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死の章

犬がいる生活って、いいよね………



あ、失礼しました。今回の<死の章>の“死”というのは、死闘の意味です。



ついでに、最後の方。いきなりでなんですが、龍乃達の戦いの様子を追加しました。読んでくださってた皆さん、ごめんなさい。

〜龍二視点〜



ヘリから飛び降り、突風を一身に受けながら俺らは落下していく。その落下地点には、山の中腹の崖っぷちに建てられた敵の本拠地がある。


「うっひょおおおおおおおおおおお!!! 超爽快感抜群じゃあああああああああああん!!!!!」


つかメッチャ叫んでるけど風で声が出ねぇ。


「おおおおおおおおお!!! これスッゲェ気持ちいいですねぇえええええ!!!」

「だろおおおおおおおおおおおおお!!!???」

「きゃあああああああああああ!!! ヒモ無しバンジーって楽しいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「でしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!???」

「つか僕は全然楽しくないからむしろ恐いからあああああああああああああああああ!!!!!」

「聞こえねええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

「文一に同感だっつーか俺は何で便乗して飛んでんだああああああああああああああああ!!!!????」

「知らねえええええええええええええええええええええええ!!!!!」


この気持ちがわからんとはまだまだ青いな、文一と零時。


「りりりりり龍二いいいいいいいいいいいい!!!! これはいくらなんでもメチャクチャじゃないのかああああああああああ!!!???」

「気ニシナーーーーーーーーーーーーーイだ龍乃おおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ハーーーッハッハッハーーーーーーーーー!!!!」

「叔父さん黙れええええええええええええええええええええ!!!!」


まぁ、そんなこと言い合ってる間にグングン着地地点が近づいてんだけど。


「ところで龍二いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「あああああああああああ!!!!!?????」


落ちてる最中に恭田が俺らより少し上空を落下しながら叫ぶ。


「今さあああああああああああああああああああ!!!! すんごい重要なことに気付いたんだけどおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「あああああああ!!! それ俺も気付きましたあああああああああああああああ!!!!!」

「俺もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


他の影薄達も叫ぶ。


……今さらだけど、ずっと叫びっぱなしでスッゲェうぜぇのな。


「あんさあああああああああああああああああ!!!!!」

「何だってんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」




「俺らパラシュート付けてないんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」




………あ。




「ワリぃ忘れてたあああああああああああああああああああ!!!!!!」

『忘れないでえええええええええええええええええええええ!!!!!!』


ちょっと上を見れば、大号泣しながらツッコミ入れる影薄同盟と文一と零時。


「つか死ぬって!!!! これ絶対死ぬってえええええええええええ!!!」

「ハッハッハッハッハ!!!! パラシュート無しのスカイダイビングなんてそうそう味わえんぞ零時よおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「俺は普通の人間だああああああああああああああ!!!!」


さもオメェの周りの連中(俺含む)が人間じゃないような言い方すんなよ。


「どうすんだよ龍二いいいいいいいいいいい!!!!」

「…………。」


こうしてる間にも、地面はグングン近づいてくる。


……うし。


「よっと。」

「うわ!?」


体勢を変え、足を下にしてそのまま隣にいる龍乃を俗に言うお姫様抱っこする。


「行くぞおおおお!! 歯ぁ食い縛れええええええええええええ!!!!!」


そしてそのまま地面へ!!!




【ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!】









「……着地成功。」

「…………。」


龍乃を抱えたまま、地面にでかいクレーターを作って降り立った。抱えられてる本人は何か若干顔青いし。


「……あ、相変わらず無茶をするな。」

『いつものことだ。』

「そうそう。」


龍乃を降ろし、服についた埃を落とす。



「ふぅ。実にスリル溢れるダイビングだったぜ。」


左隣では、鎌を右手に持ってから息をついている和也がいた。


「……よっと。」

「おお、魔法っつーのは便利だな。」

「でしょ♪」


んで、右隣では葵が魔力によって浮遊しながらゆっくり降下、着地。


「ふぅ……間一髪だった……。」

『危なかったね主。』


俺の背後で、文一は茜をベルトから取り出しながら一息ついていた。


「やれやれ……もうこんなスカイダイビングなんかこりごりだ。」

「ぐほぉ……れ、零時、とりあえずどいてプリーズ……。」


零時はというと、さらに後ろの方で和也のようにオッサンの背中をクッションにして服を整えていた。意外とSだな。


「「「…………。」」」



かくいう俺らも(和也、文一)も影薄同盟三人をクッションにしてるけど。




「さて、無事侵入成功だな。」

「「「無事じゃねぇよ!!!!」」」


いきなり復活したよ影薄。何か頭から血ぃ出てる気がすっけど気ニシナーイ。つーか恭田。オメェが一番血ぃ出てるクセに元気一杯じゃねぇの。


まぁいいや。とりあえず周囲の状況を確認っと。





【ビー! ビー! ビー! ビー!】





…………。



「…見つかったみてぇだな。」

「そりゃそうだな。あんだけ派手に登場したんだし、第一ここ本拠地だし。」


サイレンが鳴り響き、和也が左手に鎌を、右手に雨嵐を持って構える。零時も見たことのない格闘術の構えを取った。


「……エル、やるか。」

『ああ。』

「頑張るよー!」

「茜。」

『了解!』


龍刃とエルを引き抜き、構えらしい構えはとらずに仁王立ちする。葵も剣を手首で器用に一回転させてから正眼に構えた。文一は片手で茜を持ち、フェンシングのように突き出す構えを取る。


「邪魔するなら……切る。」

「ハッハッハ、どっからでも来い。」

「……正直こえぇけど、やるっきゃねぇか。」

「恭田さん、精一杯護衛します。」

「俺だってやるぞ。」


龍乃が懺悔を上段に構え、オッサンは腰に手を当てて高らかに笑う。影薄同盟もやる気十分。


さて……どんな敵が来るんでっしゃろねぇ?






『グルルルルオオオオオオオオオオオ!!!!』






…………。



「…………。」

「………なんだありゃ? トカゲ?」


……う〜〜ん………和也の言い分も最もなんだが……



トカゲみたいな顔に、緑色の鱗、鋭い爪が付いた四肢、ケツから長い尻尾。そいつが軍隊のような迷彩柄の軍服着込んでマシンガンやら拳銃やらライフルやら青龍刀やら持って二足歩行してんだけど。それが何か数え切れない程ドンドン周囲の建物から溢れんばかりに出てくる。



あれだな。名づけるならリザードマンだ。



「…………ふむ。」


まぁ、ひとまず……。


「……それ。」

【ダァン!!】


んなこったろぉと思って、日下部の部屋で頂戴しておいた拳銃を懐から引き抜き、一発ぶっ放した。



『ぐぎぇ!!』



心臓を射抜かれたリザードマンは、後ろにバタリと倒れる。


「お、こいつらはコーティングされてねぇな。」


んじゃあ、攻撃は通用するってわけだ……なぁるほど。


「うし、和也。オメェがやっちまえ。」

「任せてください。」


ニヤリと笑い、雨嵐を手首で一回転させる和也。


「じゃあ、皆伏せろ! 雨宮流剣術 衝の型!!」


雨嵐を横へ振ると同時に、俺らは屈んだ。


「『円閃斬えんせんざん』!!」


和也の雨嵐が蒼い軌道を描きながら、体を回して周囲のリザードマン達を切り伏せていく。切られた連中は吹き飛ばされ、あるいは真っ二つになって消えていった。



……消えた?



「へ? どうなってんだ?」

「……。」


零時が呟く。やっぱ単なる化け物じゃねぇな。


「……とりあえずそれは置いとこう。今は周囲の化け物どもを一掃するぞ。一通り倒したら中に突入する。」

『了解!!』


各々飛び出すと、敵も銃を構えて発砲してきた。


「おらよっとい!!」


一番手近なリザードマンを龍刃で袈裟切りし、エルで逆袈裟に切り上げる。体を反転させるリザードマンの尻尾を引っ掴み、思い切りぶん回して周囲のリザードマンも巻き込む。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおらぁ!!!」


一通りぶん回した後、前方に思いっくそ投げつける。投げつけられたリザードマンは、他の仲間を巻き込んで土煙を上げて地面に穴を開けた。


「さて、行くか……エル。二重共鳴。」

『ああ!』


龍刃を上へ放り投げ、落ちてくる龍刃の柄部分をエルを振って叩く。


『太刀の型!!』

【キィン!!】


一瞬で龍王乃太刀に持ち替え、大上段に構える。


「いくぞ……奥義!!」


氣を刃に込め、腕に力を入れていく。周囲の風が俺の氣によって渦巻き、刃に竜巻を纏わせる。



「『百花龍乱ひゃっかりゅうらん!!!』」



力任せに振り下ろし、刃の竜巻を氣で生成された桜の花びらを舞い散らせながら土煙目掛けてドリルの如く飛ばす。その進路上の土を削り、やがて目標に到達すると、リザードマン達を一気に切り刻んでいって原子レベルに粉々にした。悲鳴も残さない。


「悪いが……邪魔するもんは、全て切る!!」


太刀を担ぐように振り上げ、再び敵が寄り固まってる所目掛けて突っ込んでいった。









〜???〜



「ヒヒヒ……奴ら、中庭の方で暴れておりますなぁ。」

「そのようだな…。」


日下部は、先ほどと同じ部屋でプロフェッサー・玄と対談していた。


唯一違うのは、その日下部の姿が見えないこと。


「にしても、まさか上空からとは……いやはや、ムチャクチャしよるわい。」

「フ、いかにも連中らしい。」


嘲笑が、暗い部屋に響く。


「……プロフェッサー・玄。お前はどうする。連中をこのまま量産型・・・どもに任せるか?」

「ヒヒ、ご冗談を。わ、ワシも自慢の息子と共に、連中を嬲り殺しにいきますわい。」

「そうか……せいぜい遊んでやるがいい。」

「御意……では、失礼。」


恭しく礼をすると、プロフェッサー・玄は革靴の音をたてながら重い扉を開け、部屋を出て行った。


「……。」


日下部は、プロフェッサー・玄が出て行った扉を見つめ、声が聞こえないくらい小さく笑う。


「…………例え最強と謳われていようが、この神の前では貴様らなど無力。




そう…………無力なのだ。」

















〜ライター視点〜



「おるらぁ!」

『ギッ!!』


龍二が龍刃とエルを同時に振り下ろし、リザードマンを切り伏せてから一旦飛び退いた。


「あ〜今何体倒した?」

『三十六体目だ。』


鬱陶しげに言う龍二の質問にエルは律儀にも答える。傷一つ付いていないが、いい加減飽きてきたようで。


それでも、まるで湧き水のようにドンドンリザードマンが出てくる。


「ったく、こいつら一体どっから湧いて出てんだ?」

『ご主人、後ろ!!』

「おらよっと!」


和也はイラつきながらも雨嵐を背後から襲いかかってきたリザードマンの腹に突き刺した。


『ガァァァァッァ!!』

「もう!! 鬱陶しいよ!!」


飛び掛ってきたリザードマンを葵は力任せに剣を振り下ろして叩き落す。


「しゃらぁあ!!」

『グギィ!?』


葵から離れた位置で、零時はリザードマンの顔面を右ストレートで殴り飛ばした。


「も一つ行くぞ茜! 魔力装填、二刃展開! 『斬撃破斬ブレイドオブブレイド』!!」


和也の傍で、文一が茜色の刃を振りかざしていた。



「……このままじゃラチがあかない……!」

「まぁ、それは火を見るより明らかだわな。」


龍乃が懺悔を振って血払いし、皮肉を込めて言う龍二と背中を合わせる。


さっきから倒しては現れ、倒しては現れの永久ループの繰り返し。一行は中庭から先に進めないでいた。


「だが、何とかして活路を開かないとな。」

「……。」


龍二は二刀を構え、前方を見据えた。


「……龍二。」

「んあ?」


ふと、背後にいる龍乃が声をかけ、龍二はチラリと振り返った。



「ここは任せろ。お前達は先に行ってくれ。」

「……は?」


いきなりの提案に、龍二は素っ頓狂な声を上げる。


「ここで無駄な時間を食っていれば、優貴がどうなるかわかったものじゃない。だから、一刻も早く優貴のところへ急いでくれ。」

「おいおい、オメェまだ体万全じゃねぇだろ。危ねえぞ。」


そんなことを言ってる間にもリザードマンは襲ってきて、余所見をしながらも迎撃していく。


現に、龍乃は疲労からか息が微かに荒い。だが、それでも龍二の方を向いて真剣な眼差しで見つめた。


「だからこそだ。今の私では、悔しいがお前達の力になれん。だが、かと言って何の役に立たないのも歯痒い……。」


そして、場違いな程穏やかに微笑む。


「だから少しでも……優貴を助けるために、力になりたい。」

「…………。」



『リュウジ!! 上だ!!』

「ん。」


黙り込む龍二目掛けて、リザードマンが刀を振り下ろそうとした。


「むん!!」

『グギィ!』


が、横から入ってきた零時の叔父、健太郎の鉄拳によって吹き飛ばされる。


「ここは私達に任せろ。零時達は中に。」

「お、叔父さん!?」

「和也、行け。殿しんがりは俺らが。」

「駿!?」


駿がリザードマンを蹴り飛ばし、一聖が敵から奪い取ったマシンガンで遠距離にいる敵を撃ち倒していく。


「フミタン、俺らは大丈夫だから! お前達だけでも!!」

「一聖…。」



「うおりゃあああああ!!!!」

【ドン!!】


恭田が強引に奪い取った青龍刀で敵を足元に叩きつけ、同じく奪い取った拳銃を倒れた敵目掛けて撃ち、追い討ちする。


「龍二! 俺らがこいつら抑えとくからさっさと行け!!」

「……。」

「龍二くん…。」


葵は龍二が何を言うか、戦いを一旦中断して見守った。


龍二は構えを解き、龍乃を、そして健太郎と影薄同盟を見る。



全員、決意に満ちた目をしていた。



「……………ふぅ。」


やがて、何かを諦めたようにため息を吐く。



「……わぁった。任せる。」


そして振り返り、目の前に聳え立つ塔への入り口をしっかと見据えた。


「……龍乃。」

「?」


視線を塔に向けたまま、龍二は龍乃を呼んだ。


「……これ終わって帰ったら、皆でラーメン食うぞ。」

「…………。」


それは暗に、死ぬな、ということだろう。龍乃はそれを感じ取った。


「……ああ。でな。」

「……へっ。」


軽く笑い、すぐに真剣な表情へ戻る。


そして、小さく息を吐いた。




「行くぞ! オメェら付いてこい!!!!」

「「「「おおおおお!!!!」」」」


号令をかける龍二に続き、和也、葵、文一、零時が走り出し、並み居るリザードマンを次々と吹き飛ばしながら塔への入り口へ突入していった。




「……皆……優貴を、頼む。」


「龍乃! 前見ろ!!」

「! はぁぁっ!!」


龍二達を見送り、再び龍乃は敵に向かっていった。










〜城、内部〜



『グゲガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

「ふむ、 やっぱ中も敵だらけか。」


塔へ入ると、豪華なシャンデリアが辺りを照らしている中世ヨーロッパの城のようなだだっ広いエントランス。そこでも、正面のレッドカーペットが敷かれた横幅の広い階段を守るかのようにリザードマン達がたむろしていた。


「テメェら……邪魔だ!!!」


和也が走りながら大きく鎌を振り、腕に力を込める。


「うぉらぁぁぁっ!!」

【フォォォォン!!】


鎌を投げ飛ばし、高速回転しながら風を切りつつリザードマン達の頭上へと飛んでいく。リザードマン達は、当たれば切り刻まれるであろう鎌を恐れて身を屈める。


「こっちだバカトカゲども!!」


その隙を逃さず、軽くジャンプして勢いに任せて一番先頭のリザードマンを雨嵐で縦から真っ二つにした。


「雨宮流一鎌一刀!!」


そして、ブーメランのように戻ってきた鎌を左手で掴み、


「『空牙そらきば』!!」

【ザァン!!】


勢いに任せて薙ぎ払い、階段付近のリザードマンの上半身と下半身を分かれさせた。


「こっちも食らっとけ。一刀『炎龍刃えんりゅうじん』。」


和也を飛び越え、左へ振りかぶった刀に炎を纏わせて龍二は一気に薙ぎ払った。残ったリザードマンは、全員叫び声を上げる間もなく灰になって消えた。


「っと。行くぞ。」


着地してすぐに走り出し、階段を駆け上がっていく一行。長い階段を駆け上がり、重い門を開けた。


門の先には、レッドカーペットが敷かれたこれまた長い廊下が遥か前方まで伸びていた。壁は大理石を敷詰めたよう。そこに付けられたキャンドルスタンドで辺りを照らしていた。


「この先か。」

「……何か、いかにもってのが出そうだね。」


葵が周囲に漂う、並々ならない気配に身を震わせる。


「んじゃ、さっさと走り抜けるのが吉って奴だ。」

「賛成だ。」


龍二の提案に、零時が乗る。そしてすかさず走り出し、廊下を駆けていった。


「しっかし、趣味の悪ぃ城ですね。」

「大体、悪役っつーのんはこういうとこが好きなんっしょ。」


和也が走りながら周囲を見回して皮肉を言うと、それに答える龍二。大体、今時こういう城があることが珍しい。


「……。」

「? 文一、どうした。」


和也の横を走る文一が、何故か神妙な顔をしていた。


「……いや、何かさっきから妙に静かだなぁって思って……。」

「…………あ〜…………文一?」

「はい?」


龍二は顔をしかめながら文一へと振り返った。


「大体、そういう事言うと何か出るってのが王道じゃね?」

「……いや、考えすぎでしょ龍二さん?」

「うんにゃ、何か今までの展開からすっと、こう」






『やっと来おったか……ガキどもが。』






「…………。」

「ちょ!? そんな『テメェどうしてくれんだよコラ』的な目で見ないでくださいよ!?」


文一のツッコミをよそに、一行は立ち止まって構える。


『リュウジ、この声は……。』

「ああ。研究所で化け物出てきた時の声だ。」


龍二は龍刃を肩に担ぎ、エルを下段に持っていくという独特の構えで敵を待ち構える。


『お、お前達のようなガキどもに、我らが主の計画を邪魔させはせんぞ!』

「……それ気になってたんだけどよ。主って何だよ。いや日下部のことなのは知ってっけど何でそんな古風な呼び方してるわけ? 何か訳でもあんの?」


構えを解かないまま、普段と同じ喋り方で問う龍二。


『……お前のそのふざけた物言い……ホ、ホントに腹が立つわい……。』


それには答えず、スピーカー越しでもわかるほど声から怒りが滲み出ていた。


『……まぁよいわ……どの道、お前達は我らが計画を潰すことなどできはしない。』

「あぁ? それどういうこったゴラ?」


嘲るような言葉に、和也は憤慨する。常人なら倒れるであろう殺気を放つが、ここにいる者は全員ただ者ではないのでその点に関しては問題ない。


『何故なら……





お前達は、ここで死ぬのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』



【ズゴォォォォォ!!】



「うぉっとい。」

『な、何だ!?』


天井に穴が開き、そこから何かが降ってきたため全員一斉にその場から飛び退いた。土煙が廊下を覆う。




『お前ら全員、にえにしてくれるわああああああああああああああ!!!!!』




土煙が晴れると、そこには全身が漆黒の肌で覆われた、逞しい筋肉をした山羊……ただ、全長が四メートルほどもあり、四肢の付け根から漆黒の炎が吹き上がっている。


頭には山羊特有のクルリと回った金色の角。長い顔に付いた目が爛々と赤く輝いている。一際目立つのは額の中央に埋め込まれた血のように赤く輝く巨大な涙型の宝石。


そして背中からは、無数の影のように黒い触手が不気味に蠢いていた。


「……あー、デケェなこりゃ。」

「いや呑気に言ってる場合かよ!?」


エルを持った左手で頭をポリポリと困ったようにかく龍二に零時はツッコミを入れた。


「ふん! でかいだけのただのザコだろが!」


和也は鼻を鳴らし、鎌を床に突き刺した。


「ぶっ飛びやがれ!! 雨宮流無差別格闘術! 『双龍滅掌ダブルドラゴニッククリア』!!!」


一瞬で接近し、山羊の額にある宝石めがけて両手の拳を突き出すと、込められていた氣が爆発して山羊はたじろいだ。


「なら俺も!」


零時も便乗するかのように、右手を高く振り上げると爪を立てて氣を込める。


「くらえ! 『瞬刃・爪』!!」


一気に振り下ろし、五つの刃が山羊の額を襲う。巨人はさらに後方へと下がり、そのまま倒れ






『無駄じゃああああああああ!!!』

「!? な、にぃ!?」


ずに、大きく開いた口から燃え盛る火炎弾が飛んできて、和也はバック転をして回避した。飛んできた拳は、和也がいた床を粉々に粉砕した。


「こいつ、まさか体にコーティングを…!」

『ヒヒヒヒヒ! 今回は今までのようにはいかんぞぉ?』



高笑いしてから、山羊は黒光りする巨大なひづめを踏み鳴らしながら龍二達に接近してきた。


「やべ、逃げるべ。」

「お、おいコーティングって何の話だ!?」

「えっと、つまり私達の攻撃が効かないってこと!!」


回れ右して走り出した一行。零時は状況がよく理解できていないようで、葵が掻い摘んで説明した。


「ええ!? じゃどうやって倒すんだよ!?」

「さぁ?」

「テメェなんでそんな冷静(?)でいられんだよ!?」


そういう零時も逃げながらしっかりツッコミするんですね。



『逃がすか虫けらども!!!!』



地面を破壊しながら龍二達を追いかけてくる山羊。進むたびに廊下が破壊されていき、瓦礫となっていった。


「踏まれたらやばいぞ。」

「見ればわかるっつーの!!」


うん、ホント零時いいツッコミする。



『死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!』



巨人の赤く光る目に光が収束したかと思うと、赤いレーザーが一行の足元を襲った。


「おっとい。」

「うひゃあ!?」

【ビシュッ!】


レーザーが咄嗟に避けた龍二と葵の足元を貫き、穴を開けた。


「こんのぉ!!」


腰を捻り、上半身のみを山羊へ向けて葵は走りながら魔力球を放った。


【ズンッ!】



『グヒャハハハハ!! 効かぬ!!』



魔力球は山羊の胸部分に当たって爆散するも、全く怯みもせず地響きをあげながら龍二達に迫る。


「なら! 装填、展開! 発射シュート!!」


文一が茜を肩に担ぐように銃口を山羊へ向け、振り返らずに撃つ。魔力弾は寸分違わず山羊の目へと飛んでいく。


【バシュ!】


「げ、やっぱし……。」


が、目に当たりはするものの、たじろぎもせずに勢いを殺すことなく巨大な足を進めた。


「どーすんのぉ!?」

「今はとにかく逃げるっきゃねぇだろ。」


負けじと速度を上げ、龍二達は迫り来る山羊から逃げ続けた。歩幅は明らか山羊の方が大きいが、足の速さなら一行の方が数段上である。


「クッソ、逃げ続けるのも癪だぜ……。」

「……。」


和也が忌々しげに呟くが、傍ら龍二は走り考え込んだ。


(あいつ、葵の攻撃と文一の攻撃は平気だったが、和也と零時の攻撃には仰け反ったよな? ……………………。)



しばらくし、龍二の頭の中で電球がピーンと点灯した。


(なるほど……そゆことか。)

「ハァッ!!」


いきなり龍二はその場で飛び上がり、空中回転して逆さまの状態で山羊と向き合い、二刀を眼前で交差させた。


「行け! 二刀『双龍破そうりゅうは』!!」


重ね合わせた二刀の交差してる中心部分から蒼い極太レーザーが飛び出し、真っ直ぐ山羊のある一点飛んでいく。



『グゲァアアアア!!??』



レーザーが山羊を押し返すように進み、山羊は蹄で必死に踏ん張りながら耐える。


やがてレーザーは徐々に細くなっていき、消滅してから龍二は床に着地した。


「うし、今のうちだ。」


再び一行は背後で痛みを和らげようと顔を振る山羊を置いて走り出した。


「龍二、何したんだ?」


零時が龍二の横を走りながら問う。


「んむ、どうもあの額の宝石はコーティングが薄いらしい。」

「え、つまりそれって弱点? 何でそんな不利になることを?」

「さぁな。本人に聞いてみろ。」


龍二が振り返って顎でしゃくる。その先には、復活した山羊が再び追跡を開始していた。



『こしゃくなまねしおってえええええええええええ!!!!!』



「…相当キレてますね。」

「だろぉな。あら聞いても答えれそうにねぇぞ。」

最初ハナから答える気なんてねぇだろ。」


鼻息を荒くし、先ほどよりスピードを上げる山羊。しだいに距離は縮まっていく。


「そんじゃあ、そろそろ……、」


龍二はさらに速度を上げた。


「廊下も終わりが近いことだし、ケリつけるか。」


龍二の言う通り、十メートル先に出口がポッカリと開いていた。




「っとぉ。」

【ザザッ!】


廊下を出ると、そこは六角形の形をした巨大な部屋だった。床は複雑な模様で装飾が施されており、天井を覆っている天窓からはこれまた豪華なシャンデリアが吊るされている。雰囲気からして、ダンスホールのようだ。


龍二達は、その部屋の中央でブレーキをかけた。



【ドォォォォッ!!】

『グヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! もう逃がさんぞぉぉぉぉぉ!!!!』



同時に山羊も龍二達に追いつき、高らかに笑う。吹き飛ばされた出口の周辺に瓦礫が降り注いだ。


「うーし、広いとこに出たか……。」


再び山羊へと向き直り、一行は構えた。


「お前ら。狙いは額の宝石、他の攻撃を迎撃しつつぶっ壊すぞ。」

『了解!』


龍二が駆け出し、一行もそれぞれ分かれて四方八方から迫る。



『バカが! 自ら死ににきたか!!』



背中の触手が一斉に龍二達に迫る。


「二刀……」


眼前まで迫ってきた触手を前に、慌てずに二刀を左へと振りかぶる。



「『龍牙烈空閃りゅうがれっくうせん』。」


目にも留まらぬ速さで刀と剣を振り回し、体を回転させてから左右に薙ぎ払った。複雑に軌道を変えた剣閃により、龍二の前方に炎と雷で形成された巨大な竜巻が触手を飲み込み、切り刻んでいく。


「こっちも食らっとけ!! 雨宮流一鎌一刀 双鎌刃 奥義!! 『襲牙蒼嵐しゅうがおおあらし』!!」


和也も負けじと刀と鎌を振り、交差させて同時に振り下ろす。すると龍二の竜巻と同じ大きさの紅い竜巻と蒼い竜巻が、触手を飲み込んでいった。


「はぁぁぁぁぁ!!!」


三つの竜巻によって触手はほとんど切り落とされ、防御が薄くなったところを零時が額の宝石目掛けて飛び上がった。


「おらぁ!!」

【ドォッ!!】


勢いよく拳を振り下ろし、宝石を殴りつける。



『アギャアアアアアアアアア!!???』



「それぇ!!」


葵が悶え苦しむ山羊の前右足へ駆け寄り、剣で一閃して走りぬける。


「まだまだぁ!!」


そこですかさず方向転換、今度は左後ろ足を切り、また走り抜ける。さらに右後ろ足を、最後に左前足を切りつけて走り抜けた。



『ウグアアアアアアアアア!!??』



前足を切られ、バランスを崩した山羊は前のめりに倒れこむ。


「やるぞ茜!!」

『了解、主!!』


そして、倒れた山羊の前に文一が茜の弾倉に手を添えていた。


「魔力装填、四刃展開、斬撃×斬撃×爆散×発射……。」


弾倉を閉じ、刃が茜色に輝いた。


「いけ! 『斬波黄昏スラッシュオブトワイライト』!!」


屋敷の地下と同じ茜色の刃が伸び、砕け、欠片が刃となって全てが宝石へと飛んでいく。



『グゲエエエエエエエエエエエエエエ!!???』



全弾命中し、爆散した刃によって激痛が走り、前足で頭を抑えて転がる山羊。転がる度に部屋が揺れ、壁やら床やらを破壊していった。


「エル! 二重共鳴 太刀の型!!」

『ああ!!』


一瞬で太刀へと変化させ、後方宙返りして高くジャンプする。


「っしゃあ! オレだって龍二さんに負けねぇぜ!!」


和也も鎌の石突を床に突き刺し、雨嵐の先端を山羊に向けたまま腕を引き、突きの体勢へ入る。



「仏の許しも……三度まで!!!」


龍二はどういう原理なのか、空中で仁王立ちし、太刀を頭上にかかげる。すると龍二の背後に、仏の如く神々しく輝く二重の光の輪が現れ、そこから線の如く光が伸びる。



「雨宮流剣術 奥義……。」


和也の前方に輪を作るかのように、九発の瘋迅を放ち、ゆっくりと回転させていく。やがて回転は高速になり、ドリル回転の如く渦を巻き、周囲に風を吹かせた。



「『後光龍牙ごこうりゅうが』!!!」

「『玖頭龍破くずりゅうは』!!!」


龍二が太刀を振り下ろすと、背後の光から無数の光の槍が放たれる。そして和也が刀で渦の中心部を突くと、地面を削りながら渦が飛び出した。



『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!????』



龍二の光と和也の風が、全て山羊の額に命中して爆ぜ、思い切り吹き飛ばした。



『グゲェェェェエェェェ…………ば、バカな……本気を出したこのワシが……。』



黒煙を上げながら、震える足で何とか立ち上がろうともがく山羊。だが、体中から血のように黒い炎が噴出し、何度も倒れた。


「……オメェな、弱点モロだしのクセに俺らに勝とうなんざ千年早いっつーの。」


やれやれという風に肩を竦め、龍二は太刀を床に突き刺した。


「第一、廊下で俺らを仕留めりゃよかったものをさぁ、まんまと罠にはまってこぉんな無駄に広い場所で勝負挑んで、俺らが負けるわけねぇべ。」



『ふ……ざけるでないわ……! ワシが……ワシが負けるはずが……!』



「さ、トドメささせていただきますか。」


太刀を突き刺したまま、ポキポキと拳を鳴らしつつ歩み始めた。


「零時、やるぞ。」

「……ああ。」


チラリと目配せし、龍二は零時に合図を出す。零時は頷き、龍二の横に並んだ。


「……。」

「……。」


互いに沈黙したまま息を吐き、精神統一をする。


「……。」

「……。」





「「しゃらぁぁぁぁあああああ!!!!」」



同時に一気に駆け出し、二人の拳が山羊の額にぶち当たり、ひるませる。


「らぁあ!! 『崩拳・地』!!」

【ドォヴ!】


すかさず接近した零時が、腰を深く落としての正拳突きを額に鈍い音をたてながらぶち当てた。衝撃により、体の内部にダメージを食らった山羊は呻く。


「『龍閃弾脚……』」


その隙をつき、龍二は空中で右足を突き出したまま数回縦回転をし、


「『衝波しょうは』!!」

【ズダン!!】


刀並みに鋭い踵落としによって生成された衝撃波を、山羊の頭にぶち込む。


「『地動震ちどうしん』!!」


零時が右足を振り上げ、思い切り踏みつける。すると周囲が揺れ、山羊は再び体勢を崩した。


「『龍糸貫・しばり』。」


その山羊に右手の人差し指を向け、レーザーを放つ。しかし、レーザーは山羊の周囲をグルグルと回り、三周した後、一気に縮まってロープの如く縛りつけて動きを封じた。


「トドメ、いくぞ。」

「オッケー!」


龍二が体に蒼い闘氣を纏い、零時が四肢に力を込める。



「クロスオーバー、」

「奥義…。」



二人は並びながら、神速で一気に間合いを詰めた。




ツイン.ゴッド.ラッシュ!!!』




龍二の神速をも超える速さで無数の拳を繰り出す『轟龍閃弾ごうりゅうせんだん』が、零時の神聖な力が込められた音速の拳を繰り出す『浄滅拳じょうめつけん』が、山羊の額の宝石に火花を散らしながら叩き込まれていく。



『あ、あ、ああああああああああああああああああああああ!!????』



絶え間ない拳の嵐を受け続け、ようやく宝石にヒビが入り始める。それでも龍二達は拳を止めない。


「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」


ヒビはもはや宝石全体を覆っており、やがて黒い煙が立ち昇ってきた。


「「フィニーーー……」」


そして、とどめの一発に龍二が右腕を、零時が左腕を思い切り引いて、



「「ッシュ!!!!」」

【ズガァァァァン!!!】



二人同時の渾身のストレートを叩き込んで、宝石を粉々に砕いた。



『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!????』



砕け散った宝石から漆黒の炎が吹き上がり、山羊の額から天井近くまで火柱を作り上げた。山羊自身も、体中の至る所から炎が噴き出し、断末魔の雄叫びを上げる。



【ズゥゥゥ……】



声が止むと、四肢を投げ出すように山羊は倒れた。未だ炎が生き永らえようと最後の抵抗をするかのように燻っている。



『あ……あぁ……そん、な……。』



突如、山羊の体が灰のように崩れていき、小さくなっていく。やがて山羊の姿は完全に消え、倒れていた場所は火事があったかのように黒ずんでいた。


その中央に、煤だらけの白衣を着た老人、プロフェッサー・玄が倒れ伏している。


「そんな……ワシが、負ける……なんて……。」

「意外と呆気なかったな。」


太刀を引き抜き、二刀に戻しつつ龍二が言う。


「ん〜……どれだけのものとか思ったんだけど、大したことなかったよね?」

「この調子でいけば、あのクソヤローも倒せんじゃないか?」


葵と和也が緊張が解れたかのように呑気に話す。



「………く、くくく……。」

「?」



が、突如プロフェッサー・玄から弱々しくも愉快気な笑い声が聞こえ、一行は訝しげな表情を浮かべた。


「クヒヒヒヒヒ……き、貴様ら、主の本当の恐ろしさ……理解、しておらんようじゃな。」

「あ? どゆこと?」


龍二が首を傾げる。プロフェッサー・玄はわずかに顔を上げ、頭から血を流しつつ笑う。


「こ、このコーティングは……どうやら、ワシの肉体には効果が薄いよう、でな……。」

「肉体?」

「ヒヒヒ……ワシの目論見は、見事外れたわけじゃ……ゴフッ……たかが、人間如きに敗れるとはな……。」


口から血を吐き出し、手で体を支えながら上体を起こした。


「じゃが、これも想定の範囲内のこと……我が主は、贄を得たことにより、もはや、貴様らなど、遠く、及びも、しない……。」

「贄? ……何のことだ。」


龍二が太刀を向け、問う。だが、プロフェッサー・玄はゆっくりと体を起こし、膝をついて口の端を吊り上げるかのように笑った。


「もはや、ワシはここまで……この目で、この世界が、血に染まるのを、見れんのが、心残りじゃがな……。」


天窓から見える月を仰ぐように、両腕を高く上げた。


「あぁ……主よ……我らが宿願、どうかその手でぇぇぇ………………。」


もはや声もかすれ、それでも力一杯に叫ぶプロフェッサー・玄。そして、




【ドゥッ】




倒れた。


「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」


その場から動かず、プロフェッサー・玄を見つめる一行。その脳裏には、得体の知れない不安がよぎる。


「……こいつ、何なんだ……?」


零時が、ただそう呟く。


「……………葵?」

「……うん。」


龍二が葵をチラリと見、それに対し葵は頷いた。


「……やっぱ魔力感じた。」

「……ふむ。」


いつにない葵の真剣な表情。それを見て、龍二は考え込む。


(……やっぱ、こいつら……。)

「とにかく、急ぎましょう。」

「そうだな。優貴の身が心配だ。」


文一と和也の声で考えるのを一時中断した龍二達は、ホールの出口と対称に位置する場所にある両開きの扉へ向かって走り出した。





【バサァ】





その背後で、プロフェッサー・玄の体は、着ていた白衣を残して黒い砂となって崩れ去ったのを、龍二達が気付くことはなかった。










一行がホールを出ると、その先は廊下が真っ直ぐ伸びていた。だが、先ほどとは違い、五キロ先に金色の枠で縁取られ、両脇に天使の象が立っている両開きの門があった。一行は廊下を走り、門の前で立ち止まる。


「……この先か。」

「うん、何か禍々しい魔力を感じるよ。」


葵が神妙な面持ちで答える。龍二は龍刃とエルを握り締め、門を睨みつける。


「……行くぞ。」


先ほどと同じ得体の知れない不安を抱えながらも、龍二達の目には迷いがない。


龍二は先頭に立ち、門を押した。




【ギィィィィィギギギ……】




蝶番から軋む音がし、重い門が開く。中はほとんど真っ暗闇で、進路上の両脇に置かれてある蝋燭立ての淡い光のみが照明となっていた。


「…………。」


龍二達は、真っ直ぐ前を見ながらその暗い部屋の中へと入っていく。蝋燭と門の外の光が明かりになっているものの、照らしているのは通路である赤いカーペットのみで、周囲までは照らせていない。



【バァン!】



と、いきなり背後の扉がけたたましい音をたてて閉じ、一気に暗くなった。だが、一行はチラリと後ろを振り返っただけで何の気もとめていない。


「…随分とベタなことしやがんな?」


再び前へ向き、目を鋭くしながら言う。



「フフ……こうでもしなければ、盛り上がらんだろう?」



暗闇の向こうから日下部の声が響く。



同時に、部屋が急に明るくなり、周囲の情景がハッキリした。


「……ここは……。」


和也が周囲を見回す。広さはかなりあり、学校のグランド程もある。その中に、長いすが四列、前に向かって並べられており、その前には巨大なパイプオルガン、上には女神が描かれた色とりどりの巨大なステンドグラス、そして説法をするための教壇が置かれてある。


何より目立つのは、そのパイプオルガンの前にまるで堂々と玉座に座っているかの如く鉄の塊の如くゴツイ鎧のような物が置かれており、右手には分厚いダンビラを重ね合わせて打ったかのようなゴツイ剣が握られていた。



そしてその鎧の胸部分の座席に、日下部がまるで自分が王とでも言うかのように座っていた。



「ここは、大聖堂か。」

「えらいでかいな……。」


和也と零時が呟き、日下部は口の端を吊り上げる。


「お前達の神が見守る中、俺がお前達を殺す……実によいと思わないか?」

「そりゃテメェだけだろが。第一俺らは殺されねえっつーの。」


そんな日下部の挑発に、龍二はサラリと返した。


「んなことより。テメェ優貴をどこにやった。」

「……フフ。」


小さく笑い、手を高く上げる。その手の先を龍二達は見上げた。


「…!? な……。」

「……。」


零時は驚愕の声をあげ、龍二はより一層目を鋭くする。




ステンドグラスのちょうど上、グッタリしている優貴がまるで赤黒い肉の塊のような不気味な十字架に埋め込まれた形で磔にされていた。




「……何をしやがったテメェ!?」


和也が鎌の先端を向け、威嚇する。日下部は嘲笑し、右の肘置きに肘を置いて頬に手を添える。


「彼は贄だ……プロフェッサー・玄が言わなかったかね?」

「贄?」


葵が剣を構えながら首を傾げた。


「…つーか、さっから贄とか何とか言ってるけど何のことなんだ?」

「…………。」


声から怒りが滲み出てる文一の隣で、龍二は黙って日下部を睨みつける。


「……オイ。」

「?」





「お前誰だ。」

「……へ?」



龍二の質問に、葵が素っ頓狂な声を上げた。



「贄とかだけじゃねえ。あのロボットのテクノロジー、物理・気力・魔力をもはねのけるコーティング、葵達が感じた魔力、あのじいさんが言ってた計画、そんで優貴を捕らえているあの十字架…………普通のヤクザが持つには明らかありえないもんばかりだ。


答えろ。お前は日下部 剛鬼に化けた・・・誰なんだ。」

「………………。」


日下部は先ほどと打って変わって冷たいほど無表情となった。




「…………クッ………。」


長い沈黙の中、日下部は喉の奥で笑う。


「ク……クハハハハハ……………勘が鋭い奴だよ。お前は。」


ゆっくりと、座席から立ち上がった日下部は右の掌で顔を覆った。


「…………五千年…………長い、長い間、私は封じられてきた……。」

「!?」



龍二の隣にいる葵が、身震いをする。



「葵?」

「だが、私はようやく解放された……私を利用しようとした、愚かな人間達の手によってな……。」



突然、周囲の蝋燭の炎が勢いを増すかのように燃え上がる。



「当然、その者達はすでにこの世から消し去った……愚かな人間などに、私が仕えるはずがない。」

「…………。」



龍二達は無言で武器を構えた。



「そして、手始めにお前達を誘い込み、一気に根絶やしにしようとした……がぁ……あれは失敗に終わった。」



日下部の背後から、黒い炎のようなオーラが湧き上がる。



「そして私は再び封印されそうになった…………だが人間というのは本当に欲が深い生き物だ……私は再び召喚された。




この日下部 剛鬼という、欲望にまみれた人間の手によってなぁ。」



日下部が右手を顔から離す。






その顔には狂気を浮かべた笑み、そして瞳が黒ではなく、赤く輝いていた。






「……なるほど……お前だったのか。」


龍二は誰もが竦むであろう殺気を込めて睨みつけた。





「久しぶりだなぁ……サタン。」




≪サタン≫……かつて天使でありながら神に反逆を起こし、地獄へ叩き落されたとされる魔界の王。


そして魔界でもその暴虐によって反乱に合い、地獄の奥底へと幽閉され続けてきた、忌まわしき存在。


長きに渡る眠りから覚め、再び現世へと蘇った、災いの種。




それが今、龍二達の目の前にいる。


「へ……龍二くん、サタンって……。」

「んむ。一時俺らをハメようとしてライターにとり憑いてた野郎だ。」


学校でのバトルロワイヤルという名目で、龍二達を消そうとしたが、結局は龍二達によって返り討ちにあい、その時居合わせた黒ヘルに再び封印された……ハズだった。


「……で、お寝んねしてたと思ったらそいつに憑いてやがったのか……しつこい奴だなぁオイ。」


鬱陶しげに言う龍二に、また嘲笑を浮かべる日下部……ならぬ、サタン。


「あの時はあれは失敗だった……貴様のその圧倒的な力によって、私は再び屈辱に苛まれたのだ…だが。」


笑みを浮かべつつも、その目は真っ直ぐ龍二へ向け、殺意を飛ばした。


「今回はそうはいかん。今こそ、この屈辱を晴らす時がきたのだ……この贄の力によってな。」

「優貴のことか……つかよ、何でそいつなんだよ。優貴は一般人だぞ。」

「血だよ。」

「……血?」


サタンの即答に、文一が再度聞く。


「彼の中に流れる血……これこそ、私が完全に復活するために必要な血……ゆえに、彼が必要だった。」


そして両腕を広げ、天井を仰ぐ。


「そして、彼の血を飲み干し……私は、この世界の神となり、貴様ら人間をこの世から排除して、私の理想郷を作りあげる……それこそ、我ら一族の長年の夢なのだ!!!」


高らかに言い、周囲の魔力が膨れ上がる。葵はその魔力に身震いし、鳥肌が立つ。


「どうだ? 私と共に来るか? 今ならまだ許してやろう……お前達だけではない、お前達に関係する者達も見逃してやらんでもないぞ?」


下卑た笑みで、サタンは龍二達を見る。


「…………ほう? つまりは優貴は単なる一般人じゃねぇってことか……なるほどなるほど。」


だが、聞いちゃいない様子で龍二は納得したように頷いた。


「…………だが、それとこれとは関係ねぇ。」



再び睨みつけ、龍刃をサタンに向ける。


「オメェをぶっ飛ばして、優貴を取り返す。そいつは俺らのダチだ。贄だか何だか知らんが、テメェの好きにはさせやしねぇよ。」



葵も剣を構え、しっかと睨む。


「……私だって……恐がってなんかいられない……むしろ、ムカつく!!」



雨嵐を右手に、鎌を左手に持って和也は構える。


「…お前は、レナを傷つけた……何が何でも、許すわけにはいかねぇんだよ!」



茜の切っ先を向け、フェンシングの構えを取る文一。


「誰がお前の下につくか! もうこれ以上、誰も傷つけさせはしない!!」



零時は拳を作り、格闘術の構えを取った。


「テメェは今まで何の罪もない人間を数多く陥れてきた……ゆえに、ぶっ飛ばす!」



「………そうか………。」


まるでかわいそうな者を見るような目で、サタンは呟く。


「……せっかく、私の下で働かせてやろうと思ったのに……生かしておいてやろうというのに…………お前達は、私に逆らうというのか………。」


宙を仰ぎ、わざとらしく嘆き、座席に座りなおす。


そして、


「…………ここで貴様らを放っておけば、後に我らの大いなる脅威となりうる…………………ならば」




一転、顔を元に戻す…………その顔には、怒りと殺意が込められていた。




「ここで殺してくれる!!!!!」

【ガシュゥゥゥゥウウウウウウウ!!!】


サタンが座っている座席の両脇と、鎧の脇から白い蒸気が噴き出す。そして、座席の左右から赤いスイッチが付いたレバーが伸び、サタンはそれを握る。そして座席を包み込むかのように前方の左右から黒いアーマーが閉じ、さらにサタンの頭上を覆うように漆黒の兜が降り、ガシャンと音をたてて固定される。兜の形状はさながら山羊のように金色に輝く渦巻いた角が左右に伸び、額部分には黄金の鬼の顔のレリーフが彫刻されている。その兜の下には、鋭いカメラアイが紅く光った。


【ガシュン グォォォ……】


そして、ゆっくりと鎧が立ち上がる。外見はまさに、五メートルもある騎士の甲冑。だが、腕、足がゴツく、さらに指先がまるで爪のように鋭く尖っていて、明らか騎士が着るような鎧ではない。背中には堕天使の如く黒い翼が生え、生物のように蠢く。右手には巨大な剣を持ち、床から引き抜く。



『……ビビ……ターゲット、ロック。モード・皆殺ミナゴロシ。“DX−00:KUROONI”、始動開始。』



屋敷にいたロボット達と同じ無機質な声が響き渡り、一歩、重い足を踏み出す。足元にあった教壇は踏み潰され、粉々となった。



<我こそは!!>



サタンの声がし、剣を横向きにしたまま頭上に掲げた。



<この世を統べる神である!!!!!>

【ボォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!】



雄叫びを上げるかの如く、鎧…もといロボットが唸る。


「……ったく、地獄でも厄介者扱いされた奴が、神様名乗るのかよ。」


龍二は龍刃を降ろし、ため息を吐いた。


「…………一つ、教えてやる。」


そして龍刃を振り上げ、





「神を名乗る奴ほど、愚かな奴はいねぇんだよ!!!!!!」

【ゴォォッ!!】



一気に振り下ろし、風を巻き起こした。








世界の命運を賭けた決戦が、始まる。












〜中庭〜



「はぁ、はぁ……。」


一方、中庭で龍乃達は未だリザードマンの軍勢と戦闘を繰り広げていた……が、明らか数が減ってきており、数は多くともこちら側が優勢の位置に立っていた。


それでも、龍乃達の体は傷だらけ。所々から血が出ており、満身創痍の状態だった。


「ふぅ……いい加減に、してほしいな……。」


見れば、懺悔も所々傷が入っており、その戦いの激しさが垣間見れた。影薄同盟の服も所々破れており、そこから血が滲み出ている。


「まぁ、にしても時間稼ぎにはなったんじゃないか?」

「ふむ、ここまでやれば上等だろう。」


恭田が青龍刀を構えつつ言い、健太郎もいつにない真剣な面持ちで同意する。


「ならば、速く龍二さん達と合流しましょう。」

「そうだな……そろそろ潮時か。」


一聖の言葉に頷き、龍乃は懺悔を仕舞おうとした。




『ギシャアアアアアアアアアア!!!』




「ゲッ!? しっつけ!?」


鬱陶しげに呟く駿。前方にある門から、またゾロゾロとリザードマンが現れた。


「クソ、いい加減に……!」


龍乃は再び懺悔を構え




「! クゥ……!」

「龍乃!?」


ようとしたが、ふらつき膝を着く。


「くぅ……こんな時に、疲労か……!」


悔しそうに呻き、立ち上がろうと歯を食い縛る。


しかし、体中傷だらけな上、元々万全の体じゃなかったのだが、ここまで動けただけでも龍乃の想いの強さと根性の賜物と呼べるだろう。だが、もはや体自身がついていけない状態となっていた。


『グゥエオオオオ!!』


そんなことお構いなしに、リーダー格のようなベレー帽を被ったリザードマンが青龍刀を高く掲げ、それに呼応するかのように他のリザードマン達が横一列に並び、マシンガンの銃口を龍乃達に向ける。


「まずい……!」


龍乃が避けようとするが、体が動かなかった。


(クソ! 動け! ここで、ここで死ぬわけにはいかない!!)

『グガアアアアアアアアアアアア!!!』


龍乃の思いも虚しく、リザードマンのリーダー格は青龍刀を振り下ろす。



【ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!】



一斉にマシンガンを連射し、弾丸は全て龍乃達に吸い込まれていく。



(優貴…………!!!)



迫り来る死の予感を感じ、龍乃は目を閉じた……




次回、決戦。他の秘密も明らかになったり。


そういうわけで、<決の章>へと続きます。

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