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罠の章

長らくお待たせしました、罠です。え? 意味? 読めばわかると思います。


後、今回の話は若干エグイ表現がしばしば。ご注意ください。

〜龍二視点〜



「龍二くん、傷大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だ。回復力なら影薄連中に負けずとも劣らないくらいだし。」

「そりゃ大したもんだ。」


再びエントランスに戻ってきた俺らは、そんな話をしながら他の連中が来るのを待った。


にしても、手がかりがカードキー一枚と、アレクのおっさんが見つけた訳わからん紙っぺら一枚だけとはなぁ……案外しょぼいな、ここ。もっとさ、こう、ドーンとでかいのがあってもいいんじゃね? 北海道直送特製ラーメンとか?


『んなもんあるか。』


思考読んだエルを鞘から抜いて思い切り床に叩きつけ、コアを踏んづけた。沈黙した。


「ところで、今何分経ってる?」


故人となった(嘘)エルを鞘に戻すと、葵が聞いてきた。俺は左手首に付けてるGショックを見る。


「あ〜……ふむ、十分ちょいだな。」

「ほぉ、まだそんなもんか。」

「じゃ待ってる間トランプしよー♪」

「おお! 用意がいいなぁ葵。」

「まぁね!」

「うし、じゃ何する?」

「大富豪だろう!」

「七並べ!」

「七並べ。」

「……。」

「……。」

「……。」



「二対一でおっさんの負け。」

「……ちぇ。」


拗ねた子供のように口を尖らせるおっさん。アンタ何歳なんよ?


「よーし、じゃ始めるぞー。」

「アレクさん、配ってねー。」

「俺かい!? まぁいいがな!」





〜二十分後〜





「ほれ、葵の番。」

「……パス、三回目。」


エントランス中央で俺らは胡坐かいて座って七並べしてんだが……うーわー葵弱ぇー。


「……なぁ、龍二。思ったんだがこれ何回目だ?」

「大体十回目だな。」


パスの話じゃない、ゲームやった回数。葵が負け続けて、『次こそは!!』とか言うもんだからなけなしの一回という形で続けてんだが……


つかもう、なけなしちゃうやん。


「ほれ俺一抜けだ。」

「俺も上がり。」

「…………。」


で、結局俺ら上がり。葵べった。この展開もう飽きた。


「…………。」



で、葵はガクっと肩を落とし意気消沈。やれやれ、終わった終わっt



「もっかい勝負だ――――――!!!!」



…………






(怒)






「……葵〜?」

「何!? 文句あんの!?」



「龍閃弾。」

「ポニョ!?」


腹部にドンと一発、超軽めの龍閃弾を叩き込んでやると、某名作アニメの主人公の名前を叫びながら葵は倒れた。


「よくやった龍二!」

「あたぼーよ。」


グッ! と互いに親指を突き出すおっさんと俺。葵の七並べ永遠ループの阻止、成功。





「龍二さん!」

「リュウくーん!」


おお、来た来た。


「和也、クルル、レナ?」


エントランスのドアから、和也とクルルとレナ? が到着した。


「何で私だけ疑問符付いてんの!?」


ノリさ。


「っつかオイ、和也。お前。」

「はは、いやぁ情けないっスわ。ボロボロです。」


照れたように後頭部をポリポリする和也だが、まぁ手酷くやられて。特に足。ズボン血だらけ。


「まぁ、ドンマイだな。」

「それより私達酷かったんだよー!」

「そうそう! いきなり和也が私達蹴り飛ばしてさぁ!」

「おかげで助かったんだから文句言ってんじゃねぇよ。」

「第一お前らってそういうキャラだし。」

「「ガーン!?」」


口揃えて言ってんじゃねぇべよ。


「ともかく、無事で何よりだ。」

「がはははは! 傷だらけだがな!」

「……ほっとけ。」





「リュウジー!!」

「龍二さん! 師匠!」

「? おお。フィフィ、文一、茜、黒ペンキ。」

「だから黒ペンキじゃないですよー!?」


続いて、文一率いるチーム到着。案の定、全員ボロボロ。服が。傷は恐らくフィフィが回復魔法唱えたんだろうな、全然無かった。


「お前らも見事にボロボロだなぁ。」

「そうですー。文一が全く戦わなかったですー。」

「いや戦っただろ!? 十分!」

「途中だけでしょ? 最初手も足も出てなかったし。」

「いやそれは確かにそうだけどさ! つーかそれなら僕が忍者多数相手に大立ち回り演じてる間湖織達は何してたんだよ!?」

「ちゃんと手がかり探してたもんね?」

「ね? ですー。」

「ここぞとばかりに手ぇ組むなあああああああ!!!」

「まぁいいじゃん勝ったんだから。」

「…………グスン。」

「主、泣いちゃダメだよ?」


はい文一の負け。


『ヒャハハ! いつの時代も男が女に敵うことはねぇなぁ!』

『貴様もな。』

『…………。』



誘宵、エルの一言で撃沈。



「とりあえずお疲れちゃん。」

「ドンマイだな、文一♪」

「……今だけ師匠のその満面の笑みに殺意が沸きました。」

「やるってか?」

「無理ですごめんなさい。」


ホントドンマイ文一。


「フィフィ、和也にも回復魔法かけてやれ。」

「はいはーい。って、意外ねぇアンタがそこまでやられるなんて。」

「うっせぇよ。」


機嫌悪そうだな和也。さっきの照れ笑いは無理してたな?





「龍二!」

「龍二さん!」

「おぉ、オメェら。」


続いて来たのは、龍乃達……なんだがよ。


「ありゃ。アルス、どした?」

「おいおいアイス?」


何かアルスが龍乃に、マーくんが優貴にそれぞれ肩を借りていた。


「……ごめんなさい、ボクが悪いんです、ボクが……。」

「いや、だからアルスくんあれはしょうがなかったんだって。」


……何かアルス泣いてるし。マーくん慌ててるし。



「くぉらマーくうううううううううん!!!!!」

「げ!? あ、葵!?」


あ、いつの間にか葵復活してた。何故か絶賛ブチ切れ中。


「な、に、女の子泣かしてんのよおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ち、違う!! 断じて私は泣かしてなんか!!」

「言い訳無用!! 天罰うううううううううう!!!!」

「ちょ、待て葵――――――――!!!!」

「ってこのままだと僕まで巻き添えじゃないですかああああああああ!!!??」


葵が大惨事を起こしそうになったから、仕方なくハリセンを取り出して頭はっ倒して昏倒させた。チョー気持ちいい。


「で? 何で泣いてたん?」


気絶した葵はとりあえず置いといて、泣いてるアルスに向き直った。


「……ボクが……。」

「うん。」

「ボクが……寝てしまったせいで、アイスさん達が……。」


…………むにゃ?


「寝てしまったからどうなったん?」


首を傾げる俺の傍まで、マーくんがコッソリ耳打ちした。


「…彼女が寝てしまったから誰も回復魔法が行えず、止血できなかったんだ…。」

「あなるほど。」


そぉれで責任感じて泣いてるわけね。うんうん。


「んむ、とりあえず無事なら大丈夫だろ。」

「……まぁ、な。」


とは言っても、今のマーくんは顔が若干白い。魔王なのに白とはこれいかに。因みにアルスは龍乃が宥めてくれてる。サンキュ。


「まぁ何はともあれ、誰一人欠けることなく全員集合したわけだし?」

「そうですよね、とりあえず万々歳ってとこでs」





「「「待たんかああああああああああい!!!」」」


あ、忘れてた。


「何だいたのか影薄。」

「生きてたのか影薄。」

「死んでくれないか影薄。」

「さっきからおったわバカ和也!!」

「フミタンキャラ違うくね!?」

「龍二テメェ死んでくれってどういう意味だコラぁ!!!」


早口で次々喋るな。読みにく……じゃなくて聞き取りにくいだろが。


「とゆーよりだなぁ! 俺らが体張って囮役務めたんだから褒めてくれたっていいだろ!?」

「よくやった。褒美だ。」

「ビスケット投げるなイヌか俺らは!!」

「ワン!」

「ってお前がなるんかい!!」


影薄どもに向けて投げたビスケットはどっから生やしたのかイヌ耳クルルが咥えていった。


「まぁ無事でよかったじゃん、一応。」

「一応って何だよ!?」


駿がツッコミ入れるけどまぁ無視だ無視。


あ、それより一つ気になったことが。


「オメェら、ボロボロなの二人だけじゃねぇか? 恭田に関しては血まみれだし。」

「「……。」」


一聖と駿はいきなり黙り込んだ。


「いや、正直俺も何が何だかわかんねぇんだよなぁ……?」


で、血まみれになりながら首傾げる恭田。これは明らかこいつの血じゃねぇわな。




つーことは……あれか? やっちまったか?




「……おい二人。」

「「?」」


俺は一聖と駿に手招きし、耳元で囁く。


「お前らあいつに自分が大暴れしたってこと、言ってねぇよな?」

「いや、言ってない……けど。」

「うし、ならいい。」


訳がわからないといった表情のまま二人を解放。うん、記憶の奥底に封じ込めておけ。



あれは、まぁ……あいつにとっては苦い思い出らしいし。



「さて、今度こそ全員揃ったな?」


グルリと見回し、誰か欠けてないか確認する。うん、異常なし。


「ああ、全員揃ったはいいんだけど……。」


何故か龍乃が口ごもった。


「どしたよ?」

「………皆、何か手がかりらしき物はあったか?」


……あ、そっか。それで分かれたんだったな。


「あ〜……オレらんとこだけど、一通り探してみたんだが別段怪しい物は無かったな。」

「うん……。」

「色々部屋漁ったけどね。」


ここが敵の本拠地じゃなかったら警察捕まってるね。


「あ、でもね! 変な紙切れ見つけたんだよ!」

「紙切れ?」

「これっスよ。」


クルルの言葉に首傾げると、和也が何か差し出してきた。


「? ……“NI4”?」

「訳わかんないよねこれ。何のメモなんだろう?」

「何かね、胸の大きいお姉さんがはだもごむご。」


和也がクルルの口を手で抑えて黙らせた。


つかさ、これってよぉ…………ふむ。


「あれ? それ私達のとこでも見つけたよ? 内容違うけど。」

「ほれ。」


横からいつの間にか復活した葵が俺の肩越しから覗き込み、アレクのおっさんが紙切れを渡す。


「ああ、私達のとこもあったよ。似たような奴。」

「これですー。」


さらに湖織も巫女服の袖の中から紙切れを出す。


「え……私達のところにもあったぞ?」


そしてマーくんがポケットから同じような紙切れを出す。


「……つまり、影薄やくたたず以外全員同じ紙を見つけたっつーわけだ。」

「「「誰が役立たずだ!!!!」」」


黙れ影薄。


「…………意外と重要な物なのかもしれませんね、これ。」

「そうだな。」


和也の言葉に頷く俺。



皆が集めた紙には、それぞれ“NI4”、“KU1”、“RO2”、“O3”……といった風に、アルファベットと数字が書かれてあった。



「何かの暗号かな?」

「だろうな。じゃねぇと訳わからんし。」


……それはわかるんだが、どこで使うんだコレ?


「……ん〜……………………。」


………………。



「……ま、とりあえず進むか。」


持っとけばいいことあるっぽいし。


「え、進むってどこに?」

「もう屋敷全部回ったよ?」


和也とクルルが聞いてきた。何気に息合うねアンタら。


「ノンノンノン。実はまだこの鷹の棟にはまだ調べつくしてないとこがあんのよ。」

「え、そだっけ?」

「全部回っただろ? 主に台所。」


コラ。おっさんそれ禁句。まぁいいけど。


「いんや、まだ一つだけ調べつくしてない部屋があんだよ。」


調べつくしてない……とゆーより、気になってる部分があるんだなぁこれが。さっきロボットに勝った時の戦利品みたいなカードキー手に入れてからどうも気になる。


「じゃさっさと行くぞ。」

「はい!!」

「ちょ、二人とも置いてかないでよ!」


俺と俺の後ろをタッタカとついてくる優貴を先頭に、俺は目的の部屋へと移動を開始した。









〜???〜



「……。」


暗い部屋の中……先ほどの老人が、PCの前で身動き一つなくジっと画面を見つめていた。


「……。」

「……あ、あの、博士……?」


そして、その背後で若い組員が若干上ずった声で老人に声をかけるが、老人は未だに黙り込んだまま。


「……。」

「……えっと……その……く、組長がお呼びで【ダン!!】!!」



言いよどんだ組員の言葉を遮るかのように、老人はPCの乗った机を思い切り叩いた。



「……おのれ……あの……クソガキ……どもが…………!!」


怒りに震えた声を必死に絞り出し、老人は血管が浮くほど拳を握り締めた。


「許さん………絶対許さん………ワシの息子達をぉぉぉぉぉぉ…………!!」


暗闇のせいで、老人の顔はよく見えない……が、PCの画面の明かりに反射した血走った目がくっきりと浮かんでおり、組員は恐怖を覚えた。


「ヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒヒヒッヒヒ……今に、今に見ておれぇぇぇぇぇぇ……。」










〜龍二視点〜



到着〜。


「? 龍二くん、ここって。」

「おう。」


現在地、鷹の棟二階にある、豪奢な扉の前。


豪奢っつっても、かぁなり悪趣味全開の扉なんだけどね〜。何か鬼のエンブレムがドーンと扉のど真ん中についていて、いかにもって感じの部屋……まぁ、俺ら探索してる時に普通に入ったけど。


「なぁ、ここってまさか……。」

「そ。組長室。」

「何でわかるんですか龍二さん?」

「いやそれっぽいから。」

「それだけ!? それだけで判断すんのアンタ!?」


うっせぇよフィフィ。


まぁ、とりあえずだな……。


「お邪魔しまーす。」


言う必要ないけど、定番のボケかましながら扉を開けた。


中に入れば、さすがヤクザの親分、無駄に豪華な部屋だった。フローリングの床と白を基調とした壁、そして何よりベタに部屋のど真ん中にトラの毛皮の敷物、部屋の奥にあるでかい机の背後に日本刀とうぐいすが描かれた掛け軸。他には革張りのソファ、液晶テレビ、最新型冷蔵庫といった贅沢なもんも置いてあった。


初めてここ来た瞬間、俺は組長に明確な殺意が湧いたね。


「ねー龍二くん。ここってさっき調べたよねぇ?」

「おうよ。」


ロボットと対峙する数分前、俺らはすでに組長室に目ぼしいもんを探すためガサゴソ漁った。あったのは植木鉢の下に挟んであったヘソクリ五十万円(葵がプリン代にもらった)と冷蔵庫の数十本の缶ビール(おっさんが全部飲んだ)、そして机の中からリボルバー式の拳銃(俺がもらった)……などなど。


普通犯罪だが、連中も似たようなことしてるので気ニシナーイ。


「って拳銃はダメでしょ!?」

「いいじゃん。減るもんじゃ無し。細かいよ優貴っち。」

「そーゆー問題じゃありませんって優貴っち!?」


思考にツッコミ入れる優貴はとりあえず脇に置いておくとして。


「実を言うとな、ちょい気になる部分があったりするんだなぁこれが。」

「え、どこよ?」

「ここ。」


机の後ろにある、綺麗な鶯が描かれた一見何の変哲もない掛け軸。ここもさっきすでに調べておいた……んだが。


「何か知らんがね、ここ怪しいって思うんよ。第六感がそう叫んどる。」

「どんな風に?」

「『ここアヤシーーー!!!』。」

「ありえねえ!?」


ナーイスツッコミ文一。雅を彷彿とさせるね。


「まぁ冗談はここまでにして。」

『……はぁ。』


ツッコミーズの連中が何かため息吐いた。うん、気ニシナーイ。


とりあえず、掛け軸を引っ掴み、



【ビリリリリ!!】

「ああ!? もったいな!?」



文一の声を聞きながら思いっくそ破り捨てた。


価値ある掛け軸なんだろうが、正味俺そんなん全然わからんわ。


「え〜〜〜っと……。」


掛け軸がかかっていた壁を念入りにじ〜〜〜〜っと見つめる。実を言うと、ここを調べようとしたんだが葵とアレクのおっさんが次に行こうとしてたので中断したため、ここだけ手付かずだった。


なもんで、戦闘中には考えなかったが、カードキーを手に入れた今、ものっそ気になってしゃーなかった。この屋敷を一通り調べ尽くして、このカードキーを使う場所が他に思い浮かばなかったもんでね。


「ん〜…………………。


…………………。




お?



「…………。」



よく壁に目を凝らしてみると、ホントに小さな、人差し指の先っちょくらいの小さくて四角い溝らしき物=スイッチを発見。


「……ポチっと。」


んで迷い無く押した。



【シャッ】



スイッチの横がスライドして、長方形の電卓のような機械が現れた。


「おお、すっごーい! リュウくんカッコいー!!」


どこがどうかっこいいよクルル。


「……まさかこんなところにまであるとはな。」

「ベタだね。」


龍乃と葵がごもっともなことを言う。


まぁ、とりあえず仕掛けは見つけた。問題はここからだ。


機械にはアルファベットのAからZまでの文字が書かれたボタン、そして横にはカードキーを通すための溝が付いている。


「…これってつまり、パスワードを入力していかないとダメってことですか?」

「そゆことん。」



文一の言う通り、このボタンで何らかのパスワードを打ってからカードキーを通さないと意味はない……ってことんなるわけ。


で、その肝心のパスワードがわからんと。


「んじゃま、とりあえずテケトーに入力してくべ。」

「……いいのかそれで……。」


後ろでマーくんが何か呟いたが聞コエナーイ♪


…………。


「あ。」

「? どうしたんですかリュウジさん?」

「今偶然新しいギャグを思いついてしまった!!」

「今それどころじゃないでしょう!?」


うっせぇぞアルス。


まぁ、このギャグはとりあえず棚の上から二番目の左端に置いといて。


「まずパスワード、何にするか?」

「ん〜…………じゃプリン!」

「んなわけないだろ。」

「PU、RI、Nっと。」

「採用すんのかよ!?」


マーくんのツッコミを無視しつつ、葵のパスワードを入力してカードキーを通す。が、


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「違うか。」

「ちぇー。プリンだと思ったのにー。」

「あり得るか!」

「「あり得る!!」」

「何故そこでハモる!?」


んな怒らんでもマーくん。


「んじゃ気を取り直して次。」

「…………あ! チョコ!」

「それもダメでしょう?」

「CH、O、CO、LA、TE……。」

「ってリュウジさんも真に受けないでください!!」


今度はアルスのツッコミを聞きながらクルルのパスワード入力、そして通す。


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「これも違うか。」

「当たり前です…。」

「リュウくん、チョコ食べたくなっちゃった。」

「アンタもう黙りなさい。」


フィフィ、そのまんま黙らせとけ。


「んじゃ次。」

「お嬢様!」

「主、それ絶対間違ってるよ?」

「TO、U、YA……。」

「やっぱ入力してるですー。」


文一のパスワードを入力してっと……もう誰がツッコんだかわかるっしょ?


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「やっぱ地味に出番が少ないお嬢様だとダメか。」

「ちょい待った龍二さん今お嬢様の悪口言いませんでした?」

「多分空耳だろお前の。」

「…………納得いかない。」

「つーかそれパスワードに関係ないよね龍二?」


気ニシナーイだ文一&茜。


「そんじゃ、和也なんかあるか?」

「あ〜……じゃ、死神って入れてみてください。」

「大体それくらいしか思いつかないよね。」

「うし、SI、NI、GA、MIっと。」


特に何のギャグもない和也のパスワードを……と。


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「ドンマイ、次。」

「ええ!? 何かイジる要素ないんですか!?」

「だって死神ってどこをどうイジればいいんかわからんもん。」


まぁ、お前にはまだいつか笑いの神さまが降りてくることを願おう。


「龍乃は? 何かある?」

「当然、優貴だ。」

「ちょ!?」

「YU、U、KI。」


優貴の反論は無視してパスワード入力そして通す。


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「チッ、ヘタレん坊め。」

「えぇ!? 僕のせいですか!?」

「ありゃ聞こえてた? わり。」


小声で悪態ついたった。


「さて、影薄……はもうメンドイ、無視。」

「「「待てぇい!!??」」」

「和也、黙らしとけ。」

「はいよ。」


背後で何か殴るようなにっぶい音が聞こえてきたけど気ニシナーイ。


「……じゃあ、龍二には何かあるのかな?」

「当然だ。」


茜の質問に自信満々に答える。


「……どうせラーメンでしょ? リュウジ。」

「あ、それ一番確立高いですー。」


背後で喋る連中は無視。


「え〜っと……




TA、NA、KA……」

『誰!?』


全員ツッコミ。


「NO、PA、NN、TU。」


【訳、田中のパンツ】


『だから誰!? で何でパンツ!?』


だから全員ツッコミやめい。


【ビー。パスワードニュウリョクミス】

「ありゃ違ったか。」

「……龍二さん、もしかしてわざとやってません?」

「ンナワキャナイヨー。」

「目ぇ逸らしながら片言で喋らないでください。」


ズバズバいくねー文一。


…………うん、そろそろやめようかね。


「じゃとっととパスワード何か考え…………あ。」

「? どったの龍二?」


レナが視界の隅で小首を傾げた。うん、どうでもいい。


「……お前ら、さっき見せた紙切れ集めろ。」

「へ? 何で?」

「いいから集めろ。」


和也、文一、マーくん、アレクのおっさんからそれぞれ紙切れを受け取り、掌でトランプのように扇状に広げる。


「“NI4”、“KU1”、“RO2”、“O3”……………。」


……最初にこの紙切れに気付くべきだったな。明らか何かあるだろこれ。


ん〜……ヒントはおそらく…………。


「…………。」


………………



あれ?



「……なんじゃこりゃ。」

「へ? リュウくんどしたの?」

「何かわかったんですか?」


…………。


「……おちょくっとんなこれは。」

『?』


皆が疑問符を浮かべる中、俺は紙切れを手にしたままパスワードを打ち込んでいく。


「まずは、1。」


1……すなわち、“KU1”の“1”。KUと打ち込む。


「次は2。」


“RO2”のこと。


「3……。」


“O3”。


「そして……4。」


“NI4”……。


「……これがパスワードだ。」


全てを合わせると……




KU・RO・O・NI………。


“黒鬼”だ。


「よっと。」

【シュ】


パスワードを入力してから、カードキーを通した。



『認証完了。』


ほらビンゴ。



【ゴォン!】

「!? うお、何だ!?」

「あいた!」


突如、床が揺れ始めてクルル等のおバカキャラsが尻餅ついた。


振動はまだ続き、まるで重力が下に行ってるような感覚に陥る……いや、ようなじゃないな、マジで下に行ってる。


「なるへそ〜。この部屋自体がエレベーターになっとるわけだ。」

「お〜、ハイテク。」


葵がホントに驚いてんのかわからん感じで言う。


「……えっと……つまりこれ、地下に行ってるということか?」

「そゆことだ龍乃。」


つかさー、今時地下へ続くカラクリって案外ベタだと思うんよ俺。


「……でも何で地下へ? 何かあるのか?」

「そうゆう趣味の人達じゃないかな?」


どんな趣味やねん茜。


……まぁ、地下まで結構時間掛かるみたいだし、各々着くまでゆっくりしとくのもいいな。


「……ふー。」

【ギシ】


てなわけで、俺は机にある革張りソファにゆったりと腰かけた。フ〜、ナイスな座り心地。


…………。


「……にしても……。」



あの時戦ったロボット……あの硬度……んであの技術……どう考えても今の人間が作り出せるテクノロジーじゃねぇよな。第一、こんなヤクザ組織自体にんな技術力あるとは思えん。


……やっぱ裏で誰かが手を引いてる、か……となったら、皐月の命も……。



「龍二さん。」

「? んあ?」


一人思案に耽ってっと、背後から優貴が声をかけてきたんでイスを回転させて振り返った。


「何だ?」

「……ずっと気になってたんですけど。」


うん。




「龍乃さんの家で言っていた、表向きは人身売買、麻薬密売、恐喝、窃盗、詐欺すらも超えることを裏でやっているっていうのはどういう意味なんですか?」



…………。


「あ、そうそう。それ私達も気になってた。」

「どゆことリュウくん?」

「気になるですー。」


…………。



…むぅ、しょうがない。



「……わかった。話す。」


部屋が振動する中、俺はイスをもう一度机の方へ向けた。


「……言っておくが、これはあくまで情報の一部。明確なことまではわからないが、少なくとも想像を絶することは確かだと思う。」

「想像を絶することって…………何なんですか?」


文一が真剣な口調で聞いてくる。その顔からは早く聞かせろという感じが丸見えだ。


「それはな……





人体実験だ。」

『!?』


ほら全員ビックリした。


「人体実験!?」

「そ。この組織には生物学に精通している科学者が集まって、過去数回に渡って生物兵器を研究していたんだと。


ざっと十五年前…くらいだな。一部の政府のお偉いさんがこの組織と裏で繋がっていて、ここで作り出された兵器を政府に売り渡し、目障りな人間とかを裏で抹消してたらしい。


が、それから十年後のこと。その秘密が政府にバレて、警察がここに踏み込んで関係者全員逮捕、黒鬼組を壊滅、そんでそのお偉いさん方も御用となって、事件は幕を閉じた……。


んだが、最近になって黒鬼組は現組長である、日下部くさかべ 剛鬼ごうきによって再建され、再び研究は再開された……ってとこだ。」

「……で、その研究って具体的にはどういうものなんですか?」

「ん、そこまで詳しいことは知らん……が、非道な上に人徳も疑うような狂気にまみれた実験……と言っても過言じゃねぇということは確か。


で、これ一番重要。最近の失踪事件の被害者………そいつらはまだ実験対象にはされちゃいねぇと思うが、いつ実験体にされるかわかったもんじゃない……大体俺がわかるのはこんくらいだな。」

『…………。』


嫌な雰囲気が俺達を包む。皆喋ろうともせず、ただ響くのはエレベーターの機械音と、震動による轟音だけ。



「……何て奴らだ……。」


ふとそんな沈黙を破ったのは、龍乃……その口調には怒りがこもっていた。


「まぁ、そんな奴らなんだ。大体俺らがやるべきこと、わかるよな?」


俺はちょいと周囲に目配せすると、全員俺の方へ向いていた。


揃いも揃って、やる気に満ち溢れている目をしている。


「……ボコるだけじゃ飽き足らねぇ。



半殺しだ。」


全員頷いた。


「皐月……待ってろ……。」



一番やる気があるのは優貴だった。うん、わかるその気持ち。



「…………。」


(……だが、何なんださっきから……わざわざヒントになるようなもん隠しておいたり、カードキーもあんないかにもって場所に置いてあったし……なんかこれじゃまるで……




誘ってる……?)




全員が次の戦いに備えて準備している間、俺は一人イスに座りながら考え込んでいた。









〜地下??階〜



「組長、お呼びですかな?」


龍二達が地下へ降りている間、ある部屋の中で先ほどの老人がいやらしく笑う。


先ほどは暗すぎて見れなかったが、体は白衣を着込んでいてもわかるくらい痩せこけ、顔の頬も削げ落ち、さらには肌も病的なくらい白い。そして一際目立つのは、老眼鏡が乗った大きくてしわしわの鷲鼻。歯もほとんどなく、残った歯は黄ばんでいた。


「……来たか、博士。」


そして老人の前に背を向けて立っているのは、黒いロングコートを着た長身の男。大柄でもなく、小柄でもないといった体格。ツヤのある髪は細く一本に纏められ、腰まで伸びていた。


「それで……あの・・兵器は完成したのか?」


男は背を向けたまま老人に言う。その声はひどく冷たく、何の感情もこもっていない。しかし、老人は何も気にしていない様子で、いやらしい笑い顔を崩さない。


「ヒヒ、あれなら今しがた最終調整に入ったと、連絡を受けたばかりです。」

「そうか……。」


男の反応は、先ほどと変わらない口調で淡々としている……が、横顔からは笑みが見てとれた。


「……急がせろ。もうじき私もここから離れる準備を始める。」

「そうですなぁ。あのガキどもも、ここに侵入してきたようですし。」

「ああ……だが。」


男はわずかに老人の方へ振り返るが、それでも顔は見えない。


「我々の目的を忘れるな。いいな?」

「御意……にしても、謎ですな? 何故にあのような者・・・・・・を狙うんで?」


老人はいやらしく笑ったまま首を傾げる。


「……そのことについては、詮索しない方が身のためだぞ。」

「ヒヒ、そうですか。まぁワシとてまだ死にとぉないのでねぇ。」

「わかったら早く目的を済ませろ。」

「ヒヒヒ、もちろんわかっておりますとも……では、これにて。」


老人は笑いながらも恭しく礼をし、背を向けた。


「…………。」


老人が部屋を出た後も、男は変わらず前を見つめたまま動かない。


「……早く来るがいい……この娘を助けにな。」


男は、口の端を吊り上げて笑う。





目の前には、水色の液体に満たされたガラス張りのカプセルの中で眠る少女がいた。










〜龍二視点〜



【ゴォン】


「え〜、地下〜○○階で〜ございま〜す。」

「エレベーターガイドですか。」


文一のツッコミが雅の如く炸裂した。


とによりかくより、部屋が大きく震動すると、それから音がしなくなった。どうやら着いたらしい。


「うし、お前ら行くぞ。」


俺が先頭に立ち、部屋の扉を開ける。


「ほぉ、まさにSFチック。」

『それ我のセリフ!』

「誘宵、ちょっと静かにするですー。」


扉の外には、先ほどと違った光景……ダンプ三台が通るくらいの広さのある、金属で出来た廊下。天井には蛍光灯が辺りを照らしていた。


「ふむ、どうやらここらで人体実験してたらしいな。」

「そ、そうですね……。」

「みゅう……。」


横でアルスとクルルが俺にしがみついたまま震えていたっておい。


「お前ら何ビビってんだ。」

「……何か、ここ嫌です……背筋が凍りそうで……。」

「みゅみゅう……。」


アルスが意味深なこと言ってるに対し、クルルはすでに説明になってない。バカが。


「……私も感じるな。」

「何が? オシッコ漏れそうなのマーくん?」

「何でそうなる!?」


マーくん、その年でおもらしか?


『……リュウジ、アルスの言う通り、ここは嫌な気配しかしない……剣の私でも感じる。』

「ん? そんなもんなん?」

「鎌、お前はどうなんだ?」

『うん、私も感じる。何なのこの気配……。』

『私も何か……気分悪い。』

『我もだ。嫌な感じだぜ。』


茜、誘宵も感じているらしいが……言われてみれば、妙な気配がするな、ここ。


武器連中も感じるくらいのこの感じ……何なんだ? 一体。


「さながら、人体実験にされた連中の怨念とかか?」

「がはははは! ありえるな!」

「「「笑えねえよ!!」」」

「「…………。」」


アレクのおっさんに影薄連中がツッコミを入れ、アルスとクルルが震え上がった。あーおもろ。


「龍二。ここは早く脱出した方がいい。」

「……そだな。」


龍乃の意見に賛成し、マジメモードへ。


「行くぞ。」



廊下を歩き出す俺ら。歩くたびに靴音がカツーンカツーンと響き、反響する。向こうを見れば、廊下が遥か彼方まで伸びている感じがした。



「…………。」


全員、一言も話さないまま先へ進む…………正直、この空気何とかしたいんだが、状況が状況だ、何も思いつかん。


あ〜、何か敵出てこねぇかなぁ……と。






『グゥルルルル……。』






……………。



「……お前ら〜?」

「? 何ですか龍二さん?」




「構えろ。」

【シュィィ】




龍刃とエルを抜き、前方を見据える俺。


『!』


他の武器持った連中も、各々の武器を構える。




【ドォン!!!】




途端、天井が爆発した。


「おっと。」

「そらよっと!」

「それ!!」


天井の破片が降り注ぎ、大きな物は俺と和也が武器で粉砕していき、飛び散った小さな破片は葵が魔力球を飛ばしまくって破壊していった。



【ズゥン!】



で、ついでに何かでかいの降ってきた。同時に床が揺れ、アルスやクルル等の一部の連中が尻餅をつく。


落ちてきたのは、体長四メートルほどある巨漢。紫色の筋肉質の体に、銀色に輝く胸当てと丸いショルダーパッドを付けている。で、一番目立つのはその顔。



ライオンのように黄色く輝く鋭い眼光、牙、たてがみ……ライオンを巨人化したかのような、そんな外見だった。



「……なんだこいつは……。」

「でっかいねー。」


和也が息を呑み、葵は見上げながら感嘆の声を上げる。


「……なるほど、人体実験をしていたっつーのは間違いないようだな。」


別に人体実験をしていたという確証が無かったわけじゃないが、俺も生で見たのは初めてだからな。正直ビックラした。


「にしても……こいつクセェな。」

「そうですね……死臭がします。」


俺の呟きに和也が答える。


こいつの体から……何て言うんかな? 何かが腐ったような臭いがする。



『グゥオオオオオオオオ!!!』



っておりょ?


「危ない二人とも!!」

【ドォン!!】


龍乃の声がすると同時に俺と和也は後ろへ飛び退る。俺らがいた場所には、化け物の拳がめり込んでいた。


なるへそね。外見通り力自慢ってわけ……んじゃあ。


「『龍迅槍りゅうじんそう』!」


エルで踏み込んでの突きを胸元目掛けて繰り出し、細い竜巻を発生させて槍の如く突く。


【バス!】

『アグアアアガアアアアアアアアアアア!!??』


お、効いた。


「……つーことは、さっきのロボットみたいな装甲ではないわけだ。」


…………んじゃあ……楽勝だ。


「和也。」

「? 何スか龍二さん?」


隣にいる和也に、振り向かずに呼ぶ俺。対し、和也も俺の方を向かずに答える。


「……一発かますぞ。」

「……上等っスよ。」


同時にニヤリと不敵に笑った。




『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

「和也、ついてこい!!」

「はい!!」


胸当てを貫かれて血を流しつつも、怒りながら拳を振り回す化け物目掛けて俺らは同時に駆け出す。


「鎌!」

『はいさ!』

「『雨宮流一鎌一刀 雷風かみなりかぜ』!!」


左手の鎌が黄色く輝くと、右手の雨嵐から電流が迸り、そのまま和也は振り下ろす。三日月形に飛んでいく電撃は、見事化け物の腹部に命中、体全体に電流が走った。


「一刀、『龍牙閃りゅうがせん』!」


俺は電流で体が麻痺した化け物の腹を龍刃で薙ぎ払い、そのまま切り抜ける。切られた箇所から血が噴出し、化け物はさらに悶え苦しんだ。


「はっ!」


和也は飛び上がって鎌の刃を化け物の肩に深く突き刺し、その状態のまま肩を蹴って勢いで鎌を引き抜いて高く跳躍する。


「よっと!」


で、俺は切り抜けたと同時にその場で足に力を入れて和也と同じくらいの高さまで跳躍する。


俺と和也は天井近くまで飛び上がり、未だもがいている化け物へと降下していく。



「クロスオーバー…」

「奥義…」



和也は電流を纏った鎌を振り上げ、俺は二刀を持った腕を交差させて龍刃に炎を、エルに電流を纏わせる。


そして、





双龍閃雷そうりゅうせんらい!!』





和也の『襲牙雷しゅうがらい』と俺の『炎龍雷牙えんりゅうらいが』が化け物に炸裂し、化け物は縦とX字に雷と炎が噴出した。


俺らは化け物の前方に着地し、武器を振り払った状態のまま膝をついてそれぞれ武器に纏わせていた雷と炎を消した。



『グオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!???』



最後の断末魔の叫びを上げ、化け物は背後でバラバラに崩れていった。雷と炎によって、血が一滴も流れず、肉塊からは焦げた臭いが漂ってくる。



「決まったな。」

「ナイスプレー♪」

【パン!】


気分爽快なまま武器を収め、俺と和也はハイタッチをした。


初めてやった連携技だが、思いの他うまくいったんでかぁなり清々しいなこれ。



「うにゃああああ!! リュウくんカッコいいリュウくんカッコいいリュウくんカッコいいいいいいいいい!!!」

「やかましいわお前。」


クルル、さっきまで意気消沈ムードだったくせに何をいきなり復活してんだか。


「すごいな……二人とも息ピッタリだったぞ?」

「そうか?」

「和也すごかったよ!?」

「あー、サンキューなレナ。」


皆からすごいだのなんだの賞賛浴びて、何となく照れる俺達。んなすごいか?


「さ、ともかく道は開いたことだしとっとと進むぞ。」


まぁ、こういう和気藹々としたムードは好きなんだが……今はそうしてる場合じゃないんでな。







化け物を倒してから歩き始めて数十分……



「ねぇ、龍二くん。さっき話してたその日下部 剛鬼って人ってどういう人なの?」

「ん、今の組長か。」


歩きながら、葵が疑問を投げかけてきた。ここまで来るのに、敵一匹現れないってのはおかしい話だが、まぁ現れないにこしたこたぁない。


それでも皆警戒は緩めてないけどな。俺と葵と和也はともかく。


「あ〜……そだな、俺も情報聞いただけで定かじゃねぇが、何でもつねに冷静な判断力と行動力を併せ持ってる天才な上、人を引き付けるカリスマ性があるらしい。黒鬼組が壊滅した後も、裏で密かに部下を集めて再興の計画を練ってたとか。」

「ほぇ〜。」

「……だがな、性格自体は残忍な上に狡猾、弱い人間にも情け容赦ないんだと。第一、この人体実験のプロジェクトを立ち上げたのも日下部組長……つっても、当時はまだ組長じゃなくて先代組長の跡取り息子だけど。」

「ふ〜ん……いかにも悪役って感じだね。」

「そうだな。」


……ただ一つ気になることと言えば……いくら日下部が天才と謳われていても、屋敷で戦ったロボットのようなテクノロジーを持ってるとは思えないんだがなぁ……。



…まぁ、本人に直接会って聞くしかねぇかな? 簡単に答えてくれるとは思えんが。




「っと……分かれ道か。」


思案するのをやめ、前にあるT字になった道を見据える。丁度分かれた道の真ん中には、ご丁寧に矢印が左右に伸びていた。


右が実験室多数や調整室多数、左がそれぞれの研究員の部屋となってる……ふむ。


「ここでもチームを分担することになるわけだな。」

「そのようだ……どうする?」


龍乃に聞かれ、ちょいと考え込む俺。うむぅ、どうするべきか………………




うし。


「…俺、和也、葵、文一……は、右の実験室とかがある方へ。他の連中は研究員が使ってる部屋を調べてくれ。」

「? そのチーム分けの意味は?」

「ん〜、俺らは少人数でも何とかなるし、人数は多いに越したことないからな。そういう意味で、こういうチーム。」

「……なるほど。」


龍乃の疑問に答え、いざ出陣っと。


「うーし、じゃ行くか。」

「「ほーい。」」

「……ノリがよすぎるこの人達。」


元気よく(?)返事する葵と和也だが、何か文一だけはげんなり顔。


「じゃあなお前ら。また後で。」

「ああ、どうか無事で。」

「お前らもな。」


俺と龍乃はそう言い合って、それぞれ左右の分かれ道を歩く。





この時、誰も気付かなかった。俺達がこの地下に突入した時点で、罠にかかっていたということを。








〜龍二チーム〜



「む……ここは研究室か。」


右の道に入った俺達は、数分もしないうちに数ある部屋の中で一番目立つ両開きの自動ドアの前に来た。


ここまで来るのに、とくに大したことはなかったが……一番気になること。



何か廊下とかところどころに血みたいなのがべったり付いてる。しかもまるで引きずったような跡とか。



これはあれか? ゾンビとかが出てくる某サバイバルゲームか?



「さぁてと……鬼が出るか、蛇が出るか……?」


でもんなの気にしてらんないので、自動ドアの前に立つ俺。



【ガー…】



中に入ると、そこは広々とした部屋の左右の壁に人一人が入れるくらいの円柱状のカプセルが乗ったでかい装置が四つ置かれていた。装置のモニターの前には回転イスがそれぞれ置かれている。


んで、真正面にはもう一つの自動ドアがあった。


「……いかにもっつー場所に出てきたな。」

「でも誰もいないね?」


和也と葵が、部屋に入って見回しながら入っていった。


俺と文一も続いて、部屋を見回す。


「……だいぶ使われてねぇみてぇだな。血も古いし、第一装置に埃被ってやがる。」

「……でも誰の血なんでしょうね?」

「さぁな。そこまでは知らん。」


今一番不安なのは、アルスとクルルが今頃ぶっ倒れてんじゃないかってことくれぇかな?


「ん〜……ここはとくに何もねぇかな?」


装置の一つのモニターを調べてみたが、どうも壊れているみたいで調べようにも調べられん。


「おーい、二人とも。目ぼしいもんねぇし行くぞー。」

「「はいはーい。」」


“はい”は一回。






『キキキキキ……。』






「? 文一、何か言ったか?」

「いえ、何も?」


あれ? 今何か変な声聞いた気が……気のせいか?





「うにゃあ!?」

「うおあ!?」

「! 師匠!? 葵さん!?」

「!?」


余所見してる間、和也と葵の悲鳴が部屋に響いた。




『ギゲ、ギギギ……。』




「……な、何だアレ……?」


隣にいる文一から、明らか驚愕の声が上がる。


天井から目の前に降りてきた物体……それはさながら、ばかでかい肉の塊、と言ったほうがしっくりくるような赤黒くてグロテスクな外見をした球状の、見上げんばかりの巨大な物体。それの周りから無数の触手が生え、天井からぶら下がる形となっている。


その触手に捕まっているのは、和也と葵。


「お、オメェら……。」


触手に足を掴まれて逆さ吊りにされてる和也と、体を拘束されてる葵を見て俺は息を呑む。


「何遊んでんだ!?」

「いやこれ遊んでるように見えねぇでしょ!?」


あり、違うの?


「ど、どうでもいいから早く助けて龍二くーーーん!!」

「あーはいはい。」


葵があまりに必死に叫ぶから、しゃーねぇんで助けることにする。


「文一、やれ。」

「は、はい! 茜!」

『了解!』


茜の声が聞こえると、文一は茜の刃に手を置いた。


魔力装填エーテルリロード四刃展開フルブレイド、斬撃×斬撃×爆散×発射!」


弾倉を閉じ、茜を居合いの形に構え、化け物を見据える。


「食らえ! 斬波黄昏スラッシュオブトワイライト!!!」


居合い切りの要領で茜を振り、茜色の刃が茜から伸び、砕ける。その欠片一つ一つが無数の魔力刃となって触手に向かって飛んでいき、弾き飛ばしていく。


「おぉっと!」

「うひゃあ!?」


触手を切られ、自由になった和也と葵が床へと落下するが、和也は見事空中一回転を決めて着地。葵は尻餅ついた。にっぶい音したし、大丈夫か?


「師匠、葵さん、大丈夫ですか!?」

「ふぃー、助かったぜ文一。」

「いった〜……すんごく痛かったよぉ…。」


すぐさまこっちに走りよって触手の範囲外へと避難する二人。因みに葵はケツ擦りながら。


「で? 何なんだこの肉団子なのかイカなのかわかんねぇ奴は?」

「うぇ〜……見た目気持ち悪い。」


俺は龍刃とエルを引き抜き、化け物に構える。和也と葵も武器を取り出して構えた。で、化け物は切られた……とゆーより弾かれた触手をウネウネと動かしながら、平然としている様子だった。少なくとも文一の攻撃はかぁなり効いたと思ったんだが……あ〜、これもあれだな。屋敷で戦ったロボットと同じだ。



【ザ、ザザァ……】

「? んあ?」



と、いきなりどこからかノイズ音が聞こえてきた。



『ヒヒヒ……ようこそ、諸君……私の研究室へ……。』



【グァバッ!】

「「!?」」


しわがれた声がすると、化け物の真ん中の円形の肉の部分が上下に開き、そこから充血したように真っ赤な目が現れた。キモ。


「? 葵、文一、大丈夫か?」

「うぇ……さらに気持ち悪くなってきた……。」

「僕も……。」

「おいおい、しっかりしろ二人とも。」


顔を背けて、口を手で抑える二人に俺と和也は背中をさすってあげた。俺ら? 和也は慣れてるっぽいし、俺は大して恐いと思わん。


まぁ、それはどうでもいいとしてだな。


「おい、誰だ。つかどっから話してんだ。」

『それは自分で見つけるんじゃなぁ……ヒヒ。』


んむ、どっかにスピーカーがあるみたいだな………でも、あーやべこいつ軽くムカつく。笑い方が。


『そ、そんなのことはどうでもいい……貴様ら、よくもワシの息子達を、破壊してくれたな?』

「息子? 誰だそら?」

「……あれじゃないっスか? 屋敷で倒したロボット。」


あ〜、あれか。


「つーか、アンタ趣味ワリィね〜? デザインはともかく、セキュリティにロボット使うなんてどんだけSFなんよ?」

『だ、黙れクソガキが。ワシの大事な息子達を壊しておいて、ただ済むと思うんじゃないぞ?』


いやぁだってあれ正当防衛だし。


「で? 結局アンタは俺らをどうしたいんよ? いや大体わかるけどよ?」

『ヒヒヒ、ヒヒヒ……決まっておるじゃろぉ?』


途端に猫なで声になった声と共に、俺らは身構えた。


『そこにおる、ワシの新しい息子の……




養分となれえええええええ!!!!』

『ギシイイイイイイイイイイイ!!!』




触手が一斉に俺ら目掛けて突き出されてきた。


「そらよっと。」


目の前に飛んできた触手を、龍刃で切り裂く


【ガァン!】

「あら。」


はずだったが、鈍い音が響いて弾かれただけだった。


「食らえ! 『雨宮流鎌術 破空斬・鎌』!!!」


和也が鎌を大きく逆袈裟に振り上げると、三日月型の軌道が触手を切り裂かんと襲う。



が、これも弾いただけで効果なし。



「んな!?」

「伏せろ和也。」


驚く和也めがけて飛んでくる触手に、俺は龍刃を振るう。


「破っ!!」

【ドォウ!】


和也に負けず劣らずの三日月型の一閃を放ち、触手を弾き飛ばす。切り裂かずとも、和也に来るはずだった攻撃は免れたからよしとしよう。


「お前ら、一旦離れろ。」


俺が合図を出すと、全員触手の攻撃範囲外へ飛び退いた。


『ヒヒヒ、無駄じゃ無駄じゃぁ……お前らなぞにワシの息子の体を傷つけることなぞできんわい。』


またどっかのジジイの声が響いた。俺は嫌悪感を露わにした顔で舌打ちする。


「ったく、いけすかねえ喋り方しよってからに。」

「でもどうなってんのあれ? 見た目やわらかそうなのにすんごい硬いし……。」


横で葵が呟く。うん、正論。相手めっさ柔らかそうなのに……まったく。


『さて、ではワシはこれから多忙なんでな。ここは息子に任せておこうか。』

「!? 野郎、逃げる気か!?」


和也が走り出そうとするが、足元に鞭の如く触手が叩きつけられて咄嗟に立ち止まる。


「クソ!」

『ヒヒヒ、ワシとて暇じゃないんじゃよ。




まぁ、目的も果たしたことじゃしな。』


? あ?


「おい、それどういう」

『では皆様、ごきげんよう。ヒャヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』


俺が言い終わらないうちに、声が高らかに笑うとブツンという音が聞こえた。


「龍二さん!」

「おっと。」

【ズドン!!】


触手が複雑に絡み合って槍のように俺を突き刺さんと飛んできたんで、バック転して回避する。見事に床に巨大な穴が開いた。


「……しゃーねぇ。」


体勢を立て直すと、エルと龍刃をヒュヒュンと二回転させた。


「エル。」

『!? あ、あれをするのか?』


あ、トラウマ?


「ああ、する。でも今度は失敗はありえないから安心しろ?」

『…………わかった。信じよう。』


構えを解き、さっきとは違ってエルを上に、龍刃を下に持っていく。


「行くぞ、エル。」

『ああ。』




「『二重共鳴にじゅうきょうめい!!!』」

【ゴォウ!】




エルと龍刃に氣を流し込むと、俺を中心に風が渦巻く。その風の壁によって、触手は俺らを攻撃することができずに弾かれていく。


「うお!?」


背後にいる和也達が風に煽られ、目を眇める。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

『はああああああああああああああああ!!!!』


氣を流し続けていくと、エルが蒼く、龍刃が紅く光りだす。光はやがて繋がっていき、どんどん形状を変えていく。


「……重なるは炎、雷、二つの力。」


風が止み、光が晴れる。




俺の手に収まっていたのは、全長140センチある、炎のように紅色の長い棒……の先に、蒼いエルの柄とエルの刃を短くした形の矛が取り付けられた、長槍。




「『龍王槍りゅうおうそう』。」

【ヒィン ドォン!!】




高速三回転させ、石突で床を叩く。衝撃波が広がり、部屋全体を震わせた。


「……逝け。」


そこから一回転させ、腰だめに槍を構える。



ここでちょい解説。屋敷で使った龍王乃太刀は、タイプに分けるとしたら一撃必殺の攻撃を繰り出すことができるからパワータイプ。二刀は攻守とも安定した戦いができることでバランスタイプ。



そしてこの龍王槍は、



【フッ…】



「『無影楓龍塵むえいふうりゅうじん』。」



風を味方にできるスピードタイプ。




【ドォッ!!!】




コンマ一秒の間に対象の周囲を回り、槍で切る。傍から見てみたら無数の蒼い剣閃が、さながら檻の如く取り囲むかのように走る。


『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


あれだけ硬かった化け物は切り刻まれて血が辺りに飛び散った。


「……散れ。」


床に着地し、化け物に背を向けたまま槍を横へ振る。




【パァァァァン!!】




破裂するかの如く、化け物はそこら中に不気味などす黒い血を撒き散らしてバラバラになった。


「はい、傘。」

【バッ!】


で、俺は血が降りかからないよう背中向けたまま傘を開いて血の雨を防ぐ。


「「「ノオオオオオオオオオオオオオ!!??」」」



あ、三人に傘渡すの忘れてた。



「あらま、見事にお前ら真っ赤っか。」

「ひっどーい! ベタベタ!」

「おいおいおいおい!? これ洗濯で落ちんのかぁ!?」

「そっち心配してどうすんですか師匠!?」


皆して血で紅く染まったんでいろいろとパニック。ドーンマイ。


いやぁにしても、あれだな。一瞬にして部屋が血で真っ赤になっちまったな。つか軽く言ってるけどこれ傍から見たら地獄絵図だよな。


「災難だったな。」

「龍二くん一人だけ助かってるじゃんかー!」

「気ニシナーイ。」

「いやそこ気にしてくださいよ!?」

「悪かったって。はい傘。」

「今さらいらねえ!?」


むぅ、うるさいのぉ。


「まぁいいじゃん、勝ったんだし、洗えば落ちるっしょ。」

「「「…………。」」」


なんだよぉそんな恨みがましそうな目で見んなよぉ。


「ほらほら、さっさと行くぞ。」


槍を片手に、血だまりをさっさと超えてもう一つの自動ドアの前へ行く俺ら。



【ウィィ】



「んじゃ行くか。」


両側にドアがスライドし、俺を先頭にさっさと部屋を出た。


部屋の外は、最初に出た廊下より狭くなったような感じで、人が三人余裕で通れるほどの広さ。オマケに壁やら床には血がベットリ。


「ったく、安もんのホラーかっつの。」

「ホントっスよね。」

「いや、僕らも十分ホラーっぽくなってますけど。」


あ、そだっけ血みどろ。


「……にしても、龍二くんそれすごいね?」

「んあ? 何が?」

「いやその槍。」


あ、そっかエル元戻すの忘れてたか。


「別に大したことじゃないけど?」

「いや十分すごいと思います。」

「俺に比べたらまだ和也の魔力挿入の方がすごいと思うが?」

「まぁ正直龍二さんと比べたらいい勝負かも………って何で鎌の秘密知ってるんですか!?」

「オメェ自分とこのクロスオーバー前編で言っちゃってんじゃん。」

「それ禁句!!」


え、そうなん? まぁ気ニシナーイだけど。


「まぁとりあえず……エル、共鳴解除。」

『ああ。』


【シュイン】


『わぁ、エルさん便利だね。』

『まぁな。』

『……私も変形合体とかしてみたい。』


元の姿に戻ったエルを賞賛する茜と、どっか羨ましい的なこと呟いた和也の鎌をよそに、俺は二刀をヒュンと回転させて鞘に戻す。


「さて……お喋りもここまでみたいだな。」


気持ちを切り替え、立ち止まる。



何故なら、目の前に重々しい機械仕掛けの鉄の扉が俺達の立ち塞がってたから。



「ここだね。」

「……。」

「……。」


後ろの三人は息を呑む。この中に敵の親玉がいる……そう感じさせたからだ。



だが、俺は一人釈然としない。



(……さっきの声が言ってた“目的”って……何なんだ?)


いやな胸騒ぎがする……が、今はそれを考えてる暇はない。


「……開けるぞ。」


返事を待たず、俺は一歩足を踏み出す。



【ゴォォン……】



すると、何もしていないのに扉が左右にゆっくりと開いていく。まるで、俺達を招き入れるかのように。



「……。」


さらに一層、俺らの中の不安が掻きたてられるが、それよりも進むことの方が大事だと考え、迷わず部屋の中へと入っていった。







「…ここは…。」


部屋の中はとても広く、先ほどの化け物が出てきた部屋にあったカプセルが左右に六台ずつ置かれてあった。


だが一番目立つのは、部屋の真正面にある周囲にたくさんのモニターが付いている円形の台のような装置。その上には、機械的な短い円柱状の小さな柱が乗っているだけだった。


「あれは?」

「さぁな。」

『うわ、すごい切り替えしだよ。』


文一の質問を普通に流すと、茜から声がした。


「……ここが、この研究所のメインルーム……ってとこか?」

「その通り。」

「「「「!?」」」」


明らか俺らの中の奴の声じゃない奴に肯定され、とっさに身構える。



正面にある装置の前に、180センチほどある長身の男が腰の後ろに手を組みながら立っていた。長い髪を後ろで細く一本にして整え、シャープに形作られた顔と切れるような鋭い目。その瞳は黒く濁っていた。

細身の体を包むのは、ポロシャツの上に羽織られた黒いコート……材質からして高級品だな。いやそんなんどうでもいい。



「誰だテメェ!?」


和也が鎌を突き出し、男に問う。距離はあっても、和也の殺気は広い範囲にまで飛んでいる、が、男はそれでも全く慌てずにフっと一回笑った。


「全く、人の屋敷を散々荒らしておいてその物言いはどうかと思うがね?」


…………。


「…なぁるほど、アンタかい。」


俺は余裕の態度を崩さず、男を睨みつけた。


「まったく、趣味の悪いことばっかしてんなぁ? あぁ?





黒鬼組四代目、日下部 剛鬼。」

【シュイン】


睨みつけながら龍刃を抜いた。葵も文一も、それぞれの武器を構える。


「ほぉ……俺を知っているか。」


俺達が威圧しているにも関わらず、まったく動揺していない男、日下部。


「まぁな。一応情報把握すんのは得意でね。」

「……貴様は、荒木龍二……黒龍ブラックドラゴンか……………なるほど、プロフェッサー・げんのセキュリティロボットを破壊できたのも頷ける。」


一人何を納得したのか、顎に手を添えながらうんうん頷く日下部。まぁ俺のこと知っててどうとかどうだっていいし。


「オイコラ、テメェ優貴の妹どこにやった!?」


和也が怒りを露わにしつつ、日下部に問う。



……つか、何かおかしいぞこいつ。さっきいきなり現れた時もだが、気配感じねえ。



「…………あの娘か…………ふん。」


鼻で笑った(直後に和也が暴れだそうとしたんで止めた)後、腰の後ろに回していた右手を上げて、手にしているリモコンの赤いボタンを押した。



【ゴォン…】



すると、装置の上に乗っている柱を覆った機械がスライドするかのように横へ割れていく。



「! あれは…!」


葵の声がする中、俺は内心腹が立っていた。



そこに現れたのは、青い液体で満たされたカプセル……その中で、長い黒髪をした少女が漂うかのように浮いていた。



「……あれが優貴の……。」

「妹の……皐月さん……。」


和也と文一が呆然と呟くが、俺は日下部の方へ向き直る。


「……おいコラクソノッポ。テメェ一体何しやがった。」


自分でも気付かなかったが、周囲曰く俺の声はかぁなり殺気を孕んでいたようで。


対し、日下部は俺らを煽るかのようにククク、と笑っていた。


「クソノッポ……とは心外だ。生まれた初めて聞いたよ、そういう罵」

「『龍糸貫』。」

「くらえ! 『雨宮流気功術 氣丸』!!」

「どすこーい!!」

「装填展開! 発射シュート!!」


言い終わらないうちに、俺の左手の一指し指から蒼いレーザーが飛び出し、和也の指鉄砲から青白い光線が発射され、葵が野球のフォームのように魔力球を投げつけ、文一が茜に魔力を装填して弾丸のように発射した。


【ズドォォ!!】


俺らの一斉射撃が寸分違わず日下部に命中し、爆炎が上がる。




「……クククク。」

「「「!?」」」

「……。」



だが、煙が晴れるとそこには含み笑いしながら同じ姿勢をした日下部が傷一つなく立っていた。


「な……あ、あれで無傷って!?」


葵が予想外すぎて一歩引くが、俺は顔色を変えずに睨み続ける。


「無駄だ……お前達の攻撃など効きはしない。」

「だろうな。」


再び、俺は左手の指を日下部に向ける。


「『龍糸貫』。」

【ビッ!】


さっきと同じようにレーザーを放つが、




【チュン!】




日下部の背後にある装置に穴を開けるだけだった。


「!? す、すり抜けたぁ!?」


文一が驚く。


「……和也、お前気付いてたか?」

「……さっきからおかしいとは思ってましたけど……今明らかになりましたよ。」


和也はため息を吐いた。


「……野郎、ここにはいませんね。」

「そゆことだ。」

「? どーゆーこと?」


葵が疑問をぶつけてきて、ちょっと振り返る。


「ありゃ立体映像だ。本物の日下部は別の場所にいる。」

「ご名答。」


俺が答えると、日下部はニヤリと笑った。


「もはや私はここにいる理由もないのでね、悪いが場所を移動させてもらったよ。」

「クソ……ハメられたってわけか。」


和也は忌々しげに呟く。


「……じゃあ一つ聞いてもいいか?」

「? 何だ。」


俺はあくまで冷静に、日下部を見つめる。相手はどこか冷めた目線をしながらも聞く体勢となった。


「オメェらの目的……そりゃ一体何だ。もう達成したみたいだがな。」

「…………プロフェッサー・玄が言い残していったか……まぁいいだろう。」


もう一度、ククっと笑うと、日下部はリモコンについた青いボタンを押す。



【ブゥン】



突然、俺らの目の前に画面が現れる。


「!? な、何!?」

「え……。」

「な……。」

「……。」


俺らはそれぞれ、驚愕の声を上げる。つっても俺は、表情が険しくなっただけだが。


だが、俺らが驚いたのは画面が現れたことじゃない。


「我らの目的は、その娘を誘拐することではない。その為にお前達には、わざとらしい場所にヒントを隠したりして、ここまでおびき寄せたのだ。」



画面には、どこかの部屋が映し出されていた。



その中で、アルスとクルルとレナと湖織とマーくんが頭から血を流しながら倒れ、



影薄同盟達とフィフィが鉄の檻の中に閉じ込められ、



アレクのおっさんが壁に埋もれ、



龍乃が膝をつきながらも、手にした刀、懺悔を杖代わりにして懸命に立ち上がろうともがく姿が映し出されていた。



そして、龍乃達の目の前には、



「我らの目的、それすなわち、」





浮遊するカプセルに閉じ込められ、グッタリしたまま動かない優貴がいた。









「月見 優貴の……肉体。」


はい、長いこと更新できんかったコロコロです。本編の方も進めたいと思ってるんですが、あいにく今超多忙の身で……それでも今回のようにチョコチョコと書いていきますんで。


次回は、戦の章です。

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