第10話:ちゅーとりある5
数秒の暗転の後、見覚えのある景色が視界に映る。
復帰ポイントってどこかとおもったら、今朝ゲーム開始した時と同じ広場の入り口なのね。
「とりあえず、魔法は堪能できた。満足」
さっさとチュートリアルを終わらせてまたヒーラーごっこしに行こう、と矢印に沿って進むと、この国(もしくは街、むしろ村?)にある残り2つのギルドへと順番に案内された。
ひとつめはさっき嵐姫さんと話題にした【狩猟ギルド】。
受付には肩に茶色い毛皮をショールのようにまとった、いかにも猟師っぽい厳ついおじさんが座っており、話しかけると「新顔の冒険者か」と面倒くさそうにこの国での注意事項を教えてくれた。
「魔物はお前達の獲物、それ以外の獣は俺たち猟師の獲物だ。お互いの領分は侵すな」
「そもそも狩猟ライセンスがないとか言われて殴れないんですけど」
「俺たちだって冒険者カードがない以上魔物には勝てん、そういうものだ」
微妙に会話が噛み合ってない気がする。
私はシステムの話をしていて、受付の人は世界観の話をしてる?
詳しく聞いた方がいいのかな、まぁ、いいか。
「魔物を獣と区別するには、その身に黒く揺らめく【魔の衣】をまとっているかどうかを見ればいい」
あのモヤモヤは魔の衣というらしい。
闇のオーラは嵐姫さんの造語か、やはり中二病。
試しに「私も狩猟ギルドに入れますか?」と訊ねてみると、他のギルドに所属している人間は入れないし、そもそも今は新しいギルド会員を募集していない、と断られた。
「狩猟ライセンスは実装されてない」ていうのはこのことかな。
「なんにせよ、お前みたいな弱そうな奴に狩られる獣なぞおらんがな」
うさぎの魔物くらいなら倒せますし! と言い返したら、バカにしたような顔で話にならないと笑われた。ぐぬぬ。
次に訪れたのは【生産ギルド】。
……いやいやいや、生産ギルドて。
いくらなんでもざっくりしすぎでしょ。
料理人と大工と農家だと、仕事の内容も必要な能力も全然違うよね、なんでひとまとめになってるの。
「まぁでも、昔はフライパンで野菜を炒めて船の部材を作るゲームもあったらしいし」
自分で言ってて意味がわからなかった。
こっちの受付は、猟師ギルドと打って変わっていかにも理系っぽい印象の、黒縁眼鏡をかけた線の細いお兄さん。
これで優しそうに微笑んでくれていれば私好みだったんだけど、残念ながら目つきがこわい。
現実で出会ったらたぶん目を合わせないようにする系。
どうでもいいけど、こういう知的な雰囲気でお洒落な格好した人が洞窟の中で真顔で事務仕事してるのは違和感すごいよね。なにこの絵面。
「君は新しく登録された冒険者か。だいぶ落ち着いてきたかと思ったが、まだ増えるのだな」
少し前に大量の旅人が冒険者登録に訪れ、大混乱に陥ったらしい。
サービス開始したのが4日前のはずだから、その時のことかな? そういうのも話題に組み込まれるんだ。
「冒険者には魔物の多い地域での採取活動や護衛などを依頼する場合があるが、今は冒険者の数が多く近隣の魔物もほとんど狩り尽くされているので特に依頼は出ていない」
猟師ギルドもだけど、チュートリアルでこのギルド紹介する意味あるのかな?
ゲーム的になんの役にも立ってないんだけど。
こっちも試しにギルドに入れるか聞いてみると、「君はなんのために当ギルドに参加したいと考えている?」と尋ね返された。むむ??
「そもそも、新しい工房や事業を立ち上げるのでもなければ生産ギルドに入る意味は無いし資格もない」
「……え?」
「なぜか最近来た冒険者には勘違いしているものが多いようだが、生産ギルドは教育機関ではなく事業者組合だ。鍛冶や彫金、木工細工などの専門技能を身につけたいだけなら、ギルドに加入済みの各工房に入門するがいい」
あ、なるほど、そりゃごもっとも。
「各工房への仕事の発注は全て一旦当ギルドで受ける取り決めになっているから、将来オーダーメイドの装備品などを依頼する場合はここに来るといい。採取品などの買い取りもここでおこなっている」
最後にそう告げられて部屋を出た。
――――――――
「あ、リンちゃん発見! やほーぅ!」
ギルド巡りを終えて洞窟を出、次のチュートリアルはなんだろう? と思いながら歩いていると徒歩で戻ってきたらしい嵐姫さんに声をかけられた。
その後ろには見覚えのある4人組の姿、さっき大猿の魔物に追われてた人達、だと思う。
「リンちゃん死んじゃって、ヒマになったから戻ってきたら入り口で出会ったンよ」
「さっきはありがとうございます、おかげでなんとか逃げ切れました」
ゴツいわりに丁寧な物言いでぺこりとお辞儀をしたのは、最後尾を逃げていた金属鎧の人。
名前を確認すると【ジリオンアイズ・マウンテンロード】、船長より名前長い上におぼえにくいとかちょっと。
先のエリアのレベル上げパーティーに参加しようと移動していた所を大猿に襲われたらしい。
「レベル上げるどころか、死んでレベル下がる所だったよ」
「一撃殴られただけで装備の耐久度もゴッソリ減ったしね、マジヤバい」
「むしろ買ったばっかりの俺のスケイルアーマー消し飛んだんだが」
「お前ら、お礼言ってる最中なんだからちょっと黙れ」
仲良さげでたのしそうだなー。
スケイルアーマー消し飛んだ人は初期装備のローブ着てデッカい斧背負っているのがミスマッチでちょっと笑える。
「装備や経験値は大丈夫そうですけど、GP4つも使わせちゃってすみません」
「……GP? あぁ、魔法? 別にいいですよ、そんなの。ヒーラーしたくてこのゲームはじめたので」
「いや、でも……」
ジリオンなんとかさんがちょっと困ったような申し訳ないような顔してる、なんだろ?
「――リンちゃんは、チュートリアルまだ途中なんでしょ? GP見てみて?」
ひょい、と間に割り込んできた嵐姫さんに言われてGPの欄に視線を向ける。
5つ並んだ丸いアイコン、そのうちの1つは白く輝いているけど残り4つはグレーのままだ。
「さっきヒールで使ったGP、回復してないンじゃない?」
「うん、まだです」
「それ、1個回復するのに1時間かかるンよ」
……は?
「やー、パーティ戦闘ならともかく、辻ヒールで一気に4つも使っちゃうなンてリンちゃん太っ腹やねぇ」
嵐姫さんがニヤニヤしてる。
ジリオンさんは「ホント、ごめん」て申し訳なさそうにしてる。
他の3人はこっちの様子に気づかず雑談してる。
そして、私は、
「――なにそれーっ!!」
とりあえず叫んだ。