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第16話:はじまり

「――て、いう感じでぜんぜんクエストが見つからないんですけど」

「あー、多分想像してるみたいなクエストはあんまり無いな」

「うぇっ?」


 夕方の大猿NM戦で鎧を壊された例の山田さんと、何故か2人で狩りに来ていた。

「装備を買うお金を稼ぎに行く装備がない」というよくわからない状態になった山田さんに「予定がないならレベル上げにもなるし金策に付き合ってよ」と誘われた結果だ。


「オーダーメイドの装備を注文する時の素材採集クエストとか、鍛冶師なんかに弟子入りするための試練クエストみたいなのはもちろんあるんだけど、『病気の少女のために薬草を探してきてあげる』とか『畑を荒らす害獣を倒して欲しい』みたいなベタなクエストはほとんどない、みたい」

「じゃぁこのゲーム何するんです? レベル上げるだけ?」


 そう訊ねると、山田さんは「うーん、まぁ好きなことをすればいいんだけど」と困った顔をした。


「説明面倒くさいから、とりあえず狩りながら話そうか」

「あ、はい」


 今回私たちが狩るのはレベル5-6くらいの額の真ん中から1本の角が生えた大きなトカゲの魔物。

サイズ的には大型犬とか、実物見たことないけど猪とかに近い感じでちょっと怖い。


 ドロップする角は武器や薬品の素材に、皮は今私が身につけてるようなレザー装備の素材になるので今は需要が高いらしい。

でもこのゲームの仕組み上、レベルが離れすぎた敵は倒してもアイテムを落とさないとかで、本来ならレベル15の山田さんには狩りの対象外……なんだけど、レベル3の私が最初に殴ることでむしろアイテム出やすくなるんだって。

それ、ズルじゃない? あとで怒られたりしない?


「ではいきまーす」


 あいよー、という山田さんの返事を待って、手近なトカゲに剣を突き刺す。

ぷすっ、と刺さってHPが2割くらい減ったトカゲがこっちをにらみつけた瞬間に、山田さんの斧が真っ二つにした。

おー、強い。


 ちなみに今、私たち2人はパーティを組んでいない。

組むとアイテムや経験値が一番レベル高い人基準になるので、レベル3の私と山田さんだと経験値もアイテムもほとんどもらえなくなる。

パーティを組まずに私がまず殴り、アイテムや経験値の占有権をゲットしてから山田さんがトドメを刺すことで私ひとりに私基準のアイテムや経験値が入ってくる裏技的な狩りだ。

辻ヒールの攻撃版なので辻アタックとかになるのかな? なんか辻斬りみたい。


 これはギルドの討伐クエストも私だけカウントされるので、あとから殴る山田さんには武器スキルが上がる(かもしれない)以外には実はなんのメリットもない。

なので、狩りが終わってから手に入ったアイテムや討伐クエストの報酬をぜんぶ渡す、という約束をしているんだけど……


「私がアイテムとか報酬ごまかすとか思いません?」と聞いたら、「NM狩りのお礼の品、高級なアイテム断るような奴がそんなことしねぇだろ?」と返された。

信用されているのは、素直に嬉しい。

けど、結局今日一日遊んでまだ一度も正式にパーティ組めてないのはなんだろう。


 トカゲ魔物は大量にいるわけでもないし、他にも狩ってるパーティもあるので移動しながらの狩りだけど、結構いい感じにレベルが上がる。

レベル4を越え、レベル5になった所で


【実績解除:祈りの道 Rank.1】

【称号:駆け出しプレイヤー を取得しました】


 ドブなんとかよりはだいぶましな称号をゲットした。

ちなみに魔法回復力+1%の効果があるらしい。



「それで、さっきの話の続きなんですけどー」

「なんだっけ……あ−、クエスト?」

「クエストというか、このゲームの目的というか」

「マニュアル読んでオープニングムービー見直せ」

「そう言わずに。わかりやすく説明してくれたらお礼にこのトカゲの角あげますから」

「それ元々俺のじゃねーか!」

「そろそろ持ち物がいっぱいになりそうなので山田さんも持ってください」

「お礼ですらねぇ!!」


 あきらめた雰囲気で雑な感じに説明してくれた所によると、魔物や魔族をたおして魔王の戦力をけずり、最終的に魔王を倒す?のが目的らしい。

とりあえずみんなで魔物を倒し続けることで、【グランドクエスト】というゲーム全体のストーリーが進行するらしい。

これは私が何もしなくても、他の人が進めると自動的に全員進む形のクエストらしいけど、まだサービス開始されてから1週間も経っていないので、特に今のところ進行はないみたい。

それ以外に、「遠くの町の親戚に荷物を届けて欲しい」的なクエストもあるにはあるんだけど、これも誰かが受けたら他の人は受けることができなくなる【ユニーククエスト】という扱いになってる。と。


「つまり、結局レベル上げしてお金稼いで装備そろえるくらいしかすることない?」

「NPCに上手く話しかけて会話を繋げると、わりとユニーククエスト出てくるらしいぞ。反応する話題見つけるのが難しいけど。それ以外だとダンジョンや遺跡探索とか、珍しい称号探ししてる奴もいる。あと、俺はやってないけど、生産関連は結構自由度高くて、好きな奴はハマってるみたいだな」


 うん、生産は興味あるね。

私がもらったレザードレスアーマーも、普通のレザーアーマーを改造?して誰かが作ったものなんだって。



「――ところでさ」


 さらに1時間ほど狩りを続けてレベル7になったところで、山田さんが改まった態度で話しかけてきた。


「こんどジル達や嵐姫さんらと【カンパニー】を作る話になってるんだけど、あんたも入らない?」

「かんぱにー? 会社?」

「どっちかというと部隊の方のカンパニーかな。他のゲームでいうとクランとかギルドとか呼んだりする、特典付きのチャットチャンネル的な」

「なるほど、わからない」


 舞台ってなに、歌ったり踊ったりするの? アイドルグループ結成? じゃぁわたしメインボーカルね。嵐姫さんは黒子で。うん、多分違う。


 あたまにハテナを浮かべていると「要はチャットアプリのグループみたいなもんだ」と言われて理解した。

でも参加できるグループは1つだけらしいので、一応まじめに考えた方が良いらしい。


「とりあえず15-20人くらい集めたいんで考えといて」

「ちなみにお給料はいくらもらえるんですか?」

「でねぇよ」

「ブラックカンパニー!」


 まぁみんな結構いい人だし、別に入ってもいいかな? と思いつつふと見ると、山田さんのHPがいつの間にかわりと減っているのに気がついた。

ほとんど一撃で倒してるから2人ともダメージあんまり受けないけど、それでも殴り損ねて反撃されたり、群れてる別のトカゲが襲ってきたりすることもあってちょっとずつ削られてたみたいだ。


「【ヒール】」

「おっ、さんきゅ」


 何気なくヒールを飛ばしたその瞬間


【実績解除:恩寵を蒔く者 Rank.1】

【称号:偽善者 を取得しました】

【エクストラアクセサリー:偽善者の腕輪 を取得しました】


 えっ、なに?

システムメッセージと共に、私の右の二の腕にパチン、と音を立てて鉄の輪がはまった。

腕輪、なんて可愛いものじゃなくて、漫画とかで囚人が付けられているような無骨な鉄枷。鉄球のついた鎖が繋がっていても違和感ない奴。

服の上からついているのでせっかくのパフスリーブが潰れちゃって二重にひどいことになっている。


「なにこれ、取れない」

「なんだ、どうした? お、その鉄枷格好いいな」

「全身ローブに斧とか、山田さんセンスおかしいと思ってたけど……」

「この格好はわざとじゃねーよ! ていうか、おい、その腕輪ヤバいぞ、性能」


「なに? 見た目悪いけど強いの? チート?」と性能調べて――


【偽善者の腕輪:恩寵を以て偽善を成す者に課せられる神の試練/GP消費量2倍/装備変更不可】


「なにこれ最悪だー!!」


――――――――


「――軽く掲示板とかで調べてみたけど、何人か被害者いるみたいですね」


 いい時間になってきたのもあって、とりあえず街に戻ったあと山田さんや合流したジリオンさん達が【偽善者の腕輪】について調べてくれた。

主にジリオンさん。


 GPが貴重なこのゲームではあんまり行われない辻ヒールを、10回行うことで得られる称号【偽善者】。

それ自体は魔法回復量がなんと2倍になるというすごい効果があるんだけど、それと同時に強制的に装備される偽善者の腕輪がひどい。

見た目が悪いのはともかく、1時間に1しか回復しないGPの消費量が2倍は意味がわからない。

そもそも魔法回復量もプレイヤーなら余り気味なので、2倍になってもあんまり意味が無い。


「実績がRank.1だし、腕輪のフレーバーテキストに『試練』ってあるから解決法はあると思うんですけど、とりあえず追加で20回辻ヒールを試した人の報告ではまだダメみたいですね」

「GP消費倍で20回って最低40時間か、それでダメとか俺なら折れるわ」

「私はそれを聞いただけで折れそうなんですけど……」


 オーバーキルドの実績だと、最大HPの10倍のダメージでRank.1、100倍のダメージでRank.2が取れるらしいので、これも辻ヒール100回じゃないか、という説があるらしい。

100回って……えっと、最短で1週間以上?


「まだこのゲーム始まって1週間も経ってないし、その20回やった人はキャラ削除してやり直すことにしたらしいです」

「消す……のはなんかやだなぁ」

「NM討伐や高難易度エリアの探索をしないなら魔法使える回数少なくてもそんなに困らないですし、のんびりやっていけばいいと思いますよ」

「おう、うちのカンパニー入るなら手伝うしな」

「はぁ、ご迷惑かけます」


 うやむやのままに入社することになってしまった。別にいいけど。


「ところで山田、お前も人ごとじゃないぞ」

「ん?」

「同じような称号はファイター用やキャスター用も見つかってて、今日お前がリンさんとやってたような素材狩りを続けてたら【屍肉喰の首輪】ていう消費GPが2倍になる首輪が」

「マジか、やべぇ」


 辻殴りで敵を100匹倒すと解除される実績らしい。

80匹近くトカゲを倒していたはずなので結構ギリギリだった。


「……とりあえず、今日は力尽きたので寝ます。おやすみなさい」


 いつの間にか夜11時をまわっていたので寝ることにした。

どうするかは明日考えることにしよう。


――――――――


 こうして私のゲーム初日は、思っていた以上に多くの出会いと、思ってもみなかった多くのイベントを引き起こして終わった。

ベッドにもぐり込んで目を閉じ、今日出会った人達と、今日起こった出来事を思い出しながらねむりにつく。

わたしの冒険は、まだまだはじまったばかり。



 ……あれ、何か忘れてるような? まぁ、いいか

山田:「おい、俺の鎧代……」



これで第1章は終わりです、拙い作品ですが、ここまでお付き合いいただいた方ありがとうございます。

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