第26話:ふぁーすととらべる
「うどんさん、深森の国ってどうやって行くんですか? 時間どれくらいかかるんでしょう?」
「どうした、いきなり」
視界の隅に【04:54:18】という表示。広場でクエストを受けると「じゃぁ明日には出発するから、準備ができたら声をかけてくれ」と言われ、【05:00:00】からのカウントダウンが始まった。
今から5時間後だと深夜なので、行くならさっさと出かけて寝る時間までに終わらせたいんだけど、そもそも目的地がどれくらい遠いかわからないので、何時間もかかるようならクエストなかったことにしようかと思ったり。
「バレンタインチョコを探してたら、かわりにユニーククエストを見つけました。商人さんを深森の国まで護衛するんですって」
「へぇ、ユニーククエスト、珍しいものを見つけたね」
興味を惹かれたのか、うどんさんが手を止めて顔を上げた。
「たしか森はずっと北の方じゃなかったかな、サバンナを越えたさらに先。行ったことはないから距離はよくわからないけど、ゲームだし何時間もかかったりはしないんじゃないかなぁ」
「じゃぁ一緒に行ってみません? パーティでもクエストに参加できるみたいですし」
よく考えたら、ひとりで護衛で長距離移動とか絶対無理だ。途中で死ぬ。
サバンナだって入り口付近までしか行ったことないし、あの奥の方ってレベル30とかそれ以上で狩りする場所のはずだし。
「さっきも言ったけど、今日と明日は鍛冶のスキル上げしたいからダメだよ。山田さんの武器も頼まれてるしね。それに、そもそも冒険者のレベル毒っ子より低いんだけど」
「そういえばそうでした。山田さんは来年まで待ってもらえばいいですけど、うどんさん私よりレベル低いなら一緒に死んじゃうだけですね」
「山田さんの扱いひどいね」
やっぱりジルさん達に相談しようかな、レベル上げ中のはずだけど相手してくれるかな?
みんなが遠くにいる時のカンパニーチャットはうるさいから好きじゃないんだけど。
リン:『すみません、ジルさん達いま暇ですか?』
ジリオンアイズ:『暇ではないけど、どうしたの?』
嵐姫:『リンちゃん暇ならおいで、もうレベル26なったよぉ?』
エメルシ:『何言ってるのジル、私たちもうレベル30なるし暇みたいなものでしょ』
健児:『なに、面白い事? 俺行こうか?』
リン:『とりあえずうるさいのでいっぺんに喋らないでください』
カンパニーチャットは、離れててもカンパニーのメンバー全員で会話できて便利なんだけど、離れている人の声はまとめて耳元で響くので、わりと本気でうるさい。
しかもメンバー全員が巻き込まれるので、うどんさんの嫌そうな顔が目に入り申し訳ない気持ちになった。
リン:『今から深森の国に行きたいんですけど、誰か一緒に行ってくれませんか?』
ジリオンアイズ:『どうしたの、急に』
リン:『じつはですね――』
――――――――
「おう、嬢ちゃん、早かったな。準備はいいのかい」
「はい、途中で私の仲間と合流しますけど、とりあえず大丈夫です」
【04:30:00】くらいで待ち合わせ場所の広場の入り口に向かうと、商人さんが荷馬車?を引いて待っていた。引いているのが馬じゃなくて2足歩行のトカゲなので、荷蜥蜴車?
2匹の大きなトカゲに引かれた大きなリヤカーみたいな荷台には、所狭しと木箱や布の袋が積み込まれている。
「徒歩じゃないんですね」
「商品仕入れに行くのに徒歩で行ってどうすんだ、担いで歩ける量なんてしれてるだろ」
そりゃそうか。
私は武器や魔物の落とした素材を大量に持っててもゲームなので見た目に変化ないし、「荷物を担ぐ」ていう発想がなかったけど、普通に考えたらよその国に仕入れに行くのに徒歩はないよね。
「ほれ、荷台の隙間に適当に乗りな、すぐ出発するぞ」
「あ、はい」
いつの間にか荷台の前の方についた御者台?に座った商人さんの呼びかけにあわてて飛び乗ると、すぐにゴトゴトと音を立てて動き出した。
「――ここに載ってる荷物ってなんなんですか?」
走り出してからしばらくおとなしく乗っていたけど、魔物が襲ってくる気配もないし景色もまだ見慣れた荒野で暇なので、商人の人に雑談を持ちかけてみる。
どこまで会話が用意されているのかわからないけど、黙ってぼーっとしているよりは暇つぶしにはなりそう。
「それは金属製の日用品や工芸品だ、あの国は近くに鉱山がなくて金属加工の技術が発達していないから、そういうのがわりと高く売れる」
「へぇ、そういえば深森の国には鍛冶がない、てうどんさんが言ってた気がします」
「その代わり、木工技術はかなり高いし革工もなかなかのものだな。それと自然が豊かだからか飯が旨い。むしろうちの飯が不味い」
そこから、延々と食事のまずさについての独り言が始まった。
「野菜が不味いのはしかたないとして、肉の塩漬けまで不味い」とか、相づちを打たなくても勝手に喋り続けてうっとうしくなってきたので、「それならいっそ、このまま深森の国行って住んじゃえばいいんじゃないです?」と言ってみたら「おっ、それいいな」とか言って考え込み始めた。
これ、ホントに定住しちゃったら、広場の露店1つ減るのかな?
食事の愚痴が終わったあとも適当に雑談をしていると、だんだん土と石ころばっかりだった地面に丈の低い草が増え始め、サバンナとの境が近づいてきた。
そのことをカンパニーチャットでジルさん達に知らせ、途中で合流する。
結局、目標のレベル30達成できたジルさんとネオスさん神龍さん、つまり四天王の上3人が手伝ってくれるみたい。
山田さんは、よく死んでるのでまだ28だって。さすが四天王最弱。
「リンさん面白いものに乗ってるね、荷馬車? いや、馬じゃないか」
「商人の人に聞いてみましたけど、“カート”と言うらしいです。蜥蜴車じゃなかったです」
「それは二頭立ての荷馬車を英語で言っただけだね」
ジルさんとネオスさんが荷台に上ってくる、神龍さんは乗らずに並んで歩くみたいだ。
「うすうす気づいてましたけど、これって乗らずに走った方が速いんですね」
「神龍は乗らないの? 遅いけど操作しなくていいから楽だよ」
「そこ狭いし歩くよ」
「深森の国まで、ここから徒歩だと1ー1.5時間くらいのはずだから、このカートのペースだと何もなくて2時間くらいかな? ギリギリ日付変わる前に到着する感じだね」
「遠いですね、何もないといいなぁ」
あした日曜だからいいけど、できれば日付変わる前に寝たいなぁ。バレンタインの準備も考えないとだし。
「でもただの移動じゃなくてクエストだから、イベント戦闘のひとつくらいあるんじゃないかな」
「お約束のパターンだと、ゴブリンやオークの群れだねぇ?」
「ゴブリンもオークもいないけどね、このゲーム」
平和に談笑してるようにみえるけど、時々襲ってくる魔物をジルさん達は手早く倒してくれている。私一人だと絶対勝てないのでお手伝い頼んで正解だった。
最初は倒すたびに荷台に乗り直していたジルさんとネオスさんは、3回目の襲来くらいで面倒くさくなったのか神龍さんと並んで歩き出した。
合流してから1時間ほど進んだ頃、まばらに生えていた木が徐々に数を増やし、やがて地平線の向こうに黒い影のような広い森が見えてきた。
「森ですよ、森、あれがゴールですか?」
「あの森の奥の方だから、まだもうちょっとかな。森まで10分、森に入ってから40-50分くらいだと思うよ」
「森の魔物は多分荒野の魔物と同じくらいのレベルだから、襲ってこなくなると思うしもう少し早いかもね」
そっか、先に進めば進むほど敵が強くなるかと思ってたけど、街の周辺のエリアだし強いわけないんだ。
森にたどり着き、生い茂る木々の間の小道を進むと確かに襲ってくる魔物がいなくなった。
ここまで来ればもう安心、と一息ついた時、あんまり喋らず歩いていた神龍さんが武器を手に構えながら「そういえば」とつぶやく。
「“お約束のパターン”なら、ゴブリンやオーク以外にも野盗、ていうのがあったな」
次の瞬間、木々の間から私たちめがけて複数の矢が降り注いだ。
同行する人選を間違えた感




