表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で美少女になったので動画配信はじめます!  作者: フォルトちゃんねる@vtuber
35/38

やべー敵が現れました

――《身体強化》


 静けさの透き通るような森の中。

 相対する悪魔から異質な力が溢れ出す。


「え。え? うそ!」


 物理体を持たない悪魔は、燃えカスを逆再生するように肉体を創造していく。

 目の高さは私と同じ。

 目の色も私と同じ。

 赤髪は暗く、唇は皮肉げに吊り上げられている。あざけるように目元が歪んだ。


 悪魔は、私の姿になって立ち現れた。


「ふん。大した力だが、所詮は物理体にのみ作用するものか。底の浅い能力だな」


 悪落ちした私っぽいもの――悪魔が、不敵な笑みでとんでもないことを言う。


「ちょ、ちょちょちょ! おまえ、なにをした!?」

「だが全てではないな。"夢"を受け入れると言わなかったから取り逃したか。……まあいい。どうせ後はカスだけだ」


 人の話を聞いちゃいない。


「ちょっと! 話聞けってば!」

「あぁ、残りカスはくれてやる。もうお前に用はない――《武の極地》」


 反応できなかった。

 気づいたときには、全身ばらばらにされそうな激痛と一緒に空中に浮いていた。

 え。

 と思った次の瞬間には腐葉土に跳ねて、木の根に蹴っ飛ばされて、地面を転がって倒れた。

 天を覆って茂る枝は、逆光で黒に見える。


「えっ?」


 痛すぎて、飛びすぎて、意味がわからない。混乱がなにより先に出た。

 痛い。なにがあった? たぶん吹っ飛ばされた。腕で振り払われたんだろう。

 全身痛いけど、それどころじゃない。


「――えっ?」


 奪ったぞ、と悪魔は言った。

 肉体を持たない悪魔が、怪力と武練を誇る身体を手に入れた。まるで誰かに与えられたみたいに。


「……奪われた?」


 誰から? 私以外の誰もいない。

 より正確には、私に与えられていた神様の力に。

 痛みを押して飛び起きる。


「《身体強化》っ!」


 私の叫びは虚しく消えた。

 耳鳴りは起こらない。肉体は強化されてない。

 女神のスキルが発動しない。

 血の気が引いてクラクラする。


 奪われた──!


「リル……リル? リルはどこ? 無事!?」


 ハッとして森を見回す。どこまでぶっ飛んだのか、悪魔の姿は見えない。

 林立する木々に遮られて見通しが悪い。でもすぐに見つかった。


「ぅう……ゥグ……」

「リル!!」


 リルは木陰に倒れてうめき声を上げていた。

 二の腕を庇うように背中を丸めている。腕の骨が折れているかもしれない。


「腕を打ったの? いや、……そっか。リルが庇ってくれたんだね」


 私にひっついてたリルが、私と一緒に吹っ飛んできた。これだけの距離を吹っ飛ばされたのに、私に大きな怪我はない。

 リルが私を庇ってくれたんだ。


「すぐ治す! 【ヒール】」


 魔法で傷を癒やす。リルのうめき声は和らいでいった。治癒魔法で魔物も癒やすことができるらしい。

 ホッと息をついて周囲を見回す。

 木々、枯れ葉の積もった腐葉土、カビっぽい森の匂い。あの悪魔の姿はない。


「なんだろう、追ってこないのかな。もう用はないって言ってたけど」


 物音に耳を澄ませても気配は感じない。

《身体強化》は単に運動能力や強度だけでなく視力聴力も向上させるから、こういうときにあったら良かったんだけど……言っても仕方がない。私はスキルを奪われて……

 あ、と声を出してしまった。


「私、まだ《魔術の神髄》の効果が残ってるじゃん」


 ステータスを開く。HPやMPなどおなじみの表記のほかに、女神から受けたスキルも羅列されている。

 だけど《身体強化》《武の極地》はモザイクになって読み取れない。《魔力強化》《マナ無尽》もバグ表示っぽく文字の一部が欠けている。

 でも、《魔術の神髄》と《鑑定》の二つだけは残っていた。

 どうやら悪夢の中で使わなかったスキルを奪われたみたいだ。

 しかし──。


「どうしよう」


 取り返すべきだ。取り返さなきゃいけない。

 でも、相手は私が散々使ったスキルを使ってくる。悪魔自身も魔法に精通しているだろう。


「どうしよう、勝てないかもしれない」


 リルが私を見上げてくる。

 また夢に呑まれて、今度も見破れるとは限らない。今度こそ魂まで噛み砕かれてしまうかも。

 逃げたい。

 そうだ、逃げよう。逃げるべきだ。逃げたほうが絶対に賢い。だって私にはまだチートスキルが残されているのだから。


「ぅぐぐ……リル、」


 リルを助け起こして歩き出す。

 街に向かおう。街道に戻って、街まで行って門番に頼れば、きっともう大丈夫だ……。


──おい! すごい音したぞ、大丈夫か……あれ?


 そんな声が木々の合間から漏れ聞こえた。


「お前、あれだな。酒場で見たことあるぞ。フォルトだな? 最近デカい魔物を食いまくってる」

「知り合いか?」

「いや、話したことはねぇ。どうした? また何か大物でも現れたのか?」


 リルが、不思議そうに私を見上げてくる。

 私たちは森の真ん中だ。辺りには誰の姿もない。

 行きがかりの冒険者は、森の向こうで誰かに大声で声をかけた。私だと思うような何かに。

 私の姿を再現した夢魔に。


 リルを抱き上げて走る。耳を澄ませてうっすらと聞こえる。


「……なんの力もないカスだが、まあ、魂には違いがないか。食らえば腹の足しにはなる」

「おい、何を言って──」

「なっ!? お前、仲間に何をし──」


 どさり。そしてもう一つ、どさり。土に倒れる音がする。

 腕の中でリルが暴れた。落としそうになって立ち止まる。

 遠く、木々の隙間から悪魔の赤髪が見えた。

 その足元に倒れる冒険者も。

 様子を見通せるギリギリの距離。

 私は木の幹に肩を押しつけて耳を澄ませる。

 超然と立つ私の姿をした悪魔は、余裕の振る舞いをふと止めた。


「……肉体が邪魔だな。魂に食らいつけん」


 てしてしと軽く叩いて、身体が冒険者の肉体を通り抜けないことを確認している。悪魔は気にする様子もなく肩をすくめた。


「物理体というのも面倒だ。まあ、後でまとめて食らえばいい。街まで行けばいくらでもいる」


 ぞわりとした。

 街に向かう……?

 二人組の冒険者を見る。まるでスイッチを切ったようにばったり倒れて、深い眠りに落ちている。

 反応する間もなく眠らされたんだ。

 私のときだって、魔術をかけられたことに気づけなかった。

 この早業で、結界に守られた平和な街を闊歩されれば──対応できるわけがない。

 仮にもし犯人がこの悪魔だとわかったとしても。あいつには《身体強化》と《武の極地》の重ねがけが備わっている。並みの相手では立ち塞がることさえできない。


(全滅……)


 否応なくその言葉が脳裏に浮かぶ。


「逃げなきゃ……」


 抱きかかえているリルが、私を見上げた。


「逃げなきゃ。勝てないよ。勝てるわけない。せめて、街に警告してから」


 首を振った。


「無駄か。今の私に《身体強化》の俊足はない。あの悪魔にある。間に合わない……」


 どんなに急いでも時間の余裕は稼げない。

 しかもいきなり「悪魔が来るから逃げて」と訴えたとして、通じるか? 説明を求められている間に追いつかれたら?

 リルを抱く腕に力を込める。


「死にたくない……」


 私は一度死んだ。

 痛みも苦しみも、なにより自意識がほどけて消えていくあの感覚は、もう二度とゴメンだ。あのまま本当に死んだらどうなるのかと思うと、なおさらに怖い。

 死ぬのは怖い。

 あの悪魔にまた目をつけられたら、今度こそ死ぬ。

 なら、関わるべきじゃない。逃げなきゃいけない。


「リル……行こう……」


 震える声でささやいて、街とは反対のほうに足を踏み出す。

 ぐい、と。

 リルが私のえり首を引っ張った。


「ぅるる」


 リルは少し怒ったような顔で、街道を振り返る。

 悪魔の姿は見えなくなった。街道を進んで森の木々に遮られている。悪魔は街に向かって歩きだしている。

 リルが本気で私を引っ張った。力が強すぎてつんのめる。


「わ、ちょ──えっ?」


 倒れた私を支えるのは、青いバイクに変じたリルだ。私はまんまとバイクにまたがって、グリップを握って立ち尽くしている。


「……」


 私を乗せておきながら、リルはなにも言わない。

 エンジンのない偽物のバイクは、生命の温かさを持って静謐に待っている。

 なにを? ……私の答えを。

 リルを頼れば、逃げ切ることもできる。──悪魔の先回りをすることも。


──どうするの?


 リルは私に問いかけてくる。

 ずいぶんと間が空いてしまって、申し訳ございません……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

感想支援ツール「ここすきチェッカー」ご利用ください!ここすきチェッカー

匿名メッセージはこちらから→マシュマロhttps://marshmallow-qa.com/kr7abhfwayf7tlu

Twitterはこちら→https://twitter.com/fault_vtuber

YouTubeチャンネル!!→フォルトちゃんねる

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ