やっぱりチートは最強でした
「このままじゃいけない」
私は早くも追い込まれていた。
朝のエルドレッド市。
賑やかな朝市ではフリーマーケットのような露店や、木箱を積み上げた八百屋、
そして朝食を売りさばく屋台が軒を連ねている。
私はゴクリと生唾を呑む。
狙いは付けた。タイミングもだいたいつかめた。あとは実際に踏み込むだけ。
足が重い。
全身がけだるい。
疲労と消耗が全身に絡みついている。
チャンスは今しかないのだ。
臆することは何もない。今の私は美少女なのだから――!
「おじさん。ひとつください」
「あいよ。2G」
2枚の硬貨と引き換えに、お粥の注がれたお椀を受け取る。
何事もなかったかのように背を向け、隣に置かれたフードコートのような机を借りて座った。
商人や職人が慌ただしくかっ込んだり、歩きながら食べたりしている。
私は手元の椀に視線を落とした。
骨付き鶏もも肉を突っ込んだようなお粥だ。
(いただきます)
スプーンですくって口に運んだ。
脂の溶け込んだジューシーでボリューミーなほぐし粥。塩味の濃さが空腹に染みこむ。
勝利の味だ。
(……ッよっしゃぁあああああ…………っ!! 注文できたぁ……っ!)
再三繰り返すようだけれど。
私は重度のこじらせぼっちだ。
セルフレジは神設備だと思っている。
それはそれとして。
私は気合いを入れ直して顔をあげる。切り出した石材で造ってあるだけで荘厳と感じてしまう。
冒険者ギルド。
朝もまだ早いこの時間帯、看板を出して開店しつつも準備中というのどかな空気が流れている。
「よし。……いくぞ!」
意を決して、冒険者ギルドの受付に歩み寄った。
「あのっ! ……ぼ、冒険者になりたいんですけれども!」
「はい。何人パーティですか?」
「ひ、ひとりです」
「え?」
受付のお姉さんは私を見た。
「ずっといたのは、誰かとの待ち合わせじゃなかったんですか?」
心が折れかけたけど、頑張って持ちこたえたよ。
受付のお姉さんは優しく丁寧に教えてくれた。
氏名年齢種族などステータスと同じ情報を書き連ねるだけで、冒険者の仮認定票は渡してもらえる。
仮認定でも受けられる簡単な依頼をいくつか達成するか、街の外にわんさかいる魔物をやっつけるかすると、本認定してもらえるという。
「そんなに魔物がたくさんいるんですか?」
「そうなんですよ。森が近いので瘴気がちっとも晴れなくて」
現れた魔物をモグラ叩きをしても、根本的な解決にならないらしい。
私にとってはありがたい話だ。
山ほど魔物をやっつけるぞ!
……依頼? ヤダよ。やりますなんて言い出せない。
街の外に出て《身体強化》をかける。
「これであと5回か……」
ひょっとしたらオンオフ式で、一度使えば減らなくなるんじゃないかなぁ~なんて期待もちょっとあったんだけれど。
そんなことは全然なくって情け容赦なく消えやがった。
チート回数が順調に減っていくことが確実になった以上、使い方には気をつけないと。
「とにかく今は冒険者稼業だ!」
街道を外れてさまよってみる。
出るわ出るわ。
スライムみたいな不定形の大きい粘体がさまよっている。
「オラァ!」
神の恩恵とはさるもので、LvEXの蹴りはスライムを煙と散らす。
魔物は死体が残らないらしい。グロくなくて安心の設計だ。
煙のなかから落ちるスライムの核を【ストレージ】にしまってまた次へ。
たまに膝下くらいまで大きいアリみたいな気色悪い化け物も出る。けど、踏めば倒せる。問題なかった。
ただ《身体強化》の仕様上、途中で街に戻れないことを忘れていた。
「お昼抜きかぁ」
つらい。お弁当持ってくればよかった。
せめてたくさん魔物を倒してやろう。
森の奥に行けば行くほど、魔物は多く、そして強くなるようだった。
とはいえスライムの色が変わったり、ちょっと蹴った感触に弾力があったりするだけだけれど。
《身体強化》の前には口ほどにもない。
問題はここからだった。
「迷った……」
深くまで踏み込んだばっかりに、完全に道に迷った。
夕暮れになると、日が暮れるより早く森の中は真っ暗になる。森の中だけ夜だ。泣きそう。
「ヤバいよぉ。もうちゃんと街道に近づいてるのかどうかすら分かんない」
こんな状況で実は《身体強化》に効果時間の制限がありました、なんて言われたら不安で泣く。
「……あ、そうだ。《身体強化》あるんじゃん」
私はなに素直に迷っていたんだろう。
ぐっと屈んで、足に力を込める。スライムを蹴っ飛ばしまくって、《身体強化》の使い方がだんだんわかってきた。
身体のギアを変えるような感じで、「本気の出し方」を変えていく。力をめいっぱい出せるくらい踏ん張って、
「跳ぶ!」
森の木より高く垂直ジャンプして、フーワリと自由落下。
その間にぐるっと景色を一望して、
「街はあっちか」
ストーン! と着地。
やはりチート。たとえ制限があろうとも効果は計り知れないものであった。
街に帰ろう。今日の成果を換金するのだ。