第12話:ゆーずふるふれんど
ミカンの皮をむく時はいつもちょっと悩む。
ヘタの方からむくか、反対側からむくか。
テレビのバラエティー番組か何かで、ヘタの反対側からむいた方がむきやすい、とかやってるのを見た気もするけど、その時はあんまり興味が無かったのでちゃんと見てなかった。逆だったかも。
「昨日はヘタからむいた気がするし、今日は反対側からむいてみよう」
どっちにしろあんまり差を感じないので、考えるだけ無駄なのかもしれない。
そういえば、前に「センパイはミカン食べる時どっちからむく派ですか?」と訊ねると、「ボクはとりあえず2つに割るね」と想定外の答が返ってきたので、イラッとしてグーパンチしたのを思い出した。
うん、今それはどうでもいい。
ひとりでするレベル上げに飽きた私は、いちどログアウトして休憩がてらに少し遅めのおやつタイムを堪能していた。
おこづかいの乏しい私に許された唯一のおやつ、冬だからまだいいけど、これが夏だと製氷機の氷をかじるしかなくなるので今から気が重い。
皮をむいたミカンを2つに割り、さらにそこから1ふさはがして白い筋を爪先で取り除いていく。
綺麗にむけたふさを見て、じんわりとした満足感にひたったのち、ぱくり、と口に放り込むとみずみずしい甘酸っぱさが広がった。ん、美味しい、当たりだ。
2ふさ目のミカンの筋取りをしながら、このあとの予定について考える。
「あと1時間ちょっとでGPぜんぶ回復しそうだったし、パーティーでレベル上げとかやってみたい気もするんだけど……」
このゲームのパーティレベル上げがどんなのだかイマイチ想像できない。
センパイに借りた漫画や昔見たアニメだと、敵の攻撃を防ぐ盾役の人がいて、横や後ろから攻撃する役の人がいて、遠くから弓や魔法で攻撃する人がいて、それを回復したり補助魔法かけたりする人がいて、そんな感じで5-6人?くらいで戦ってたと思うんだけど。
「戦うたびに攻撃魔法とか回復魔法とか使ってたら、あっというまにGPなくなって何も出来なくなるよね?」
さっきジリオンさん達と話した時に、詳しく聞けば良かったかな。
他の人は色々調べながら遊んでるみたいだし、何も調べず勢いで始めたのは失敗だったかもしれない。
ミカンを半分食べ終えた所で、筋取りが面倒になって、残ったミカンにかぶりついた。
うまうま。
――――――――
お茶を飲んでひと息ついてからゲームを再開。
その前にネットでゲームについて色々と調べてみようかと思ったけど、気がつくと「なぜミカンを食べたあとにお茶を飲むと渋く感じるのか」を調べている自分を発見したので考えるのをやめた。
「なんかフレンドいっぱい増えたし、調べるよりも教えてもらった方がはやいよね、っと」
20人近くになったフレンドリストを表示してログインしている人をながめると、船長さんがローアースの街にいるみたいなのでたぶん暇だろうと思いボイスメッセージをぽい。
リン:『船長さんおはようございます。いま暇ですか? おこづかいください』
リン:『あ、すみません、おこづかいは余談でした』
ストロングアーム:『えっと、おはよう。あ、今朝の子かな。どこから突っ込めばいいのかわからないけど暇と言えば暇。……船長?』
リン:『質問が! あるのですが』
ストロングアーム:『あ、はい、どうぞ』
リン:『魔法5回しか使えないんですけど、パーティってどうやるんですか?』
ストロングアーム:『魔法はGPが……ってそうじゃないか、パーティ? ごめん、ちょっと質問の意味が』
リン:『あと、トゲのついた杖あまってたらください』
リン:『おこづかいでもいいです』
ストロングアーム:『とりあえず、ちょっと黙って』
何が言いたいのかわからないので街まで戻って来い、と怒った感じで言われた。
寝起きで機嫌が悪いのかな? まぁいいか、用事もあるし。
――――――――
【工芸の国:ローアース】
これ、毎回表示されるんだろか。
そろそろ見飽きたので消して欲しい。
矢印のいない広場に少しさみしさを感じながら冒険者ギルドへと向かう。
扉をくぐると横手から「おう、こっちこっち」と呼びかける声が聞こえた。
「すみません、魔物退治の報酬もらいたいんですけど」
「かしこまりました、レベル1の魔物12匹とレベル2の魔物3匹ですね――」
「なんで無視するの!?」
「あ、船長さん、おはようございます」
受付の人からクエスト報酬をもらおうとしたら船長に横入りされた。
割り込みは良くないと思う。
「順番は守らなきゃダメだって、小学校とかで習いませんでした?」
「それ、俺のセリフじゃないかな。先に声かけたよね?」
「あ、報酬1800エンももらえましたよ。でも移動入れたら3時間近いし、時給だと、えっと600エン? 微妙かも」
「……人と話している時は関係ないこと考えるな、って学校で習わなかった?」
「うわぁ、船長さん真面目ですね、ゲームくらい気軽に遊びましょうよ」
あ、船長さんが頭抱えて座り込んだ。
「その『産まれてきてごめんなさい』みたいなエモートどれですか? 【反省する】? それとも【懺悔】?」
「……いや、これは思考操作――あぁ、ここまでスムーズに全身動いたの初めてだわ」
「わ、おめでとうございます。やっぱりコツは殺意ですか?」
「殺意というか、無力感というか……いや、やっぱり殺意かな」
「つまり、無力な自分に殺意がわいたと。自殺とかやめてくださいね?」
リアルで面識なくても、言葉を交わしたことのある人が死んじゃうのは悲しい。
「うん、もういいわ。で、なんだっけ、パーティ?」
あれ、なんだっけ? そうそう。
「パーティでレベル上げとかするって聞いたんですけど、キャスターとかプレイヤーって魔法が5回まで? しか使えないから何したらいいのかな、って」
「ん? あぁ、なるほど、そういう話ね。そもそもこのゲーム、パーティの人数に制限がないから――」
そのとき、ピポッ、という音と共に嵐姫さんからのボイスメッセージが届いた。
嵐姫:『ねぇリンちゃん暇? レベル上げパーティのメンバーで、今からあの大猿のNMを倒しに行こう、ていう話になったンだけど見に来る?』
リン:『行く! 行きます!!』
「あ、すみません、用事ができたのでまた今度お願いします」
「え、えっ?」
ぺこり、と船長に頭を下げ、私は指定された場所へとかけだした。
いざ!