくらべたらだいぶ人減ってるかな」


 うわ、まだあるんだ、でも人減ってきてるならそのうち収まるかな……?


「でも昨日、『聖女が新しい騎竜つれてた』て書いたら、また盛り上がったけど」

「やめてよ!」


 私の本気で嫌そうな顔を見て、マリちゃんのクスクス笑いが大きくなった。


「それにしても、毒配って歩いてるって本当だったんだね。『聖女様がそんなことするわけない』とか言い張ってる人もいたけど」

「待って、今まで毒ってカンパニーの人にしか渡してなかったんだけど、なんで広まってるの?」


 誰、私の情報ネットに流してるの……疑いたくないけど、嵐姫さんか山田さん辺りが怪しい気がする。


「スレに『聖女様と同じカンパニーに所属してる』て自称してる人5-6人いたよ」

「ほぼ全員!?」


 最悪だ、入るカンパニー間違えたかもしれない。

 マリちゃんクスクス笑いじゃ収まらず、おなかを抱えて大笑いしてるし。ひどい。


「あはっ、ところ、で、ねぇ?」


 ひとしきり笑った後、まだ収まらない、こみ上げる笑いの発作を押さえ込むようにしながら、とんでもないことを言いだした。


「道、間違ってない?」


――――――――


「――だって、まさか帰り道知らないなんて思わないもん」

「行きは荷車に乗ってたら運んでくれたから、道とか覚えてないの!」

「それ、いばるところじゃないよぉ」


 マリちゃん、最初から気づいてたのに教えてくれなかったせいで15分くらい遠回りになった。

 荒野やサバンナなら、とりあえず方角さえあっていれば大丈夫だけど、この森は知らない間に道が曲がっていたりして、今進んでいる道が正しいのか間違っているのかよくわからない。


「私もこっちの方には1回しか来たことないから、ちゃんと道おぼえてるか怪しいけど」

「あれ、そうなの?」

「だってこのゲーム、人が多いほどレベル上げの効率いいのに、サバンナ側だと人少ないでしょ」


 南じゃなくて西に向かうと人口最大の騎士の国があるらしい。

 その間に大きな滝と渓谷があって、そこで騎士の国と深森の国の冒険者がパーティを組んでレベル上げするのがここでは一般的なんだそう。


「理屈はわかるけど、うちの国がバカにされてる気がする」

「限界集落すぎて商人(NPC)まで逃げ出したんだし、あなたもこっちに移住したら?」

「そう言われると、ちょっと商人さんに殺意がわくよね」


 それ、聖女様のセリフじゃないよ? とかマリちゃんが言ってるけど、聖女じゃないので気にしない。


 そんなわりとどうでもいい会話をしながら曲がりくねった森の径を走る。

 進むにつれて、樹に覆われて薄暗かった空から射し込む光が増えていき、それとは逆に人影はどんどん減っていった。悲しい。

 やがて私たち以外誰もいなくなり、それからさらに10分くらい走った所で一気に視界が開け、どこまでも続く草原が視界に広がる。森を、抜けた!


「よかった、道あってた」


 マリちゃんがほっとした声でつぶやく。


「道案内ありがと。あとは南へ一直線だね」

「道に迷う心配はもうないけど、ここから敵に襲われる可能性でてくるから気をつけてよ」

「その時は、マリちゃんが何とかしてくれるって信じてるから!」


 ぐっ、と親指を立ててウィンクひとつ。

 それを見たマリちゃんが、海外ドラマの俳優さんみたいなオーバーアクションで、肩をすくめてやれやれ、とため息をついた。


「昨日から気になってたけど、そのエモートってもしかして思考操作?」

「うん、そだよ、上手いでしょ」


 両手を広げて片足立ちで綺麗にくるくるっ、と回ってみせるマリちゃん。


「うわ、すごい、何かコツあるの?」

「あれ? あなたも結構思考操作上手いんじゃなかったっけ、聖女スレに書いてあったけど」


 聖女スレの話はそろそろ忘れて欲しい。


「左手がどうしても動かせなくて、そこが引っかかって全身きれいに動かすのも難しい感じ」

「左手? あー、それ、私も最初つまずいた奴だ」

「へ?」

「思考操作する時、左手で思考入力のボタン押すでしょ? そこに気をとられて、『もうひとつの身体を動かす』方に意識が上手く向かないの」


 あ、なるほど、なんとなくわかる。


「なので、思考入力のボタンをテープか何かで押しっぱなしで固定しちゃえばいいよ」

「……その発想はなかった」


 目から鱗ってこういう感覚なんだ、あとで試してみよっと。


「でもつけっぱなしじゃなくて、ログアウトしたら剥がすようにしないと次ログインする時にじゃま”っ――」


 突然マリちゃんの身体が横に吹っ飛び地面に転がる。

 その姿を目で追うと、体力が半分近く削られて倒れ、麻痺の状態異常を受けて動けなくなっているのが見えた。

 その反対側に視線を向けると、弓をかまえた1匹の魔族と十匹前後の猿のような魔物の群。


「急いで逃げて、南に、早く!」


 動けないまま叫ぶマリちゃん。同時に救援依頼が出されたことを示すメッセージが表示される。


「でも、私一人じゃ逃げ切れないよ」

「大丈夫、ギリギリ間に合う、はずだから」


 間に合うって、何が? と尋ねたいのをがまんして走り出す。

 弓の射程から外れたのか撃っては来ないけど、猿の群は追ってくる。

 私が走るよりも速い、追いつかれる……!


「うひゃぁっ」


 飛びかかってきた1匹目の猿を必死でかわし、2匹目にはレイピアを突き出して叩き落とす。

 3匹目と4匹目もなんとか回避……だめ! 後ろのサーターちゃんたちが攻撃されちゃう!

 2匹の前に立ちふさがるようにして手を広げる、凶悪な顔の猿が視界いっぱいに迫って……


「【ワールウィンド】!」


 聞き慣れた声と共に、2匹の猿が切り刻まれた。


「相変わらずリンちゃんは、私に魅せ場をくれるねぇ」

「……嵐姫、さん?」


 魔法の射程ギリギリから剣をかまえた嵐姫さんの姿、さらにその横を駆け抜けてこちらに向かってくる山田さんと、見覚えのある数人の冒険者。


 流れる【騎竜開放(工芸の国) rank.3】のアナウンスよりも、「なんで、みんなこんなところに?」という驚きが心を占める。


「――私が呼んでおいたの」


 動けるようになったマリちゃんが近づいてきた。


「昨日の夜、聖女スレに『聖女様が新しい騎竜連れて深森の国に来たけど、朝8時から帰るみたいだから誰か護衛に来て』って書き込んどいた。愛されてるね?」

「へぇ、リンちゃん、これがうちの国の騎竜? 結構かわい……可愛い、かなぁ?」

「べ、別に毒っ子助けに来たわけじゃなくて、騎竜見たかっただけだからな!」

「山田さん、キモいです」

「ひでぇっ!?」


 あ、なんかいつものノリでほっとする。

 いつの間にか、襲ってきていた魔族と魔物も逃げたのか倒されたのか、全部いなくなっていた。


「じゃ、護衛も確保できたし、行こ?」


 笑顔で右手を差し出すマリちゃん。

 思わず私も右手を伸ばしたけど、残念ながら握り返せないんだな。


――――――――


【ユニーククエスト:騎竜の輸送(工芸の国編)を達成しました】


 たずねると商業ギルドはすぐに見つかった。

 深森の国で商人さんが入っていった広場の隅の大きなテント、それと同じ配置で色違いのテントがあり、その中が商業ギルドになっていた。


 サーターちゃんたちとは一度お別れで寂しいけど、騎竜を呼び出せばまた会えるらしい。


 こうやって、私の最初の旅とユニーククエストは無事終わりを告げた。

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