第14話:こんぐらちゅれーしょん
ときどきジリオンさんをジライヤさんて書き間違える。1文字しか合ってないのに
死屍累々の荒野に歓声が上がった。
地面に転がった無数の死体が口々に「うぉおおおお!」とか叫んでるのはシュールを通りこしてちょっと……かなりこわい。
「リンちゃん、私の魅せ場を作ってくれるの上手いねぇ」
嵐姫さんが笑顔で寄ってきた。
ちょっとドヤ顔入ってるのが地味にイラッとする。
「GP残ってたならさっさと撃ってくださいよ、怖くてちょっと泣きそうになったじゃないですかー」
「やー、残ってなかったンだけど、2-3分で回復するところだったからちょうどいい時間稼ぎだったよぉ?」
「……嵐姫さんだけ見殺しにすれば良かった」
「それだとリンちゃんも含めて全滅なンよ」
ぐぬぬ。
「またリンさんに助けられましたね、ありがとうございます」
ジリオンさんもやってきた。
「せっかく回復したGP、また全部使い切ってもらっちゃいましたし、街に戻ったら何かお礼しますね」
「え、いえ、いいですよ、私が勝手にやっただけですし」
パタパタと右手をふって断る。
ジリオンさんは嵐姫さんと違ってよい人だ。
「そンなこと言わずにお礼されておきなよぉ、パーティ入ってなかったからリンちゃんはNM討伐報酬もないンだし」
「じゃぁ嵐姫さんが何かください」
「おっと、そうくる? じゃぁさっきのうさぎ狩りで拾ったうさぎの鼻とかどう?」
それ、私もレベル上げで拾ったけど、ぽろぽろ手に入るやつじゃないですかー。
「なんか、もっと可愛いものください。服とかアクセとか、トゲ付きの棍棒とか」
「……ん?」
ちょっと変な顔された。なんでや。
「とりあえず私は街まで戻りますが、お二人はどうします?」
ジリオンさんの問いかけで気がついて辺りを見渡すと、みんな復帰ポイントに戻ったのか累々していた人たちの姿もほとんどない。
うーん、今から街まで戻ったらちょうど18時前くらいかな?
「えっと、戻ったらちょうど夕食の時間になりそうなので私も戻ります」
「じゃぁ私も御一緒しようかな、レベル上げとNMの討伐報酬ももらいたいし」
「では、行きましょう」
――――――――
「他の3人の人たちはどうしたんですか? たしか山田さん?とか」
「リンちゃんが来る前に全員転がっちゃったよぉ」
「ちなみに、そのヤマダサンは買い直したスケイルアーマーがまた壊れて大惨事ですよ」
「何それ可哀想」
他愛のない雑談を交わしながら街へと向かう。
実はうしろから船長がついてきてるけど、戦闘に参加しなかったから気まずいのか無言だ。
とりあえず気にしないことにした。
「そういえば、NM倒した報酬って何がもらえるのです?」
せっかくなのでちょっと気になってたことを聞いてみた。
「とりあえず経験値が多め、あとは貢献度に応じて素材とか装備品ですけど、何もらえるかはランダムですね。ギルドに戻れば討伐報酬でお金ももらえるはずですが、人数多かったからたいした金額にはならないと思います」
まだ私はパーティで狩りをしたことがないけど、経験値は人数が増えても全員倒した魔物の数だけもらえて、ギルドの魔物討伐クエスト報酬は参加人数で頭割りになるらしい。
「あぁ、それであんな大人数でレベル上げしてたんですね」
「ええ、大勢でパーティ組むと範囲回復や範囲強化の魔法も効率がいいですし、短時間で沢山狩れるので経験値効率も上がります」
「その代わりお金はほとんど手に入らないから、別で稼がないと装備とか強化できないンだけどねぇ」
ほぅほぅ、そんな仕組みになっていたのね。
チラッと後ろを見たら、船長が不機嫌そうな顔をしてた。ちょっとウケる。
「ちなみに、私はこのパーティとNMで、レベル13になったよぉ?」
「うわ、ずるい、私やっとレベル3になったところなのに」
「それは逆に遅すぎてびっくりなンだけどぉ? あと5個レベル上げれば強化魔法が使えるようになって、パーティに入りやすくなるから頑張って」
あと5個は地味に遠い気がする、来週末までにいけるかなぁ。
「あ、もしかして街にほとんど人がいなかったのって」
「ローアースのプレイヤーでログインしてる人は、大体さっきのパーティに参加してましたね。お昼前に募集して、お昼過ぎからずっとやってたみたいですよ」
それにジリオンさんたちも参加しようと移動してて、大猿に追われて私たちと出会った、と。
運命のいたずらみたいな感じで面白い。
――――――――
「おっ、MVPが帰ってきたぞ!」
ローアースにたどり着くと、出かける前は閑散としていた広場が大勢の冒険者で溢れかえっていた。
みんなさっきの大猿戦で転がってた人たちかな?
最後まで盾役やってたジリオンさんと、トドメを刺した嵐姫さんが大人気だ。
ちょっと居づらくなったので、山田さん達はどこかなー?と、すみっこの方に移動してきょろきょろしてると、「どこ行くのリンちゃん、おいでおいでぇ」と嵐姫さんが手招きしながら呼びかけてきた。
「なんですか?」と駆け戻りながら訊ねると
「この子が最後GPぜんぶ使ってヒールしてくれてたンよ、パーティ入ってない通りすがりなのに」
とか周りの人たちに紹介された。え、ちょっとまって。
「おお、死んでて姿見られなかったけど、あの辻ヒールは君か」「ありがとね、あそこで全滅してたら台無しだった」「ナイスヒール!」「今日始めたばっかりなんだって」「無償でヒールとか聖女かよ」「ずっとその綺麗な心のままでいて欲しい」「言うならば通りすがりの聖女か」「ナイス聖女!」
あああ、なんか変な盛り上がり方し始めた!?
どうみても半分悪ふざけ入ってるぅ
「リンちゃん、聖女(笑)だって」
「やめてください、嵐姫さんが言うと、さらに悪意を感じます」
うぅ、ちやほやされるのは嬉しいけど、ちょっとなんかちがう気がする。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「あぁ、そうそう」
微笑ましそうな目でこっちを見ていたジリオンさんが、思い出したようにトレードを申し込んできた。
これは……【レザードレスアーマー+1】?
「約束のお礼なので受け取ってください。そんなに高価な物でもないですけど、初期装備よりはだいぶ強いですしレベル7か8くらいまでは使えますよ。山田みたいに壊さなければ」
「うわ、ちょっと可愛い、ありがとうございます」
嵐姫さんの着てる革鎧と基本的なデザインは同じだけど、袖の布地部分が膨らんでパフスリーブになっていて、腰回りの裾部分も膝上までのびてワンピースのスカート状になってるのがいい感じ。
ステータスを見ると、物理防御力がだいぶ上がったのに加えて物理攻撃力+1もついてる。
たぶんつよい。気がする。よくわからないけど。
緩む口元を抑えながら自分の身体を見おろしてくるくる回る。
うーん、どっかに鏡とか無いのかな?
「あら、じゃぁ私はさっきの大猿がドロップしたレア装備進呈するよぉ」
「え、いやさすがに、それ……は?」
なんだこれ、【魔猿貌面】?
「お猿さんそっくりのお面なンよ、レベル15必要だから、残念ながらまだリンちゃん装備できないけどね。きっと似合うよぉ?」
「嵐姫さんはお面つけなくても似てるからいらない、ってことですか」
「お、聖女(笑)様、言うねぇ」
聖女言うな。
――――――――
「――さて、そろそろ夕食の時間なので私はログアウトしますね。」
いつの間にか18時半になっていたので、みんなにお別れを告げた。
まぁ、また夜に戻ってくるんだけど。
「あ、その前にリンちゃん」
「……なんですか?」
またなんか企んでる顔してるヤダー。
「わざとじゃないなら、そろそろその称号はずしたら? 【ドブネズミ】とかウケるンだけど」
「それはもっと早く言って!!」