動画を作るのは大変でした
「……あと4回か……」
私は今日も森にいる。
なぜって。
ようつべ進出に心折れたからだ。
「やること多いわ!!」
《身体強化》をかけるだけかけて、憂さ晴らしにスライムを蹴っ飛ばして回る。
やることが……そう、やることが多かった。
「チャンネルアート! アイコン! OBSの設定に録画環境! 編集も! わからんっつーの!!」
うぎゃあ、と森を走りながらスライムに駆け寄って、蹴る。ちゃっかり核もちゃんと拾う。
ノウハウやソフト自体は単品単品でしっかり解説サイトがまとめられていて、支援は手厚くされていると思う。思うよ。
けれど、それぞれが独立していて順番に追いかけていくのが大変!
誰が悪いわけじゃない。それどころかみんな優しい!
設定方法を画面スクショつきで丁寧に説明されていて、本当ありがとう!
それはそれとして私のパソコンスキルが足りてない!
「うぉおおおお! 導入ウィザードに従ってポチポチしてるだけで準備全完了してくれ――!!」
傲慢極まる叫びとともに森を駆け回っていると。
森の奥から声が響く。
「もう無理、逃げようにゃ!」
「『にゃ』……だと……?」
ピタリと足を止めて目を向ける。
森の中でスライムに包囲されて背中を合わせる少女が二人。武器や鎧を身にまとっていて、見るからに冒険者だ。
くせっ毛の栗毛から猫耳を生やし、分厚いプレートアーマーに首が埋まるような亜人の少女。両手剣を軽やかに振り回してスライムを殴り飛ばす。
「このままじゃコッチも共倒れにゃ!」
「そうは言っても! サーシャを見捨てるわけには参りませんわ!」
言い返すのは美しい金髪の少女だ。
猫耳と比べて軽装で、要所に軽鎧を当てているだけ。タイトな衣装からスラリと伸びる手にナイフと、そして指揮棒を持っている。
チッと走らせた指揮棒の先から稲妻が出てスライムを打った。
「そろそろMPも限界……っ!」
「あのー……」
スライム包囲の外から、こわごわ声をかけてみる。
「助けてもいいですか? あ、助けとか、いりますか?」
「は!? なんですの!?」
金髪美少女が瞠目して叫んだ。
怒られた……。
「アッそっスよねお呼びじゃない失礼しました……」
「うわ待ってにゃ! よくわかんないけど、助けてくれるんならぜひ助けてほしいにゃ!」
「あ、いいの? 助けてもいいです?」
「助けてください!」
金髪美少女が迫真の表情で叫んだ。
よかった。多分ないだろうとは思ってたけど、余計なお世話で迷惑かけることになったら嫌すぎる。
「では横殴り失礼します!」
スライムをつかんで、握りしめる。
ちぎれることができないのか、これだけでスライムは全身が崩壊するのだ。
「とりゃあ!」
呆気に取られる二人の美少女を前に、私はスライムを蹴っ飛ばした。
ていうかさ。
ていうかさ!!
助けに入るってどうやるのが正しいの!?
私のやり方がおかしいのはわかるけど、だからって黙って横入りしたらなんか気持ち悪いじゃん! 怖いよそんな人!
なんか小説だと颯爽と助けに入って爽やかに感謝されてるけど、あれどうなってんの!?
一人称とか三人称単視点の小説なら助けを求めてるのが分かるから、助けに入ってきても違和感ないさ! でも実際はおかしいでしょ! なに、事前に話し合いでもしてんの!?
事前に話してみたら、なんか私すげー頭おかしい人みたいになったんだけど!!!
「てりゃあーあーあー!」
殴る蹴るの暴行で、スライムをぽこんぽこん煙に帰して除去していく。
程なくして、二人の周りにいたスライムはすべてドロップ品の水晶と化していた。
「ふぅー。失礼しました」
「あ、いえ……ありがとうございますわ」
ペコリッと頭を下げた私に応じて、金髪さんもお辞儀をしてくれた。やさしい。




