第15話:のーくえすと
「んっふっふーん」
鼻歌を歌いながら水を抜いた湯船の内側をブラシでこする。
色々あったけど、ゲーム初日は大成功と言っていいと思う。
ドブネ……は……忘れよう。
「でもあの称号とるとHPが少し増えるらしいから、それはそれでラッキーだった……のかな?」
大ダメージ受けるともらえる称号で、上位の【虫けら】と【ミジンコ】の称号も見つかってるらしい。ネーミングに悪意しか感じない。
ちなみにさらに上位の称号がないか調べるために、魔王?の本拠地に防具なしで繰り返し突撃するちょっとアレな人達もいるんだとか。
「ミジンコより下ってなんだろう、石ころ?生ゴミ?お父さん??」
湯船を洗い終えてシャワーで残った洗剤をざっと流す。
給湯器のスイッチを入れ、お湯を張りはじめてからリビングにもどった。
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「お姉ちゃん、なんか今日機嫌いい?」
「えっ、うん、ごはん美味しいと幸せになるよね。白菜最高かよ」
夕食の水炊きをつついていると、妹が探るように話しかけてきた。
ポン酢の酸味と白菜の甘み、出汁のほのかな風味が心地よい。
エノキタケの食感もいいなぁ。
「あやしい、ごまかし方が雑い」
「あやしいわね、今日は朝から言われる前に洗濯やお風呂洗いしてたし、なに隠してるの?」
お母さんまで乗って来た、ゲームしてても文句言われないようにお手伝い率先して片付けたのが裏目に出た。
「お手伝いして責められるのは理不尽だと思う」
「そうね、ごめんね、偉かったわね。明日からもその調子でよろしくね」
何をどう答えてもダメなパターンだこれ!
とりあえずお鍋の底から発掘した鶏肉を口の中に放り込んで黙ることにした。
ぎゅっと噛みしめると鶏の旨味がしみ出る。もぐもぐもぐもぐ。
「そういえばいつもの先輩、昨日も遊びに来てたわよね」
……黙ってたらぜんぜん関係ない方向に飛び火するとか!
「え、お姉ちゃんついにデキたの?」
「とりあえずセンパイは関係ないから!」
興味ないふりして黙々とごはん食べてたお父さんまで、何か言いたそうな目でこっちをチラチラ見てる。
これはさっさとごはん食べて逃げちゃった方が良さそうな予感。
「――ごちそうさま、先お風呂入るね」
残ったごはんを急いでかき込んで自分の食器を洗い、着替えを持って風呂場に向かう。
ひさしぶりの一番風呂、湯船に肩までつかりながらこのあとの予定に思いを馳せた。
「色々もらった装備つかってみたいし、とりあえず夜はレベル上げかなー?」
ジリオンさんからプレゼントをもらったあと、他の人達も使わなくなった装備やアイテムを譲ってくれたので、当分買い物しなくていいんじゃないかと思うくらい充実した装いになったのだ。
あんまり高そうなのとか貴重そうなのは断ったけど。具体的には嵐姫さんの猿頭とか。
「でも広場の露店のぞいてみたいし、魔物討伐以外のクエストも受けてみたい」
よく考えたら、ふつうのRPG遊ぶ時に必ずやってる街の人全員に話しかけるとかやってないなー。
湯船の中でぐぐっと手足を伸ばす。
一日中座ってゲームしていたので、熱いお湯で筋肉が緩んでいく感覚が気持ちいい。
あー、もう、なんでもいいや、クリアを目指すゲームじゃないと思うし、適当にのんびり好きに遊ぼう。楽しみ。
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ローアースの広場に並ぶ露店の一つに設置された、幅の狭い姿見の前で新しい服装を確認する。
【ブルーイヤリング】
【レザードレスアーマー+1】
【レザーバングル】
【レザーミトン】
【レザーハイブーツ】
ほぼ全身レザーずくめだけど、胴装備のレザードレスアーマーが肩当てと胸当て、それをつなぐベルト以外はほぼ布地なので、パッと見た感じは普通のワンピースの上から簡易の革鎧つけてるような印象だ。
ちなみに脚装備の【レザーヒップガード+3】ももらったけど、ビキニパンツみたいな形状だったので「ちょっと高級そうで気が引けるので」とか言って適当に断った。
……レザーのくせになぜか真っ白に染色されてて、下心しか感じなかったし。
「おっ、聖女様、これからまた辻ヒール?」
鏡を見ている最中、通りすがりの人にちょこちょこ声をかけられる。
ちょっとした有名人になったみたいで気持ちいいけど、聖女呼びはやめてほしい。
あと、辻ヒール目的でゲームしてるような誤解を振りまくのも。嫌いじゃないけど。
「何か面白い顔して見せてよ」
……何言ってるのこの人。
新装備を堪能したあと、ぐるっと露店を見てまわる。
面白そうなのは装備を染色するための染料くらいかな? 試してみたいけど地味に高い。
染めてみて変な色だったらガッカリだし、もうちょっとお金に余裕ができてからにしよう。
あとは生産クラス用の素材が色々と売られているお店が面白い、無地の布だけでも何十種類も並んでるんだけど、これ全部使い分けて服とか作れるのかな?
上手く扱えるようになると、素材だけじゃなくてデザインもある程度自由に作れるらしいので、そのうち挑戦してみたい。
新しいクエストは……うん、ほら、話しかけてセリフ読んで選択肢選ぶだけでよかった普通のゲームと違って、いちいち考えて会話しないとダメなのがわりと面倒くさい。
お店の人やお客さんに色々話しかけてはみるんだけど……
「ねぇ、おじさん、なんかお仕事ない?です?」
「らっしゃい嬢ちゃん、深森の国から取り寄せた、【精霊樹の実の砂糖漬け】はどうだい?」
「聞いてよ私の話を、って、精霊樹とか、そんなの砂糖漬けにしていいものなの」
「実を食べ終わったら中の種を割って、精霊が入ってたら当たりでもう1個プレゼントだ」
こんな感じでクエスト発生しそうな雰囲気がない。
「ちなみに当たりの種はこんな感じね」
ほれ、と差し出されたそれに思わず目を――うえぇ、これ考えた人ぜったい頭おかしい……。