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異世界で美少女になったので動画配信はじめます!  作者: フォルトちゃんねる@vtuber
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リルとお風呂します

 サーシャが大変なことになる、なんて。そのときの私は露知らず。

 蒼髪幼女フェンリルと一緒にお風呂していた。


「個室のレンタルはお高いねぇ……」


 個人個人へ浴室が行き渡るほど、この街は豊かではない。だから銭湯文化がある。

 そこに割高のお金を払えば、個室に仕切られたシャワールームを借りることができた。

 貸し主はなんと冒険者ギルド。冒険者はちょっぴり割引してもらえる。

 冒険の途中で悪臭を発する樹液や体液に引っかかることがあるからで、優先して洗い落とせるようにしないと公衆衛生に差し障りがあるからだ。


「はいリル、バンザイして。バンザーイ」


 畳半畳もないクソ狭な脱衣所でリルのワンピースを脱がす。頭から引き抜いてみると、


「下着もつけてるのか……野生児なのに服は着るのね」


 どこで使い方を習った?

 ともかく私も手早く服を脱ぎ捨てて丸めて籠に投げ込んで、借り上げたシャワールームへと踏み入れた。

 板にタイルを張り巡らせた壁、洗い場の床にはぴったりスノコがはめ込まれている。


 狭苦しい洗い場で膝の間に挟むようにリルをしゃがませて、シャワーヘッドを向ける。

 ちゃんと安定してお湯が出るのは魔法のスゴイところ。水圧制御も思いのままだ。

 けど、湯量は限られており、買い足すと結構なお値段になるので手早くやらなきゃいけない。


「じっとしててよー? ……ふむ」


 頭にシャワーをぶっかけようとして、キョトンとしてるリルに思い当たる。


 比喩でも何でもなく野生児のリルは、これが正真正銘の初お風呂だ。

 であればお湯というものさえ知らないかもしれない。


「リル。ちょっとビックリするかもだけど、水浴びみたいなものだから安心してね」


 コックをひねってシャワーを出し、リルの足にかけてみる。

 肌にかかるお湯の感覚にリルはビクッと身を引いて私の脚に背中をぶつけた。


「ほれ、大丈夫でしょ? お湯を使うと身体もほぐれるし汚れも落ちやすくなるし、いいことづくしなんだよ」


 オドオドしてるリルのつま先に少しずつお湯をかけてみる。

 リルの足はほっそりときれいな足の甲が伸び、きゅっと曲げられた指がほどけていく。

 何ともないことを分かってもらえたところで、脛、膝までかけて、また離す。


(なんか犬をお風呂に慣らすときみたいだな)


 こっそり笑ってしまいながら、手を伸ばすリルの腕にシャワーをかけて濡らしていく。

 肩から背中にかけてお湯を流し、怯えてないことを確かめた。

 肩甲骨がうっすらと背中に浮き出て、子ども特有の関節が突き出た肩は細い。

 とにかくなんでも細い。


 自分の手にお湯をためてリルの顔を拭ってみる。

 顔が濡れるのはお気に召さないようで、身をよじって首を左右に振った。手で顔を拭こうとするけど、手も濡れているので意味がない。


「さてさて、もう慣れたかな?」


 言いながら首元まで攻めてみる。ちょっとだけビクッとしたけど、驚いただけみたいだ。警戒もすっかり解けた。

 元日本人の私がお湯を恐れるどころか足りなく感じていることも、もしかしたら(パス)を通じて伝わっているのかもしれない。


 もし逆上して噛みついてきても、肌そのものが強くなる《身体強化》を使えば大丈夫。チートの残数がまだたっぷりあることも私の余裕を助けていた。

 余裕は人の心を豊かにする……。


 遊んでばかりもいられないので、リルの頭にお湯をかける。浴びてる間はいいけど、シャワーを止めて濡れた髪がはりつくのは嫌みたい。首をブルブルしている。

 前髪をかき上げてあげて、石けんをぐしぐしと手に削って泡立てる。リルの頭を洗い始めた。

 頭も、手のひらの収まりが気持ちよく感じるくらい小さい。


「目を閉じてね。目に入ると死ぬほど痛いよ」


 日本のシャンプーは痛くならないようめちゃくちゃ研究を重ねて成分調整されてることを思い知った。マジで冗談にならないくらい痛い。

 慌てて目を閉じたリルの髪を解していく。


 綺麗な蒼だと思ったけど、こうしてみると砂や泥が相当に絡まっている。頭皮にまで染みつくような砂を慎重に解きほぐす。


(それにしても……)


 リルがじっと落ち着いたので、急にいろんなことが気になるようになってきた。


(なんで私は異世界くんだりまで来て、謎の幼女を世話しているんだろう?)


 文句があるわけじゃないけれど。

 なんというか。

 思えば遠くに来たもんだ。




 結局、追加料金を支払ってお湯を買い足し二人とも身体を流して帰って。

 私はそろそろ次の動画を撮らねばならない。


「笑いながらゲームするのって難しいな」


 むむむん、とパソコンの画面を見ながらうなる。

 画面の中では青い色をしたバイクがぶおんぶおんとカッコよく荒れ狂っている。


 普通に考えて喋りながらゲームする人はあんまりおるまい。ゲーム実況者は特別な訓練を受けているのでは?


「ん? どうしたのリル」


 静かだから寝てるもんだと思ってたリルが、私の後ろからジッとこっちを見ていた。

 ちなみに服に替えはないので、リルには私のシャツをロングTシャツみたいに着せている。際どい服装で白い太ももがまぶしい。私も綿シャツ綿パンツのパジャマスタイルだ。


「なに? 遊びたいの? やってみる?」


 リルにゲームを触らせてみる。

 わからなくても、操作したとおりにキャラクターが動くのは面白いだろうから。

 リルは自機のバイクを左右にぐいぐい振らせたり、急加速したりしなかったり、適当に動かして遊んだ。

 敵が出てきましたところで飽きてやめてしまった。


「あっあっ、……まあ仕方ないか」


 ゲームの民の本能がボコボコにされる自機に凄まじい抵抗感を感じさせるけれど、リルは違う。

 自分自身の身体でゲームみたいなダイナミック戦闘をしてきた身だ。

 小さい画面の中で何が起ころうと気にならないか。


「……ていうか、リルってイミテートの群れに追われて戦いながら生きてきたんだよね」


 リルは私のベッドのうえで、窓のほうに警戒心を向けて背中を丸めている。猫の箱座りみたいな姿勢だ。


「よしよし。私が警戒するからリルは休んで」


 首の後ろをくすぐりながら声をかける。もちろん方便で、ゆっくり休んでほしいだけだ。

 リルは私をちらっと見て、呆れたふうに目を細めて、また窓を見た。

 私の警戒なんか信じられないって顔だ。反論できないけどな!


「戦闘が得意なら、連携して一緒に戦えるようになりたいな」


 というか、お留守番とか不安すぎるのが本音。

 リルは私をまたちらっと見た。もしかしたら彼女としては、もう一緒に戦うつもりなのかもしれない。


「動画編集終わったら……次の武器を買わなきゃなあ。ライトメイス壊しちゃったから」


 そんなことを考えながら私は眠りに就いたのだった。


 繰り返しになるけれど。

 サーシャに大変なことが起こるのだった。

10/17水曜日の夜に次の動画を投稿しますっ!

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