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突の章

今回の突の章の“突”の意味は“突入”の意味です。


〜ライター視点〜



突撃とっつげきじゃああああああ!!」

『うおおおおおおおおおお!!!』


龍二の号令と共に、全員が破壊された門の中へと突撃していった。


中に入れば、真っ直ぐ伸びた大理石の石畳の道に、左右に散りばめられた細かな砂利道、そして見た者の心を癒す日本庭園が出迎えてきた。



「な、何じゃああ!?」

「侵入者だーーー!!!」



同時に、黒スーツ来たヤクザなオッサン兄ちゃんどももお出迎え♪



「おらああああああ!!」

【ゴス!】

「げふぅ!?」




龍二の膝蹴りを皮切りに、龍二、葵、和也はそれぞれ違った方向へ駆け出し、ヤクザどもに飛び掛っていった。





「行くぞ、鎌!」

『了解!』

「『雨宮流鎌術!!』」


和也は飛び上がると同時に大きく振り上げた鎌が白く発光して、


「『襲牙雷しゅうがらい!!』」

「ぎゃああああああ!!??」


一気に振り下ろされ、電撃を放つと共に地面を大きく削ってヤクザどもを吹き飛ばす。


「や、野郎!?」


振り下ろしたまま隙ができた和也に、一斉に刀を用いて襲い掛かってくるヤクザども。


「甘ぇ!!」


しかし、その姿勢のまま頭上で鎌を高速回転させた後一気に全方位を薙ぎ払い、ヤクザどもを吹き飛ばす。


「オラオラオラあああああああ!!!」

【ザザザザザザザザザザザ!!!】


片手で鎌を縦方向に振り回し、集団目掛けて突撃していく。瞬く間に切り伏せられ、ヤクザどもは倒れてゆく。


「『雨宮流剣術基礎の型 瘋迅ふうじん』!!」


突き出した雨嵐から風の弾丸が三つ発射され、食らったヤクザは吹き飛んだ。


「オラッ!!」


異様な技に面食らったヤクザども目掛けて小さくジャンプし、両手の武器を左右に振り払い吹き飛ばす。


「こ、この野郎! 撃ち殺せ!!」

【ズガガガガガガガガガガガガ!!】


和也の背後から数人の敵がマシンガンを連射してきたが、



【ガギギギギギン!】

「ハッ! 遅ぇんだよ!」


鎌を前方で高速回転させて壁を作り、全て弾き飛ばしていった。


「ひ、ひいいいいいいい!?」

「オラオラオラァァ! こんなもんじゃねぇぞコラあああああ!!」


銃が聞かないと判断するや、一斉に逃げ出す敵を和也は追いかけていった。






「ヘヘ、お嬢ちゃん遊んでやるぜ〜?」

「ケケケケ……。」


下卑た笑い声で向かってくる葵を嘲笑するオッサンども。


しかし、


「………ば・か・に〜〜〜」

『!?!?』



葵の手に黒い球のような物が現れ、表情は驚愕へと一変する。



「すんなあああああああ!!!」

【ドゴオオオオオオオン!!】

「ほんげらっちょ!?」


投げられた球が見事に寄り固まった集団に命中、球は爆発して連中を吹き飛ばした。


「このガキ!」

「ガキじゃない! 私には里原 葵っていう名前が!」


背後から迫る刀を避け、体勢が崩れたその隙に蹴り飛ばす。


「あるんだから!!」


蹴り飛ばされた敵の足を掴み、ブゥン! と前方から迫ってきた三人の敵目掛けて投げ飛ばす。「「「「あべし!!」」」」と叫びながら敵は転がっていった。


「てりゃあ! せい! はぁ!!」


切りかかってきた敵の攻撃を防ぎ、切り返し、また防ぐという複数相手に切り結び、そして大きくバック転をして距離を離す。


「てりゃあああああ!!」

【ドォウ!】


同時に一瞬で走り抜け、横へ一閃……葵が敵達の背後で膝を着いて数秒のタイムラグがあった後、一斉にバタバタと倒れていった。


「あは! こんな程度じゃ私は倒せないよー!」


そしてまた新しい敵を見つけ、葵は走り出した。






「死ねやあああああああああああ!!」

「よっと。」

【ガキィィン!】


龍二はまさかりを持った大男の上段斬りを両手の剣を交差させて受け止める。


「はいよ。」

「ぬあ!?」


そして体を捻り、相手の体勢を前方へ乗り出すような形に崩す。


「てい。」

【ドッ!】

「ぐほぉ!?」


前のめりになってがら空きになった背中に右手の龍刃の峰を叩きつけ、大男はうつ伏せに倒れる。


「よ!」


さらに左手側から来た敵をエルで横っ腹を突き刺し、


「ほ!」


右手側から切りかかってきた敵の斬撃を龍刃で弾き、返す刀で袈裟がけに切り払い足元に倒れさせる。


「おらよっと!!」

【ドゥ!】

「「ぐぇ!?」」


エルで突き刺した男を持ち上げ、そのまま足元に倒れた男目掛けて投げつけた。二人は蛙が潰れたような声を出し、気絶する。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


すぐさまより固まっている集団目掛けて駆け出し、腰を捻りながら二刀を大きく左へ振りかぶり、


「大・回・転・斬!!」

【ザザザザザザザザザ!!】

『ぬぐあああああああ!!??』


膝でスライディングしつつ捻った腰を利用し、回転しながら切りつけていく。


「よっと。」

【ザン!】


全員吹き飛ばすと、膝を着いた状態のままエルを地面に突き刺して回転を止める。


「このクソガキがあああああああ!!」

「む?」


一人取り逃したらしく、拳銃を龍二の額に向けるヤクザ。



【ドォン!】



迷うことなく引き金を引き、弾丸は龍二の額に吸い込まれていき、



【カィーン!】



弾き返された。



「!!??」


一瞬何が起こったかわからない男は、右腕の関節に弾丸がめり込み、あまりの激痛で気を失った。


「ドンマイ、俺の体はそれなりに鍛えられてんだ。」


エルを地面から抜いて立ち上がりながら言い放つ龍二。それ鍛えてどうにかなるもんじゃない。


「そんじゃあ……新技ぁ!」

【チャ】


龍刃とエルを持った腕を交差させ、腰を深く落とす。


「二刀!」


思い切り腕に力を込め、一気に左右に薙ぎ払う。


「『龍旋風たつつむじ』!!」

【ゴォォォォォ!!】


振り払うと同時に見えない刃が大気を裂きつつ、一番敵が固まっている入り口の扉へと向かっていく。



【ドォオオオン!!】

『ノオオオオオオオオオオオオオ!!??』


扉は粉砕され、敵は四方八方へと吹き飛んだ。


「……一丁上がりだ。」

【ヒュヒュヒュヒュン!】


龍刃を三回転させ、振り払った。








「おし、まず第一関門突破ってとこだな。」

『……はい。』


龍二と葵と和也の活躍により、入り口は開かれた。



が、何故か一部は何だか気のない返事を返す。



「っておーい、初っ端からそんな元気なくてどうすんだ。」

「……アナタ方の強さに度肝抜かれてるだけですよ。」


文一がボソリと答える。もっとハッキリ喋りなさい。


「ん、とりあえず突入しようか。」

「待ってくれ龍二。」


突入しようとした龍二を龍之が引き止める。


「? 何だ?」

「この屋敷は見ての通りかなり広い。一旦分散して手分けして探そう。」


龍之の意見は最もだった。現にこの屋敷は、東京ドーム一つを飲み込むくらいの広さを持つ土地にある。その分、屋敷自体も龍崎組より数倍広く、部屋も数え切れないほど。


ただ、学校の校舎のようにわかりやすく屋敷が四つに分かれており、それぞれ『たかの棟』『わしの棟』『とびの棟』『ふくろうの棟』という風に、それぞれの屋敷に猛禽類の名前がついている。それぞれの屋敷は渡り廊下で繋がっており、つまりは他の屋敷に行くにはその渡り廊下を径由しなければならないわけで。


という情報を、龍崎組邸で龍二達は説明を受けた。



「なるほど。よし、じゃチームに分けよう。


まずは和也とレナとクルル、三人で行けるよな?」

「当たり前ですよ。」

「当然!」

「むぅ、リュウくんと一緒がよかったのに…。」


クルルがぶつくさ言ってるが、まず一組目。


「次、文一とフィフィと黒ペンキ。」

「はい。」

「オッケー。」

「だから黒ペンキじゃないですー!」


湖織のツッコミを華麗に無視して二組目。


「アルスとマーくんと龍之と優貴。いけるな?」

「は、はい!」

「わかった。」

「よし。」

「はい。」


三組目。


「で、俺と葵とアレクのオッサン、いいな?」

「バッチコーイ!」

「ガハハハハ! 派手に行くぞ!」


これで四組目。


「で、恭田と駿と一聖は……。」

「「「…………。」」」




「ここを陣取って囮よろしく。」

「「「おお!…………って、ハイ?」」」


見事にハモった三人。そりゃそうだろう、囮なんだから。



つかぶっちゃけ龍二は彼らのこと何気に忘れていたので、急遽囮という役を任せた。



「よし、影薄連中が囮してる間に俺らは行くぞ!」

『オー!!』

「「「ちょい待てやあああああああああああ!!!」」」


影薄連中の魂の叫びを華麗にスルーし、一行は黒鬼組の屋敷内へと突入していった。







<ルート:影薄同盟>



で、入り口、すなわち玄関前に取り残され、皆の囮役を引き受けることになった恭田、駿、一聖。辺りには気絶したヤクザ達が死体のごとく散乱している。


「……ったく、何で俺らが囮なんだよ……。」

「龍二さんめ……俺らのこと忘れてやがったな…。」

「…………。」


足元の砂利を踏みしめながらそれぞれ不満を言う影薄連中。だが恭田は何故か無言だった。


「…しゃーねぇ。ここでしばらく暴れておくか。」

「だなぁ……恭田さん、下がっていてくださいね?」

「……あぁ。」


戦闘経験のある駿と一聖が気合を入れてる間、恭田は少し後方へと下がった。


「……つかさ、もういないんじゃないか?」

「そうだな……ほとんど和也達がぶっ飛ばしちまったしな。」


周囲を見て、悠長に会話をする駿と一聖。




「ここにいたぞーーーーー!!!」




………まぁゆっくりなんてさせてやらんがな。


「「ゲェッ!?」」


驚く影薄達を素早く取り囲むスーツの男達。手にはそれぞれ刀やら銃やら物騒な物を持っていた。


「ま、まだこんなにいたのか……。」

「…そりゃそうだよな……こんだけ広けりゃな……。」

「…………。」


ガックシと来る駿と一聖、そして無言のままの恭田。



「オラァこのガキどもが! ちょっと甘く見てりゃいい気になりやがってよぉ!?」

「ブチ殺してコンクリート漬けにして沈めたらぁ!!」

「え、どこに?」

「いや海に決まってんだろ!? 普通聞くかそういうこと!?」



………何気に漫才してるし。ヤクザの方々。


「チッ……いい大人が無駄に大声張り上げやがって……。」

「どうする?」

「……決まってるだろ一聖?」


駿は軽くステップを踏んで準備体操をした。


「言われた通り……しっかり引き付けてやるさ!」

「……おぉ!!」


「オイ、何コソコソ話してんだガキど【ガス!】ボォォォ!!??」


言いかけた先頭のオッサンに一瞬にして接近し、直蹴りを食らわして吹き飛ばす駿。


「こ、このガキ!」

「おーい。」

「へ?【ゴス!】ふべら!?」


駿に気を取られた一人が背後に立った一聖の顔面パンチを食らって倒れた。


「それじゃ……。」

「行くか……。」




「「見せてやるよ!影薄同盟の意地って奴をなぁ!!」」








<ルート:和也チーム>



影薄同盟に囮を任せ、一行は広い玄関に入った。ご丁寧に床には本物の虎の毛皮が敷いてある。でも全員土足で上がっていった。


「さて、と。さっそく分かれ道か。」


龍二の言う通り、目の前には扉があり、その上に“鷹”と書かれている看板。右側を見れば同じ扉があり、そこには“鷲”と書かれた看板。そして左を見れば同様の扉に上に“梟”と書かれた看板があった。ご丁寧にそれぞれの扉にはその鳥の見事な彫刻が彫られている。


「鷹、鷲、梟……つまりここは“鳶”の棟となってるわけだ。」

「そうみたいですー。」

「うし、一旦分かれよう。どっかに誘拐した奴らを閉じ込めている部屋があるはずだ。何かあったら誰かのケータイに電話かけるように。」


メンバーはここで一旦分かれることとなった。


「じゃあ、僕達は鷲の方へ行きます。」

「ああ、気を付けて行けよ。」

「わかってます。皆もどうかお気をつけて。」

「じゃあね。」

「じゃ行ってくるですー。」


文一一行は右側の鷲の棟へ続く扉をくぐっていった


「よし、じゃ私達はこちらの梟の屋敷を探すぞ。」

「はい!」

「わかった。」

「う、うん。」

「気を付けてなー。」

「ああ。」

「リュウジさん達もお気をつけて。」


龍之率いるチームは、左側の梟の棟へ。


「そんじゃ、俺達は鷹の方を調べるぞ。」

「リュウくん、頑張ってね!」

「お前らもな。」

「行ってくるよー!」

「ガハハハハ! 腕がなるな!」


最後に、龍二達は中央の鷹の棟の扉へと入っていった。


「……さて、じゃオレ達はここを調べるぞ。」

「はーい!」

「よっしゃ!」


残された和也達は、現在地である鳶の棟を調べることになった。



「にしても、玄関からして豪華だねー。」

「そだね。」

「ああ。」


クルルの言うように、鷹の棟へ続く扉を囲むように、湾曲した形の階段が二階へと続いている。作りは和風だが、どこか西洋の屋敷を彷彿とさせる構造となっている。


「とりあえず一階は玄関と他の屋敷に続く扉しかないようだから、二階へ行ってみるか。」

「「ラジャー。」」


リーダー格の和也に、自衛隊のような敬礼をしてみせるクルルとレナ。和也は華麗にそれをスルーしてさっさと上へと上がる。




「シャアアアアアアア!!」

「!?」



階段の中腹辺りで、突然和也の頭上から奇声が聞こえてきて横へ飛び退く。



【ドッ!】



瞬間、和也がいた場所に何かが突き刺さった。


「何だ?」

「オラアアアアアアア!!」


和也に襲い掛かってきた者……見た目はまさしく忍者そのものの黒装束……が、切りかかってきた。顔は黒鬼組のトレードマークである鬼の顔が縫い付けられた黒頭巾で完全に覆われていて全く見えない。


ただ、両手に付けられた鈍く輝く二本の鉤爪が、和也の命を刈り取るべく素早いラッシュで襲い掛かってくる。


「うお! とっと、あぶねえなオイ!?」

「和也!」

「カズヤくん!」


レナとクルルがそれぞれの得物を手に、階段を駆け上がってくる。


「チィ!」

【ガィィン!】


咄嗟に和也は鎌で振り下ろされてきた両手の鉤爪を防御し、迫り合う。


(クソ、相手の武器がこんな小回りが効く奴だと鎌じゃ分が悪すぎる……!)

『ど、どうすんの主!?』


忌々しげに思考の中で呟くと、手にした鎌から声が聞こえる。


「………しゃーねぇ。相手が鉤爪で分が悪ぃなら………。」


鎌から右手を離し、拳を作る。



「これでも食らっときな!!『雨宮流無差別格闘術』!」

「!?」


何をされるかわかったらしく、相手は素早く飛びのこうとした。



「『氷よ、凍てつけ』!!」

【ビシィ!】


だが、クルルの魔法によって足が凍りつき、動こうにも動けない。


「なっ!?」

「『鬼槍』!!」


相手の驚愕に孕んだ声と同時に、和也の光よりも速い突きが右拳から繰り出される。


【ドゥ!】


声を出すのもままならず、相手は階段の手すりを破壊して一回の玄関に落ちてそのまま動かなくなった。


「フン、他愛ねぇな。」


鎌を一回転させ、階段の上を石突でドンと突く。




「死にさらせええええええええええ!!」

「!!」



安心した矢先、もう一人いた忍者もどきが天井から和也目掛けて飛び掛ってきた。




「重力魔法! 重力引力グラビティグラビジョン!!」

【グン! ベシャア!】



突如、レナの声が響き渡ると同時に忍者もどきは、ちょうど二つの階段を挟むような位置、つまり部屋の真ん中に引っ張られるかのようにすごい勢いで落下し、部屋の中なのにクレーターを作り出した。


レナの十八番おはこ、重力魔法が発動した為に、忍者もどきは本当に地面に引っ張られたのである。


「イェーイ♪ 大成功♪」

「ナイス、レナちゃん!」


パァン!とハイタッチする金髪少女二人組み。


「ふぅ。二人とも、助かったぜ。」

「まぁねー♪」

「サポートは任せんしゃい!」


何とも頼もしいコンビである。色々な意味で。


「うし、じゃあ次が来ないうちに早いとこ調べようぜ。」

「「はーい。」」


何故か和也が小さい子供の保護者に見えてきた。








<ルート:文一チーム>



さて、ところ変わって鷲の棟へ向かった文一達は、鳶の棟から続く広くて壁のない回廊を歩いていた。ふと横を向けば、なんとも赴きのある日本庭園と蓮の花がところどころに浮かぶ美しい池が一望でき、さらには鷹の棟、梟の棟に続く道も見ることができる。因みにこの回廊は池の上に架かっている。


ここが龍崎組ならばのんびりと眺めて楽しんでいるところだが、ここは敵の本拠地、のんびりとはしてられない。


「はぁ…にしても、ホント広いところだなここは。」

「無駄に広いですー。」

『小鳥遊邸も大体これくらいじゃないの?』


ぶつくさ言う二人に剣の状態の茜が聞く。


「……まぁ、そういえばそうだよなぁ……でもこんな複雑に入り組んでたら迷ってしまいそうだな。」

「そん時ゃ私が道探してあげるから大丈夫よ。」

「フィフィってそういうとこは役に立つですー。」

「ねぇ、そういうとこ“は”ってどゆこと?」


軽くキレたフィフィ。一行はのんびりと進む。


『オイオーイ、そろそろ和やかな空気も終わりらしいぜー?』


と、湖織の手にある誘宵が突然ふざけた口調で言う。




『出迎えが来たぜー!』

【ダンッ!】


誘宵の声と同時に、廊下の左右の柵の、天井からそれぞれ刀を手にしたスーツの男が計三人、現れた。


「はぁ……やっぱただで通してはくれない、か。」

「まぁ敵の本拠地ですからねー。」

「そゆことね。」


できれば出くわしたくはなかったらしいが、そうもいかないだろう。


「…しょうがない。やるぞ茜!」

『はいさ!』

「……誘宵。」

『ヒャッハー! 我はいつでもオールオッケーだぜ!』

「無駄にテンションたっかい剣ねアンタ。」


気を引き締めて各それぞれの武器を構え、気を引き締める。



「死ねオラあああああ!!」


一斉に刀を振りかぶって襲い掛かってきたヤクザども。文一は右側、湖織は左側を相手どる。


で、中央の敵は……。


「それそれそれーーー!!」

「わ、ちょ、何じゃこいつは!?」


フィフィが敵の周囲を飛び回り、翻弄させていた。敵もフィフィのような妖精なんて見慣れないものだからかなり戸惑っている。


そして……



「とりゃああああああああ!!」

【キーン♪】

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」



最後に強烈な体当たりを一発お見舞いした。どこ狙ったのかは効果音で判断してください。



「わ、ワシも……まだ、子供の心が、残っとったか………ゴフ。」


意味プーな事を言いながらある部分を抑えて、オッサンは前のめりに倒れた。




「オラァオラァァ!」

【ギンギィン!】


湖織は上段からの攻撃を軽く受けながし、流れるように切りつけるが防御される。湖織は正直、相手は刀を振り回しているだけの単なる獰猛なヤクザだと高を括っていたが、何度も切り結んでいるうちに相手は相当な手馴れだと確信した。


だが、相手は所詮何の能力も持っていない敵しか斬ったことがないはず……湖織の武器は誘宵だけではない。


「……誘宵。」

『合点だぜぃ!』


軽くバックステップして距離を離し、誘宵を下に振る。すると、細い何かが舞い踊った。


「な、何じゃあこれは……糸?」


ヤクザがその細い何かに気付いた時、すでに糸はヤクザの周りを激しく舞っていた。


「いきます………帯式・周風まわりかぜ。」


湖織の声と同時に、ヤクザを激しい風が襲う。さながら台風の如く。


「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおお!!??」


突然の異常な出来事に、ヤクザは風に翻弄されてパニックに陥った。


「……今が、チャンス。」


再び構え、誘宵の刃を横にして構え、一気に駆け出す。



【キィン!】



ヤクザの脇を抜けると同時に、一閃……湖織はヤクザの背後で膝をついた。


「………な、なに……が……。」


ヤクザは腹部を抑えながら手すりに手をかけ……



「う、ぐああああああああああ!!」

【ドボォン!】



手すりを越え、水しぶきを上げながら池に落ちた。


「……急所は外した……死にはしません。」

『ヒャハハ! ありがたく思えよー?』


ヒュン、と誘宵を振り、湖織は息を整える。湖織の誘宵に宿る妖怪の力、風の力の勝利である。




「おらぁ!」

「うわっとっと!?」


湖織に対し、こちらは文一。剣となった茜を振り、次から次へと来る攻撃を受けて凌いでいる。


ハッキリ言って、文一は湖織と違って剣術など習っていない。さらに相手は湖織が相手をした奴と同じくらいの技量を持っているようで、受けるしかない。


「野郎……!」

【ドッ!】

「ぐっ…!」


かろうじて蹴りを入れることに文一は成功し、敵は腹を抑える。


「今だ、茜!」

了解ラジャーだよ!』


この隙に、手を茜の弾倉に置き、魔力を装填リロードする。


「魔力装填、一刃展開………くらえ、発射シュート!」

【ドゥ!】


茜から魔力弾が発射され、ヤクザ目掛けて飛んでいく。


「!? はぁ!」

【ドォン!】

「え、嘘!?」


しかし、相手は横へ転がって魔力弾を避ける。弾は木製の廊下の床に穴をあけた。さすがにこれは予想外だった。


だが、戸惑っている場合ではなく、相手が動く前にすかさず次の行動に移す。


「なら、強化ブースト!!」


さっきと違う弾倉に手を置き、魔力をリロードする。いわゆる肉体強化である。


「ついでに、装填、展開! 爆散バースト!!」

『また略したね。』


茜がツッコむが無視し、前方目掛けて魔力が弾け飛ぶ。


「ぐぉ!?」


これは避けきれず、ヤクザは足を負傷した。


「よっしゃ! とどめにぃぃぃぃぃ!!」


今度は魔力を装填せず、大きく振りかぶりながら駆け出す。



「クラーーーーッシュ!!」

【ドゴス!】

「うべぼ!?」



茜を薙ぎ払い、にっぶい音をたてながらヤクザは吹っ飛んだ。


【ドボォン!】


そして湖織と戦った奴と同じように水の中へ落ちていった。


「よし、勝った!」

『あ、主ぃ〜……最後のはひどいよ〜……。』

「ドンマイよアカネ。」


ガッツポーズをとる文一に対し、魔力が乗ってない状態で棍棒代わりに殴りつけたせいでダメージ受けた茜。そんな茜にフィフィは同情した。


「よし、急ごう。」

「はいですー。」

「オッケー。」


敵の襲撃を退けた一行は走り出し、鷲の棟へと急いだ。




【ガチャ】

「お邪魔しまーす……。」

「文一、ベタなボケはやめた方がいいですー。」

「う、うるさい…!」


鷲の棟の扉を開け、内部に侵入した一行。構造は、どことなく鳶の棟と似ているが、扉が前方に一つしかない。そこには、鳶の棟と同じように扉の上に“鷹”という字が書かれていた。


「どうやらここからだとタカの棟にしか行けないみたいね。」

「一方通行ってわけか……。」

「とりあえずこの屋敷調べてみるですー。」


湖織が一歩前へ出た。




【シュ!】

「!! 危ないコオリ!!」

「!?」


フィフィの警告と同時に素早く後ろへ飛び退く湖織。そして、先ほど湖織がいたところには短刀が数本刺さっていた。


「チッ! 敵か…!」

『主……今度はさっきみたいにいかないみたいだよ?』


警告する茜を構え、周囲を警戒する文一。


再び、戦闘が始まった。








<ルート:龍之チーム>



こちらは、梟の棟へ赴いた龍之達一行。文一らより早く棟に到着した模様。


「はぁぁぁ!!」

「うぐぁぁあ!!」



因みに只今複数の敵と戦闘中です。



「そんな程度、で!」


龍之は背後から襲い掛かってきた敵を足刀蹴りで怯ませ、


「私に勝てる、と!」


そして前方からも刀を振りかざしてきた敵の襟を掴み、


「思っているのか!!」

【ゴヅッ!!】

「「ぐがぁ!?」」


掴んだ敵の頭を背後にいた敵の頭めがけて思い切りぶつける。鈍い音がして、敵は白目を剥いたまま気絶した。めっちゃ痛そう。


【ダダダダダダダダ!!】

「! チィ!」


いきなりのマシンガン連射に思わず近くの柱に飛び込む龍之。


「クソ……うかつに近寄れないな……。」


まだマシンガンを連射し、龍之をあぶり出そうとするヤクザだが……。


【カキン】

「ちぃ! 弾切れか。」


弾が切れ、隙だらけとなった。


「! チャンス!」


迷わず龍之は飛び出し、マシンガンを撃っていたヤクザへと駆け寄る。


「!? ヤバ!」


慌ててカートリッジを交換しようとするが、もう遅い。


「でりゃああああ!!」

【ドッ!】

「ぐぇ!!」


龍之の峰打ちがヤクザの顔面に決まり、歯を数本飛ばして血を吐きながらニ回転して倒れた。




「うわったった……!」

「アルスくん、追い込まれるな!」


二階の通路で三人の敵に追い詰められていくアルス。下の階からマーくんが注意を促すが、もはや時すでに遅し。


「くぅ…!」

迫り来る刀から繰り出される豪剣をどうにか捌きながら、アルスは後退していく。しかし、後少しで壁まで追い込まれてしまう。


(壁に追い込まれたら、もう為す術がない……どうしよう……。)


必死に攻撃を防ぎながら、打開策を考えるアルス。魔法を唱えようにも、詠唱する暇がない。


(うぅ、困ったなぁ。相手もかなりの使い手だし、通路の狭さから横を抜けるのは難しいし…………あ。)


ふと、アルスは視線を下へと向けた。


(そうだ……これだ!)

「死ねやああああああああ!!」


そして今まさに刀を振り下ろさんとするヤクザを前に、アルスは閃いた作戦を実行に移す。


「はぁあああああ!!」

【ズサァ!】

「!? な、何ぃ!?」


アルスの打開策、それは敵の股の間をスライディングしてすり抜けること。ちょうど並んでいる形であるため、股を一瞬で潜り抜けることは難しいことではなかった。


「シュ!」


全員抜け切ると、右手を着いてバネにして宙返りしながら飛び上がり、



「はぁああ!」

【ガッ!】

「ぐえ!?」


両足で思い切り最後尾のヤクザの背中を蹴り飛ばす。


『うげぇえぇ!?』


通路の関係上、並ぶしかなかった為にヤクザどもは頭から前方へドミノの如く倒れていき、最後は先頭のヤクザが頭を壁にぶつけて気絶した。


「ふぅ……危なかった。」


アルスは蹴り飛ばした反動を利用して飛び、床に着地して一息入れた。


「……でも、まだまだ!」


少しの休憩の後、階段を使わずに一階へと飛び降りた。




「むん!」

【ガッ! ドォ!】

「ぐぇ!」


一階でマーくんは複数の相手に取り囲まれ、全員を相手に槍一本で戦っていた。先ほどは槍で相手の刀を叩き落し、腹に蹴りをかましたところだ。


「せぃ!」


すかさず槍の柄の部分を左に大きく振って前方を薙ぎ払い、流れる動きで今度は矛先で右へと振りかぶり、ヤクザどもを弾き飛ばす。


「はぁっ!」

【ドッ!】


槍を床に突き刺し、それを軸にして回転蹴りを後方へ繰り出して接近してきたヤクザの顎を横へと蹴り飛ばす。


「そいやあああっ!」

「ぎゃあ!?」


すかさず床から引き抜き、前方へ高速の突きを繰り出して相手の足のふくらはぎを突き刺し、そのまま掬い上げるかのように投げる。頭から落ちたヤクザは、そのまま気絶した。


「この野郎があああああああ!!」

「フッ……威勢だけはいいようだが……。」


拳銃を構えるヤクザに対し、マーくんは槍を頭上で一回転させた。


「そんなもので…」


【ダァン! カキン!】


「魔王である私を倒そうなどと思うな!!」


弾丸が撃たれると同時に神速の速さで槍を振り下ろし、銃弾を叩き落す。同時に真空刃が飛び出し、拳銃を真っ二つに切り裂いた。


「な……あ……?」

「オラァ!!」


困惑しているヤクザ目掛けて、マーくんは懐に潜り込んで鳩尾に拳を叩きつけた。




そして優貴はというと……


「死ねこのガキ!!」

「ちょ、タンマタンマ! 僕丸腰丸腰!!」

「知るかああああああああ!!!」


他の方々と違って一般人なので必死に攻撃を避けるしか術がなく、刀を持ったオッサンから逃げ惑っていた。その顔はもう必死そのもの。


「うらああああああああああ!!」

「ちょちょちょちょちょちょちょ!?」


突きを繰り出そうとしてくる相手に、命の危険を感じ取り、



【ツル♪】

「わぁ!?」



同時に光沢のある床のせいで思い切り足を滑らせた。



【グサ!】

「!? Oh、NOOOOOOOOOOOOOOOO!!??」



そして優貴を仕留めるはずだった突きは、優貴の背後にいたヤクザのケツに突き刺さった。しかもど真ん中。マジで痛そうなので想像しちゃダメよ♪



「て、テメェ何しやがるんじゃコラああああああああああ!!」

「ちょ、待て! 今のはそこのガキを狙って…」

「問答無用じゃああああああああ!!ワシャなんじゃあああああああああああ!!!」


ケツに刀をぶら下げて号泣しながら刺した張本人を追い掛け回すオッサン。痔でそんだけ元気だったら問題ないっしょ。


「………た、助かったぁ………。」


優貴は一人、そんな光景を眺めてホっとした。








<ルート:龍二チーム>



一方、鷹の棟へ向かった龍二達。


「にしてもまぁ、ホント無駄に広ぇなここ。」

「だよねー。屋敷一つ一つがホント広くて滅入っちゃうよ。」

「ガハハハハ! こういうところには住みたくないな!!」


龍二は左右の鞘に剣をしまってから愚痴る。周りには和也達を襲った同じ忍者もどきが三人倒れ伏していた。因みに死んでない。


「さて、じゃとっとと調べるとしますか。」

「「おー!」」


何か変なテンションだなこいつら。


「まずは一階を調べるとしますか。」


一階の真正面には鷹の彫刻が施された木の扉がある。まずはここから調べ上げることにした。


【ガチャ】


龍二は先頭に立ち、扉を開ける。中は廊下となっており、左右に二つずつ、扉があった。


「ふむ……部屋が分かれているな。」

「じゃ手分けして調べようよ。」

「ほぉ? 葵にしては妥当な案だな!」

「ちょっと! アレクさんそれどういう意味!?」

「はいはい喧嘩しない。」


おちょくるアレクと怒る葵を宥める龍二。保護者か。


「じゃ俺こっち調べるわー。」

「うーん、じゃ私こっち。」

「俺はこっちだ。」


龍二は左側の扉、アレクは右側の手前側、葵は向こう側の右の扉を調べることとなった。




【ガチャ】


「………寝室か。」


龍二が開けたところは、ベッドが数台並べられた部屋だった。おそらく下っ端の部屋なのだろうか? 家具はベッド以外に大きめのクローゼットが一つ、部屋の奥に置かれてあった。


「………ふむ。」


怪しいモンは調べていくのがRPGの常識だな、と考えた龍二。これはRPGではありません。


とりあえずクローゼットの中を調べる為に部屋に入る龍二。



【バン!】

「死ねオラアアアアアア!!」


っと、いきなり二つのベッドが跳ね上がり、クローゼットの中からもヤクザが飛び出してきた。


「ほいほいっと。」

【カキンキィン】


咄嗟にエルと龍刃を抜き放ち、左右から来た斬撃を事もなげに弾いて流す。


「しゅっっ!」

【シュパパ】


防御されて隙だらけとなった二人に体を回転させながら切りつける。防御して反撃に移るまでの素早さは常人では到底捉えることはできない。


「「ぐぁぁ!!」」

「テメェ!」


左右の二人は撃退したがクローゼットから出てきた敵がごつい鉄パイプを振りかざしてきた。


「エル!」

『任せろ!』

「『ライトニングアロー』!!」


エルから電流が迸り、それは電撃弾となって飛び出す。


「おががががががが!!??」


電撃弾をもろに食らった敵は、見事に黒こげとなって倒れた。


「うし終了。」

『奇襲とはな……舐めた真似を。』


一息入れる龍二と、嘲るように呟くエル。


「…お?」


ふと、黒こげになって白目剥いて倒れた男の顔の横にある物が目に入った。


「何じゃこりゃ?」


しゃがみ込み、それを手に取ってみる……。


「こりゃあ……カードキー?」


漆黒のカードに、鬼の顔が描かれていた。端の部分に白いラインが引いてあるのを見る限り、カードキーとなっているのは明らかである。


一つ気になることと言えば、左上に『Lv1』と書かれていることだった。


『カードキー……とは何だ?』

「鍵のことだ。もしかしたら重要なもんかもしれんな……もらっとこ。」


エルの質問に答えながら龍二はカードキーをポケットにしまった。


「ここはこれだけか? ……しゃーねぇ。二人んとこ行くぞ。」

『ああ。』


振り返り、龍二は部屋を後にしようとした。




「龍二くん! アレクさん!」

「!」


突如、葵の声が響き渡った。






龍二達と別れた後のアレク。目の前には一つの扉があった。


「ふむ、何が出るのやら。」


ドアノブを掴み、引く。



「死にさらせええええええええ!!!」



扉を開けて入った瞬間、ドアの両脇から敵が刀を持って襲い掛かってきた。待ち伏せである。



【ガギィン!!】

「「!?」」



しかし、二本ともアレクの豪腕によって粉砕された。


「甘い甘い……っと!!」

【ガィン!】

「ぐげふ!?」


左フックで右脇にいた敵の頭を殴りつけて吹き飛ばして壁に叩きつけ、


「むん!」

【ガィン!】

「ぎゃす!?」


右フックで左脇にいた敵の頭を同じように殴りつけ、きりもみ回転しながら吹き飛ばした。


「ガハハハハ! ちょろいちょろい!」


腕を組んで豪快に笑うアレク。気分爽快な攻撃をありがとう。


「さぁて、調査調査♪」


気絶したヤクザ二人を放っておき、部屋を漁るアレク。


部屋の構造は龍二が調べていた部屋と同じで、家具の配置もほぼ同じ。下っ端組員が利用する場であると予想される。


「え〜っと……このクローゼットに何かありそうだな。」


龍二と同じようにクローゼットを調べることにしたアレク。もしもの場合に備え、慎重に両開きのノブに触れる。


「……むん!」

【バキィン!】


力強く引き、開けるつもりが思い切りクローゼットを破壊したアレク。


「………ありゃ。」


しばし呆然と、両手に持ったクローゼットの扉を交互に見つめるアレク。



「…………ま、いいか。」

【ドン!】


破壊した扉をポイと背後に投げつけ、見なかったことにした。


「ふむ…………。」


クローゼットの中には、下っ端達の物であろうと思われるスーツやらが数多く吊り下げられていた。


「……これだけか……………………む?」


ふと、クローゼットの底部分に目を向けた。小さな紙切れのようなものが落ちている。


「……何だコレは?」


拾い上げ、見てみると……


「……“RO2”………これだけか?」


ただ、紙には大きくその文字だけが書かれてあった。裏も見てみたが何も書いていない。


「……手がかりになるかもしれんな。」


大抵、こういういかにもっていう物は後から何かと役立つ物だというのがRPGの基本だとアレクは考えたってだからRPGじゃねっつの。


そして懐に紙をしまい、再び調査を開始しようとした。




「龍二くん、アレクさん!」

「!」


突然、葵の声が隣の部屋から響き渡った。






「さぁて、と。頑張るかな♪」


気合十分の葵は、何の躊躇いもなくドアを引いた。


「…!? な、何ここ?」


しかし、中は真っ暗け……ドアを開けていても、部屋の向こう側までは確認できない程。


「うえ〜、何かやだな〜……もぉ、せっかくテンション上げてたのに、何でこんな部屋なの〜?」


膨れっ面をして不満を露にする葵。


「……ま、いいか。後でマーくんを気分転換に蹴っ飛ばしちゃえ♪」


そんな理不尽な決意を固め、部屋に入っていく葵。念のため、扉は開けておいた。



【バァン!】

「!?」



が、いきなり扉が閉まり、一気に真っ暗になった。


「だ、誰!? 山田さん!?」


誰だ。


「も〜、結局真っ暗になっちゃった……。」


普通だったらパニックになるであろう事態なのに葵は別に大したことないと言わんばかりに平然としていた。


「…………。」


ふと目を閉じ、静かに息を吐く。




「そこぉ!」

【バキィ!】

「ぐぱぁ!?」


咄嗟に右拳を振り上げると、鈍い音が響き渡った。ついでに声も聞こえた。


「あは! 真っ暗だから無抵抗だなんて考えちゃダメだよ?」


朗らかに笑いながら言い放つ。


【ヒュ!】

「! おっと!」


背後から風を切る音が聞こえ、咄嗟に横へと飛び退く。


「アチョー!」

「ぐげら!?」


後ろ回し蹴りを繰り出すと、確かな手応えと呻き声。


「そぉれ!」

「ぐっぴょらぱー!?」


最後に正面の暗闇目掛けて正拳突きを放つとどうやったらそんな声が出せるのか疑問に思える程の呻き声が聞こえた。


「フィニーッシュ!!」

「ぎょぶ!!!」


最後にかかと落としを繰り出し、潰れたような声がした。


「……よし、気配感じない。終わり!」


腰に手を当て、勝利宣言。


「えっと……スイッチスイッチ……。」


先ほど入った扉辺りに手を当てて探る……ふと、硬い突起物があった。


「あったあった♪ ポチっと。」

【パチッ】


スイッチを押すと、数回点滅してから天井の電気に明かりがつく……そして、床には機械的な眼鏡をかけたヤクザが四人、気絶していた。



「!!!!」



だが、葵にとってそんなことはどうでもよかった。



「龍二くん! アレクさん!」


慌てて他の部屋に入った二人を大声で呼ぶ葵であった。





「どうした葵?」

「何があった?」

「ここ!」

「? ………! ここは。」

「おお、でかしたぞ葵!」

「よぉし、早速調査だぁ!」


龍二とアレクが駆けつけ、手分けして部屋を漁る。


「え〜っと……あるかな?」

「あったー!!」

「おお、あったか葵!」

「まさかホントにあるとは思ってなかったよ!」

「ほぉ、これはもしや……俺もツイてるようだ。」


どうやら、各々の目当ての物が見つかったらしい。


「いっただっきまーす!」

「ガハハハハ! 俺はこの大鍋に入ったカレーをいただこうか!」

「なるほど、ここの料理人はプロだな。見事なとんこつスープだ。」

【チーン♪】

「あ、電子レンジ終わったみたいだよ。」

「何入れてたんだ?」

「里芋の煮っ転がし。おいしそうだったから。」

「でかした葵。ちょうど里芋も食ってみたいと思っていたところだ。」



………ここ台所ですやん。



「プリンお代わりー♪」

「おお、冷蔵庫にたっぷりあるな。」

「ガハハハハ! ここの連中は意外にも甘党と見た!」

「オッサン、カレーちょっとくれ。」

「いいぞ。後俺はお兄さんだ!」

「んーおいしー♪」



このメンバーにはツッコミ役が一人もいなかった為、彼らを止める者は誰もいなかった。



「あ、ところで龍二くん?」

「ん?」


ズルズル〜とラーメンを啜る龍二に、葵はプリンのスプーンを咥えながら聞いてきた。


「影薄同盟なんかに囮なんかさせて大丈夫なの?不安なんだけど。」


ここで言う葵の不安は彼らの身を案じてるのではなくちゃんと囮が務まるのかという意外と辛辣な質問だった。


「ああ、大丈夫だろ。」


しかし、龍二は何とも思っていない、というより、寧ろ自信満々に言った。


「何で?」

「あぁ、オメェらは知らなかったろうが、




約一名、時々変貌する野郎がいるからな。」








<ルート:影薄同盟>



「はぁ、はぁ、はぁ……。」

「チィ…!」


鳶の棟玄関前で、駿と一聖は囮を続けていた、が……



「クソ!……多すぎるぜ……。」



喧嘩のプロフェッショナルでもある駿も、黒鬼組の規模の大きさは承知していたつもりだったが、予想を大きく上回る敵の数の多さに多少疲れが出てきていた。


「ど……どんだけでかいんだ……この屋敷……。」


一聖も強い方だが、ここまで多いとさすがにつらいようだ。


「野郎……こうなったら………マジで行くしかねぇな!!」


駿が腰を深く落とし、突っ込んで行こうと身構えた。




「おい待てや。」

「あぁ? ……!?」


背後から声をかけられ、ドスの効いた声で振り返る駿。次の瞬間、驚愕に彩られた。


「き…恭田さん……!?」



そこには、長ドスを突きつけられたまま羽交い絞めされている恭田が。



「テメェら……!」

「おっと動くな。こいつがどうなってもいいのか?」


一聖が前に進み出ようとした瞬間、さらにドスを首筋に突きつけられた。恭田の首筋から血が一筋スっと流れるが、恭田は俯いたまま何故か動かない。


「チ……!」

「クソ………恭田さんを人質に取られるなんて………!」


二人は己の迂闊さを呪った。恭田のことを気にかけつつ戦ったつもりが、こうもアッサリしてやられるとは。


「よぉし、形勢逆転だなぁ?」

「ケケ…大人のお灸を据えてやるぜ?」


ジリジリと包囲の輪を縮めていくヤクザども。駿にかかれば一瞬で恭田を救出することは可能だし、こんなザコどもなんか相手にならない………が、恭田を人質に取られて立場が逆転したことにより、完全にチャンスを見失っていた。


「野郎……!」


一聖が忌々しげに呟くが、それで立場が変わることなく………



「殺れ!!!」


一斉に襲い掛かってきた。




【ボゴシャアア!!】

「ぎゅぶしゅ!?」









「「…………?」」



覚悟しつつ目を閉じていた駿と一聖だったが……いつまでも衝撃が来ないことに疑問を感じ、目を開けた。


そして足に何かが当たり、視線を下に向けてみると……



「あ……が……?」



鼻や口から血をダラダラ垂らしたまま何が起こったかわからないといった表情をしている、恭田を人質にしたヤクザが転がっていた。




「………………。」



そして前方には、頭と腕をダラリと下げて、何か体から真っ赤なオーラを漂わせたまま立つ恭田。



「き………恭田……さん?」


一聖がかろうじて口を開くが、その顔はホントに恭田なのかという疑問と彼の体から発せられる並々ならない氣による恐怖で固まっている。駿も同様だ。


「………テメェら………。」


ゆっくりと顔を上げる恭田。



目がすんごい血走ってるのを見て、この場にいる人間全員が震え上がった。





「調子ぶっこいとんじゃねえぞウォルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

【ドン!】




文字通り、弾丸の如く飛び出した恭田。あまりの速さに残像が見え、ヤクザ達はおろか、速さならピカイチの駿でさえもその動きを捉えることができなかった。


「うらああああ!!」

【ボギィ!】

『ぐぎょぼ!?』


左拳を右へ一閃、明らかやばい音をたててヤクザどもは吹き飛ぶ。


「うひょおおおおお!!」

【ドゴス!】

『びょぼおお!?』


そのまま回転して旋風を巻き起こす程の強烈な蹴りを放ち、拳で取り逃した敵を排除する。


「こ、コイツ!?」


マシンガンを構える一人のヤクザ。だが、



「うりゃああああああああ!!!」

【ドォ!】

「!!???」


恭田が縦にチョップを放つと、衝撃波が発生。マシンガンを真っ二つにした。


「な、何【グワシ】!?」


マシンガンの残骸を見て戸惑うヤクザが気付かない速さで、恭田が足首を掴む。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?」


そしてそのまま体を回転させて敵を振り回す。いわゆるジャイアントスイングだ。


「ひゃはははははあはははあははははは!!殺戮殺戮殺戮殺戮殺戮ううううううううううううううううううううう!!!!!」

【ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!】


ジャイアントスイングをしたまま敵の集団へ突入。敵は次々と壁にめり込んだり、敷地外へと吹っ飛んでいった。


「しにゃああああああああああああああ!!!」

【ブォン ドォン!!】


掴んでいた敵を勢いよく投げ捨て、岩を破壊した。


「ひ、ひええええええええええ!!??」

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


高笑いをしながら、完全に壊れた恭田は次の目標である逃げ惑うヤクザどもへ向かって破壊された塀の中へと突撃していった。




「「…………………………………。」」



その光景を、ただただ呆然と眺めていた駿と一聖……それもそうだろう、普段から力がなく、一般人並みの力しかない恭田が、あんな破壊神の如く暴れまわるなんて夢にも思ってなかったのだから。



「………スレイ?」

『……なんだ。』


ふと駿は呟く。それに答えるのは、駿の中に宿るスレイプニルという神馬であった。


「恭田さんって……何者なんだ?」

『……私も情報が少なさ過ぎて、さっぱりわからん………が、彼の体から発せられる氣は、龍二には遠く及ばないものの、常人が発せられる物では……。』

「「…………。」」


彼らは気付いた。この人は単なる影薄ではない、と。






恭田が破壊された塀へ向かって数分後……。


「おーい?」

「「!!???」」


突然声がし、二人は固まる………破壊された塀の向こうから現れたのは、普段と全く変わらない、いつも通りの恭田だった。


「「き、恭田さん……?」」


それでも恐怖心からか、若干上ずった声で声をかける二人。


「えっと………これ何があったんだ? 二人がやったのか?」

「「…………。」」


何とも都合のいいことに、暴れた記憶が無くなっている恭田。様子からしてホントに忘れているようだ。


二人は真実を伝えようかと一瞬思ったが…………




「「はい、僕達がやりました。」」




何か触れちゃいけないと思い、嘘を吐くことにした。


「そ、そうか……って、“僕達”?」

「き、気にしないでください! それより早く皆の後を追いましょうよ!」

「そうそう! ここはもう大丈夫だと思いますし!」

「あ、ああ………何なんだ一体?」


恭田は首を傾げつつ疑問に思ったが……


「……まぁ、いいか。」


どうせ大したことないだろうと思い、気にしないことにした。





「ところで恭田さん。」

「え? 何だ?」

「「兄貴と呼ばせてください。」」

「はぁ!?」


やっぱ気になる恭田でした。









<ルート:和也チーム>



「そっち何かあったかー?」

「なーい。」

「こっちもー。」


和也達のチームは、鳶の棟を駆け回って徹底的に調べ上げてゆくが、怪しい物が一つも見つかっていない。


ただ、先ほどからスーツを着たヤクザ達を始め、忍者もどきの連中がしつこいくらい多く、屋敷の中を探索してる間に何度も襲われては和也が蝿を追い払うかのように蹴散らしまくっている。


で、現在地は鳶の棟にいくつかある広い豪華な個室(おそらく幹部用の部屋)の一つに入っているわけだが……。


「まったく……何もねぇな。」

「だよね〜……手がかりになる物があればいいけど……。」


机をひっくり返したり、ゴミ箱を漁ったり、クローゼットの中を調べたりと、もはや泥棒としか思えない行動を繰り返している三人。この話終わったら警察行ってきなさい。


「むぅ〜……何にもないよ〜……。」


クルルが本棚を調べつつ不満を言う。



が、



「……! カズヤさん、カズヤさん!」


クルルが突然、和也に振り返った。


「何だクルル!」

「何かあったの!?」

「これなぁに?」

「捨てろ速攻で。」


差し出された本を突き返して見事な切り返しの速さで言った。


「ねぇこれ何で女の人がお風呂でもないのに裸で座ってるの? 着替え?」

「そうだ着替えだ! 単なる着替えを写した本だから戻してこい!」

「? はーい。」


和也の焦った様子に疑問符を浮かべながら、クルルは本を元の位置に戻そうとした。



【パサ】

「?」



しかし、本を本棚に戻そうとした瞬間、持っていた本の間から何かが落ちた。


「ねぇ、これなぁに?」

「だから戻せって言ってんだろ。」


クルルの疑問に勘違いした和也は見向きもせずに部屋を漁っていた。


「違うよ、これ。」

「? …………和也、これ何だろ?」

「あぁ?」


レナに聞かれて、和也はようやく振り返った。


「…? 何だそれ?」

「わかんなーい。」


レナが持っていたのは、一枚の紙切れ。その紙の真ん中に大きく、『NI4』を書かれてあった。


「何かの暗号かぁ?」

「だったらどっかで役に立つかもね?」

「じゃ持っとく?」

「……ならオレが持っとくか。」


和也はレナから紙切れを受け取り、ズボンのポケットへ。


「この屋敷で調べれるところは全部調べたよな?」

「うん。」

「全部の部屋回ったと思うよ?」

「うし、そんじゃ龍二さん達がいる鷹の棟に行くか。」


和也達は個室を出て、豪華な日本庭園を一望できる回廊へと出る。


「にしても、有力な手がかりみたいなもんがこの紙切れ一枚だけとはなぁ……。」

「何も無いだけマシだよ。」

「そうそう。」


和也達がそんな会話をしていた。





「! お前ら、避けろ!!」

【ドゴ】

「ぴぎょ!?」」



【ドドドドドドドドドドドド!!】



和也が二人を横へ蹴り飛ばすと同時に自らも庭園の方へ飛び込む。すると三人が歩いていた廊下が突然爆発するかのように吹き飛んだ。木片が辺りに撒き散らされる。


「チィ!」


庭園の砂利道の上を転がって膝をついたまま鎌を構える。




【ドスゥン!!】




同じく、中庭に降りてきた物体があった。



『ギィィィガガガガガガガ……』



それはまるで達磨だるまのようなアーマーに腰に黒いベルトを付けた物……それに太くて短い、丸太のような足。丸いショルダーパッドから伸びる足並に大きな腕。ただ、足からは黒煙が昇り、腕はさながら巨大なマシンガンのような形状をしていた。体全体は銀色に輝き、何より目を引くのは顔の部分に取り付けられた大きな金色の鬼の顔。ご丁寧に角が飛び出している。大きさは三メートルぐらいあり、和也の身長を軽く超えている。


エンジン音が聞こえる限り、どうやらロボットのようだ。


「へぇ………随分とハイテクな奴が来やがったな。」


相手を見て、不敵に笑いながら立ち上がる和也。


【ブォンブォン ガィン!】


左右に腕を素振りするかのように振るい、両腕の銃口を和也へ向ける。


『侵入者ヲ確認。モード・虐殺。“DX−01:DARUMA”、迎撃スル。』


ロボットから無機質な声が聞こえてきた。言ってることからして敵意は満々だった。


「上等だ……。」

【フォォン ドン!】


睨みつけながら鎌を片手で二回転させ、石突を地面に突き刺してから脇に構える。


そして、




「来やがれ、このダサロボット!!」

【ドォォオオオオオオ!!】



和也が叫ぶと同時に、ロボットが足からジェット噴射させて突撃してきた。









<ルート:文一チーム>



「あぁもぉクソ! いい加減にしつこいって、の!」

【ビュ!】


文一は鷲の棟のエントランスで忍者もどき目掛けて剣を突き出す。しかし、相手は後方宙返りをして回避する。


文一の周囲には、すでに気絶した忍者もどき達が倒れており、今戦っている奴が最後の一人なのだが、リーダー格なのか一番すばしっこい。


『主!』

「わかってる!」


弾倉を開き、手を添える。


「させぬ!!」


しかし、すでに文一の攻撃方法は把握しているらしく、忍者もどきは急接近して文一目掛けて鉤爪を振りかぶってきた。


「クソ!」

【ガッ!】


魔力を装填するのを中断し、頭上に迫る右の爪を茜で防御する。


「殺った!」

「げっ!?」


しかし、相手は左の爪で文一の腹を串刺しにしようと突き出す。


「ぬぅおおおおおおおおおお!!!」

【ビュ!】


渾身の力を振り絞って体を捻り、爪を回避する。爪は脇腹を掠り、着ている服が破れた。


「と! ……はぁ、はぁ、はぁ……。」


距離を離し、息を整える文一。相手も離れ、様子見のためか文一を睨んだまま(顔見えないので感じ的に)動かないが、息切れまではしていない。


「クソ! ……こっちの……行動が……読まれてる……!」

『主、しっかり!』

「わかってるよ……クソ!」


茜が声をかけるが、文一の息切れは尚も治まらない。魔力を消費しまくったせいで、体力も限界を迎えているようだった。


(クソ……魔力も限界だし……相手は素早いから攻撃しようにも避けられるし……どうすりゃいいんだ……。)


相手から目を離さずに、かつ頭の中ではこの状況の打開策を練る。正直相手はまだ動ける状態に対し、こちらは体力も尽きかけている。


(…………………こうなったら、賭けをしてみるしかないな………。)



文一は決意を固めた。



「覚悟しろ……貴様に勝ち目などない。」


忍者もどきが鉤爪を交差させながら言う。今までの奴と違い、喋り方が古風。やはりリーダー格のようだ。


「………勝ち目がないなら………。」


文一は弾倉に手を添える。


「! させん!!」


攻撃すると判断したのか、忍者もどきは一瞬で駆け出してきた。その動きは常人では到底捉えることはできない。



だが……、



「作るまでだ!!!」

【バッ!】

「!!??」


突然、文一が茜を頭上に投げ、忍者もどきは驚いて一瞬動きが鈍った。



文一の賭け………それすなわち、フェイント。



「オラアアアアアアアアアアアアアア!!!」


隙だらけになった忍者もどきの襟を掴み、相手の突進力を利用してそのまま後ろに倒れ込むと同時に足を利用しながら手を放す。巴投げだ。


「ぐぁ!?」


いきなり投げられ、咄嗟に受身も取れずに背中から床に叩きつけられた忍者もどき。


【パシィ!】

「装填展開そして発射シュート!!」

『速っ!?』


落ちてきた茜をキャッチし、すかさず弾倉に手を添えて魔力を注ぎ、魔力を飛ばす。この動作に一秒もかかっていない。


【ドォヴ!】

「ぐぼぉ!?」


倒れて身動き取れなかった忍者もどきの腹に魔力が命中し、苦しそうなうめき声を上げる。



「はぁ、はぁ……ふぅ。」


一連の動作が疲れたのか、文一は膝をつく。忍者もどきは気絶してもはや動く気配はなかった。


「…はは……ざまーみろってんだ……。」


茜を杖代わりにして、どうにか立ち上がる文一。


『あ、主? 大丈夫なの?』

「大丈夫だ…………三分の一な。」

『全然ダメじゃん!?』


現に足フラッフラだし。




「フミヒトー? 生きてるー?」

「大丈夫ですかー?」

「!? 湖織にフィフィちゃん……。」


二階の扉が開き、フィフィと湖織が降りてきた。


「ふ……二人揃ってどこ行ってたんだよ……?」

「え? 探索。」

「ここ文一に任せておいても何の問題もないかもと思いましてー。」

「ふざけんな。」


何とこの二人、薄情(?)にも文一を置いてけぼりにして別の場所へ行っていた。


「あ、大丈夫よ。危なくなったらちゃんと駆けつけるつもりだったから。」

「ですー。」

「尚更ふざけんな。」


軽くキレかけの文一。そりゃそうだ、一人だけ忍者もどき数人と渡り合ってようやく先程撃退したのだから。今までの苦労返せ、と言いたいところだろう。


「まぁまぁ勝ったからいいじゃん♪」

「…………。」


文一は思った。怒ったところでしょうがない、と。何かもういろいろ諦めたらしい。



「そうそう。何か色々探ってみた結果、これがあったですー。」

「?」


湖織が文一に差し出したのは、一枚の紙切れだった。


「紙? ………何かの暗号?」

「かもしれませんー。」


紙には大きく『KU1』と書かれてあり、それ以外は何にも書かれていなかった。


「一応、怪しいからもらっといたのよ。」

「どこから?」

「テーブルの下からですー。」

「ヘソクリかよ。」


文一のツッコミが素敵に冴え渡る。


「とりあえず、これ以外怪しい物が無かったのよ。」

「そうか………じゃあ、龍二さん達がいる鷹の棟に行こうか?」

「賛成ですー。もうここにいる敵は倒しましたし。」


文一が忍者もどき数人と戦ってる間、湖織は他の敵を全滅させていたのだった。


「………じゃ、行こうか〜……。」


実力の差を見せ付けられ、軽くショックを受ける文一はトボトボと歩きながらエントランスの正面にある扉へ向かった。





『ガゴォン!』

「!?」


しかし、何かが動き出す音がし、全員その場で構えた。


「……何だ今の……。」

「上よ!」


文一が周囲を警戒していると、フィフィが天井を指差す。見上げれば、高い天井が轟音を上げながらゆっくりスライドしていき、漆黒の闇が広がっていた。





【ガション!!】





突然、その穴から何かが文一らの目の前に落ちてきた。



全体的にシャープな体を包むかのように、漆黒の羽織を着込み、さながら修行僧のよう……だが、そこから覗く手足、顔の肌は銀色のメタリックカラーで、一際目立つのは顔に付いた高い鼻で、頭部には多角形の小さな帽子を被ったような形状で、目は切れ上がった赤く輝く目。口は無く、代わりに顎が鋭く尖っている。背中には機械的な骨格をした黒い翼を生やしている。足に高ゲタを履き、身長はゆうに二メートルは超えている。腰には羽織と同色の鎧の垂れが付けられ、羽織の胸元には二つの金色に光る鬼の顔が付いていた。



「こいつは……!」

「……ロボット……。」

「ロボット?」


文一は茜を構え、湖織は戦闘モードの口調へ。フィフィは聞きなれない単語に首をかしげた。


ロボットは着地の時に膝を曲げた状態からゆっくりと起き上がり、その目を文一らに向けると、ブゥン……というパソコンの起動音と同じ音をたてた。



『……侵入者ヲ確認。モード・虐殺。“DX−02:TENNGU”、迎撃スル。』

【バッ】



ロボットが機械的な声で宣言し、腰から葉団扇のような武器を取り出す。構えらしい構えは取らず、両足を揃えて真っ直ぐに立った。


『……主、こいつ今までのと違うよ?』

「そうだな……ヤバイかも。」

『ほほぉ、随分えすえふチックな野郎が出てきやがったなぁ?』

「誘宵……あまり言い馴れない言葉は使わない方がいい……。」

「ちょっとアンタら悠長に構えてる場合じゃないわよ! 来るよ!!」


フィフィが警告すると同時に、ロボットは葉団扇を振るった。








<ルート:龍乃チーム>



「はぁぁ!!」

【ゴスッ!】

「ぐはぁ!?」


龍乃が鞘の先端でヤクザの鳩尾を殴りつけ、昏倒させる。相手は泡を吹いて痙攣しているが、命には別段問題はないはずだ。


「まったく……やはり本拠地なだけあって敵数が多いな。」

「ホントですね……でも休んでもいられませんよ。」


梟の棟にある大広間で大勢の敵に襲われたが、魔王のマーくんと勇者のアルスと刀の使い手である龍乃にかかれば赤子の手を捻る程度のものだった。


「それにしても、皐月殿は一体どこに囚われているのだろうな?」

「さぁな……この広さだ。そう簡単に見つかるとは……。」



「皐月――――!!!」

「ちょ、ユウキさん!? 大声出しちゃダメですよ!」


大広間で大声を上げる優貴。アルスはそれを止める。


「優貴くん、落ち着け。先程から落ち着いていないぞ。」

「でも早くしないと皐月が危ないんでしょう!?」

「いや、そうとも限らない………はずだ……。」

「マーくんよ、そんな曖昧な返事でどうする。」

「う……。」


龍乃に思い切りダメだしされ、一歩下がったマーくん。頑張れ色々。


「……優貴、とにかく落ち着くんだ。」

「龍乃さんまで……。」


今の優貴の目は、完全に血走っていた。今にも暴れだしかねない程である。


しかし、龍乃はそんな優貴に内心驚きつつも、すぐに冷静になる。


「…私達だって、皐月殿のことは心配だ。早く見つけ出して救出したい。だが兄であるお前がそんな我武者羅になってどうする。」

「…………。」


優貴はたじろぐが、龍乃はそれでも説得し続ける。ただ、声は強張ってはいなく、まるで子供をあやすかのようにおだやかなものだった。


「本当に皐月殿を助け出したいのなら、自分だけ先走り過ぎてはダメなんだ……わかったか?」

「…………。」


龍乃に言われ、落ち着いた優貴は拗ねた子供のように頷いた………




「う……おおおおおおおおおおお!!!」

「優貴さん!!」

「!?」


ふと背後から殺気を撒き散らしながら、倒したはずのヤクザがドスを持って低い姿勢のまま特攻してきた。



「はぁ!!」

【ガッ!】

「ぐぇ!?」


ドスが優貴に刺さる寸前、アルスが剣を振り上げてドスごとヤクザを弾き飛ばす。


【ガシャン!】


ヤクザは近くに飾ってあった細長い木の植木鉢を破壊して、そのままグッタリと動かなくなった。


「だ、大丈夫か優貴!?」

「は、はい……アルスちゃん、ありがとう。」

「いえ……無事でよかったです。」


龍乃に心配されながら、優貴はアルスに礼を言った。



「? これは?」

「「「?」」」


一人、マーくんが破壊された植木鉢の近くで何かを発見し、しゃがみこむ。


「何だ? 何かあったのか?」

「………紙?」


龍乃達が肩越しに覗き込むと、マーくんの手に一枚の紙切れがあった。


ただ、そこには大きく『O3』と書かれているだけだった。


「O……3? 何かの暗号でしょうか?」

「わからない………ただ、こんなところから出てくる以上、単なる紙切れだとは思えないが……。」


全員で思案するが、誰もわからない様子だった。


「………一応、持っておきましょう。この屋敷で唯一の手がかりなんですから。」

「そうだな……。」


マーくんが紙切れをポケットにしまい、立ち上がろうとした。





「!? 危ない!!」

「え……」

【ゴォウ!!】





突然、四人の頭上を突風を巻き起こしながら何かが通り過ぎ、一斉に伏せる。


「な、何だ!?」


立ち上がり、各々が武器を構えて前方を見据えた。




そこにいたのは、さながら小型戦闘機……ではなく、イタチに似た物体が宙を浮かんでいた。体全体はガンメタリックカラーで、背中には飛行機にある尾翼が二枚づつ左右に付いており、間には機関銃のような物が見える。機体の左右にはリングが取り付けられ、中央で小型のフィンが超高速回転をして機体を浮上させていた。顔は横に伸びた一本線で、緑色の防弾ガラスによって中にある二つのカメラを防護している。その上には鬼の金色のエンブレムが施されてあった。




「これは……。」


龍乃が呟き、刀を八相に構える。



【ギュイ ギュイィィィン ギュギュイ】

『侵入者ヲ確認。モード・虐殺。“DX−03:KAMAITATI”、迎撃スル。』



カメラから機械音がし、無機質な声で宣言すると、




【ガギィ ギュイイイイイイイイイイイイイイ】




フィンの前部分から細いアームが伸び、先端に取り付けられたチェーンソーが高速回転を始めた。


「なるほど……ここの警備ロボットか……。」

「え……ロボットって何ですか?」


アルスが龍乃の言葉に疑問符を浮かべる。


「二人とも、来るぞ! しっかり構えろ!」

「龍乃さん!」

「優貴、下がっていろ!!」


龍乃は優貴を下がらせ、正眼に構えなおす。


「……悪いが、皐月殿のところへ一刻も早く向かわねばならないのでな………どいてもらうぞ!!」









<ルート:龍二チーム>



「さってと………どうすっかな。」


龍二達は台所をひとしきり滅茶苦茶にした後、再び屋敷の内部を調べ始めて約三十分……一階の庭園のすぐ近くの回廊の真正面にある、巨大な鉄の扉の前に来ていた。周囲には彼らがぶちのめしてきた敵がさながら死体の如く倒れ伏しているが、全員死んではいない。ただ気絶しているだけである。


「にしても、大したことないよねここの人達♪」

「ガハハハハハ! 確かにな!」


葵が剣を肩に担ぎ、アレクが腰に両の拳を当てて豪快に笑う。その間に龍二は左右の剣を一回転させてそれぞれの鞘に収めると、前方の扉を調べ始めた。


「………鉄の扉かぁ………。」


ペタペタと扉を触り、ドアノブらしき物を探してみるが、見つからない。一旦離れ、顎に手を添えて考え込む。


「……………



破っ!!」

【ドォ!!】


結局実力行使した。



だが、



「ほぉ?」

「え、ウソ!?」

「……ふむ。」



扉は凹みもせず、震えただけで傷一つ付かなかった。


龍二の先ほどの突きは、龍二なりに力を抑えてはいたが、それでもビルを吹き飛ばすぐらいの威力ではある。それが全く効いていなかった。


「………なるほどね。」


しかし、龍二は想定内の如く平然としており、むしろ何かに納得した様子だった。


「……どうなってるの、この扉……アレクさん、破壊できない?」

「バカ言うな。龍二に破壊できない物を俺が破壊できるわけないだろうが。」


アレクも十分龍二と渡り合えるはずだが、傷一つ付かない扉を見て若干意気消沈した様子だった。


「……何か仕掛けがあるな。」


龍二は再び扉を叩いたりして調べ始める。


【パンパンパン……バンバンバン……バンバンバシ】


「お?」


ふと、扉の右脇を叩いた瞬間音が変わった。


「…………。」


目を凝らし、よーく見てみる…………ほんの少しだが、小さな半円があった。


「……ふむ。」


穴に指を突っ込んでみる………


【パカ】

「ビンゴ♪」

「「お〜。」」


葵とアレクが賞賛の声を上げる。穴の部分はカバーになっており、開くと中には縦一直線の溝がはいった機械が納まっていた。つまるところカードリーダーだ。


「なるほど〜、こういう仕掛けなんだ。」

「よく見つけたな龍二。」

「勘だ。」


相変わらず冴えてますね。


「…だがこれ、鍵が無い限り意味がないぞ?」

「あ、そっかぁ…。」


一気に落胆する二人。


「あ、そんなら大丈夫だ。」


平然と言ってのけると、龍二はポケットを漁り始めた。


「え〜………あった。」


そして取り出したのは、


「あ、それカードキー!?」

「ピンポーン。」

「でかしたぞ龍二!」


あの左端にLv1と書かれてあるカードキーだった。


「多分、これで合ってると思うが………」


龍二がカードキーを通そうと溝に入れる。


「「…………。」」

「…………。」

「「…………。」」

「…………。」

「「…………。」」

「近すぎ。」

「「あいさ。」」



超至近距離でカードキーを見つめる葵とアレク。その距離は龍二の両頬にぴったりとくっ付いているほど。



「うし。」


気を取り直し、再びカードキーを溝に入れる。


「「…………。」」

「…………。」

「「…………。」」

「…………。」

「「…………。」」

「遠すぎ。」

「「はいな。」」



二人それぞれ庭園のど真ん中の道の上に立っていた。その距離は五メートル程。



「うし。」


そしてカードキーを通そうとs


「今度はそこにいろよ。」

「「…………。」」



次何するか考えてる時に龍二に言われ、二人はジっとすることにした。



【シャッ】


今度こそカードキーを通し、



【ピー】

『Lv1、認証完了。ゲート・オープン。』


機械音が響くと同時に、カードリーダーから声がした。



【ゴゴゴゴゴゴゴゴ………】



轟音と共に扉が上へ上がっていき、部屋が開いた。


「うし、入るか。」

「「おー!」」


一々掛け声出さないとあかんのかいアンタら。


三人が入った部屋は何の家具もない、しかし金色の壁一面に水墨で見事な色とりどりの花が描かれ、床は光沢のあるフローリングの豪華な部屋だった。広さは十二畳。ある物と言えば入って真正面にある壁に取り付けられている、銀行のATMのようなシャッターが付いた台があるだけだった。


「ここ、何だろうね?」

「さぁなぁ。ただあれが気になるな。」


何もなく、ただ台があるだけの部屋は大抵何か仕掛けがあるもの……カードキーを使って仕掛けはこれで終わり、とは到底思えない。


「気を付けてけよ。何が出るかわからんからな。」

「はーい。」

「おう。」


龍二を先頭に、慎重に部屋の中を進んでいく三人。敵の気配はせず、ただ聞こえるのは三人の靴音だけ。


「……。」

「……。」

「……。」


後十歩で台まで届くという距離………




【ゴォン!】

「「「!!」」」



そこで足元から振動が伝わってきた。



【ガガガガガガガガガガ……】



振動と同時に、台の一歩手前のフローリングの床が左右にスライドしていく。


「何だ?」

「……仕掛け?」

「だろうな。」


龍二は左右の腰から剣を抜き、構える。



やがて、何かが開いた床からせりあがってくる感じがしてくる。




【ガシュウ】




そして遂に、それは現れる。


どっしりとイスに座ったその外見は、漆黒の甲冑を着込んだ、まさに戦国武将さながらの鎧武者そのもの………だが、中央に金色に輝く鬼のエンブレムの入った鍬形の兜の下から覗かれる真っ赤に光る吊りあがった目を見る限り、明らか人間ではないと判断できた。顔には虎の牙のような漆黒の仮面を付けており、素顔まではわからないが、呼吸音がまったく聞こえない。代わりに、パソコンを起動させているかのような音が微かに聞こえてくる。そして一際目立つのは背中に付けられた鋭い刃が周りに数本取り付けられたまるで太陽のようなリングと、腰に差された湖織の誘宵よりも倍の大きさもある巨大な漆黒の大太刀、そして三メートルもある巨体。それが威厳をかもし出していた。



「おお、カッチョいい。」

「すごーい!」

「ほほぉ、これはなかなか……。」


そんなのが目の前にいるのに、三人は何か鑑賞するかのように楽しんでいた。何してんねん。



【キュィィィィィ】

『侵入者ヲ確認。モード・虐殺。“DX−04:SAMURAI”、迎撃スル。』


【ガシュゥゥ……】


無機質な声が響き渡り、ゆっくりとイスから立ち上がっていく侍……に似たロボットは、腰から大太刀を引き抜く。その刃はさながら青龍刀の如き太さ。


『……リュウジ、気を付けろ。コイツは今まで通りにはいかないぞ。』

「だろうな……ま、その分やる気はアップってな。」


ふざけた態度から一転、三人は表情を引き締め、構えなおした。









<???>



「博士。DXシリーズ、全機の起動を確認しました。」

「ヒョヒョヒョ、そうかそうか。」


暗闇の中、一人の若いヤクザが白衣を着た老人に言う。老人は暗くて顔が見えないが、その中でもボサボサの白髪がかなり目立っていた。


「まったくバカなガキどもめ……せいぜいワシの息子達にお灸を据えてもらうがいいわい……。」


忌々しげに呟き、背もたれ付のイスにもたれかかる。


「……じゃが……連中の戦闘能力……欲しいのぉ……。」


暗闇の中、輪郭が微かに歪む。


「そうじゃ……せっかくじゃし、全員ワシの実験動物にするのも悪くないのぉ…………ヒョヒョヒョ………。」


背もたれから起き上がり、目の前に置いてあるパソコンのキーボードを打ち込んでいく。規則正しいキーボードを叩く音がし、暗闇の空間に響き渡る。


【カシャ】

「まぁ、まずは……このガキを捕らえることに専念しようかのぉ……。」


スペースキーを押し、老人は肘をデスクに置きながらディスプレイに移る人物を眺めた。




部屋に響く老人の含み笑いが、波乱の幕開けを告げる。


次回、激の章へ続きます。

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