開の章
短編から移動しました。開の章の“開”は“開始”の意味です。
〜???視点〜
【ザァァァァァァァァァァ………】
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
何が……どうなってるの?
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
どうして……こんな走ってるの?
「はぁ、はぁ、はぁ、くっ…!」
どうして……体中傷だらけなの?
「はぁ、はぁ、はぁ………ぅぁぁ…。」
何で……こんな目に?
「はぁ、は……あ!」
【ドシャ!】
雨でぬかるんだ土に足を取られて顔から思い切り泥の中へ……同時に足を擦り剥いたけど、早く逃げないと……捕まる。
「……!つ……!」
足を……捻った。
動け……お願いだから、動いて……足……!
「見ーつけたー♪」
「!?」
あ……あぁ……。
「ヒヒヒ……苦労かけさせるでないぞぉ?……実験動物め。」
助けて……。
「ホレ、連れてゆけい。」
「はっ!」
助け……て……。
「……優、兄……。」
〜龍二視点〜
「ぐてー。」
「ぐてー。」
「「『……。』」」
本日はー晴天なーりー及びー週末なーりー。
「ぐてー。」
「ぐてー。」
「「『……。』」」
そゆことでー只今ー和室でー寝そべってーおりますなーりー。
「ぐてー。」
「ぐてー。」
「「『……。』」」
寝そべりながらもーアルスとーフィフィとーエルはー呆れてるみたいであーりー。
「ぐでー。」
「ぐでー。」
「「『……。』」」
因みにー同じことをー連呼してんのはー俺とークルルであーりー。
「ぐでー。」
「ぐちゃー。」
「ぐちゃ!?」
そんでーツッコミー入れたのはーアルスなーりー。
「……。」
「……。」
「「『……。』」」
…………。
「飽きた。」
「飽きた。」
「「『……はぁ。』」」
うん、もう飽きた。つか退屈過ぎる。
あ〜あ〜、そういや夜中すんげぇ雨だったっけなぁ……今日はすんげぇ晴れてんなぁ。太陽VS雨のバトルは、太陽のブレーンバスターが雨に決まって逆転勝利ってか?どうやって太陽が雨にブレーンバスターかましたのかは想像してみ。
……にしても、あれだなぁ……外は晴れやかだが、あいにく地面がまぁだ濡れてんだよなぁ。外遊びに行こうにも、気分が乗らない……だが家ん中にいてたら暇過ぎてこのまま寝転がって一日終えそうだ。それだけは絶対避けねば。
…かと言っても、今は何もする気が起こらん……あぁ矛盾。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
『……。』
「……うし。」
「「「『?』」」」
「暇だし、今考え付いたダジャレを言ってやろう。」
「いきなりですね。」
「いきなりだね。」
「いきなりね。」
『いきなりだな。』
「いいじゃん別に。じゃ言うぞー
ミカンの上にアルミ缶。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
『……。』
「暇だなぁ。」
「暇ですねぇ。」
「暇だねぇ。」
「暇ねぇ。」
『暇だぞ。』
暇だなぁホント……何も考え付かないし、今日はあれだな。このままグッタリしとくのも悪かねぇかもしれんなぁ。
あぁぁぁぁ溶けそう〜〜〜〜…………。
【ピンポーン ドンドンドン!】
…んあ?
【ドンドンドンドンドンドン! ピンポーンピンポーンピンポーン】
…………。
「? 誰でしょう?」
「さぁ…?」
「随分慌ててるようね?」
『うるさいぞ。』
エル、同感。
【ピンポーンピンポーン ドンドンドンドンドンドンドン!!】
「…しゃーねぇな。」
よっこいせっと重い腰を持ち上げる……つかさ、インターホン鳴らすか扉叩くかどっちかにせいよ。ったくよぉ…。
【ドドドドドドドドドドドドドン!!! ピンポピポピポピポピポピポピポピポピンポーン】
………………………。
「……。」
軽くアキレス腱を伸ばし、
「…やー」
助走を付け、
「かー」
リビングを飛び出し、
「まー」
玄関前で飛び上がり、
「しゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
【ズドバキィィィ!!】
「ぐげぼおおおおおおおおおおおおおお!!??」
飛び蹴りで扉ごと訪問者をぶっ飛ばした。誰だかわかんねぇけど気ニシナーイつか気にしたくナーイ。人ののんびりした休日を邪魔しやがってからにホンマ〜…。
「あ、兄貴ィィィィ!」
「クッソーこのガキが、よくも兄貴w」
「あ゛?」
『!!!????』
なーんか一人じゃなかったらしく、ギャーギャー喚く黒スーツの連中を軽く威圧する。よし黙った。
……つかアレ? こいつら……。
「オメェらひょっとして……。」
『……。』
……な〜んか見覚えあるなぁと思ったら…………何してんだこいつら。人ん家の前にバカでかいリムジン止めやがって。
「何の用だ?」
「…………。」
オイ、無言かい。
「……あ、荒木さん。」
「ん?」
ようやく口開いたか……全く。つか見た目一番若いじゃんアンタ。周囲のオッチャンども何震えてんの?
「じ、実はちょっとお願いが…。」
「何だ?」
「え、っとその…。」
………………………。
「……早く」
【ジャキ】
「イエ。」
「は、はいいいい!!!」
一応念の為にと思って腰に差した龍刃を引き抜き、そいつの喉元に切っ先を向ける。ただ急かしただけで殺す気ねぇのにこの怯えよう……
コイツおもしれぇ。
「あ、あの!いいいい今からちょっとクルマに乗って欲しいのでございますがよろしいでございましょうか!?」
「………は?そんだけ?」
「は、はいいいい!!」
そんだけの事話すのにどんだけ時間経ってるよ。
「車ってーと、あのリムジンか……いいね、初めて乗るね。」
「は、はぁ……。」
龍刃を下ろし、鞘に収める。喋ってた奴は脱力してそのままヘナヘナと座り込んだ。
「で、今から?」
「え、ええ……今すぐ、大至急お願いします……。」
何でぇ。今からかい。
「じゃアルス達はどうすんだ?」
「ぜ、是非お連れしてください…。」
「オッケー。」
……まぁ、何で乗らなきゃならんのかは深く追求しないでいいか。どうせ暇だったし。
「ちょっと準備してくっから待ってろ。」
「…ひゃい。」
背を向けて家の中へ入っていく俺。背後から『お前よく頑張った!』とへたり込んでる若い奴に向けて賞賛しているオッサンどもの声が聞こえた。
【ガチャ】
「着きましたよ。」
「ん、サンキュー。」
やっぱ車だと二時間はかかるな……この町。走って来た方が速いじゃん。
まぁいいや。とりあえずリムジンの扉を開けてくれたオッチャンに礼を言いつつ、車から降りた。
「う〜……ん、よく寝たニャ〜……。」
「ふぁ〜ぁ……。」
「やっと着いたわね……ねむ。」
『ふぅ。』
で、順番にリムジンから降りてきたのはクルル、アルス、フィフィ。あぁ、エルは俺の右腰に差してある。因みに左腰には龍刃だ。
「ふぅ……相っ変わらずでかいなここは。」
で、目の前にある豪勢な屋敷を見上げ、呟く。まさに京都にありそうな木造建築だ。うーん、いい仕事してるねぇ。
まぁ、何か初めて来た感じに感想言ってるがここには来たことあるしな。だからここには誰が住んでるか知っている。
「入っていいか?」
「ええ、どうぞ。」
「お邪魔しまーす。」
スーツのオッサンがでかい門を開けようとしたが、俺が普通に鍵開けて入ったんでオッサン絶句した。ワリ、何気に鍵壊した。
とりあえず、まるで有名旅館にありそうな箱庭のような道をテクテクと俺達は歩いていき、屋敷の入り口である玄関に到着。ふむ、スライド式の扉とは奥が深いぜ。
「さ、入るか。」
まぁ特に何も気にせず入ろうとし、
「優貴、待て! 落ち着くんだ!」
「放してよ龍之さん! こればっかりは! 僕が!!」
「行ってどうなる!? 場所もわからないのに、第一たった一人で!」
「でも!!」
…………。
「……な、何か言い争ってない?」
「で、ですよ……ね?」
…………ふむ。
「…リュウジさん、もう少ししてから入った方が」
「さて行くか。」
「って聞いてないし!?」
アルスの言葉を無視して、いざレッツゴー。
【ガラ】
「邪魔すんぞー。」
扉を開け、広々とした玄関に足を踏み入れる。
で、目の前には、
「!? り、龍二!?」
何かビックリした顔で俺に顔を向けるここの主の娘であり、俺のダチ、龍之 由美と。
「…………。」
なぁんか龍之に羽交い絞めにされている同じく俺のダチ、月見 優貴だった…
あれ? 何か目血走ってない? つか何この光景?
「よ。久しぶりだな。」
「あ、ああ……でもどうして」
「うああああああああああああ!!!」
「!! ゆ、優貴! 頼む、落ち着いてくれ!!」
っと、何か急に暴れだしたぞ優貴の奴。
「ちょ、リュウジさん!止めなくていいんですか!?」
「さすがにヤバイよコレ!?」
「ん、ああ。」
………しゃーねぇな。
「…とう。」
【ボス】
優貴の鳩尾めがけて軽くパーンチ。
「!? ぐ、ぁぁ…。」
【ドサ】
「!? 優貴!?」
「大丈夫大丈夫。気絶しただけ。」
ガクリと動かなくなった優貴を見て慌てた龍之を宥める俺。こういう時に頼りんなるね、実力行使
「そ、そうか……すまない、手間を取らせてしまって。」
「気にすんな。まぁいきなりのことでアルス達はビビっちまったがな。」
「す、すいません、いきなりのことで驚いてしまって…。」
「いや…。」
???
「…と、とにかくよく来たな龍二。アルス達も。」
「ああ……つか、さっきお前俺見て意外そうな顔してたな。お前が呼んだんじゃねぇのか?」
「? 何の話だ?」
あれ?ホントに知らんみたいだ。
「一体どうしたんだ?」
「いや、何かな? いきなり家の前にお前んとこの連中がリムジン止めて、乗ってくれって言うから乗ってここまで来たわけなんだが? まぁ暇だしちょうどよかったけど。」
「そ、そうなのか…………………まさか、母上……。」
…………。
「……にしても、お前何か今日暗いぞ? それにさっき珍しく優貴の奴と揉めてたみたいだし。」
「何かあったのー?」
「あ………うん。」
「しおらしいのはあんまお前には似合わないぞ。」
「……す、スマン。」
「何でそこで謝んねん。」
そこは怒るとこだろが。
「お前やっぱおかしいぞ? 何かあったんだろ。」
「…………実は、」
「由美、さっきから何してんの?」
「! は、母上…。」
おっと、いきなり龍之のお袋さんの登場かい。おー相変わらず着物が映えてますなぁ。
「アラ、龍二さん達来てたんですか。」
「お邪魔すんぞ。」
『うむ。』
「お、お邪魔します…。」
「こんにちわー!」
「こんちわ。」
「ようこそ、龍崎組へ。」
ほんわか笑い、お辞儀をする……が、急に真剣な顔に戻った。
「……まぁ、普段なら『くつろいでおくれやす』というべきでしょうけど…そうもいかないみたいで…。」
「? はにゃ?」
どゆこっちゃ?
「まぁ玄関で立ち話もなんですし、どうぞ中へ。」
「おう。」
靴を脱いで上がってから振り返ってしゃがみ込み、靴を揃える。うん、礼儀礼儀。アルスらもキチンと揃えてるし、教えた甲斐があったってもんだ。
「由美、部屋へ案内しなさい。」
「は、はい……。」
まだ暗い表情のまま、龍之は俺らの前に立った。背中には動けない状態の優貴がいる。
「こっちだ。」
ツヤのある廊下を歩き出し、俺らもその後を追った。
まぁ、結構入り組んだ家だなぁ……俺ならこういう家はあんま落ち着かねぇな。今の家でちょうどいいし。
……あ、でも住めば都っつーよなぁ……じゃこういう家でずーっと過ごせばそのうち落ち着いてきてのんびりと……。
「ここだ。」
っとと、もう着いたのか。
んまぁえらい豪華な襖だこと。荒波の水墨画が美しいのぉ。
【スッ】
……まぁ襖の感想はこれくらいにして、と。
龍之が襖を開けると、そこには広々とした畳の部屋があった。おぉ、転がれる。
「ここでしばらく待っていてくれ。」
「おう、わざわざサンキュ。」
「…あぁ。」
むぅ、いつものテンションじゃねぇとつまんね。
龍之は俺らを畳の部屋に残し、襖を閉めた。
「……何なんでしょうね、急に呼び出されて。」
「さぁ……リュウノは元気なかったし、何なんだろうね?」
「きゃーーー気持ちーーー!!」
「うひょーーー。」
『…貴様らちょっとは緊張感持たんか。』
大宴会が出来るくらい広々とした部屋で俺とクルルは思う存分ゴロゴロした。う〜ん、ものっそ楽しい。
「リュウくん、向こうの壁まで競争しよ!」
「上等だ。かかってこんかい。」
「ち、ちょっと!?」
「よーいドン!」
アルスの制止を聞かず、俺らは畳の上を転がり出した。ゴロゴロゴロー。
「むやあああああああああああああああああああああ!!!」
「とりゃああああああああああああああああああああ。」
【ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ】
転がり対決はまさしくデッドヒート。だが少しずつ俺はクルルを抜かし、リードしていく。
この勝負……もらった……!
【スッ】
「ふぅようやく着いたってのわあああああああああああああああああああああ!!!???」
【ベシャ】
あ、今何か轢いた。
「にゃあああああ!?主がペッチャンコになったあああ!!!」
「こ、交通事故ですー!!」
家ん中で交通事故はねぇだろ。
「よっと。」
【スタ】
高速回転から軽くジャンプし、膝をついて華麗に立ち上がった。
【ドカァン!】
「ぴぎゃあ!?」
あ、クルル止まれずに壁に激突した。あーあ、タンコブできてる。
……つかさっきの声は……。
「いてててて……な、何なんだいきなり……?」
おぉ、やっぱり。
「お前らも来てたのかぁ。文一。」
「………どっち見て言ってるですー?」
「おお、この声は漢字の勉強が足らん人には読めない湖織か。」
「それどういう意味ですー!?」
「……あの、龍二さん? 何であっち見て話してるんですか?」
ん? おお、ヤベヤベ。背中向けたまま話してたぜ。
「ははは、ワリィワリィ。」
「180°回転しすぎですー!?」
アレ?おっかしいなーわけわかんなくなってきちまったーハハハ。
「…………もしかして目が回ってるのかな?」
「そんなことニャー。」
「目ぇ回してるでしょ絶対。」
野郎、断言しやがったな文一め。
「まぁ冗談なんだけどな。」
「冗談ですかー!?」
湖織のツッコミを無視して、改めて向き直る。
「よ。久しぶりだなお前ら。」
「あーコオリさん!」
「アカネさんも!」
「は、はぁ。」
「どうもですー。」
「どうもー♪」
えー、右から執事服着た奴が天詩 文一で、茜色の髪したちっこい女の子が茜って奴で、巫女服着た女が…………えー…………………湖織で。
「湖織の苗字が入ってないですー!?」
「思考読んでんじゃねぇよ読めねぇんだよ苗字が悪いかクォラ。」
「ご、ごめんなさいですー……。」
アラ、素直に謝っちゃった。
でも、何つったっけコイツの苗字? えーと………黒……つ…………
うん、黒ペンキで。
「そんな苗字嫌ですー!?」
「だぁら思考読むなっつてんのがわかんないですかーこの野郎?」
「ホントごめんなさいですー!?」
あ、ヤベェこいつおもしろい。
「どうでもいいけど、何でお前らここにいんだ?」
「いえ、何だかわからないんですけど…。」
「いきなりヤクザみたいな人に連れ込まれたんだよ。」
へーなるへそ。こいつらもか。
あれ? でも…。
「茜はわかるけど、何でお前がここにいるんだ黒ペンキ?」
「文一とお話してたら湖織まで巻き込まれたんですって黒ペンキじゃないですよー!?」
苗字のツッコミは最初に言え。
「え……じゃ皆さんも?」
「あれ? アルス達も巻き込まれたのかな?」
「いえ、その…………まぁそうなるかもしれません。」
えらい曖昧な表現だなぁオイ。まぁ巻き込まれたっつーより暇だから来たわけだけど?
「ところで、何で僕らは呼ばれたんでしょう?」
「さぁな。詳細は知らん。」
……ったくどうなってんだ?
【スッ】
「ここで合ってるのか? ……って!?」
「ん? おぉ。」
「あ、あなたは……!」
いきなり横の襖が開き、入ってきたのは……
「龍二さん!? 文一!?」
「和也じゃん。」
「師匠!?」
何かと張り合ったりする年下のダチ、雨宮 和也だった。
「何で二人がここに……?」
…………………。
「多分お前と同じ理由だぞ和也。」
「へ? ……………………………まさか、二人も訳もわからずにリムジンに?」
「イエス。」
「そうなんですよ。」
俺らは『訳も“聞かずに”』だけどな。暇だったし。
「師匠も無理矢理乗せられたんですか?」
「いや、何かいきなり家の塀車で破壊した上に押しかけてきて『乗れ』って上から目線で言われたから軽くボコって連中の黒幕もついでにボコってやろうと思ってここまで乗せてってくれたんだが。」
まぁ、わかりやすい経緯だこと。
「………そうなんスか。」
「で、何か綺麗な女の人にここまで案内してもらって今に至るっつーわけだ。」
「ほぉ、じゃ詳細は聞いてねぇんだな?」
「はい。」
ふぅむ…………。
「ってちょっとちょっと! 私忘れてない!?」
「あれ? ペットも連れてきたのか和也?」
「いや、何か虫みたいにくっ付いてきたんで。」
「そうか。」
「「誰が虫だぁ!?」」
フィフィ、お前のこと言ってるんとちゃいまんねんけど?
「あ、レナさんじゃないですか。」
「こんにちわー。」
「………君達だけだよ、挨拶まともに挨拶してくれんのは……うぅ。」
アルスとクルルに普通に挨拶されただけなのに、何故か泣き出した黒ローブの娘っ子のレナ。確か死神だったっけかコイツ? まぁいいけん。
「にしても、いきなり連れてこられて何なんだろうな?」
「そうですよねぇ……龍之さんも知ってるようだけど話してくれないし。」
「説明不足で困るですー。」
ホントホント。
【ヒュン】
「ぃやっほーーー!!」
「あべし!?」
ありゃ?
「あ、主がまた潰れたー!?」
「文一、今日は散々ですー。」
ドンマイ文一。
あ、何が起こったか説明せんとな。まぁ簡単なこった。
文一の上にぽっかりと黒い穴が開き、そこから誰かが降ってきて下にいた文一が潰れたチャンチャン♪ わかった?
「やっほー龍二くん!」
で、穴から出てきたんは、
「葵か。久しぶりだな。」
里原 葵。他の連中と同じく俺のダチだ。
「いっててて……な、何が起こって」
【ヒュン ドス!】
「あばあああああああ!!!???」
「あ、主がまたまた潰れたー!!」
「ホント今日の文一ツイてないですー。」
大変だな。
「あ、葵〜……お前はまた〜……。」
「ガハハハハ! いい加減慣れろ!」
文一を潰したのは、葵のオモチャゴッホン!……葵のダチでありクルルとは違った世界にいる魔王、アイスもといマーくん(因みに蓑虫みたいにロープでグルグル巻き)とそのダチ、アレクのオッサン。一時オッサンとは殺り合ったことがある。いい思い出だ。
「あは! マーくん相変わらずボロボロだね♪」
「お前のせいだろ! いい加減私の仕事中に連れ出すのはやめろ!」
「いいじゃん♪」
「よくなーーーーい!!!」
「ガハハハハハ!!」
「アレクてめぇええええ!!」
「だ、大丈夫ですかアイスさん!?」
「あ、アルスくん………君はホントにいい子だなぁ……。」
ケラケラ笑う葵と豪快に笑うアレクのオッサンに対し、アルスはマーくんを気遣いながらロープを解いていく。こいつら何気にいいコンビしてんな。
「…ところで、葵らも呼ばれたのか?」
「え? 私達はただ遊びに来ただけだよ?」
そないでっか。
「というわけで、クルルちゃんこないだの勝負の決着を!!」
「オッケー!!」
「オッケーじゃないでしょ!?」
悪乗りすんなよクルル。そしてナイスツッコミだフィフィ。
「とゆーより何で全員集合してるの? 何かのお祝い?」
「いや、何か皆呼び出しくらってな。」
「それもお祝いとかそんな空気じゃねぇんだよなぁ。やけにピリピリしてやがる。」
葵の質問に俺と和也が答える。文一はまだ悶絶中。
「あ、そうだ忘れてた。」
ふと背後でポンと掌を叩く和也。
「? 何を忘れてた?」
「これですよ。」
【ドサ】
そして目の前に投げ出されたのは……
「ああ、影薄の連中か。」
「はい。」
俺んとこの影薄、恭田と和也んとこの影薄、如月 駿と文一んとこの影薄、北川 一聖……の簀巻きだった。しかもいい感じに三人ともボロボロ。
「ってキョウタさん!? 他の皆さんも!?」
「うわ……え、えげつな。」
慣れろよアルスにマーくん。影薄がこんな扱いされんのもいつものことだろ?
「で、何でまたこいつら持ってきたよ?」
「いや、何かノリで。」
「そうか。」
「何で反応めちゃくちゃ軽いのかな!?」
気ニシナーイだ茜。
【シュ】
「皆、待たせた……ってアレ?何か増えてる…。」
あ、龍之来た。
「こんにちわー由美ちゃん♪」
「葵? どうしてここに?」
「いや、何か暇だから遊びにー。」
おお、暇人同士。
「……そ、そうか……でもこれから大事な話があるから、今は遊べな」
「じゃ私も参加しよーっと♪」
「おい葵!? 私達は関係ないだろ!?」
「うるさい! マーくんは黙ってて!」
相変わらず尻に敷かれてるなぁマーくんは。
「……そ、そうか……わかった。」
………ん〜………。
「で? 今からどうすんだ?」
「あ、ああすまない…今から母上達が話をすると思うからもうちょっと待っててくれ。」
さいで。つか影薄連中には反応無しかい。
で、揃って座りながら待つこと数分……。
【スッ】
あ、襖から龍之のお袋さんと厳つい顔した親父さん入ってきた。
「……大変お待たせしました、皆様方。」
「…………。」
二人は俺らの前で正座し、お袋さんは手を添えて頭を下げた。親父さんは目を閉じたまま無表情。
では、さっそく気になることを話しますか。
「さて、何で俺らをここに連れてきたのか話してもらおうかい?」
「り、リュウジさん……失礼ですよ……。」
「いえ、構いません……訳も話さず無理矢理連れてきたのですから怒るのは当たり前だと肝に銘じております。」
いや無理矢理っつーか流れに任せて乗って来たんだけどね俺。
「連れてきた理由も話さないということは……それなりに重大なことなんですね?」
「…………。」
文一の言葉に、お袋さんは押し黙った。親父さんは眉毛一つ動かさない。
「……それなりどころの騒ぎではない、最悪だ。」
「? どういうことなのかな?」
「最悪って?」
お袋さんの代わりに答えた龍之に疑問をぶつける茜とレナ。同感、最悪ってどゆことよ。
「今回、皆様方に集まってもらったのは他でもありません。」
「…………。」
再び話し始めたお袋さんに、龍之は口を閉じた。
「……最近、頻発に起こっている学生失踪事件について、皆様ご存知でしょうか?」
「ああ、今話題になってる…。」
「そう、あの失踪事件です。」
あ、それなら俺も知ってるぞ。
学生……つまり小学生から大学生まで、かなり広い年齢層の奴らばかりが、ある日突然行方不明になるという事件。それは東京のみならず、全国各地で発生している。それもほぼ毎日のようにだ。
それだけでも異常だが、さらに不可解な部分がある。被害者についてだ。
被害者は全員学生……なのだが、どれも特徴がバラバラなのだ。
一見地味な奴、派手な奴、優等生、不良、デブ、オタク、浪人生、引きこもり、ニート…………学生ならば誰でも構わない、といった風に次々と消えている。
全国各地で発生してるっつーことは、犯人は一人ではなく集団、つまりなんらかの組織の犯行によるとのこと。まぁそれが一番っつーか当たり前だよな。
当然、拉致か何かだと思うが、失踪した奴の家族には脅迫状やら何やらが送られたことは一切無いという、何が目当てなのかさっぱりわかっていない。一部の連中は、被害者の特徴が定まってないからして、神隠しではないかという説も上がっている……まぁそうだと警察もお手上げだな。
「それで、その失踪事件がどうかしたの?」
「お話はこれからです。」
葵の疑問に、お袋さんは答える。
「月見 優貴くん、は、皆さん当然知っておいでですよね?」
「知ってるも何もダチだぞ?……あ。」
そういや、あいつ気絶したままだった。
「…龍二、優貴ならまだあのままにしておいた方がいい。」
「? 何で?」
「…それは…。」
「また暴れだしかねないからです。」
龍之を遮るかのように、お袋さんが答えた。
「暴れ……さっきみたいにか?」
「はい。」
「何でですか?」
普段温厚なあいつが、あそこまで取り乱すなんて珍しい。
「………では、彼の妹君である月見 皐月さんはご存知で?」
「ああ、そんなら龍之から聞いたことあんぞ。」
まだ会ったことねぇけど。
……………ん? ちょい待てよ?
「……………なぁ、話の流れからして予感できるんだが。」
「はい…恐らくその通りかと。」
…………。
「…まさか…。」
アルスが顔を青くして呟き、龍之が重い口を開く。
「そう……
皐月殿が行方知らずとなったのだ。」
『!?』
な? ビンゴ……………ってMAZIかい。
『行方知らず、だと!?』
「まさか……その失踪事件!?」
エルと文一が驚愕を含んだ声で叫ぶ。正味俺だってビックリだ。
「はい。」
「…昨晩、優貴が私のところに電話をかけてきた。コンビニに行った皐月殿がいつまで経っても帰ってこない、と。そこで私は、優貴より早く彼女が行ったコンビニへ続く道へ駆けつけたところ……これがあった。」
龍之が差し出してきたのは、ピンク色で何の飾り気のないケータイ…唯一目立つとこと言えば、小さな猫のストラップが付いてるくらいだ。ただ、泥で汚れている。
「このストラップは、優貴が皐月殿にあげた物だ。間違いない。」
「……で、これがそこに落ちてたと。」
「ああ……彼女はこれを大切にしていたし、落として気付かないなんてあり得ない。」
つまり、それで行方不明確定ってぇわけか……ふむ。
「で、優貴はこれを知って…。」
「ああ……さっき君が玄関先で見た光景だ。」
そら暴走するわ。
「……確かに、最悪だな。」
「だな。」
こう、あっけらかんと俺らは言っているが正直戸惑い気味だ。他人ならともかく、身近な人間の家族の一人が行方不明となったとすりゃあ……他人事じゃねぇよな。
『…………。』
場が、重い空気に包まれる………………
あ〜、クソ。
「やっぱわかんねぇのか? 連れ去られた場所とかさぁ?」
「把握しております。」
だよねぇ、わかんねぇよねぇ…………。
「って把握してるんですか!?」
「はい。」
「それを早く言いなさいよ!」
あ、クソ。ツッコミ入れたかったのにアルスとフィフィに先取られた。
「実は、ケータイから少し離れた場所にこれが…。」
そう言って龍之は、ポケットから何かを取り出して俺らの前に置いた。
「…? バッジ?」
「そうだ。」
それは、真っ黒なバッジに金箔で鬼の顔を形作ったマークがでかく描かれていた。
「これが一体…?」
「……って、ちょっと待て。この鬼のマークって……。」
文一が疑問を口にした時、和也が遮った。
「……あの、リュウジさん? オニって何ですか?」
「後で説明してやるよ。」
正直、そのこと説明してやる気分じゃねぇけんな。
にしても、このバッジのマーク……もしかして。
「…その事に関しては、ワシが説明してやろう。」
あ、オッサンがやっと口開いた。
「どうやら、一部の人間はそのマークのことを知ってるらしいが、説明しておいてやろう……
それはまさしく、黒鬼組のマークじゃ。」
やっぱりか。
「? クロキグミって何なのですか?」
「…今じゃヤクザ界どころか、表の世界でも名を轟かせておるヤクザ組織じゃ。全国各地にシマがあり、他の組織を潰して今でもその勢力を拡大しておる。」
「最近、この龍崎組も目を付けられて脅迫状や町では抗争も起こったりしています……誓いうちに、この組を潰そうと考えているようなのです。」
はぁ、そりゃまた厄介な奴らに目を付けられたなぁ……
「そんな奴らだから、警察もすっかり怯えて全く役に立たんのだ……全く役立たずどもめ。いつも偉そうにしてるクセに……まぁ連中に頼る気なんぞ元からないがな。」
「…………。」
……なるほどね。
「で、そんな奴らに対抗して俺らを呼んだってわけかい。」
「……お察しの通りです……。」
実に苦々しい顔をしてお袋さんは言った。そらね、黒鬼組っつったら一時何故か知らんが警察署まで乗り込んで大勢の死者を出した連中だし、肝っ玉座ってねぇ奴らが歯向かったところで返り討ちに合うだけだしな。
「…母上。いくらなんでも関係のない彼らを巻き込むのは私は反対です…ましてや、彼らは私の大事な友人ですし…。」
「由美……。」
「確かに相手は強い…けれど一人一人は大したことないはずです。キチンと作戦さえ練れば、奴らだって!」
………ん〜………。
「…龍之、そら無理だ。」
「な…!?」
龍之の主張を俺はバッサリと切り捨てた。
「まぁ確かに作戦練って攻め込めば勝機はあるだろうけどな……ただ、そりゃ他のヤクザ組織の場合だ。」
「? それどういう意味なのかな?」
茜が聞いてきた。まぁ疑問に思うことはいいことだな、うん。
「……親父さんよ。」
「何じゃ。」
「その黒鬼組………表向きは人身売買、麻薬密売、恐喝、窃盗、詐欺……ありとあらゆる悪事に手を染めているが………
裏ではそれらを越えることしてんだよな?」
「「…………。」」
案の定、親父さんとお袋さんは黙り込んだ。
「? それらを超えること?」
「一体なんなんですかリュウジさん?」
「いずれわかる。」
レナとアルスが頭に?を浮かべるが、口ではうまく言えん。内容はわかるが。
「まぁ、誘拐した連中を利用して何かしてるってーのはわかるがな。」
「り、利用って……何をしているというんだ?」
「わかるのは法律では絶対許されないことだっていうことぐらいだな。」
マーくんの疑問にアレクのオッサンは正論で答える。
「それも後ほど話す。が………あんま悠長している場合じゃないな。」
つまり、優貴の妹…皐月だったな。そいつが危ねえってこと。
「な………ちょっと待て龍二、それはまさか本気で黒鬼組に…!」
「イエス。ご名答だ龍之。」
よっこらせっと立ち上がり、伸びをする。あーケツいて。
「ば、馬鹿なことを言うな! 相手はあの黒鬼組だぞ!?」
「だから?」
「いや、だから……あ、相手が悪すぎる……だろう……。」
そこで尻すぼみにならんでもええやん。
「それはそこにいる奴に言えよ。」
「……え……?」
「そこにいるんだろ? 優貴。」
『!?』
俺は襖に振り向き、問いかけた。
【スッ】
「!? ゆ、優貴……!」
「…………。」
襖が開くと、そこには優貴が立っていた。驚愕で目を見開く龍之に対し、優貴は俯いたまま動こうとしなかった。
「…………。」
「…優貴……まさか、全部…。」
「うん、聞いてたよ……全て。」
スンゲェ切り返しの速さ。
「どうせ一人で行こうとしてたんだろ? お前。」
「…………。」
うん、図星だね。めっちゃ動揺してるし優貴。
「……はい。」
「馬鹿言うな! お前一人で黒鬼組に侵入するなんて不可能だ!」
頷く優貴に、必死になって止める龍之。その気持ちはわからんでもない。
「…これは、僕の問題なんです……龍之さんはここにいててください。」
「ダメったらダメだ!!」
「なら皐月は見殺しにする気ですか!?」
「誰もそんなこと言ってない!! 私だって皐月殿のことは心配だ! でも、何の考えもなしに突っ込んで行ったって…!」
「そんなこと考えてる間にも皐月はどうなってるのかわからないんですよ!?」
もしもーし?俺ら置いてけぼりー?何アンタら口ゲンカしてんのー?
「だから! もう少し冷静に…」
「もういいです!!」
優貴が怒鳴り、龍之が押し黙る。部屋に嫌な沈黙が流れた。
親父さんが「このガキ由美に向かって」と言いかけたところをお袋さんに「黙っとき。」と小声で言われながら顔面を畳に叩きつけられたのはもう無視した。
「優貴……。」
「……皐月は……妹は、僕が絶対に助け出す。」
「あ、無理無理♪ 絶対無理♪」
『…………。』
優貴の決意を軽く一蹴する俺。因みに超笑顔。そんで皆して何かつめたーい目線。イヤン、恐い(嘘)♪
まぁそんなことほっといてっと。
「あんなぁ、お前一人が行ったとこでどうせ捕まるかぶっ殺されるのがオチだぜ?」
「だ、だけど……!」
「焦る気持ちもわかるけど、そんなんじゃ妹助け出すどころの騒ぎじゃねぇぞ?」
「う……。」
…………。
「……でも、こうしてる間にも皐月は…!」
「うん知ってる。ヤバイよな。」
「……!」
軽く言う俺に、今にも掴みかかりそうな感じで睨みつけてくる優貴。
「そんでもお前一人が行ったとこでどうしようもないっての。」
「だ、だから!!」
「だから皆で行くぞー。」
「…………へ?」
はい優貴くん目が点ですね。見事に。
「誰も『絶対に行くな』なんて言ってねぇよ。一人で行くなって言ってんだよ俺ぁ。」
「で、でも…。」
「り、龍二! 何を言って……!」
背後で龍之が声を張り上げる。いやでもそんなん気ニシナーイ。
「いいじゃん。第一作戦とかそんなん練るなんてメンドクセェことこの上ねぇよ。」
「だが、そんなことでは……!」
………はぁ。
「……なぁ、もうぶっちゃけ言ってもいいか?」
「…な、何だ?」
俺は龍之の前まで歩み寄り、
【ギュ】
「!? ふぎゃああああああ!!??」
軽く鼻をつまんだ。
「……ハッキリ言うぞ?
俺が知ってる龍之 由美はもっと大胆な行動起こして常識捻じ曲げる奴だ。今のお前は俺の知ってる龍之 由美じゃねぇ。」
「…………。」
涙目で見上げる龍之の鼻をパっと放して開放してやった。
「お前にとって優貴は大切な存在なんだろが。だったらお互いの決意尊重してやれや。」
「………龍、二………。」
……ふとお袋さんを見てみれば、目で『アンタよく言った!』と賞賛してるのがわかるが、隣のオッサンは『テメェ何人の娘の鼻つまんどんのじゃ殺すぞワレ?』と言ってるのが見え見えだ。でも全然恐くないからスルー。
「……やっぱり、こういう悪事は放ってはおけませんよね。勇者としては。」
「だよねぇ。私魔王だけど、人を攫って悪いことする人は許せないもん。」
「同感よ。」
『ああ。』
アルス、クルル、フィフィ、エルが立ち上がる(エルは俺の腰に元々いたけど)。
「ふぅ…やっぱこういうのじゃねぇと、暴れられないよなぁ♪」
「和也、やる気満々だね♪」
「おうよ。そういうレナこそな。」
「ヘヘン、当然♪」
和也とレナも立ち上がり、笑い合う。
「よぉし、私達もいっちょ暴れるよー!」
「そうだな……誘拐した上、さらにその人達を悪事に利用しようとする考え、許せん。」
「ガハハハハ!お前らもやる気満々だな!」
ハイテンションな葵と、正義感たっぷりなマーくん、そして豪快に笑いながら立ち上がるアレクのオッサン。
「……さすがに、こればっかりは見逃すわけにもいかないよなぁ。」
「そうですー。ここで見捨てれば鬼畜外道ですー。」
「それ、言いすぎじゃないかな? ……まぁ見捨てるなんてこと絶対しないけどね♪」
文一、茜、黒ペ……湖織も立ち上がり、言う。
「み、皆……。」
「うーし、皆戦闘準備整えてるよな〜?」
一応、念のために確認しておく。
『オオオオオオオオオ!!』
ま、聞くまでもないけどな。
「……フフ、にしてもアンタいいとこあるじゃない?」
「な、何じゃ牧江いきなり……?」
「今回、皆を呼んだのは彼の妹を救出させるためでしょ?」
「な!? そ、そんなわけないわ! ワシはただ組の存続のためにだなぁ…!」
「素直じゃないわねぇ相変わらず……。」
「…………ふ、フン! ワシは娘の泣き顔を見たくなかっただけじゃ! 勘違いすんじゃないぞ!!」
「……厳ついオッサンのツンデレってあれだよね。気持ち悪いよね。」
「純粋にキモいですー。」
「うん、気持ち悪いよねー。」
「ツンデレってなぁに?」
「うっさいわこの小娘どもおおおおおおおおお!!!」
お袋さんと親父さんの会話に水差したレナと湖織と葵とクルル。まぁ元気なこって。
「……あ、アレ!?俺何してたんだ!?」
「つか何だこの状況!?」
「く、くるし……。」
あ、影薄連中忘れてた。
〜そして………〜
【ザッ】
「お、ここだここ。」
『…………。』
歩くこと十五分。龍之のお袋さんが書いてくれた地図を頼りに、俺らは来た。
ここ、黒鬼組の本拠地に。
『…………。』
つってもな〜……。
「いやぁにしても……あれだな。」
「うん……。」
和也の呟きに、葵が頷く。
何が言いたいのかよくわかるなぁ……うん。
目の前に、見上げんばかりの巨大な城門のような扉……で、その真ん中には組のトレードマークである黒鬼がデデンと描かれていた。うっわぁドアップ。
「……で、でけぇなオイ…。」
「これ、ホントに突入すんのか…・」
「……。」
背後で影薄連中が呆然と呟く。
あ、そうそう。お袋さん達の説明の間もずーっと気絶してたみたいだったから軽く事情を説明してやった。
「つか話が違うじゃねぇか!?」
「これのどこが病院だ!?」
「つか何で病院なんて嘘ついたんだよ!?」
あ、ヤベ。間違ったこと話してた。つか今回の話に病院なんて一切出てこなかったのに病院の話が出るとはこれいかに。
でもまぁいいやぁってことでもう無視した。うん、それがいいべよ。
「で? 侵入経路はここしかないんだよな? ……龍之。」
「ああ、間違いない。腕利きの情報屋の組員の情報だからな。」
隣にいる龍之はそう断言した。
何か俺があの時軽く鼻つまんでから、しばらくして「私も一緒に行く。」と言い出し、親父さんを激しく動揺させた。「絶対行くなああああああ!!!」とやかましく叫んでいたんで、龍之とお袋さんと俺と和也と葵が親父さんをフルボッコにし、後の処理はお袋さんに任せておいてきた。何かここ来る前に血が服に付いちまったが気ニシナーイ。
「…あの、龍之さん…。」
「? 何だ優貴?」
「ホントに来てよかったの? ……龍之さんのお母さんとお父さんに悪い気が…。」
「大丈夫だ。母上も私が行くのを許してくれたし……何より、私だけ置いて行くなんて、寂しすぎるぞ。」
「そ、そう…………お父さんから許しもらってないけど……。」
優貴の最後の呟きは無視された。
まぁ、何はともあれいつもの龍之に戻ってよかったぜ……動揺してたから様子がおかしかったのかね?
「何より、私は優貴と一緒にいたいからな♪」
「は、はぁ……。」
「「「……クソ野郎め。」」」
「え!?」
「「「なーにー?」」」
影薄連中の怨念の込められた声に反応して振り返った優貴だが、白々しく口笛吹く影薄ども。うわぁ何かムカつく……けど今はぶっ飛ばしてる場合じゃねぇか。
「さってと……それで?」
俺は後ろにいる皆に振り返った。
「まずどうする?」
「ああ……そうだな、どうやって侵入するべきか……。」
ここまででかい建物だ、敵はかなり多いはず……そんでセキュリティも万全と見た。何か門の左右から伸びてる塀、電流みたいなの走ってるっぽいし。
ま、つってもねぇ……。
「……和也ー?」
「あいよー。」
「葵ー?」
「はーい♪」
「俺らの共通すること、なーんだ?」
「そりゃあもちろん……なぁ?」
「そりゃあ……ねぇ?」
「立ち塞がる物は♪」
【シュリン バシュ】
「ぶっ壊せばいいので♪」
【パシューン】
「気ニシナーイ♪」
【シュィィン】
上から和也が腰の刀、『雨嵐』を抜き、首にかけた鎌を巨大化させ、
葵が異空間から剣を呼び出し、
俺は腕を交差させて、左右の腰に差してあるエルと龍刃を同時に引き抜いた。
「……そうだな……壁など壊してしまえば関係ないな。」
【シュイン】
横では龍之が自分の愛刀、『懺悔』を引き抜き、不敵に笑う。
「だよ、ね♪」
【パシュウ】
和也の後ろで、レナも鎌を召喚する。
「……まぁ、それでも無茶があると思いますけど……。」
「でも、おもしろそー♪」
「くれぐれも無茶しないでよね。」
【チャキチャキ】
アルスとクルルが鎧と剣を召喚し、構えた。フィフィはアルスの鎧の中に隠れる。
「フ……今回は私も本気で行かせてもらおうか。」
「ガハハハハ!!俺もそうさせてもらおうかな!」
【パシューン】
マーくんが葵のように異空間から槍を取り出して構え、アレクのオッサンが拳をポキポキと鳴らした。
「茜!!」
「了解だよ主!」
「……誘宵……。」
『ヒャッハー! 初めて喋れるぜー!』
【バシュウ シュイン】
文一の声と同時に茜は本のページのようにバラバラになり、文一の手に集まって剣となる。湖織も普段ののんびり口調から寡黙な仕事モードへと移り、クソやかましい剣、誘宵を引き抜いた。
「…な、何かよくわかんねぇけど……。」
「まぁ……ここはやるしかねぇよな。」
「ああ……。」
イマイチ状況が掴めていない影薄連中どもも気合十分……かね? まぁいいや。
『よっしゃー!頑張るよー!』
『鎌、あまり無茶するな。』
『エルさんもね?』
『エルさん、今度デートでも』
『ありがとう、アカネ。イザヨイ、シネ。』
『我今スッゲェ侮辱された!?』
喋る武器どもは何かコント繰り広げてるし。もう無視。
「行くぞ、優貴……私から離れるな。」
「わ、わかった。」
素手の優貴は龍之に任せるとして……と。
「それじゃあ、只今より〜……」
『…………。』
「月見 皐月救出大作戦、スタート!!!!」
【バゴオオオオオオオオオオオオオン!!!】
馬鹿でかい門に描かれた黒鬼の顔面を蹴り飛ばし、ぶっ壊した。
「突撃じゃああああああああああああ!!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
さぁて……遊んでやりますかい!?
「来たか……。」
一人、モニターが無数にある部屋で一人、龍二達が突入してきている画面を見て笑う人物がいた。
「全く…………罠とも知らずに、愚かな奴らめ……クククク……。」
次回、突の章へ続きます。