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戦の章

今回から、髭伯爵さんのキャラ達が参戦します。因みにサブタイの<戦の章>の“戦”とは、そのまんまの意味です。いくさです。まぁまだ戦いませんけど。

〜ライター視点〜



「「ひぃやあああああああああああああ!!!!」」


左の研究員室の廊下を歩くアルス達の前に、多量の血がべったりとこびり付いた壁を見てアルスとクルルは互いに身を抱き合って叫んだ。


「うわ!? びっくりした!」


アルス達の声に前にいた優貴が飛び上がる。


「は……はぁ……。」

「ふぇぇぇ……。」


ついにアルスとクルルはすっかりへっぴり腰となってしまい、その場でへたり込んだ。


「しっかりしろ二人とも。」


二人を見下ろしながら龍乃は刀を右手に持ちながら手を差し伸べた。


「あ……す、すいません……。」

「ふにゃ〜……。」


顔が真っ青の状態になりながらも、二人は龍乃の手を取りヨロヨロと立ち上がった。


「全く、まだ戦闘なんてしていないのに、こう何回も叫ばれてはたまったものではないな。」

「うぅ……すいません。」


呆れたように言われ、しおらしくなるアルス。現にここまで廊下に飛び散った血を見て悲鳴を上げることアルス六回、クルル十回。


「…そういうリュウノさんはどうなの? 恐くないの?」

「まぁ、血なんて見慣れているしな。」

「その返答もどうかと思いますよ?」


クルルの質問にさも当然と答えた龍乃に優貴がツッコんだ。


「じゃユーレイは?」

「…………………と、当然平気だ。」

「目ぇ泳いでねぇか?」

「死ぬか影薄風情が。」

「あいすいません。」


余計なこと口走った恭田の喉元に刀を突きつけて脅す龍乃。すぐさま土下座したヘタレ影薄きょうた


「……なぁ、皆それくらいにしといた方がいいんじゃないか?」

「ガハハハハ! まぁこんな辛気くさいとこでこのテンションならいいじゃないか!」

「そういうのを場違いというんじゃないですかー?」


マーくんとアレクと湖織が、そんな彼らを若干離れた場所で眺めていた。



「? 皆、ちょっとこっち来てー。」


フィフィが一人、一つの部屋の前を浮遊しながら皆を呼んだ。前には、鉄の両開きの扉がある。


「どうしたフィフィ?」

「何かね、この部屋鍵かかってるみたいで開かないの。」

「うし、任せろ。」


部屋の前に立ったアレクが、右拳を体を捻りながら思い切り振りかぶる。


「どっせぃやあああああああああああ!!!」

【バゴオオオオ!!】


アレクの鉄拳が扉の炸裂し、見事にへこみながら扉は吹っ飛んだ。


「おし。」

「……相変わらず馬鹿力だな……。」

「……あれ食らったら絶対死ぬよね。」


一呼吸おいたアレクに、マーくんは呆れたように呟き、レナは顔を青くした。


「どれ…。」


アレクを先頭に、皆ゾロゾロと中に入っていく。


部屋はどうやら資料室のようで、正方形の部屋の正面と左右に長い棚があり、その中に様々なファイルや本が陳列されていた。


「……ここ、何もないのか?」

「資料が山ほどあるようだが。」


龍乃が手近な棚に置かれているファイルの一つを手に取り、適当にパラパラと捲っていく。


「………………チッ。」


小さく舌打ちし、ファイルを床に投げ捨てた。


「人体実験の結果や動体記録……どれも正気の沙汰とは思えんことばかりが書かれている。」

「……外道どもが。」


駿は怒りを隠そうともせず、棚を蹴りつけた。鉄製の棚は大きくへしゃげ、一部のファイルがバサリと落ちてくる。


【パサ】


そのうちの一つが、落ちると同時に開いた。


「?」


偶然、それが視界に入っておもむろに拾い上げた一聖は、開かれたファイルに目を通した。


「…………。」


じーっとファイルを眺める一聖。



「……!?」



やがて、その顔は驚愕に彩られた。


「これは……!」

「? 一聖、どうした?」

「何見てんの?」


恭田とフィフィがいぶかしげに一聖に近寄る。






「!? キョウタさん、危ない!」

「!!」


その時、アルスの声が響く。



【ガシャァン!!】

「きゃあ!?」

「!? な、何だコレ!?」



突然、恭田、駿、一聖、フィフィの前に横一列に数十本の棘つき鉄鎖が巻かれた鉄棒が天井から飛び出し、彼らの前と後ろの床に突き刺さる。ちょうど、鉄格子の如く進路を塞ぐかのように。


「何だ!?」

「キョウタさんフィフィ! 大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……マジビビったぁ……。」


鉄格子のうち一本が、恭田の股ギリギリのとこで刺さっており、恭田は顔真っ青にした。後少しでやばかった。


「フン! こんなもん!」


駿が鼻で笑うと、右足を振り上げて回し蹴りを鉄棒めがけて繰り出す。


【ガィン!】

「いで!?」


だが、鈍い音をたてるだけで駿の神速の蹴りは弾かれた。


「んだよコレ!? かってぇ…。」

「どいていろ。」


駿が足を抑えながら飛び退くと、今度は龍乃が懺悔を引き抜く。


「はぁぁぁ!!」


渾身の袈裟切りが鉄棒に迫る



【ギィン!】

「うぁ!?」



が、これも弾かれた。


「龍乃さん!?」


優貴が衝撃で後ろへ倒れそうになった龍乃を支える。


「いたた……何なんだこの鉄棒の硬度は。」


手の痺れで懺悔を取り落としそうになりながらも、忌々しそうに言う龍乃。


「……ダメね、傷一つない。」

「そんな……。」


フィフィが駿と龍乃が攻撃した部分を見て、肩をすくめる。鉄鎖のおかげで、フィフィは外に出ようにも出られない。


「単なる鉄棒……じゃないようだな。」

「どうしましょう? これでは恭田さん達どころか、ボクらまで出られませんよ?」


アルスが剣で鉄格子を叩く。ちょうど鉄格子は入り口前に刺さっているためである。


「……何か仕掛けがあると思う……。」

『んじゃあちゃっちゃと探そうや。んなしけたとこで野垂れ死になんてたまったもんじゃないからな。』

「アンタ刀でしょうが。」


湖織の持つ誘宵に的確なツッコミがフィフィから放たれる。


「……でもどこにあるんだろ……?」

「むぅ……何もないよぉ。」


レナとクルルが、鉄格子を調べながら呟く。





『…………。』





「? え?」

「優貴?」


優貴が突然ハっとし、龍乃は振り返った。


「……今、何か音がした気が……。」

「……気のせい……とも言い切れないな。こんな場所だと。」





「!! 皆伏せて!!!」

『!?』





フィフィが前方を指差しながら叫ぶ。



【ズォン!!】

「ぐぁあ!?」

「きゃあ!?」

「みぎゅ!!」



突然黒い影がマーくんとアルスとクルルを弾き飛ばし、鉄格子に叩きつける。



「アルス、クルル!」

「アイス!?」


咄嗟に伏せた湖織とアレクが立ち上がり、駆け寄ろうとする。



【ドッ!】

「ぐああ!!」

「くぅっ!?」

『湖織!!』



だが、二人にも影が襲い掛かり、湖織は床に叩きつけられ、アレクは吹き飛ばされて本棚を破壊し、壁にめり込んだ。



「こんの!!」


レナが鎌を構え、次の攻撃に身構える。



【ドォッ!!】

「かはっ!?」



だが、背後に回りこんだ影によって背中を強打し、倒れる。


「皆!?」

「優貴危ない!!」


優貴は龍乃に突き飛ばされ、床に倒れる。



【ドォッ!!】

「! ぁ……!」

「龍乃さん!!!」



龍乃の腹部に鞭のようにしなった影が叩きつけられ、口から血を吹き出しながら吹き飛ぶ。


「クソ!」


踏ん張り、吹き飛ぶのを耐える。が、出血は止まらずに膝をついてしまう。


「龍乃さん!」


優貴が血相を変え、駆け寄ってきた。


「よ…………」


口から血を垂らし、龍乃は苦痛で顔を歪ませながらも声を振り絞る。



「よるな……優……貴……!!」



優貴は気付かなかった。




彼の背後を、無数の触手に似た影が狙いを定めているということを。





「優貴ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」











〜龍二視点〜



「なん、だとぉ!?」


画面が消えると、和也が今にも突っ込まん勢いでいきり立つ。それを見て、日下部は嘲笑を浮かべた。


「お前達は、この地下研究所に入った時点で罠にかかっていたのだ。まぁ、もっともお前達が月見優貴と行動を共にしていたら手こずっていただろうが……ホント、運がいい。」


……チッ。俺の判断ミスってわけだ……。


「……つまり、皐月は単なる餌ってわけかい。」

「そういうことだ。色々調べてみた結果、こいつの兄は妹のことになると周囲が見えなくなるとのこと……。」


口の箸を吊り上げ、ニヤリと笑う。


「これほど良質な餌、他にないだろう?」

「だな。さすが策士家、考えることは一人前ってか?」


口では余裕、だが内心は怒りで自制心を失いそうになりつつも、理性をフル稼働させてどうにか抑える。


だが日下部は、あざ笑うかのように恭しく頭を下げた。


「お褒めいただき、どうも……かの有名な黒龍ブラックドラゴンにそう言われるとは、至極光栄。」

「いやムカつくからそれ。」


今にもブッツンしそうよ俺?


「おぉっと、そろそろ時間みたいだ……俺は今からやらなければならないことがあるんでね、これで失礼させてもらおうか。あぁ、そこの小娘はお前達の好きにしてもいいぞ。」

「! ま、待て!!」

「落ち着け文一。あいつは最初っからいねぇって。」


茜を構える文一を抑えていると、奴の体が映像のようにブレ始めた。まぁホントに映像だけど。


「…おい、消える前に一つ教えろ。」

「?」


今にも消えようとしている日下部に俺は質問を投げかけた。


「この屋敷を守っているロボットと、ロボットとさっきの化け物を覆っていたコーティング……そして今目の前にいるアンタの立体映像……全部今の時代では実現不可能な物ばかりだ。


答えろ。テメェ一体どこでその技術を手に入れた。そんで何でこんな回りくどいことしてまで優貴を攫った。」

「…………。」


日下部は、冷たい目をしながら俺を見つめる。


「……フッ。」


そして、体が透明になっていきながらも鼻で笑った。




「知りたければ自分で探せ。」




次の瞬間、日下部の立体映像はかき消えた。


「……。」

「……。」

「……。」

「……。」




「「「ムッカつくううううううう!!!!」」」




和也と葵と文一が絶叫。


「んだアレざっけんな!! 何が自分で探せだ!?」

「ホントホント!!」

「調子に乗るなあああああ!!!」


あ〜思い思いのこと言ってんねぇ。


ってんなことしとる場合ちゃうちゃう。


「ともかく、速いとこ皐月助け出して龍乃達のところへ急ぐぞ。」

「あ! そうだったマーくん!」

「レナ!!」

「湖織……クソ!」


怒るのをやめ、俺達は皐月がいる装置へ走り寄る。




【ブゥン】




が、目の前の空間が揺らいだかと思うとそこから何か出てきた。


姿、としては、屋敷で俺が戦った鎧甲冑を着込んだロボット……を、一回りほど小さくした奴。


それが、十単位くらいいる。


「な、何だこいつら!?」

「え……な、何で……?」


文一が茜を構える傍ら、葵は目をみはった。


「どした葵?」

「…………。」


声をかけるが、何か信じられないもんを見たかのように押し黙る葵。


「葵?」

「………今、空間が揺らいだ瞬間……




魔力感じた……。」



…………。



「え、ちょっと待って。魔力って…。」

『主、私も感じたよ? ごく微量だけど。』

「……俺らも感じたよな? 鎌。」

『はい。』

「エルはどうだ?」

『……同じく。』


…………ほにょ?




【ブゥン】




「……まぁ、考えるのはこの置き土産どもをぶっ壊してからだな。」


背後でも空間が揺らぎ、俺達は臨戦体勢を取った。そこからも同じロボットが現れる。


【ガシャァ……】


敵が一斉に腰の青龍刀を引き抜き、構えた。ちょうど連中が俺らを囲む形となり、俺らは互いに背中を合わせる。


「……ったく、邪魔しやがってからに。」


俺は龍刃を肩に担ぎながら後頭部をポリポリかいた。


「…………。」

【ジャギ】


そして龍刃の切っ先を地面につけ、前方を見据える。


「……葵。」

「何? 龍二くん。」


ちょうど俺の真後ろにいる葵に俺は話しかける。


「こいつら一掃する自信は?」

「……あのね龍二くん。」


耳をすませないとわからないくらい小さなため息を吐き、チラっと俺を見る。


「私を誰だと思ってんの?」

「……愚問、だったな。」


フっと俺と葵は笑う。


「和也。オメェは俺が合図を出してから………頼む。」

「…任せてください。」



そして、痺れを切らしたかのようにロボット達が俺ら目掛けて飛びかかってきた。手に持っている刀が、凶悪に輝く。


「葵!!」

「了解!!」


俺が宙高く跳躍すると、葵が両腕を高く上げる。


「くらえええええ!!! メテオ・ストーム!!!!」


高らかに声を張り上げると、部屋の天井近くに巨大な魔方陣が現れる。俺は高くジャンプしてるため、ちょうど俺の足元に魔方陣が出てきた感じだ。


「今だ和也!! 一刀、『龍牙鳳凰刃りゅうがほうおうじん』!!!」


龍刃を大上段から振り下ろし、魔方陣に突き刺す。



【ゴォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!】



葵の魔方陣から、無数の小隕石がロボット達に降り注ぐ。ついでに俺が放った技は、炎の氣を斬撃へと変えて放つ技……



その氣が葵が放った隕石に吸収され、隕石は紅蓮の炎を纏いながら次々とロボットに直撃、または床にめり込んでいく。直撃を受けたロボットは、見るも無残にバラバラになり、または熱で溶けていった。



「エル、行くぞ。」

『ああ。』


『二重共鳴・太刀の型!!』

【キィン】


最後、俺は空中でエルを抜いて、龍刃と合体させて太刀を手にする。やがて魔方陣は消え、俺は自由落下を始める。


「こ・れ・でぇぇぇぇ……」


葵が魔力を剣に注ぎ込む。




「終わりだ!!!」

「フィニーッシュ!!!」


空中から発せられる俺の氣斬破がレーザーのように雨の如く周囲に落ち、葵の魔力が込められた剣による周囲薙ぎ払いが炸裂する。



【トッ】


俺は葵の隣に降り立ち、太刀を肩に担いだ。


「…クロスオーバー、」

「奥義。」


周囲に埋め込まれた隕石が、一斉に一気に燃え上がる。




爆炎大嵐ばくえんおおあらし。』




隕石達が大爆発を起こし、炎が部屋全体を覆う。自分の技でヘマをするわけないので、俺らは何のダメージも受けない。だが、敵のロボット達は炎に巻き上げられ、見る見る燃えカスへと変化していった。


しばらくし、炎の嵐が止む……そこにあったのは、俺らを囲むかのように真っ黒になった部屋と、先ほど装置があった場所に装置の残骸が無残に散らばっているだけだった。当然、ロボットは一体たりともいない。


「軽いな。」

「らっくしょう♪」


太刀から二刀に戻し、鞘に収めて一息ついた。葵も剣を消す。


「あっぶな〜……危うく焼け死ぬとこでした……。」

「ったく、あの程度で死ぬわけねえだろ文一?」


九死に一生を得た、といった感じの文一と余裕をかます和也。そりゃまぁ、部屋丸ごと消さないよう互いに加減はしたが……和也はともかく、文一ギリギリだったね。


「で? 和也どうだ。」

「ああ、大丈夫っスよ。衰弱してるけど、寝てるだけです。」

「そうか……サンキューな和也。」


和也の背中には、カプセルに入っていた皐月が死んだように(いや死んでないけど)眠っていた。


咄嗟に合体技をぶっ放す瞬間、和也に皐月を救出するよう頼んでおいた。じゃなきゃ、装置のように跡形もなく消し飛んでいただろうし。


「うし、じゃ早いとこアルス達のとこへ…」




【ブゥン】




『グガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!』



「「「「…………。」」」」



回り右した俺らの目の前にいきなり最初に会ったような顔が獅子の巨人が空間の歪みと共に現れましたってウッゼーーーーーー。



「……テんメェはよぉぉぉ……。」


和也が額に血管を浮かべながら鎌を振り上げる。


「っぜぇんだ、よ!!!!」


振り下ろし、破空斬を放つ。



【ドッ!】

『グガアアアアア!!』



が、軽く仰け反っただけでダメージはない。


「なっ!? こいつ、最初に会った奴と違う!?」

「あぁ、こりゃアレだな。ロボットみたいなコーティングが施されてやがる。」


…だが仰け反ったのを見る限り、どうやらロボットよっかコーティングは薄いようだな。


さっきの量産型といい、予算の都合上ってわけ?


「や、ろう!!」

「待て和也。いくらお前でもこいつ倒すには時間がかかる。」


鎌を持ち直した和也を抑える俺。薄いとは言ったが、チマチマやってたら骨が折れる。


「ここは……文一。」

「はい?」


横に立つ文一を見る。


「いいか? ……………………な?」


耳元で、今からやろうとしてることを伝える。


「え……できるんですかそんなこと?」

「やってみなけりゃわからんさ。」

『とゆーよりそれ私が一番不安だよ!?』


確証はないけど。



『グオオオオオオオ!!』



っと、攻撃準備完了ってか? 敵さん。


「ともかくやっぞ! 『二重共鳴 槍の型』!!」

『え、ホントにやるのかな!?』

「ええい、もうどうにでもなれ!!」


茜のショックを受けたような声をよそに、飛び上がりながら一瞬で二刀を龍王槍に変化させて思い切り振りかぶる。


「どっせやああああああ!!」


柄の部分で胸部を殴りつけ、続けざまに頭上で回転させて勢いをつけてから高速突きを出して吹き飛ばす。


「文一!!」

「行け茜!!」

『うええええええん!!!』


文一は泣き叫ぶ茜を巨人目掛けて投げつけた。


【ドゴッ!】

『いちゃああああああああああああああい!!!!』


案の定、巨人の顔面にぶつかってまだ落ちてる途中の俺に向かって跳ね返ってきた。だが、それが狙い。


「ハッ!」


空中高速回転しながら落ちてきた茜を華麗にキャッチする俺。


「はぁぁぁぁぁぁ!! 魔力エーテルならぬ、気力装填エネルギーリロード!!」


文一のように弾倉を開けず、そのまま槍と交差させるかのようにして蒼く輝く氣を茜に流し込む。うまくいくかわからんが、賭けるっきゃない。


「文一!!」


下にいる文一に茜を投げて返す。巨人は顔面に強烈な衝撃を食らったようで、傷はないが呻いている。


「行くぞ茜!! 魔力装填エーテルリロード四刃展開フルブレイド!」


弾倉を開き、手を当てて魔力を流し込んでから弾倉を閉じる。未だに茜は蒼く輝いていた。



「クロスオーバー、」

「奥義…。」



茜を大上段に構える文一の横で、俺は着地してから右の人差し指を天井に向ける。




斬波龍爪スラッシュオブドラゴンクロー!!!』




文一が茜を、俺は人差し指を思い切り振り下ろす。


茜の切っ先から、氣と魔力で形作られた巨大な四枚の刃が爪の如く振り下ろされる。爪は瞬く間に巨人の巨体を切り裂いていき、体が縦から五つに細く分けられた。


「…あばよデカブツ。」


俺が呟くのを合図とするかのように、巨人は魔力と氣の熱によって灰へと帰り、崩れ落ちていった。


「なんだ、やりゃできんじゃん文一。」

「…むしろできたのが驚いた……。」


背中をバシバシ叩く俺だが、本人は何かやってびっくり、みたいな顔してた。因みに、指を振り下ろしたのは何かカッチョいいから。うん、つまり気分。


『あ、主ぃぃぃぃぃ……体が、体がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……。』

「うし、行くぞ。」

『あぁぁぁ……悪魔だよ龍二……。』


茜が何か言ってるが気ニシナーイ。人間に戻ったら多分筋肉痛で動けんだろうな。無視するけど。


「和也、葵、走るぞ。文一、茜で強化してしっかりついてこい。」

「はい!」

「オッケー!」

「わかりました! 茜、一刃展開、強化ブースト。」

了解ラジャ!』


俺らはクラウチングスタートの如く姿勢を低くし、足に力をためる。


「よーい………ドン!!」



【ドォン!!】



爆音のような音をたてて、煙を上げながら走る俺ら。扉なんか気にしてられん。全部無視してぶっ壊してぶっ壊してぶっ壊しまくる。


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」


雄叫びを上げながら、次々と元来た道を駆け抜けていき、T字路のところも止まらずに突破、そして……



「ここかあああああああああ!!!」


扉が破壊された一つの部屋へと辿り着き、一斉に急ブレーキをかけて止まる。




「!? リュウジ!!」

「龍二!?」


ビンゴ。


「つか、フィフィに影薄ども何してんだ。」

「見てわかるだろーが。罠にかかっちまったんだ。」

「んなのどーでもいい!!」

「ヒデェな和也!?」


駿を無視し、和也は鎌を振りかぶる。


「おらっせえやあああああああああああ!!!」

【ズダン!!】

「ぎゃす!?」

「「恭田さあああああああああああああん!!!!!」



見事、鉄格子を破壊した和也だが、そん時頭を伏せるのが遅れた恭田がバラバラになった鉄格子と一緒に吹っ飛んでいった。


いや正直ホントそんなんどうでもいい。


「マーくん、アレクさん!!」

「レナァ! しっかりしろ!!」

「湖織!!」


各々、倒れている仲間達のところへ駆け出す。


「アルス、クルル。大丈夫か。」

「ぅ……。」


俺も二人のとこへ膝をつき、抱き起こす。頭から血が出ているが、大事には至っていないようだった。


だが、一番問題なのは……、



「! 龍乃!」



部屋の中央付近で倒れている龍乃。


「龍乃、おいしっかりしろ。」

「…………。」


抱き起こし、仰向けにさせる。口から血が流れていて、助骨が二本ほど逝っちまってる。


「……ぅ……。」

「ん? 何だ?」


微かに口が開き、何かを言おうとしているのを俺は見逃さなかった。


「……ぅ…き…………優……貴……。」

「…………。」




「……ッソォ、あいつらあああああああああああ!!!!」


和也がレナを抱き起こしつつ、鎌を掴む。


「落ち着け和也。あいつらはもうここにゃいねぇ。」

「でも!!」

「冷静んなれ。今はこいつらを手当てする場所を探すのが先決だ。」

「……クソ……!」


熱くなっている和也を落ち着かせるが、俺も内心暴れだしたい気持ちで一杯だったのを何とか堪えた。


(………………あいつら、ぶっ飛ばす……………何が何でも。)


龍乃を抱き起こしながら、心の中で誓った。








〜屋敷、外〜




エレベーターを使って、地下から再び屋敷へと舞い戻ってきた俺達。外へ出ると、そこには夜になって暗くなったボロボロの庭園、


そして屋敷の正門前に止められている無数のパトカーと、次々と組員を連行していく警察官達と、ボロボロになった組員を担架に乗せて運んでいく救急隊員達。あらかじめ、龍崎組の連中が連絡しておいたんだろう。まぁヤクザが警察に連絡するってどうなんだと思うが、この際感謝だ。


そんでもって……各地で拉致られた学生は、全員この屋敷から離れた小屋に隔離されていたのを、警察が発見して保護したんだそうだ。何名か衰弱していたようだが、全員無事だったとのこと。地下に監禁されてるかと思いきや、離れの小屋に閉じ込めていたとはこれいかに? まぁ、んなこたぁどうだっていい。


「……これからどうするの……?」

「わかんねぇなぁ……。」


葵の不安の入り混じった疑問に、俺はどうしようもない気分のまま答えた。


気絶した連中は、影薄同盟と俺らが背負っている。俺は龍乃と皐月を、和也がレナを、葵がマーくんを、文一が湖織を、恭田がアルス、で駿がクルルを任せられていた。


「んぎぎぎぎぎぎ……。」


……一聖はアレクのおっさんを必死になって背負っているが、頑張れとしかいい様がないね。


「……ともかく、優貴をあのまんまにしちゃおけねぇだろ?」

「つっても、野郎どもどこに行ったのかわからないんじゃどうしようもないし……。」


…………。


「……しょうがない。」

「? 龍二くん?」


右ポケットを漁り、ケータイを取り出す。


「助っ人を呼ぶか。」

「助っ人? 誰ですかそれ?」

「そのうちわかる。」


和也の質問を聞き流し、電話番号を押していって耳に当てた。


「………………………。」


待つこと数秒……。


「……………あぁ、もしもし俺だ。あぁ、ちょっと用事でな……うむ、急用だ。かぁなり急ぎ……へ? 今忙しい? んなの後で済ませ。こっちの方が緊急事態だ。三十分以内に龍崎組ってとこに来い。住所ならあの人が知ってっだろ…………何? ふざけんな? ………………………………





ゴタゴタ言ってねぇでさっっさと来いっつーの!!! 三十分以内に来ねぇとテメェが土曜日の・・・・午後八時十分十三秒・・・・・・・・・ん時にしてたこと大公表すんぞゴラァ!!!!!!!」

【ピッ!】


大声で叫んだ後、反論を許さず電話を切った。


「うし、戻るぞ。」

「え、龍二くん今どこに電話したの?」

「後でわかるっつーの。それより葵、空間を龍崎組屋敷へ開いてくれ。」

「オッケー!」


ケータイをしまうと、葵はマーくんを背負ったまま右手を突き出した。





「おい君たち、こんなところで何をして」

【シュパン!!】

「……………る………。」



俺達を見て注意しようとした刑事が、目の前で消えた俺らを見て唖然としていたのが一瞬チラリ。







〜龍崎組〜



「はい、とうちゃーく。」

「サンキュ。」


空間の裂け目からゾロゾロと俺らは龍崎組の玄関前に帰還。


「さ、てと……とりあえずこいつらを休ませないといけないとこだが……。」


背中で気絶している龍乃をチラリと見て、後頭部をポリポリ。


「…………正直、どう説明すっかね?」


はっきり言って、この状況はかぁなりメンドイ。理由は簡単、何故なら……





【ガラピシャン!!】

「由うううううううううううううううう美いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」




…………これ・・




「由美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! 何故だ!! 何故ワシの由美がこんな目にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

「オッサン落ち着け。とりあえず休ませろ。」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 貴様か!? 貴様がやったんくぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!?????」

「……お袋さん、これ鬱陶しいから殺っちゃっていいか?」

「ええどうぞご自由に。」


俺ごと龍乃に纏わりつくオッサンに続いて玄関から出てきた龍乃ママから許可を得たので、





「龍閃弾。」

「ぼごほぉぉぉぉ!!??」



どてっぱらに氣の塊をぶち込んだった。


「うし、お袋さん布団敷いてくれ。」

「わかりました、早くこちらへ。」


龍乃ママに導かれ、俺らは屋敷へ入っていった。






仰向けに倒れているオッサンを放置して。











「……そうですか………優貴くんが……。」

「ああ。」


龍乃達を隣の布団を敷いた大広間に寝かせ、フィフィに回復を任せた俺らは座布団の上で胡坐をかきながら龍乃ママにことのあらましを説明した。龍乃ママは神妙な面持ちで、ふぅ、とため息を吐く。


「……しかし、何故優貴くんを攫う必要があったんでしょうか……妹さんを利用してまで誘き寄せるなんて……。」

「そこまでするんだ。それなりの理由があるとしか思えん。だが、連中の目的も重要だが、今はそれよりもっと重要なのがある。」


一呼吸置く。


「……連中が、優貴をどこへ連れ去った……かだ。」

「確かに、あいつ場所言っていかなかったしね。」

「チッ……舐めた真似しやがって。」


和也がドンと畳を叩く。気持ちはよくわかる。


「……連中が屋敷から出てった目撃情報とかは無いのか?」

「無いですね。理由はさっぱりわかりませんが……。」


……目撃情報さえあれば、辿っていってそのうち連中がいる場所まで突き止められると思ったんだが……ダメか。


「……どうにかならないんでしょうか……。」

「それがわかりゃあ、ここまで苦労はせんさ。」


文一の疑問に、俺はどこかなげやりな感じで答えた。


『…………。』


どうしようもない不安が、俺らにのしかかってきた………




が、俺が何もしないでじーっとしてるとでも思ってっか?


「まぁ、んなこったろぉと思って助っ人呼んどいたけど。」

「? そういや、さっきどっかに電話かけてましたよね? どこにかけてたんですか?」


和也が聞いてきたが、俺は腕時計を見る。


「……あ〜、後十秒で三十分か。」


えー、カウントスタート。


「じゅー。」


「きゅー。」


「はーち。」


「なーな。」


「ろーく。」


「ごー。」


「よーん。」


「さーん。」


「にー。」


「いーち。」


「ぜ」




【スパァァァン!!!!】

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………。」




ギリギリセーフのところへ襖が勢いよく開いた。チェ。



で、いきなり出てきた人物はというと……、



「龍二、テメぇええええええええ!!!」

「よ。零時お久ー。」

「零時!?」



そ。さっき電話してた奴=鎖川零時さかわれいじ。何気にちょっと交流がある奴。


ついでに和也も交流があるため、驚きを隠せない様子。


「ふむ、残りタイム0.04………危なかったな。」

「危なかったじゃねぇよつーか何でそのこと知ってる!?」

「さぁねー?」

「しらばっくれてんじゃねぇ!!」


うむぅ、優貴とは違うタイプのツッコミ役……貴重だ。


「まぁまぁとりあえず座れや。」

「……クソ、この暴虐魔人め……。」


悪態つきながらも、俺が差し出した座布団に腰を下ろす零時。人間素直が一番さ。


「で? 何で来たんだ?」

「ああ、叔父さんが車で。」

「あれ? オメェの叔父さん免許持ってたんだ?」

「……道端にあった車の鍵を壊して。」


泥棒か。


「ハッハッハ、私にかかれば車泥棒など造作もないこどぼぇあ!!」


手近にあった花瓶を瞬時に襖を開けて現れた犯罪者目掛けて投げつけた。花瓶粉々、オッサン倒れた。


「零時、私を置いていくとはひどいぞ。」

「ここ広いんだから先に行かないでよ〜?」


で、オッサンを踏み越えてショートヘアーの女とポニーテールの女が……あれ?


「おい零時、あの二人は呼んでないぞ?」

「いや、それが……どうしても付いてくるって。」


ひっつき虫?


「金魚の糞みたいだな。」

「「何ですと!?」」

「いやだから金魚のフ」

「やめろ。それ以上言うな。ここが修羅場になる。」


あ、そうかい。つか何で冷や汗かいてんだ零時?


「……ねぇねぇ龍二くん。この人達誰なの?」


葵が服の袖を引っ張る。あ、初対面だっけ?


「あ〜、こいつはちょいと交流がある、鎖川零時。でこっちが剣野舞歌つるぎのまいかって奴で、こっちが飯田香奈いいだかなって奴。」


親指で零時と舞歌と香奈を差す。


「そんで、あそこで死んでんのが、」

「私は不死身ぐぽぉん!!」

「零時の叔父の鎖川健太郎さかわけんたろう。」


復活したオッサンの顔面に遠距離デコピンをかまして再び撃沈させた。


「……いいんですか、あれ?」

「「「「「いい。」」」」」

「…………。」


文一が顔を若干青くして聞いてきたので、俺、和也、零時、舞歌、香奈が同時に答えた。いやもぉ素晴らしいくらいの即答で。


「さて、とりあえずオメェらに来てもらったのは他でもない。」


座布団を二枚取り出し、舞歌と香奈を座らせてから本題へ。あ? オッサン? いんだよそのうち起きるから。


「……聞くが、黒鬼組について知ってるか?」

「え……黒鬼組!?」

「?」


零時が素っ頓狂な声を上げるが、舞歌は頭に疑問符。


「やっぱ知ってるか。」

「ああ。詳しくは知らないが叔父さんから聞いたことはある。」

「とゆーより、私のとこの組も狙われてるんだけど…。」


あ、香奈んとこってヤクザだっけ? まぁどうだっていいけど。


「そうそう。人体実験とかいろいろやばいことに手を染めてる連中だ。」

「ってもう復活したんですか!?」


会話に参加したオッサンに文一が驚く。うん、ナイスリアクション。


「じ、人体実験……?」

「言葉の通りだ。詳しく言ったら吐くぞ? 多分。」


舞歌の呟きを聞き、一応言っておく。そしたら口をつぐんだ。


「ふむ、連中に詳しそうなのはオッサンのようだな。」

「ハッハッハ、伊達にジャッジメントと名乗ってはいないさ!」

「……じゃ聞くが……そこの若頭、日下部 剛鬼について知ってるか?」

「もちろんだとも。若くしてそのカリスマ性で黒鬼組を再建した男だろ?」


さすが情報が満載だなこのオッサン。


「そんで、その日下部によって俺らのダチ……とくに隣の部屋で寝てる奴にとって大切な人間が攫われちまったんだが。」

「ふむ、そりゃ一大事だな。」


他人事みたいに言うなや。まぁ他人だけどさ。


「で、だ。ここからが本題。連中はそいつを連れたまま、どっかに逃げやがったが、俺らの情報じゃどこに逃げたのかわからん。そんでアンタの出番だ。」

「ほほぉ。つまりは、裏社会について詳しい上に、ビューティホーでワンダホーな私の力を借りたいというわけだな?」

「ああ。ビューティホークズワンダホーバカなアンタの力を借りたい。」

「ルビおかしくねぇか?」

「気ニシナーイ。」


零時、鋭いね君。


「ふふふ、そういうことなら任せたまえ!」


そう言って胸をドンと叩いた。


「日下部 剛鬼については謎が多いが、中でも一番謎なのは数え切れない程の土地を持っていることだ。全国各地に別荘やら何やらがあり、どれも豪華でセレブな人間が好みそうな建築物ばかり。」


ふんふん、成金?


「で。何でそんな別荘を買いまくってるのかというと、どうもかぁなりやばいことしてるらしいぞ?」

「人体実験自体すでにヤバイだろ。」

「いや、何かそれすら凌駕するらしい。」



……はぁ?



「どゆこと?」

「そのまんまの意味だ。噂じゃ、国家転覆すら可能なほどのことしてるんだと。」


…………。


「…詳細は?」

「いやぁさすがの私もそこまで知らないn」

「使えねえ。」

「グハァ。」


バッサリ切り捨てたった。


「だが、まぁそれなりに重要なことは聞けた。その別荘とやらが怪しいな。」


何をしてるかは知らないにしろ、実際に何かはしてるんだ。優貴も絶対そこにいる。


「…でもどうすんだよ。叔父さん曰く全国各地にその別荘があんだろ?」

「しかも無数にあるんでしょ? どうすんの龍二くん?」


……それ問題なんだよなぁ……。





「……あの〜……?」


っと、俺らの後ろで並んで座っていた影薄同盟のうちの一人の一聖が挙手した。


「あん? 何だ影薄。こっちは今忙しいから言いたいことを十五字以内に」

「まぁ待て和也。」


いつもの反応をしようとした和也を止める俺。


「何だ。言ってみろ。」

「は、はい……実は、優貴が捕まる前に、俺これ見つけたんだけど……。」


そう言って、懐から出したのは、一冊の赤いファイル……タイトルも書かれていない、ファインダータイプのA4サイズのファイルだった。


「これは?」

「ああ……読んでみたら、こんなことが書いてあったんだ。」


差し出されたファイルを受け取り、早速パラリとめくる俺。そこには、大きめのファイルであるにもかかわらず、たった一枚だけ挟まっていた。







『この度、我が主がワシに命じたのは、ある小僧の拉致とのことだった。ワシとしてはこのような何の実験対象にもならなさそうな普通のガキを捕らえるなんて面倒なことこの上なかったのだが、我が主にとっては大変貴重な人間、仕方なしに捕らえることとする。小僧の名は、『月見 優貴』。他の捕らえた連中と同じ、学生。


小僧を普通に捕まえるのは簡単……なのだが、主はあえて回りくどいことをしておびき寄せ、一気にハメろと命令を下した。焦り、絶望、焦燥感に蝕まれた体ほどよいものはない、と仰られていた。その気持ちはとてもわかる。さすが我が主、徹底としたこだわりぶりである。


そして、小僧を捕らえたら東京から離れた、『とうま山』という山中にある主が所有している城へと搬送しろ、とのお達しがでた。あそこでは、ワシの長い年月と努力の結晶である息子の開発を進めている場所。主はどうやら、本格的に計画に乗り出す模様のよう。ワシは歓喜と興奮に体が震えた。ついに、長年の野望が果たされようとしているのだから当然のこと。


そのためにも、このプロフェッサー・玄、命に代えてもかならず計画を成功させるため、『月見 優貴』を捕らえてみせよう。


人間どもが血の海に溺れる様を眺める日は、近い。

                             P・玄       』






「………なんだこりゃ………。」


書いてある内容に、覗き込んだ和也、文一、葵、零時が呆然とする。


無理もねぇわな。これ書いてあることが何つーか、明らか異常だ。大体何だ、“人間ども”って。さも自分が人間じゃねぇみてぇなセリフじゃねぇか。


んで、“我が主”って…………多分、この“我が主”っつーのは『日下部』を指してるんだろうが、何でこんな呼び方を?


そいで、“焦り、絶望、焦燥感に蝕まれた体ほどよいものはない”……どこの怪しい教団だ。


さらに長年の野望とか、計画とか…………もうツッコみどころ満載だな。




だが、




「……一聖。」

「は、はい?」



【バン!!】

「ようやった!!」



一聖の両肩を叩き、賞賛する。叩かれた本人は声にならない悲鳴を上げて両肩を抑えながら悶えて転がりまわった。


そら褒めるって。この内容、超重要じゃん。


「つまり、この『とうま山』とやらに、優貴は連れてかれたってわけだ。」

「あ、それなら聞いたことあるよ? 確か東京郊外にある結構大きい山だって。」

「俺も知ってるぞ。」


おお、知ってるのが二人いた。香奈と零時のこと。


「…東京郊外か……結構遠いぞ?」

「だが行くしかねぇだろ。オッサン、車の運転頼んでいいか?」

「おお! 任せたまえ!」


ドンと胸を打つオッサン。頼もしいね。


「あ、ついでに地元にいる知り合いに頼んでヘリに乗せてもらうか。」

「おお、空から奇襲か?」

「すっごーい!!」


何故だろう? 派手なスパイ映画思い出す。


「いや、まぁ確かに空からの侵入ってのはありだな。正面からとかだと警備が厳しすぎてメンドくせぇ。」

「んなもん、オレと龍二さんがいりゃ楽勝でしょう? 連中なんか薙ぎ倒しちまえば。」

「そだけどな? 考えてみろ、一気に敵の本拠地の中枢に入り込めるってなるとこれほど楽なもんねぇよ。」

「あ、なるほど。僕とか無駄に魔力を消費しないですみますね。」

「スピー……。」


因みに言ってなかったけど文一はすでに夢の中に入り込んじまってる茜を膝枕している。


「後忘れちゃならんのが、連中の特殊コーティングだ。俺の氣が通用しなかったんだ、闇雲に暴れたらお前でもヤバイだろ?」

「う……ま、まぁ否定はしませんけど……。」


意外と素直だね和也。


「あれ? でも僕と合体技発動した時は易々と切りましたよね? あのでかい化け物。」

「あ、そういえば私達が戦ったあのサムライもどきの時も、大太刀で真っ二つにしちゃったよね? あれ何で?」


……あ、言ってなかったっけ?


「あぁあれな…………。」


……………………………。


「……その説明、またにしてくんね? メンドイわ。」

『え〜〜??』


んだよぉ、皆してブーイングすんなよぉ。



「……ともかく、目的地はわかった。後は……。」


和也と葵に目を合わせる。二人とも一緒になって頷いた。


「文一。」

「ええ、わかってます。」

「ふみゃ?」


文一も頷き返すが、膝枕されてるバカは寝ぼけ眼のまま何言ってんのかわからない様子。後で殴っとく。


「で……零時。」

「へ?」


零時に目を向けると、キョトンとした。


「お前も一緒に来い。」

「「ストオオオオオオオップ!!!!!」」


ずっと黙っていた零時の付き人的存在の二人が何か挙手しながら身を乗り出してきた。


「あんだよ。」

「何で零時がそんな危ないところへ行かないといけないんだ!?」

「そうよそうよ!!」


不機嫌丸出しの俺に対し、二人はググっと顔を近づけてくる。正直に言おう。鬱陶しい。


「…理由は二つ。」


そんな二人の前に、俺は人差し指と中指を立てた。


「一つは、零時は強い。向こうもそれなりの戦力を整えてくるはずだから、こっちも主戦力は増やしておきたい。


んで、二つ目。これいっちゃん重要。ツッコミできる奴らは全員隣の部屋で休息中だし、ツッコミできる奴が欲しいと思ってた。文一もツッコミ役なんだが、やっぱ一人だけじゃ心もとないしな。」

「んな理由かよ!?」

「ナーイスツッコミ。」

「条件反射だな。」


俺と和也はウンウン頷いた。


「……まぁ、百歩譲って零時がツッコミ上手なのは認めよう。」

「認めるな!! そこ否定しろ!!」


舞歌に対する零時のツッコミ完全無視。


「だが、彼を危険な目に合わすことなど、私が認めん!」


どっから取り出したのか、片膝をつきながら小太刀を構える舞歌。バイオレンス。


「それは私だって同じ。零時くんをそんなとこに行かせるわけにはいかない。」


で、その隣では香奈が釘バットを構えた……前々から思ってたけどアンタ弓道部じゃなかったか? 何で釘バットなんよ? 後微妙に何か赤いしソレ。


「…………。」


……つっても、俺はやる気ねぇしなぁ……零時は二人の殺気にビビってるし、他の連中も他人事だし。あーあ、後でシバこっかな?


「……ふむ。」


まぁ、とりあえずー、


「……オーケー、わかった。じゃ穏便に済ませるよう廊下で話し合おうぜ。」

「ああ、いいだろう。」

「上等よ。」


俺は立ち上がり、二人を連れて廊下へ。


後ろ手で襖を閉めた。





【ガンゴンバキ! ドサドサ】







『………………………。』



【スッ…】

「ただいま。」


再び後ろ手で襖をピシャリ。


「……龍二。」

「ん?」


座布団に座ると、零時が声をかけてきた。


「……二人を、どうしたんだ?」

「あ〜、もう一瞬で話がわかったらしくてな。うん、理解力のある奴らで助かったぜ。」

「……二人はどこ行った?」

「便所だろ。」

「…………。」


多分今頃寝てるんじゃねえか? どっかの地べたで。


「まぁいいじゃん。それはどっか置いとけ。」

「…………わ、わかった。」


聞き分けのいい良い子。


「で? 結局どうする? 俺らと行くか? 来ないか? そこはお前が決めろ。」

「…………。」


黙り込むが、それは本の数秒ほど。すぐに決意の眼差しを俺に向けた。


「……生憎、俺は平気で人を傷つけるような連中を見過ごすような性質タチじゃないんでね。」


そして、口の端を吊り上げて微笑を浮かべた。


「……そうか。」


大体返事はわかっていたが、そう言われるか何か心強い。これでツッコミ役が増え……じゃなかった、戦力が増えたことになった。


「さて、そんじゃそろそろ行くか。」

「え? 皆が目覚めてからの方がいいんじゃないですか?」


俺が立ち上がると、文一が聞いてきた。


「ん、今回は大人数で移動するより、少人数の方が動き易いからな。和也も傷の方はもう大丈夫だろ?」

「ええ、おかげさまで。」


因みに、さっき和也には『龍泉水』、まぁいわゆる回復技をかけてやったから、傷はもうない。


「そら、準備するぞ。遠いんならさっさと行った方が吉だし。」


今の時間は、夜の十時……東京郊外なら、今から行くとなると大体十二時くらいになるな。


……せめて、皆には眠って欲しいところだが、今は優貴の身が危ない……てなわけで、車の中で仮眠を取る他ならない。


『……リュウジ。』

「? どしたエル?」


皆が各々準備を始める中、エルが腰から話しかけてきた。


『リュウノは……いいのか? 今は皆と一緒に眠ってはいるが。』

「ああ、あいつか……。」


あいつのことだ、一番優貴の身を案じているのはあいつだろう。だが、あいつは今体がボロボロ……助骨が数本逝ってる状態だ。んな状態で戦えるはずなかろうが。


「…あいつは留守番だ。仕方ないけど。」

『そうか……。』


残念そうに呟くエル。


「…しゃーねぇさ。俺らで優貴を連れ戻して、たっぷりハグさせてやろうぜ。」

『……ああ。』


そこでこの話題は打ち切った。









そして、俺らは龍崎組玄関前に集まった。


「ワリィなママさん。バスまで用意させちまって。」

「いえ、お気になさらず……せめて、少しでも役に立てるなら幸いですわ。」


そして俺らの前には、よく観光旅行とかで使うバスが一台、ドドンと停車させてあった。エンジンはついており、ライトから眩い光が周囲を照らす。運転手は、零時の叔父のオッサンだ。


「ああ、これなら着くまで全員悠々と過ごせるし、ありがてぇ。」

「う〜ん、本来ならワクワクするんだけど……今回はねぇ。」

「茜、お菓子とか持ってきてないだろうな?」

「…………あ、当たり前だよー?」


そう言いながらポケットに飴玉数個突っ込むのは止めなさい。


「ふぅ……いきなりのことで戸惑い気味だったけど、ここまで来るともう何にでもなれだな。」

「ホントだよなぁ。」

「うん、ほとんどアンタのせいだけどな?」


零時、その笑顔が眩しいと同時に暗いよ何故か?


「よし、出発準備整ったぞ。」


運転席からオッサンの声が聞こえてきた。


「よし、行くか。」

「皆さん。」


俺らが乗り込もうとしたら、龍乃ママに呼ばれて振り返る。


「……どうか、優貴くんを……よろしくお願いします。」


そう言って、深く頭を下げた。その後ろには、数十人のヤクザの方々がヤクザ独特のお辞儀をしていた。


「……当然だ。な?」

「そうっスよ。」

「頑張ってくるから、その間マーくんよろしくね。」

「他の皆も、どうかお願いします。」

「主がいるから大丈夫だよ。」

「とりあえず、舞歌達の方もよろしくお願いします。」

「「「じゃ」」」

「どうか…お気をつけて。」


龍乃ママの言葉を背中に受けながら、俺らはバスに乗り込んだ。








「「「って何か言わせろよ!?」」」



あ、影薄同盟忘れてた…………まぁいいべ。











俺ら七人はバスに乗り込み、龍乃ママ達が見送る中俺らは発進した。


『…………。』


……が、中はかぁなり重苦しい空気に包まれていた。出発前では明るく振舞っていたんだが。つか、あの普段は明るい影薄同盟までもが暗いってどうなんよ? 確かに三人が座ってるいっちゃん後ろって色んな意味で暗いけどさ?


「…………。」


で、そん中でも一際ダークネスなのが……、


「…おーい、和也?」

「……何スか?」



前に席に座ってるこいつ。



「お前、何か暗いぞ?」

「……皆だって暗いじゃないですか。」

「いやオメェが一番暗ぇんだっつーの。」

「…………。」


うぅむ、珍しい……普段は強気で、物怖じしない和也が…………。


「……何か考え事でもしてんのか?」

「……いや、何でもないです。ただまぁ、先の戦闘に備えて色々」

「どうせレナのことじゃねぇの?」

「!!」


あ、何か適当に言ったら当たったっぽい反応。


「……何だ、図星か?」

「…………。」


…………ふ〜ん。


「……まぁ、何言ったらいいかわからんがな? とにかく、オメェが気負う必要はねぇんだぞ?」

「……わかってます。」


わかってたらそんな暗くなってねぇべ。


……う〜し、んじゃあ……。


「……なぁ和也?」

「…………。」

「ムカつかね?」

「……へ?」



そのダークなオーラをチェンジしてやりますか?



「すんごいムカつかね? お前、あいつらにボッコボコにされてたろ?」

「……。」

「んで、バカにされただろ?」

「……。」

「さらに、レナまで傷つけられたろ?」

「……。」

「……考えてみたらムカつくだろうが。



だから、今は落ち込むところじゃねぇ。怒れ。今の胸の中にある怒りを溜め込んで溜め込んで、全部連中にぶつけたれ。」

「……。」

「大体、今のお前キャラ違うから。」

「………………………龍二さん。」


…………。



「…派手にぶちかましてやりましょうかぁ?」

「オゥイエ。」



ダークオーラからやる気オーラにチェンジ作戦、大成功。



「ハハ、師匠らしさが戻りましたね。」

「やっぱ和也くんは明るい方が似合うよ?」

「そだな。いつものドSな感じがなかったよな。」

「うっせーっつーの。」


いつも通りの和也に戻り、少しだけバスの中の空気が軽くなった。


黒鬼組の本部から帰ってきてから、全く元気が無かった和也。それでも普段と変わらないよう振舞おうとしてたらしいが、俺の目は誤魔化せんぞ?


「……さ、てと。」


とりあえずこっちはこっちで解決した。



後は、





「いるんだろ? 龍乃?」

「……へ?」


俺が後ろへ振り返ると、葵がキョトンとした声を上げた。


「…………。」



そして、俺の席から二つほど離れた席から、龍乃がおずおずと顔を上げてきた。



「え、龍乃ちゃん!? 何で!?」

「……気付いていたのか、龍二。」

「モチ。」


実を言うと、零時のオッサンが乗り込む(つまり俺ら全員が乗り込む)前に龍乃はすでにこのバスに乗り込んでいたのを、ちゃっかり目撃してんだよねぇ俺。


言わなかったか? 出発前に俺、和也、葵、文一、零時、オッサン合わせて六人のはずなのに、七人って言ってたんだぞ? 気付いた?


「オメェ、無茶するなぁ。まだ痛むんだろ?」

「…………。」


確かに、さっき龍泉水でケガは一通り治しておいたが、あの技はただ傷や骨折を回復するためのもので、疲労回復とか痛みを消すとかいう効果はない。あくまで傷を癒すだけの技だ。


まだ体を動かすには早すぎる。


「……これくらい、何ともない。」

「じゃその汗はどう説明すんねん。」

「……。」


こいつ明らか冷や汗かいとる。


「……あんな? はっきり言うぞ? オメェはケガ人で、戦うことすらままならねえ状態なんだ。そんな奴が一緒に戦ったって足手まといになるだけなんだよ。」

「ちょ、龍二さん言い過ぎじゃ……。」

「文一、黙ってろ。」


後ろの席では和也が文一を抑えているのがわかる。


「……………私は…………。」


うん。


「…私は……確かに、今の状態だと足手まといだ……そこは否定しない。」


ふんふん。


「……だけど、皆が優貴のために戦いに行くのに……私だけ、そんな家でじっとしているだけだなんていやだ。」


ふんふん。


「…だから頼む……待ってるだけでもいい、私も連れていってくれ…頼む。」



ふんふ……って、そんなバスの通路の真ん中で土下座されたら危ないぞ。急ブレーキかかったらどうすんだ。



『貴様それ関係ないだろ。』

「黙ってろっつーのエル。俺シリアス嫌いなんだよ。」


……さて、と。話を戻そうか。


「…とりあえず頭上げれ。」

「……ああ。」


席を降り、龍乃の傍まで言って頭を上げさせる。


「……オメェの気持ちはよーくわかった。その気持ちに嘘ねぇよな?」

「当たり前だ。」


おおぅ、即答ですかい。


「マジだな?」

「ああ。」

「ホントにホントだな?」

「当然だ。」

「……。」

「……。」


…………ふぅ。


「…ま、すでに龍崎組からはかなり離れちまっただろうしな。今さら戻れっつーのも野暮っしょ。」


ドサ、と座席に座った。


「…じゃ、とりあえず無理しない程度に行こうぜ?」

「……………ありがとう、龍二。」

「ん。」


龍乃からの小さなお礼を聞きながら、窓の外へ目をやった。


「とりあえず、着くまで皆もう寝ろ。少しでも体力養っとかないとな。」


すでに夢の中の茜と葵はまぁ、いいとして。


もう時間的に遅いからだろう、車もあんまし通っていない。丁度今、坂道を登って高速に入る頃だ。


「…………。」


その間、俺は敵についてずっと考えていた。


(……今回の敵……日下部……一筋縄ではいかない気がするな。大体葵の言う魔力とか、明らか秘密があるとしか思えんし。)



……………。



(…………だが、何とかしてみせるさ。俺らがな。)



高速に入り、俺らは東京を出るべくバスを走らせた。










〜???〜



「そうか……こちらに向かってきているか。」

「ええ、そのようで……おそらく、今晩中にでも奇襲をかけてくるんじゃないかと。」


暗い、漆黒が支配する部屋……明かりは、道を作るかのように二列に並んだスタンドに立てられた数本の蝋燭だけ。その明かりが、日下部 剛鬼と、その腹心的存在のプロフェッサー・玄の姿を淡く照らしていた。


「それにしても、さすがだなプロフェッサー・玄。コンピューターに関してはお手のもの、だな。」

「ヒヒ、恐縮です……ワシの開発した衛星カメラにかかれば、連中の動向など簡単に把握できますので。」


プロフェッサー・玄の狂気的な笑い顔が蝋燭の赤い明かりに照らされて不気味に輝く。


「し、しかし、よろしいのですか? 連中がここに来たら、我らの計画に支障が…」

「その点なら心配無用だ。」


日下部はバサリ、とコートをはためかせながら背中を向ける。


「……我らが長年の間に造り上げたこの兵器さえあれば、連中など赤子のようなもの。それに……。」


ゆっくりと顔を上げていく日下部。明かりが弱くて確認しずらいが、彼の足元には巨大な黒い鎧の如き太い足のような物が見える。そして、彼の目線の先には、




「ようやく……ようやくこれで、私は完全なるとなる。」




薄っすらと、十字架に磔にされている人影が見えた。











〜龍二視点〜



【ババババババババババババババ】


「おー、たっけー。」

「キャー! 高い高ーい!!」

「オメェら、子供じゃねぇんだから……。」


普段見ることのない物を見ると興奮するものなのだよ、零時くんよ。


あー、只今午前一時半。かぁなり遅い時間だが、この闇夜の中、俺らは山の麓にあるヘリポートで、零時の叔父の知り合いに頼んでチャーターしたヘリコプターに乗って上空にいる。眼下には広大な森が広がっていた。


ん、森っつーか、山だな。ここ。


「にしても、まさかホントにヘリで突入するたぁなぁ。」

「師匠、その言い方だと何か特攻するみたいで縁起悪いですよ?」


ヘリは始めてなのか、震えている茜を抱きかかえながら苦笑する文一。ヘリの中は案外広く、互いに向き合う形で座っている。


「すっごいねー龍二くん!」

「そだなー。アルスらにも見せてやりたかったんだがな。」


つかヘリに乗るチャンスなんて滅多にねぇもんなぁ…………今度SATに頼んでヘリ乗せてもらお。脅して。


「……全く、こんな時でも変わらないな。」

「ハッハッハ、お嬢さん、なんなら私とこの大空の旅を共にエンジョイしないカボォン!?」

「叔父さん、ダマレ?」


龍乃をナンパしようとしたオッサンを零時が顔面に蹴り入れて黙らせた。


「……正直、ヘリなんて初めてだ……あ、そういや一聖、小鳥遊ってヘリあんのか?」

「あ、俺も聞きたい。」

「ヘリですか? ヘリは」


影薄同盟は影薄同盟でヘリの話題に花咲かせてるし。


う〜ん、リラックスリラックス。





「皆さん、見えてきましたよ。」


だが、パイロットの声で俺らは空気を一転させ、マジメモードへ。


操縦席の方へ行き、前方を見てみると、山の中腹部分から明かりが出ていた。


「あれか。」

「ああ……そうみたいですね。」


俺が呟くと和也が頷く。


「……優貴……。」


そして俺の後ろで、龍乃は小さく優貴の名を呼んだ。






数分後、ヘリは目的地上空へ到着した。


建物は、まるで中性ヨーロッパのような豪勢な城。正方形の形に真ん中がポッカリ開いていて、中庭になっているもよう。その中庭にくっ付くかのように、まるで某ネズミが出てくるテーマパークのお城にある塔が立っている。


多分、日下部はあそこら辺にいるな。


「……いよいよ、か。」


文一が緊張の入り混じった声で言った。


正直、俺もちょっと緊張している。何て言うんかね? ワクワク? ドキドキ? わかんね。


「……さ、んじゃとりあえず作戦説明しようか。」


輪になる形で、俺は話し始めた。


「まず、こっからあの中庭に飛び降りる。飛び降りたら、すぐに優貴が捕らえられている場所を探す。おそらく、日下部は優貴といるだろう。」

「何でそう言い切れるんだ?」

「あのファイルに書かれてる内容がマジだとしたら、連中はその計画とやらをすぐに実行に移す気だろう。わざわざ隔離するとは思えんわけよ俺。」


恭田の質問にサラリと答え、続ける。


「で、だ。この作戦はあくまで優貴を救出するのが目的。救出するまでは周りの物なんてどうでもいい。



だが、」



一呼吸置く。


「ここで日下部を逃がす……なぁんてことはしねえ。




連中を…徹底的に叩き潰す!!」

『おう!』


全員の士気が上がった。




「…鎌。」

『いつでもいいですよご主人!』


鎌を大きくし、いつでも構えれるようにする和也。




「茜。行けるか?」

『当然だよ。』


茜を武器化させ、腰のベルトに挟む文一。




「マーくん達の分も……頑張る!」


剣を出現させ、握り締める葵。




「さぁ……俺らも見せてやるか。影薄同盟の意地って奴を。」

「「はい!」」


互いに頷き合い、軽く準備運動を始める影薄同盟。




「腕がなるな、零時よ!」

「叔父さん、あんま無茶すんなよ?」


腕を振り回すオッサンと、呆れながらも余裕の表情を浮かべる零時。




「優貴は……かならず助ける。この身に代えても。」


懺悔を引き抜き、眼前に掲げて目を閉じる龍乃。




「やるぞ、エル。」

『ああ……私はいつでも準備万端だ。』


エルのコアを軽く叩き、龍刃をベルトに差す俺。




「……オメェら。」


立ち上がり、俺は拳を突き出した。


『…………。』


皆も立ち上がって、円の形になって互いに拳を突き出す。



「……勝つぞ。」

『オオ!』



突き合わせ、全員の気持ちを一つにした。


「…うし、ハッチ開けてくれ。」


パイロットに言い、俺がハッチの前に先頭に立った。




【ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!】




ハッチが横へスライドし、冷たい突風が服に吹き付けて体に張り付く。首のヘッドフォンもカラカラと震えていた。


「…………。」


下を見下ろせば、遥か下に明るく輝く敵の本拠地が目に飛び込んでくる。


「……さぁて、」


俺はヘッドフォンを耳に付け、お決まりのロックを流す。そして不敵に笑い、足に力を入れた。




「ショーの………始まりだ!!!」







ヘリの床を蹴り、漆黒の空の中へ俺は躍り出た。


はいどうも、コロコロです。


次回、連中の本当の狙いが明らかになったりします。本格的なアクションは次回から。


では、また次の<死の章>でお会いしましょう。

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