第11話:びぎなーそーど+1
+付きの武器ってわくわくする
「たたかわなくちゃ、げんじつと」
気を取り直した。
冷静に考えると、1時間に1回しか魔法使えないなら使わなくてもどうにかなるようにできてるはずだし、とりあえず1回は使えるんだからたぶん問題ない。
「でも、なんでそんなちょっとしか使えなくなってるんだろ」
せっかくのファンタジー世界で魔法使えるのが楽しいのに、もったいない。
「それな!」
斧ローブの人がノって来た。
名前は【健児・山田】……本名?
「今週のゲーム誌にインタビュー載ってたけどさ、思考操作に慣れさせたいんだと」
「思考操作……これ?」
横にいた嵐姫さんの顔にシュッと右パンチ。
「そう、それそれ、レベル1なのに上手いね。すごい」
「コツは殺意です、殺意を込めるといい感じに動きます」
「待って、さすがに私、殺意をもたれる覚えないンだけど……」
「普通にオートで攻撃すると確率で回避されたり防御されたりするじゃん、でも思考操作で殴る位置とか角度調整したら当てやすくなる、らしいぜ」
「へー、あとで試してみますね」
「それに、ですね」
ジリオンさんも参加してきた。
嵐姫さんはスルーされてちょっとすねてる。
「攻撃だけじゃなくて回避もコントローラーだと移動して避けるしかないんですけど、思考操作なら頭逸らしたりしゃがんでの回避もできるし、武器や盾で意識して受けることもできるらしいです」
「……そうやって基本的には殴り合いで戦ってもらうために、魔法やスキルの使用回数を制限してるらしいよぉ」
あ、意外と早く復活した。
「その分、攻撃魔法は強力だけどねぇ、キャスターなら少しくらい格上の敵でも一撃で倒せるし? でもぉ……」
私の方にチラリと流し目、むむ、いじわるの気配を感じる。
「プレイヤーの回復魔法は、わりとびみょー。1時間に1回しか使えないからそもそもあンまりダメージ受けないし、HPに比べて魔法の回復量が大きいから他のクラスの回復魔法でもわりと十分なンよ」
そう言って、きひひ、と笑う嵐姫さん。
……そういえば船長さん、ロッドだけじゃなくてプレイヤーていうところでも引っかかってたけど、これかぁ。
確かに、レベル1の私のヒールでも、ジリオンさん達全快してたしなぁ。
でも――
「『オンラインゲームはシステム更新で色々ガラッと変わる』て聞いたので、たぶん私がレベル上がる頃には最強になってるに違いないです」
ふんす、と目に力を入れて嵐姫さんを見返す。
少し胸を張るように身体が動いた、気がした。
「そうですね」
面白がるような声でジリオンさんが口をはさむ。
「最強はともかく、バランスの悪い部分や未完成に見える部分も多いですから、きっと近いうちに色々変わると思いますよ」
「へぇ……じゃ、リンちゃんが最強になった時に仲良くしてもらうために、今のうちにフレンド登録しとこうかな」
「え、じゃぁ俺も俺も」
なぜか唐突にフレンド登録大会が始まった、会話に参加してなかった2人も含めた5人と登録をかわし合う。
その後、予定していたレベル上げにジリオンさん達4人は向かい、嵐姫さんも着いていくということでこの場はお開きとなった。
「……あ、そうだ」
別れる間際にジリオンさんにトレードを申し込まれ、【ビギナーソード+1】という片手持ちの剣を渡された。
「ヒールのお礼がわり、というのもなんですが、この剣もう使わないので差し上げます」
「剣ですか……ぷらすいち?」
「初回限定版ソフトの特典で、初期武器がちょっとだけ強いんです。レベル7か8くらいまでは十分使えますよ」
ファイターじゃなくても剣や斧の方が戦いやすいとか嵐姫さんも言ってたし、お礼を言ってありがたくいただくことにした。
himechan用語で言うと貢ぎ物、的な。違うか。
――――――――
「――剣は役に立たない気がしてきた」
残ったチュートリアルも終わらせて、矢印とお別れをした私はさっきの廃集落に一人でやってきた。
魔物うさぎ相手にレベル上げをしながら「思考操作で戦う」練習をしてみたら、1時間くらいで右手だけならある程度自由に武器を振ることはできるようになった。のだけど……
「上手く斬りつけるのが難しい、って盲点だったかも」
魔物の攻撃をかわしながら武器を当てるのはいいんだけど、刃の部分で上手く当てられない。
オートアタックなら強いんだけど、思考操作だと手首の回転が難しく腹の部分でペシッと当たるばっかりで、距離が取れて何も考えずに殴れるビギナーロッドの方がまだ使いやすかった。
「びぎなーめいす? とかいったっけ、あのトゲ付き杖が良かったかもしれない」
さらに1時間ほど追加で練習し、レベル3まで上がった所で剣はあきらめた。
高く売れたりしないかな? このビギナーソード+1。
……売らないけど。